目次

  1. SDGs経営とは
    1. SDGsとESG
  2. SDGs経営が求められる3つの理由
    1. SDGsが大きなビジネスチャンスになりうるため
    2. 他の企業や個人とのコミュニケーションツールになるため
    3. ステークホルダーからの信頼を獲得するため
  3.  SDGs経営の基本は「SDGs Compass」の5ステップ
    1. ステップ1「SDGsを理解する」
    2. ステップ2「優先課題を決定する」
    3. ステップ3「目標を設定する」
    4. ステップ4「経営へ統合する」
    5. ステップ5「報告とコミュニケーションを行う」
  4. SDGs経営の事例
    1. 事例①サービス・事業の軸そのものがSDGs
    2. 事例②生活に身近な企業
  5. 自分ごととしてまず始める SDGsでコミュニケーションを

 SDGs経営とは、未来をみすえ社会課題を解決する持続可能な企業の取組みです。

 SDGsの文字だけ見ると、カタカナで難しそうという先入観から身構えてしまうかもしれません。

 SDGsとは、日本流に例えるならば近江商人の「売り手良し、買い手良し、世間良し」いわゆる「三方よしの精神」で持続可能な社会の実現をみんなで目指すことです。

 このように考えれば心のハードルが少し下がるのではないでしょうか。

 今、三方良しの精神といえるSDGsを知り、その上で自社の事業に取り込み、社会課題解決型企業として実践していくことが求められています。この期待に応えるための取組みが、SDGs経営です。

 SDGs経営を推進する上では、SDGsはもちろん、ESGも重要なキーワードとなります。それぞれを確認しましょう。

 SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。2015年に国連で採択されました。

 誰ひとり取り残さないことを目指し、先進国と途上国が一丸となって達成すべき「17の目標」、「169のターゲット(具体目標)」で構成されています。

持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて日本が果たす役割│外務省

 ESGは(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)の頭文字をとったものです。

 SDGsの対象は政府、NPO、教育機関を始め、人が関わる全てですが、企業活動に焦点をあてた分野がESGとなります。

 これからは財務状況だけでなく環境や社会、企業統治の要素も重視して投資(ESG投資)が行われます。

 世界持続的投資連合は、2020年の世界のESG投資額が35.3兆ドル(約3900兆円)だったと2021年7月に発表しました。(参考:世界のESG投資、15%増え3880兆円 2020年│朝日新聞DIGITAL

 気候変動や人権問題への関心の高まりからESG投資は年々拡大し、全運用資産に占める比率は35.9%(2018年比2.5ポイント上昇)となりました。(参考:GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW 2020 p.5

 そのため、後ほど詳しく説明しますが、SDGsやESGを意識したSDGs経営は、企業が生き残る上で非常に重要な戦略となるでしょう。

 では、次にSDGs経営が、なぜ今求められているのかをご説明します。その理由は大きく分けると、次の3つです。

  1. SDGsが大きなビジネスチャンスになりうるため
  2. 他の企業や個人とのコミュニケーションツールになるため
  3. ステークホルダーからの信頼を獲得するため

 以下で詳しく解説しましょう。

 SDGs達成に向け2030年までに世界で年間12兆ドルの経済価値が生まれると、経済産業省が「SDGs経営ガイド」で予測を発表しています。

 SDGsは企業にとって無視できないリスクであると同時に、未来の市場を創造・獲得が期待できる巨大な「ビジネスチャンス」と言えます。

 SDGs経営が求められているのは、そのチャンスを掴める可能性が高まるからです。

 例えば、新たな事業領域、取引先、事業パートナーを獲得する機会が増えたり、これまでとは異なるイノベーションが生まれたりすることもあるでしょう。

 SDGsは全世界共通の目標であることから、SDGs経営に取組むことは、社会的課題に取組むほかの企業、自治体、NPOなどの組織、および個人を結びつけるキッカケとなります。

 社内外で認識を共有し、相互理解をはかるためのツールとしても有効です。

 また、個人と企業の関係構築に絞って目を向けると、SDGsは就職活動・転職活動をするミレニアル世代、Z世代において認知度が高いです。

 電通Team SDGs「SDGsに関する生活者調査」にデータがありますし、個人的にも実感する機会は多くあります。

 例えば、筆者は東京や関西の大学で教えながら、就職活動サポートの一環でエントリーシートを添削しています。

 そのESには必ずと言っていいほど、志望動機にSDGsの視点があります。

 企業がSDGs経営を取り入れているか、未来をどのように見ているかが、学生が企業を選ぶときのひとつのポイントになっているのです。

 また、中学高校でもSDGsの講演活動・ワークショップをしていますが、大学生よりも良くSDGsを学んでいます。

 この年代が大きくなってお客様になり、就活で企業を選ぶようになると考えれば、企業にとってSDGs経営がいかに重要かがより見えてくるでしょう。

 SDGs経営を取り入れ発信することで、企業は人材を確保しやすくなります。

 それには実践していること、これから実践しようとしていることを自社メディアやSNSなどを通して社会へ発信することが大切です。

 発信し認知してもらうことで初めてコミュニケーションツールとしての役割を果たせます。

 SDGs経営に取組めば、多くのステークホルダーへ「〇〇社は信頼できる」という印象を与え、信頼度を向上させることができます。

 特に環境、社会、企業統治に配慮する企業へ行うESG投資の対象となった場合、上場企業であれば株価、ベンチャー企業であれば資金調達が有利になる可能性もあります。

 こうしたSDGs経営に対する期待感を逆手に取り、取引の際に、好条件を引き出そうとして企業側からSDGs経営の考えを取り入れている(予定している)ことをステークホルダーに先に伝えるケースも見られます

 ところで、ESGという言葉は5年以内に消えると言われています。

 言葉が消えるのはステークホルダーから求められなくなるのはありません。

 ヨーロッパを中心にESGは当然の条件とされ、5年以内に企業の標準になるので改めて言うまでもない、その言葉を使うことはなくなるという英国投資会社の予測です。

 いうならば、この5年でESG対応をしていなければ投資対象から外される未来を意味します。

 SDGs経営は、自社だけの目先の利益を考えるのではなく社会、地球環境、そして自社も永続的に(持続可能に)事業を行うための生存戦略なのです。

 それでは実際にSDGs経営はどうすればよいのでしょうか?

 ここでは、「SDGs Compass」を用いて考えていきましょう。

 「SDGs Compass」は、GRI(Global Reporting Initiative)、UNGC(国連グローバル・コンパクト)、WBCSD(World Business Council for Sustainable Development:持続可能な開発のための世界経済人会議)の3団体によって作成されたSDGsの企業行動指針です。

 ここには、SDGs経営を導入する企業が行う5ステップが記載されています。順を追って自社にあてはめてみてください。

 1人で考えるよりも、部門を横断する数名のチームで取り組む方ことで、視野が広がり考えやすくなります。

SDGsコンパス(筆者作成)

 まず全従業員のSDGsの理解度を高めましょう。

 自社でSDGsに関するアンケートを経営陣、担当者を始め全従業員を対象に実施し、現状を共有して「自分ごと」と認識してもらうことから始めるのもオススメです。

 実際、筆者のクライアントさんも経営陣+担当部署への研修→グループ全体・全従業員へのアンケートを実施しました。

 知らないことは調べてアンケートに答えることでSDGsを学び、それが自社のどのような事業と結びつくか考えるきっかけになりました。

 続いて優先課題の決定です。

 SDGsは17項目、169のターゲットがあり範囲が多岐にわたりますので、全てをカバーするよりも自社のバリューチェーンから領域を確認します。

 確認する際は、バリューチェーン・マッピングで自社の活動がSDGs目標項目に対し、正の影響と負の影響が、どの過程に顕在または潜在しているか棚卸します。

 業界によって異なる部分はありますが、共通して考えられるのは労働時間管理、労働条件、採用、電力削減、ゴミ分別、セキュリティなどです。

 SDGs目標、インパクト、社会における重要性、自社事業との関連・重要性をあわせ、正の影響は強化、負の影響は最小化できるように考えます。

 このようにして課題を見える化、言語化し、自社のパーパス、経営理念と照らし合わせて優先課題を決めていきましょう。

 優先課題を踏まえ、目標を設定しましょう。この目標とあわせて期間も設定します。

 いつまでに、どのような目標を達成するのか区切り、マイルストーンをおくと従業員のモチベーション維持が期待できます。

 また、目標に向けて進みやすいようKPIを設定します。KPIとして企業活動に設定するということは、長期的ビジョンにおいて自社がSDGsを取り入れ、どのように貢献できるかを経営戦略とするのと同じです。

 目標・期間・KPIの設定では、それぞれが絵に描いた餅にならないようバックキャストの発想で考えます。

 2030年、SDGsが達成された社会はどのような環境か、そこで自社が社会へ提供している技術・サービスは、どのようなものか。

 今の延長線でなく未来から逆算した視点、いわゆるバックキャストの発想を考慮することが必要です。

 目標・期間・KPIを決めたら、社外、ステークホルダーへ公表し前へ進めましょう。あとは実行のみです。

 SDGs経営を進めるためにはトップ、経営層が積極的に取組み、従業員へ向け発信し続け理解を得ることが必要です。

 なぜ取り組むのか、なぜこの目標をかかげたのか、社会・自分たちへどのような良い変化をもたらすのか、全従業員が自分ごととして取り組めるように経営陣からストーリーを発信し続け浸透させます。

 またKPIを達成するための実行プランをたてる時は、1つの部署ではなく、社内を横断したチームメンバーで行いましょう。それを経営層が推し進め=率先して実行する形が理想です。

 SDGsは非財務価値に見えることが多いので、経営陣が「進めよう!」と声をかけても本当にやるべきか戸惑う従業員もいます。経営陣の言葉に加え、実際に自ら動くことで説得力が増します。

 いよいよ最後のステップです。

 SDGsの取り組みは、企業の目標と進捗状況、達成度を定期的にステークホルダーへ開示、報告しコミュニケーションをとることで、企業のブランディングや、従業員のモチベーション・ロイヤリティを高めることにつながります。

 また、SDGsに関連する実績や将来の目標をWebサイトやSNSで積極的に開示すれば、B to Bの企業であっても、B to B to C、社会へリーチできます。

 実際にSDGs経営をしている企業は、どのような企業でしょうか。SDGsは17項目あるので、どこに注目するかによって幅広く企業をみることができます。

 サービスそのものがSDGs経営を軸としているのは、2021年9月に月間利用者が2000万人を突破したメルカリ、孤独をテクノロジーで解決するオリィ研究所などです。

 こうした企業以外にも、途上国から世界へ通じるブランドをつくるというコンセプトでバッグなどの革製品を販売しているマザーハウス、食品ロスで食べ物の環をつくる日本フードエコロジーセンターなどがあげられます。

 近年は社会課題を解決するスタートアップも多く存在します。

 SDGsに取り組んでいると言えばTOYOTAです。

 省エネ、有害物質の削減、従業員の環境教育と全方位でSDGsに取組んでいます。日本で1番力を入れていると言っても過言ではありません。

 毎日車通勤している方、生活する上でなくてはならない方もいらっしゃると思います。

 身近と言えば、料品などを買い物に行くセブン&アイHDのリサイクル活動も、全国的に有名です。

 2021年9月から始めた食品ロス削減の「手前取りキャンペーン」を最近店頭で見るようになり、利用者に積極的に訴えていることが伝わります。

 そして、家でもオフィスや学校でもない第三の場所として愛されている、スターバックスのマイボトル持参。

 スターバックスでは、これ以外にも、フェアトレードなど社会的格差や貧困問題の解消に積極的に取り組んだり、非正規労働者やマイノリティに対する差別を職場から排除したりなど、職場環境や人権に関する配慮で高い評価を受けています。

 ここまでSDGs、SDGs経営への理解を深め、進め方を考えてきました。

 SDGsは国連の取組み、遠い国の話から自社、自分にも関係しているものと、少しは自分ごととして考えられたでしょうか?

 SDGsは義務ではないのですが、多くの大企業で取り組みが進む一方、中小企業でまだ進んでいない現実があります。

 言い換えれば、中小企業が積極的にSDGsに取り組めば他社との差別化へつながります。

 SDGsの正解は誰も知りません。だからこそ企業の規模に関わらずビジネスチャンスになり得ます。

 良く分からないから手をつけないのではなく、年齢・経験など多様なメンバーの新しい発想をもとに試行錯誤しながら始めてみませんか。

 その過程をストーリーとして発信し社会とコミュニケーションを取ることで企業規模に関わらず大きなチャンスをつかめる可能性があります。

 まずは始める、一度多様なメンバーで考えてみてはいかがでしょうか。