目次

  1. 7.2%にとどまる任意後見制度
  2. 経営者と後継ぎにありがちな「誤解」
    1. 任意後見契約の締結に1年
    2. 周辺の専門職による誤った助言
  3. 任意後見契約の不備や課題
    1. 任意後見人には 「取消権」がない
    2. 後見人を変えたくなったら
    3. 任意後見監督人の選任
  4. 簡易で自由度の高い任意後見契約

 後見は大きく分けて、法定後見と任意後見の2種類があります。法定後見制度は、家庭裁判所によって選ばれた成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)が、本人の利益を考えながら、本人を代理して契約などの法律行為を行ったり、本人が同意を得ないで進めた不利益な法律行為を後から取り消したりすることによって、本人を保護支援する制度になります。

 任意後見制度は、判断能力が不十分な状態になる場合に備え、あらかじめ選んだ代理人(任意後見人)に、自らの生活、療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与える契約(任意後見契約)を、公正証書で結ぶというものです。本人の判断能力が低下した後、任意後見人が、家庭裁判所が選ぶ「任意後見監督人」の監督のもと、本人を代理して契約などをすることで、本人の意思に沿った適切な保護・支援が可能になります。

 それでは、任意後見契約の件数をみてみましょう。2000年には年655件でしたが、20年には年1万1717件まで増えました。しかし、法定後見制度を含めた成年後見制度全体で見ると、7.2%に過ぎません。

任意後見契約件数は2000年(左端)を起点に右肩上がりの傾向でしたが、直近の20年(右端)は、大きく減少しました(法務省登記統計をもとに、筆者がグラフを作成)

 「任意後見契約に関する法律」は、00年4月に施行されました。制度の趣旨は「任意後見契約を活用し、認知症になったときの対策を、自分自身で決めてほしい」というものでした。そして、それに次ぐ方法として、法定後見を申し立てるという流れになるはずでした。

 しかし、施行から20年が経過しても、「後見」といえば、「法定後見」しか頭に浮かばない経営者と後継ぎが多いようです。事前に何も準備せず、認知症になってしまってから、慌てて裁判所に法定後見を申し立てるケースが圧倒的です。

 では、認知症対策と事業承継への準備を怠ると、どんな事態が起こりうるのか。そして、任意後見制度をどのように活用すれば、事業承継がスムーズに進むのか。ここからは、筆者が実際に携わった事業承継のケースをもとに、解説します。

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