「大手とは機能で競わない」町工場が商品開発で重視するペルソナとぬくもり
猫の姿をした抗菌マスク掛け「しっぽ貸し手」などヒット商品を生み出した愛知県豊川市の町工場「山本製作所」は、コロナ禍で立ち上げたBtoC商品の新規事業が売上の3分の1を占めるまでになりました。「千の失敗」を乗り越えたという商品開発では「どんなユーザーのニーズに応えているのか」に必ず立ち返るといいます。田中倫子社長に詳しい話を聞きました。
猫の姿をした抗菌マスク掛け「しっぽ貸し手」などヒット商品を生み出した愛知県豊川市の町工場「山本製作所」は、コロナ禍で立ち上げたBtoC商品の新規事業が売上の3分の1を占めるまでになりました。「千の失敗」を乗り越えたという商品開発では「どんなユーザーのニーズに応えているのか」に必ず立ち返るといいます。田中倫子社長に詳しい話を聞きました。
ダイキャストや銅素材の切削加工を手がける山本製作所は、2020年5月に初の自社ブランド「yss.brand」を立ち上げ、ネコの姿をした真鍮(しんちゅう)製のマスク掛けツール「しっぽ貸し手」が大ヒットとなり、注目されました。
「以前は、BtoBの仕事だけでは社員は自分たちが何の製品を作っているかわからない、ユーザーの声が届くこともないという状況でした。しかし、しっぽ貸し手を発売してからユーザーの声がダイレクトに届くようになりました」
「食事などの時に机に置けるタイプがほしい」という声が届けば卓上ツール「しっぽ使っ手」を作り、「もっと小さいサイズがほしい」という声が届けばしっぽ貸し手のミニサイズ「しっぽ連れてっ手」を作るなどユーザーの声を製品開発につなげることもできました。
「社員のみんなの表情が変わりました。それだけでもやる意味がありました」という田中さん。いまでは、新製品の企画でも嫌がらず、次々とアイデアを出してくれるようになったといいます。
それだけではなく、2021年5月期の決算では、自社ブランド「yss.brand」の売上が3分の1を占めるなど既存事業が落ち込む中で、業績を下支えしました。
こうしたなか、2021年9月、新たな新製品を発表しました。「しっぽ貸し手で生まれたユーザーとのつながりを閉ざしたくない」。そんな思いで作った商品が、パソコンのキーボードのエンターキーに貼りつける真鍮製のネコのシール、「にゃんたー」です。
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「機能は……とくにありません」と話す田中さん。ただし、ネコらしい丸みを出しネコらしいシルエットに、加工面をあえて残すことで猫の毛質を再現しており、見て触って癒やされるシールだといいます。
そこにはしっぽ貸し手が生まれるまでに繰り返した商品開発の「千の失敗」で得た経験が生かされていました。
ものづくりの現場で起こりがちなことは、独自の高い技術力を生かして、ほかにない機能、性能を持たせたものの、買う人のニーズと合わなかったというものです。
「そもそも、技術力では大手企業にはかないません」。自分たちの強みは「人のぬくもりを感じるモノ作り」であることに立ち返り、くすっと笑えて誰かを幸せにするものを作ることを目指しました。
「にゃんたー」をつくるにあたり、一番心がけたのは「どんな人にこの商品を届けたいか」というペルソナ像でした。
「オンラインでの打ち合わせばかり」「パソコンの前で書類仕事がたまっている」……。そんな悩みを持つ人に、パソコンを開けるのが楽しくなる幸せの体験を届けたい。
これが「にゃんたー」を開発するにあたり、掲げた商品開発の柱でした。
自動車や電気関連部品の製造が本業である山本製作所にとって、コロナ禍でいったん落ちた注文が再び戻ってきたものの、再び厳しい状況を迎えています。
2020年末ごろから世界的な半導体不足により自動車や電気製品への影響が心配されるようになりました。さらに2021年の夏からは、東南アジアでの新型コロナの感染拡大で部品供給の不足により、トヨタをはじめ、複数の自動車メーカーが生産調整に入りました。
「何の部品がいつ影響を受けるのかがわからず、すごい恐怖があります」と田中さん。この先どうなるかは誰も正確に予想できない時代です。
営業で仕事を取ってくるだけではなく、自分たちで仕事を生み出していかなければ、と考えています。
そんななか、自社ブランドは消費者とのつながりだけでなく、これまで出会えなかった企業とつながるきっかけにもなりました。これまでにも、熊鈴や贈答品など新たな製品が生まれています。
「私たちは地域に支えられてきた製造業なので、元々の仕事をおろそかにするつもりはありません。地域のなかで社会問題に向き合い、その課題解決をビジネスチャンスにしていきたいと考えています」
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