「会社を潰す気か!」父の反対でも諦めなかった3代目の子ども向けミシン
家庭用ミシンメーカー「アックスヤマザキ」3代目社長の山崎一史さんは、赤字からのスタートでした。しかし、小学校の家庭科で苦手になったという話から「子ども用ミシン」を着想すると大ヒット商品に。当初、先代の父から「会社を潰す気か!」と反対されても諦めなかった理由は何だったのでしょうか?グロービス経営大学院と共催イベントで語りました。(構成:牧野佐千子)
家庭用ミシンメーカー「アックスヤマザキ」3代目社長の山崎一史さんは、赤字からのスタートでした。しかし、小学校の家庭科で苦手になったという話から「子ども用ミシン」を着想すると大ヒット商品に。当初、先代の父から「会社を潰す気か!」と反対されても諦めなかった理由は何だったのでしょうか?グロービス経営大学院と共催イベントで語りました。(構成:牧野佐千子)
目次
家業に入るまでは「後悔人生」だったという山崎さん。学生時代、スポーツに自信があり、中学2年生から陸上部でキャプテンを務め、高校ではアメフト部で1年生からレギュラー。
「誰にも負けんぞ、と調子に乗っていた」と語ります。
ところがチームメイトと喧嘩をして、アメフト部を辞めてしまいました。後に残ったのは喪失感だけ。何をしても満たされない日々が続いたといいます。
大学に入り、高校でチームメイトだった選手たちが全国大会の決勝戦でプレーしている姿をテレビで見かけて、不甲斐ない自分との差を見せつけられました。その時は、夜遅くまで眠れませんでした。「何をしても中途半端で、何をしていいかわからなかった」
その後、一般企業で働いていた山崎さんに転機が訪れます。2005年のことでした。
2代目社長だった父親の「家業がピンチだ。売り上げが全盛期の3分の1に落ちた。えらいこっちゃ」と弱音を耳にし、家族が大変なときに過去を後悔してばかりだった自分を振り返ります。
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「もう後悔だけはしたくない」と、自分が人生をかけてなんとかしようと一念発起し、家業への入社を決意しました。
アックスヤマザキは、1946年に祖父が創業。はじめはリヤカーを押しながらミシンを販売していました。その後、海外への輸出に販路を見出し、会社は成長しました。しかし、1970年代から円高となり、債務超過に陥るように。
後を継いだ父親が、海外生産・国内販売にビジネスモデルへと転換しました。祖父の時代では、大きなミシンが当たり前でしたが、父の代で小型化をメインに据えます。それが爆発的ヒットとなり、会社は一気に盛り返しました。
学生だった山崎さんは、夕食のおかずが1品だったのが3~4品に増えたり、家がボロボロだったところがきれいに修復されたりと、会社の業績による影響を身近な生活で感じていたといいます。
ただし、少子化などの影響もあり、国内用の家庭用ミシン市場はこの20年で半分以下に縮小。アックスヤマザキの売り上げも、落ちていました。
父親の弱音を聞いたことで2005年に家業に入社した山崎さんは、自ら商品を売り歩いたり、顧客の要望を聞いたりと「あきためたくないと、とにかく必死でやっていた」といいます。
要望を聞いていくなかで、顧客から「時代的にもうミシンはいらないよね」と直接言われたこともあり、「つま先で立って、風が吹いたらすぐに倒れる」状態でなんとかやっていたと当時を振り返ります。
そんなとき、業界を変革するヒントをつかみたいとグロービス経営大学院に入学。自分に何ができるのかと、自信がない状態で入学したものの、経営者や後継ぎとともに学ぶうちに「やりたい」「試したい」という気持ち湧いてきました。
卒業前に「自社の課題を解決する大逆転戦略をつくる」というクラスがあり、そこで、商品の対象としてこれまでのミシン市場で「未開拓」だった10代未満の年齢層に着目。「子ども向けミシン」の新商品を開発し、これまでと異なる「玩具市場」に飛び込んでいくプランを立てました。
以前は事業に失敗しないためにどうすればいいかと考えていた山崎さん。学んでいく中で、業界や社会的な課題を事業を通してどうしたら解決できるかと考えるようになったといいます。
課題を作る過程で、周りの人にたくさん話を聞き、「ミシンはなくてもいい」という話の続きに「小学校の家庭科で苦手になった」という人が多くいることに気がつきました。
本格的なミシンを使う前の段階で、簡単で安全に使える「補助階段」のミシンを作ることで、それ自体の需要を作れるし、ミシン自体のハードルも下げられるのではないかと考え、子ども向けミシンの計画にたどり着いたのでした。
このプランを作れたことが、「自分の人生を逆転できる、ミシン業界に貢献できる」と、ワクワクする気持ちが湧いてきました。
2015年に事業継承しましたが、売り上げが落ちているところに円安などが重なり、1億円ほどの赤字になるのでは、というタイミングだったといいます。
そんななかで、全く未経験だった玩具市場に飛び込み、子ども向けミシン「毛糸ミシンHug」を販売しました。
「ミシンメーカーがおもちゃを出した」と、目新しさから取り扱う販売店も広がり、発売開始2か月で2万台の大きな反響を呼びました。「ホビー産業大賞」や「キッズデザイン賞」など各賞を受賞。社内の士気も高まりました。
とはいえ、全体的なミシン市場の縮小は進む一方。既存の商品に関しては、低収益体質脱却のために着々と改革を進めていきました。
100機種から30機種くらいに減らし、当時あった台湾工場を閉めるなどし、2019年にはギリギリ利益を出せる状態に改善しました。
2020年3月、本棚に入るほど小型で、操作も簡単で見た目もオシャレな「子育てにちょうどいいミシン」を発売しました。
コロナ禍の手作りマスクニーズがある中で、ミシンでのマスクのつくり方を動画にアップして大ヒット。多くのメディアから取材を受け、電話もパンク状態になりました。国内デザイン賞3冠、「大阪活力グランプリ」2020特別賞も受賞。中でもうれしかったのが、ミシン業界が盛り上がり、家庭用ミシン市場の国内販売台数が2020年は1.5倍になったことだといいます。
山崎さんは、事業継承前は「失敗したらどうしよう」と考えていましたが、継いでからは、社会や顧客を意識する外向き思考に転換し、「オモロイと思うこと以外しない」と考えるようになったことで、景色が変わったといいます。
今後も、ミシンを通じて社会課題を解決していきたいとして「ミシンをもう一度、1家に1台!」を目指して頑張りたいと抱負を語りました。
講演後、グロービス経営大学院の村尾佳子副研究科長と対談形式の質疑応答が行われました。主なやりとりは以下の通りです。
村尾さん:家業の事業を継承する人は、やりたいことではなかった、という人も多い。もともとは山崎さんも、ミシンが大好きというわけではなかったように思いますが、なぜ継承を決意されたのですか?
山崎さん:父に弱音を吐かれた時に、自分はミシン業界に育ててもらったという思いがふと降りてきました。何やってるんだ自分はと、自分がやるしかないと、迷いはなかったです。
村尾さん:お父様とはふだんから色々と話す関係でしたか?
山崎さん:父親とは全然しゃべらなかったけど、背中を見せながら育ててくれていたんだと思います。その姿に憧れがあったと思います。弱音を聞いたことはそれまでになかったから、すっと、がんばろうと思いました。
村尾さん:父親とぶつかったことはありますか?
山崎さん:子ども用のミシンの発売の時に、実は一番ぶつかりました。会議で、僕はワクワクしながらプランを発表したのですが、父が書類を投げて「会社を潰す気か!」と怒って出ていってしまった。ほかのメンバーは沈黙して、固まってしまいましたね。
村尾さん:それでも子ども用ミシンを、諦めなかったのはなぜでしょう?
山崎さん:たくさんユーザーさんの声を聴いて、リアクションを全部身近で感じていたので、細かな要望を受けて、きちんと作ったら絶対にイケると確信がありました。試作品を子どもたちに試しに使ってもらう機会をつくったときも、女の子同士が取り合いになったことがあって、その時にも「これはイケる!」と思いました。父は発売してからもずっと反対していましたけど(笑)
村尾さん:自分のアイデアをやらせてくれと社内で宣言できる状態になるまで、努力していること、意識していることは?
山崎さん:後悔することは一番嫌なので、年末に一人、部屋にこもって「ひとり合宿」をして、ノートに「やらないと後悔することリスト」を書き出しています。自分で書いているのにやっていなかったら言い訳になるので、これを絶対にやってやると決めていたら、宣言するしかない。それこそ吐きそうになるくらい、自分と向き合ってノートに書き出しています。
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