目次

  1. PL保険(生産物賠償責任保険)とは
    1. PL保険の補償内容
    2. PL保険の補償対象となるケース 食品関連の事例も
    3. PL保険、保険料の相場はいくら? 補償金額も紹介
    4. 海外PL保険とは
  2. PL保険の選び方
  3. PL保険を取り扱う保険会社・団体
  4. PL保険に加入する際の注意点
  5. PL保険に加入して製造物の賠償責任リスクに備える

 PL保険(生産物賠償責任保険)とは、PL事故によって発生した損害を補償する保険です。PL事故とは、自社が製造・販売した製品や、提供した仕事の結果が原因で、他人の身体や財物などに損害を与える事故です。

 1995年7月1日に製造物責任法(PL法)が施行されました。PL法が施行されたことで、事故が発生した場合、被害者が製品の欠陥を証明できれば、製品を製造・販売した事業者に過失がなくとも損害賠償を請求できます。

 そのため自社に落ち度がなくても、製品を製造したり販売したりする業者は、巨額の損害賠償を負う恐れがあります。PL保険に加入していると、PL事故によって請求された損害賠償金や訴訟をするための費用などをカバーできるのです。

 なおPL保険は、モノを製造する業者だけでなく、モノを販売する業者や、工事の請負業者なども加入できます。2021年9月現在、取引先からPL保険の加入義務を提示されるケースは少なくありません。

 PL保険に加入すると、以下のような損害に対して保険金が支払われるのが一般的です。

  • 法律上の損害賠償金
  • 賠償責任に関する争訟費用(訴訟費用・弁護士費用等)
  • 権利保全行使費用(求償権保全・行使費用)
  • 緊急措置費用(事故発生時の応急手当費用・護送費用など)
  • 保険会社の要求による協力費用(情報収集や調査行為などの費用)

 PL保険では、PL事故の被害者に対して支払う損害賠償金が補償されます。また訴訟の際にかかった費用や弁護士へ支払う報酬も、PL保険で補償されるのが一般的です。

 権利保全行使費用とは、PL保険の被保険者(保険の対象となる企業)が第三者に対して損害賠償を請求するときの費用です。

 例えば、テレビが発火して家屋が焼失し、販売した家電量販店が損害賠償を請求されたとします。家電量販店は、テレビを購入した人に賠償金を支払ったあと、メーカーに対して支払った相当額を請求するでしょう。その手続の際にかかる費用が、権利保全行使費用です。

 ただし製品自体の損害や回収するための費用、修理・交換に対応するための費用は、多くの場合、PL保険の基本補償に含まれません。また損害の原因がPL保険に加入する前に発生していた場合も、補償は適用されません。

 PL保険は、製造業だけでなく工事業や卸売業、飲食業などさまざまな業種のPL事故が補償対象となります。PL保険の補償対象となる事故の例は、以下の通りです。

  • 製造した電子レンジに欠陥があり購入した人が火災に遭った
  • 製造した自転車が安全性を欠いていたため、乗った人が転倒してケガをした
  • 提供した料理を食べた人が食中毒になった
  • 飲料水のビンが破裂し、破片が目に当たって失明した
  • 施工不良により取り付けた看板が落下して通行人にケガをさせた

 過去には、飲食店が販売した食品で20人以上の人が食中毒になり、飲食店経営会社や食材納入会社が3,000万円を超える損害賠償が請求された事例もあります。

 PL保険に加入していた場合、PL事故によって高額な損害賠償を請求されたとしても、保険金でカバーでき、賠償に伴う金銭的な負担を軽減できます。

 PL保険の保険料は、以下の要素をもとに算出されます。

  • 保険の対象となる生産物
  • 生産物の売上高
  • 工事・仕事の完成工事高・売上高
  • 保険金の支払限度額・免責金額
  • セットする特約など

 上記の要素に応じて保険料が決まるため、一概に相場がいくらとはいえません。年間の保険料が数万円の場合もあれば、数十万円の場合もあるため、まずは保険会社に連絡をして見積もりを取ると良いでしょう。

 PL保険に加入すると、PL事故が発生した際、契約時に決めた支払限度額を上限に、実際の損害額から免責金額を差し引いた額の保険金が支払われます。

 なおPL事故の被害者には「責任保険契約についての先取特権(以下、先取特権)」が認められています。先取特権とは、製品を供給した事業者が破産した場合、被害者はPL保険の保険金を優先的に受け取れる権利です。

 PL保険の保険金が必ず事業者に支払われる仕組みだと、事業者が破産したとき、被害者は他の債権者と同様の扱いを受けてしまい、損害賠償が充分に受けられない可能性があります。

 そこでPL事故の被害者は先取特権を行使することで、PL保険の保険金を保険会社から直接支払ってもらえるのです。

 海外PL保険とは、海外で発生したPL事故における損害賠償責任を補償する保険です。国内PL保険と同じく、損害賠償金だけでなく弁護士報酬や訴訟費用なども補償されます。

 海外PL保険の特徴は、以下の通りです。

  • 間接輸出品やグレーマーケット製品によるPL事故も補償の対象
  • 保険会社が示談交渉を代行してくれる
  • 約款が英文で構成される

 間接輸出品とは、部品や原材料など他社が製造する完成品に組み込まれて輸出されるものです。グレーマーケット製品は、訪日観光客や海外バイヤーによって海外へ持ち出された製品を指します。

 間接輸出品やグレーマーケット製品が原因で負った損害賠償は、国内PL保険では補償されません。

 例えば、自社が国内のみで販売するお菓子を、訪日観光客がお土産として購入し、帰国後に食して食中毒になり損害賠償を請求されたとしましょう。このような賠償リスクに備えるためには、海外PL保険に加入する必要があります。

 海外PL保険に加入していると、保険会社が示談交渉を代行してくれます。示談交渉サービスは、国内PL保険にはない、海外PL保険ならではのサービスです。

 輸出企業でなくとも、自社製品が海外に出回る可能性があるのであれば、海外PL保険への加入を検討してみてはいかがでしょうか。

 PL保険を選ぶ際は、以下のポイントを意識すると良いでしょう。

  • 企業のリスクに応じた補償・特約を選ぶ
  • 複数の商品を比較して選ぶ

 PL保険を選ぶ際は、自社のリスクを考えることが大切です。

 例えばPL事故が発生した際にリコールをする可能性がある場合は、PL保険にリコール費用をカバーする特約を付帯する必要があるでしょう。

 ※リコールとは、すでに市場に出回っている製品に欠陥があることを公表したうえで、回収・無償修理をすること

 保険会社によってPL保険の補償内容や付帯できる特約、保険料の算出方法が異なります。自社にとって必要な補償を決めたうえで、複数の保険会社から見積もりを取り寄せて比較し、加入先を決めると良いでしょう。

 PL保険を取り扱う保険会社や団体の例は、以下の通りです。

  • 日本商工会議所「ビジネス総合保険制度(旧:中小企業PL保険制度)」
  • AIG損保「事業総合賠償責任保険(STARs)」
  • 東京海上日動「PL保険(生産物賠償責任保険)」
  • 三井住友海上「生産物賠償責任保険」
  • 損保ジャパン「商賠繁盛」 など

 業種に応じた補償がパッケージされている商品もあれば、補償が一本化されている商品もあります。また保険会社によっては、PL事故以外の賠償リスクに幅広く備えられる商品を取り扱っています。

 PL保険は、すべてのPL事故が補償の対象となるわけではありません。以下のようなケースでは、PL保険の補償対象外となります。

  • 故意または重大な過失によって法令に違反した製造物を製造・販売した
  • 生産物・仕事の目的物の効能・性能に関する不当表示または虚偽表示
  • 正当な理由なく回収等の措置をしなかった場合に生じた事故
  • アスベストや放射性物質、汚染物質などが原因で生じた損害 など

 PL保険に加入するとしても、法令に則って製品や商品を製造・販売し、事故発生時には適切に対応するなど、誠実に事業をすることが大前提です。

 またPL保険では、自社が提供したサービスが原因で生じた損害に対する賠償請求は、補償の対象外です。

 製造業や飲食業などモノを作る業者は、PL事故が起こった際に巨額の損害賠償を請求されるリスクがあります。

 またモノを販売する業者や工事を請け負う業者にも、PL事故によって損害賠償を請求されることがあります。

 どれだけ注意を払っていたとしても、PL事故のリスクを0%にはできません。PL保険は、PL法にもとづく賠償責任を問われるリスクがあるすべての企業が、加入を検討すべき保険といえます。