自動車置き場が郊外型カフェに変身 コロナ禍で新規出店が成功した理由とは
コロナ禍は消費行動に大きな変化をもたらしていますが、その変化を機会として捉え、売上アップに成功した郊外型カフェがあります。2021年4月に新規開業し、好調な滑り出しのきっかけとなったセールスポイントの見つけ方と情報発信のポイントを、東広島ビジネスサポートセンターHi-Biz(ハイビズ)から紹介します。
コロナ禍は消費行動に大きな変化をもたらしていますが、その変化を機会として捉え、売上アップに成功した郊外型カフェがあります。2021年4月に新規開業し、好調な滑り出しのきっかけとなったセールスポイントの見つけ方と情報発信のポイントを、東広島ビジネスサポートセンターHi-Biz(ハイビズ)から紹介します。
東広島市は人口19万人ほど、広島大学など4つの大学を抱える学研都市で、県庁所在地の広島市に隣接したベッドタウンです。
コロナウイルス第四波の危機と言われていた2021年4月、東広島市の中心地から自動車でおよそ30分、緑の多い丘陵地に新規に開業したのが「モノトーントーキョー」。こだわりのハンドドリップコーヒー、焼き立てのパンや手作りスイーツを提供するカフェです。
出店場所は、経営母体の自動車販売店の在庫置き場。従来の店舗開発のセオリーからみれば、店前の交通量こそ多いものの、大きな太陽光パネルに遮蔽されており、決して好立地ではありません。
このような制約のある土地にも関わらず、開業から4か月ほどで月間2500人以上が訪れ、地元TV局や雑誌の取材が相次ぐ人気店となっています。
この「モノトーントーキョー」を出店したのは越智モータース。東広島市で自動車関連事業を手掛けています。創業10年、経営者の越智光矢社長は30代ながら、地方運輸局長から自動車分解整備事業の認証を受けた「認証工場」を保有し、販売から車検・整備まで展開しています。
越智社長がハイビズに相談に訪れたのは2020年4月のこと。自社に新しく加わるメンバーからの提案で、敷地の有効活用と中長期的な自動車関連事業とのシナジーを狙った「カフェ」を開業したい、という相談でした。
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越智モータースでは、販売から車検・整備まで展開することで既存顧客の囲い込みの施策を打っていますが、ポータルサイトや情報誌などへの広告出稿が中心となる新規顧客の獲得の効率化が課題となっていました。
自動車を購入する機会は、数年に1回の頻度でしか訪れません。車検もおおむね2年に1度しかありません。「カフェ」事業は新たな収益を生み出すだけでなく、日常的な顧客接点を持つリアル店舗として、新規顧客獲得のメディアになることを企図しています。
カフェ事業を担当するのは、大手カフェチェーンで店長・バリスタとして10年以上のキャリアを持つ奥本好昭さん。東京渋谷や大阪、神戸、名古屋など大都市圏の店舗を任されてきたベテランです。奥本さんを中心に、カフェのコンセプトを検討する作戦会議を開始しました。
市場調査と意見交換を重ねる中で、機会と強みが見えてきました。まずは、地域内に競合となる、似たような業態の店舗が少ないことがわかりました。また競合店のコンセプト、品ぞろえを確認することで、ターゲットが見えてきました。
そして、コーヒーやパンなど商品の選択肢が豊富にあること。奥本さんが前職時代に培った人脈で、コーヒー豆やエスプレッソマシン、その他ドリンク類、パンやスイーツなどフード類もターゲット層に合わせて仕入れが出来ます。
これらによって、出店する準備は進められそうです。ただ、成功に導くためには「オンリーワンに出来る要素」が必要です。セールスポイントを特定し、ターゲットを絞り込んでいきます。
セールスポイントのヒントは、弱みと思われた店舗や立地にありました。中心地から離れた郊外、通りからは遮蔽された店舗。そこから創り出される空間が強みになるのではないか、と考えました。
前述の通り、太陽光パネルがあるため店舗を敷地の奥に配置をすることになります。更に、出店コストの関係もあって、席数の7割以上は屋外に設置します。また、商業集積エリアではない丘陵地のため、緑が多く目に入るようなロケーション。これが、敷地の特徴です。
この特徴から、「自然・緑に癒される」、「屋外でリフレッシュ」、「騒がしさから放たれる」などの魅力があり、それらをうれしいと思う人には「オンリーワン」なカフェになるのではないか、と考えました。
この背景にあったのは、旅行など休日のレジャーの変化。特に、自動車での移動が主となる地方では、近場のレジャーとしての「ドライブ」、その目的地として郊外のスポットや、「カフェ巡り」、「パン屋巡り」がSNSを賑わしています。
コロナ禍で再三言われてきた「三密を避ける」ということ。『密から疎』に向かう消費行動の変化が、今回の出店では追い風となる可能性があります。「喧騒から離れ、密にならない屋外テラス席でまったり過ごすカフェ」というコンセプトを固めました。
SNSで情報収集を行い自動車で1時間程度の移動を厭わないような20代~30代のカップルや女性をターゲットに、インスタグラムでの情報発信からスタート。開店前の店舗づくりの様子からシェアし始め、お店の特徴やこだわりを発信していきます。
4月にプレオープン、5月にグランドオープンした「モノトーントーキョー」。SNSでの情報発信の積み重ねから、少しずつ話題になります。カフェやパン屋の新規開業を情報発信してくれる地域のお客様の拡散もあり、来店されるお客様が少しずつ増えていきます。
また、店舗コンセプトをプレスリリースで地域メディア向けに広報。そのユニークな立地、屋外テラス中心の店舗といったことも注目されました。開店からほどなく、地域情報誌やTVの生活情報番組に取り上げられ、一躍話題の店となりました。
開業2か月目には計画対比130%超の売上に到達し、6月、7月も計画を超える売上で好調に推移。「手作りプリン」という名物スイーツも生まれ、まったり過ごす時間を求めるカフェ客に人気となっています。
集客を支えたのはインスタグラムです。地域と嗜好性を絞り込んだハッシュタグによるリーチ拡大、地域を絞り込んだフォロワー獲得活動を展開したことで、来店に繋がるインプレッションが伸長。PRによるメディア露出も追い風となり、オープン前二桁だったフォロワーは1か月ほどで1000人を超え、2021年8月18日時点で2572人にまで到達。順調にファンづくりが進んでいます。
カフェ店舗やテラス席周辺には展示車が配置されており、自動車に関心を持って眺めるカフェ客の姿も散見。カフェ事業から、自動車関連事業の顧客獲得に繋がる兆しも見え始めています。
「コロナ禍でまだ先行きは見通せない。変化の兆しに敏感に次々に手を打ち、仕掛けていきたい」という店長の奥本さん。コンセプトを大切にしつつ、新メニューやお店作り、店舗の鮮度を保つ情報発信などのアイデアを練っています。
企業を取り巻く経営環境や、市場の動向を注視していると、変化を機会とした「ヒットの法則」のようなものが見えてきます。その法則に従う、あるいは応用することでトレンドという流れに乗ってチャンスをつかむことができます。
ただ、その際に大切なのは「強み」を活かすこと。強みが活かされていなければ、時流に乗ったとしても、勝ちきれないでしょう。「強みなんて言われても…」と思われるかもしれません。ナンバーワンになる必要はないのです。自分たちの「顧客」に喜ばれていることこそ、オンリーワンになる「売り」だと思います。
今回ご紹介の事例も、「弱み」と思われた要素の裏返しが、特定の顧客に喜ばれる「強み」になる、ということが勝ち筋の発見に繋がりました。事業者の方々との対話によって、こういった強みを発見することが私たちハイビズの使命です。
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