目次

  1. 勘定科目とは
  2. 勘定科目を理解するときのポイント
    1. 資産/負債/純資産/収益/費用の違いを抑える
    2. 主な勘定科目
    3. 5つの区分で間違いやすいパターン
  3. 勘定科目はどこまで大切なのか
    1. 売上高は細かく管理
  4. 勘定科目を理解する上で意識したい5つのポイント

 勘定科目とは、試算表や決算書を作成するために、取引の種類ごとに利用する取引内容の名称をいいます。

 勘定科目には、絶対的な使用ルールはなく、各社ごとに独自の名称で作成することも可能です。

 しかし、会社は多くの場面で同業他社と比較されます。たとえば、銀行などからの融資のときや企業買収などのM&Aといった場面です。

 このとき、独自の勘定科目を用いていると、結局この会社はあの会社よりも良いのか悪いのか、第三者が判断できなくなってしまいます。

 同業他社との比較可能性を考えると、一般的に利用される集計方法で勘定科目を使い分けることが主流です。

勘定科目の概要(デザイン:吉田咲雪)

 勘定科目は、一般的に利用されるものだけでも30種類以上はあります。しかし、それ自体を暗記することはあまり意味がありません。

 むしろ、先に「勘定科目の上に存在する区分」、すなわち資産/負債/純資産/収益/費用を理解することが重要になってきます。

 理由は後ほど詳しく説明しますが、あるときに行った取引について、それがどの勘定科目に当てはまるのかより、資産/負債/純資産/収益/費用のどれに該当するのかを理解するほうが実務上、有益だからです。

 まずはここで、勘定科目を理解するときのポイントとして、資産/負債/純資産/収益/費用の違いやその見分け方をご紹介します。

 資産/負債/純資産/収益/費用のうち、資産/負債/純資産の3つは会社の財政状態を示す「貸借対照表」に表示される項目です。

 収益/費用は、経営状態を示す「損益計算書」に表示されます。

 それぞれの関係性を示した図とイメージをご紹介します。

【資産/負債/純資産/収益/費用の関係図】

【資産/負債/純資産/収益/費用のイメージ】

  • 資産…現金や現金化しやすいもの、将来の収益と対応させるための支出
  • 負債…将来支払いが必要なもの、将来の収益となる見込みのもの
  • 純資産…資本金と過去の利益の合計(≒利益剰余金)が主な内容
  • 収益…会社が得た売上や営業とは直接関係はしない収益
  • 費用…会社が支出したもしくは支出予定の経費

 勘定科目を理解するときは、今ご紹介した大区分5つのうち、どこに当てはまる勘定科目なのか、とイメージすることが大切になってきます。

 例えば、「預金」という勘定科目がこの5つの大区分のどこに該当するのか、といった具合です。

 下記に、大区分ごとに主な勘定科目をまとめましたのでご参考ください。

区分 勘定科目の名称 主な内容
資産 現金及び預金 手元で保管する現金や普通預金、当座預金などの預金残高
売掛金 営業活動に関する収入で将来現金化が見込まれるもの
未収入金 営業活動以外(固定資産や有価証券の売却など)で将来現金化が見込まれるもの
前払費用 同額の継続的な支払いがある項目で、将来に費用となるような支出。地代家賃の前払いなど
建物

1年以上の使用が想定され、金額が原則10万円以上である有形資産

(内装などの造作物は「建物付属設備」となり、建屋そのものが「建物」となる)

車両運搬具

四輪自動車、二輪自動車、船舶などの運送手段となりうるもの。これも1年以上の使用と10万円以上であることが前提

(新車と中古車で勘定科目に区別はない)

ソフトウェア 販売用ソフトウェアおよび社内の業務改善のために使用しているソフトウェア。有形ではなく、無形物であっても1年以上の使用見込みかつ10万円以上である場合は、ソフトウェアとなる
投資有価証券 上場、非上場にかかわらず会社が投資をする目的で保有している有価証券。また、投資信託などもこれに該当する
差入保証金 賃貸物件をレンタルした際に生じる「敷金」が主。貸主への差入時は、あくまでも「資産」となる
長期前払費用 複数年にわたり費用処理される項目。礼金(20万円以上)や、借入金の際に発生する「保証料」などがこれに該当する
負債 買掛金 主に売上原価(仕入高)に関して、将来支払いが必要な金額をいう。イメージは、仕入に関する請求書のうち、まだ支払いをおこなっていないもの
未払金 人件費や外注費などの費用のうち、将来において支払いが想定されるもの
未払費用 同額の継続的な支払いが想定される項目で、将来に支払いが想定されるもの。例えば、システム利用料など
短期借入金 1年以内に返済が予定される借入金。手形借入や当座貸越での借入が主な項目
長期借入金 1年超の期間にわたり返済が予定される借入金。短期借入金との違いは、返済期間が1年以内か1年超か
賞与引当金 将来予定している賞与のうち、支給見込金額が確定はしておらず、概算でのみ確定している場合に将来の支払予定に備えて積み立てておく項目
退職給付引当金 退職規程等に基づき、将来の退職金支給見込み金額に対して現時点で発生が見込まれる金額を積み立てたもの。確定給付型の退職金規程の場合に使用される
純資産 資本金 会社設立時に出資した金額+設立後に追加出資した場合の金額ー減資した金額
資本剰余金

資本準備金とその他資本剰余金から構成される

資本準備金は、出資時に資本金としなかった部分。その他資本剰余金は、自己株式の売却などの資本取引から発生するもの

利益剰余金

利益準備金とその他利益剰余金から構成される

利益準備金は、株主への配当時に一定割合の積み立てが必要であり、その積み立て金額。その他利益剰余金は、過去の利益の合計+当期利益金額

自己株式 すでに発行している株式を株主から買い取ったもの
収益 売上高 営業活動による獲得した収益。現金や預金の受領完了のいかんにかかわらず集計されるもの
受取利息 預金から発生した利息
受取配当金 有価証券を保有している場合に発生する配当金
固定資産売却益 建物や車両運搬具などの売却時に、売却時の帳簿価額より売却金額が上回っている場合に生じる項目
投資有価証券売却益 投資有価証券の売却時に、売却時の帳簿価額より売却金額が上回っている場合に生じる項目
費用

売上原価

(材料費など)

売上高に直接紐づく材料の仕入代金など
役員報酬 代表取締役、取締役、監査役などの役員に対する月額報酬
給与手当 役員を除く従業員(正社員・アルバイト含む)の月額給与金額
法定福利費 会社負担分の社会保険料。一般的に(役員報酬+給与手当)の13%といわれる
福利厚生費 会社が従業員の慰安等を目的に支払った金額。忘年会や新年会の費用など
通信費 電話代金やインターネットの利用料金など。システム利用料も通信費に該当することが多い
地代家賃 オフィスや社宅などの賃貸料金
消耗品費 10万円以下のオフィスで利用される備品。文房具から衛生関連用品、10万円以下のパソコンまで多くの項目が消耗品費に該当する
広告宣伝費 紙媒体やWEB媒体への販売促進を目的とした宣伝活動に関する費用が該当
保険料 火災保険や自動車保険、生命保険など
貸倒損失 売掛金や未収入金のうち、回収が困難となり、損失としたもの
支払利息 借入金に伴い発生した利息相当額
固定資産除却損 建物や車両運搬具などの売却時に、売却時の帳簿価額より売却金額が下回っている場合に生じる項目

 上記でご紹介した勘定科目はほんの一部ですが、大区分ごとにその数が概ね決まっています。

 もっとも種類が多いのは費用(勘定科目全部の50%のイメージ)で、次は資産(25%)です。

 その次が負債(15%)、そして収益(7%)、最後が純資産(3%)といったところでしょうか。

 この全体に占める数のイメージも大切になってきます。全体に占めるイメージをもつことで、融資などの際に勘定科目の話題が出たときに、どの区分の話をしているか、といったイメージがつきやすくなります。

 勘定科目を理解するためには、まずは5つの区分、すなわち資産/負債/純資産/収益/費用のどれに該当するのかを理解することが重要であるとご紹介しました。

 この5つの区分のどれに該当するのかを理解する上で、特に間違えやすいのが「この勘定科目は資産なのか費用なのか」というパターンと、「収益なのか負債なのか」というパターンです。

 以下、見分けるポイントをご紹介します。

資産なのか費用なのか

 資産なのか費用なのかを見分けるポイントは、支払った内容と支払った金額(10万円以上か否か)にあります。ここでは、具体的な例で紹介します。

・固定資産と消耗品費

 例えば、パソコンを購入したとします。このパソコンの値段が10万円を超えるのか否かによって消耗品費なのか固定資産なのか分かれます。

 10万円未満の場合、消耗品費という勘定科目を使用します。消耗品費の場合、費用になるため、その年に全額が費用として処理されます。

 一方、10万円以上の場合、器具備品という勘定科目を使用します。器具備品は資産の勘定科目になり、減価償却というルールによって、数年間かけて費用になっていきます。

 なお、青色申告を行っている場合、年間300万円までは、30万円未満のものを一括費用として会計処理することができるため、少額減価償却資産という勘定科目を利用して処理すれば、その全額を減価償却費としてその年の費用になります。

・差入保証金と地代家賃

 会社の移転により敷金・礼金・前払家賃、そして仲介手数料を支払うケースがあります。

 契約をするときにまとまった資金の支出をするため、その全額が費用となっている、と思う方もいるのではないでしょうか。

 実際は、内容によって使用する勘定科目が違います。違いが生じる理由は、資産と費用とに区分する必要があるからです。

 敷金は、その全額が資産の分類される「差入保証金」を使用します。

 礼金は20万円を超える場合、資産の「長期前払費用」を使用し20万円未満の場合は「地代家賃」もしくは「支払手数料」として費用の勘定科目を使用します。

 前払家賃は、支払った時点では資産に分類される「前払費用」とし、契約月になった時点で費用である「地代家賃」に振り返る会計処理が必要となります。

・繰延資産と消耗品費

 繰延資産とは、会社設立や店舗の開業などの一時的にかかった諸費用の総額で、支出の効果が1年以上を要する支出をいいます。

 本来は10万円未満の物品の購入であれば、消耗品費という勘定科目を使用し、その年の費用として処理されます。

 しかし、繰延資産に該当する場合、これを一時の費用とし会計処理するのではなく、将来の収益と対応させて費用処理することができます。

 それを適用できるのが、繰延資産になります。

 費用とするのか繰延資産とするのが良いかは、ケースによって異なってきますので、税理士の方に確認することが良いかと思います。

収益なのか負債なのか

 代金を事前に受け取るようなケース(前受金)がこれに該当します。このケースは、パーソナルトレーニングジムや美容エステなどがよくある事例です。

 収益なのか負債なのかを見分けるポイントは、受け取った代金の返金可能性です。返金する可能性があるものは「負債」に、返金の可能性がないものは「収益」になります。

 例えば、10回チケットを20万円で購入したケースを想像してみてください。代金を受け取ったときにその全額が売上高として収益になるのでしょうか。

 それは違います。あくまでも収益になるタイミングは、チケットが使用されたときです。

 では代金を受け取り、チケットが使用されるまでの期間はどの勘定科目になるのかというと、「前受金」という負債の勘定科目を使用することとなります。あくまでも負債です。

 未使用のチケットは、本来、返金する可能性があります。そういう意味で、負債の勘定科目を使用することになります。

 代金を受け取った=全て収益、というわけではないのです。

 「どの勘定科目にするのが正しいでしょうか」とよく聞かれます。

 正直どれでも構いません。どちらかというと、その取引がどの勘定科目に当てはまるのかではなく、資産/負債/純資産/収益/費用のどれに該当するかのほうが重要だからです。

 5つの区分を知り、どの区分に該当するのかがわかれば、あとはその箱に入る適当な勘定科目を使用すれば良いのです。

 5つの区分さえ間違えなければ、一般的に利用される勘定科目と多少の相違があっても、企業間の比較可能性はある程度保たれます。

 例えば、売掛金としてほしいところを「未収入金」を選んでもそこまで問題がありませんし、建物とすべきところを「建物付属設備」としてもそこまで困りません。

 勘定科目をぱっと見て、「これは資産だな」「これは負債だな」と、その勘定科目がどの区分に該当するのかわかるようになるのが大切なのは、ある取引があったときに、それがどの箱に該当するのか判断しやすくなるからです。

 ですので、特に費用に関して、以上のような質問を多く受けます。

  • 消耗品費と事務用品費は区分するのが良いでしょうか。
  • 交際費と会議費は厳密に区分したら良いでしょうか。一人当たり5,000円はとても重要でしょうか。
  • 切手代は通信費と荷造運賃のどちらでしょうか。

 これらの答えはすべて「どちらでも良い」です。

 交際費と会議費は年間交際費が800万円を超える会社になってきますと意識が必要ですが、それまではほぼ必要ありません。

 月間約64万円、1日あたり2万円強の交際費が使えるようになってきた段階で、一人当たりの金額を意識することをおすすめしています。

 ただし、雑費という費用の勘定科目の利用はおすすめしていません。

 雑費は、行く宛のなかった支出、という印象でして、金額突出して大きい場合、間違いなく税務調査で内容の確認が入ることが多いです。

 そのため、できるだけ、なにかしらの費用の勘定科目を使用することをおすすめしています。ただし、金額が小さいものは雑費でも良いと思います。

 勘定科目はあまり気にする必要がない、とお伝えしました。

 一方で、筆者は、売上高をもう少し細かい種類を会社独自で作成し、決算書や試算表で内訳がわかるようにすることを、おすすめしています。

 なぜならば、売上高をひとつの項目で見て、前月比や前年同月比で比較した際に増減していてもなにが理由で増減しているのかがわかりづらいからです。

 特に会社外部の人に売上高の増減理由を説明する際に、その内訳が少しでもわかる方が親切ですし、説明をする際も内訳がはっきりしているほうが説明がしやすいと思います。

 売上高は、決算書や試算表の中でも最も重要な勘定科目のひとつです。そのため、詳細な勘定科目を設定し、表示することがおすすめです。

 ここまで、勘定科目についてご紹介をしてきました。

 勘定科目を理解する上では、以下を意識されることをおすすめします。

  • 勘定科目とは、決算書や試算表に表示するために集計された項目
  • 勘定科目は絶対に決まっているわけではなく、自由に作成も可能
  • 勘定科目は、資産/負債/純資産/収益/費用の5つの区分に区分けされる
  • 勘定科目の丸暗記は無意味。5つの区分のどこに該当するかのイメージを大切に
  • 売上高は細かく独自の勘定科目の作成がおすすめ

 勘定科目は、必ずこれを使用しなければならない、というわけではありません。

 ただし、同業他社や時系列で、会社の状態を分析するためにあまりたくさんの勘定科目を独自に作成するのではなく、ある程度は一般的な勘定科目を使うのが無難です。

 その上で、一部のみ会社独自の勘定科目を作成し、会社の状態を分析できるようにしておくことが良いでしょう。