レジリエンスとは 企業が注目する理由と向上のポイントを解説
レジリエンスとは、「困難を乗り越える力」であり「状況に適応する力」です。先行きが不透明で将来の予測が困難な現代、企業で注目されるようになりました。本記事では、レジリエンス・トレーナーで研修講師である筆者が、レジリエンスの概念と企業のレジリエンス向上のポイントをご紹介します。
レジリエンスとは、「困難を乗り越える力」であり「状況に適応する力」です。先行きが不透明で将来の予測が困難な現代、企業で注目されるようになりました。本記事では、レジリエンス・トレーナーで研修講師である筆者が、レジリエンスの概念と企業のレジリエンス向上のポイントをご紹介します。
目次
レジリエンスとは、「弾力性」を示す言葉です。元は物理学から生まれた言葉で、物体に圧力がかかった状態から元へ戻ろうとする力を表します。
例としてテニスボールを思い浮かべてください。力を入れると凹み、力を抜くと元の形状へ戻りますよね。この弾力性が基本的な意味となります。
このレジリエンスという言葉は、そのあと様々な分野で用いられるようになりました。
それに伴い「困難を乗り越える力」あるいは「状況に適応する力」という意味で用いられることが多くなりました。
その代表的なものが人の心の力を表す「個人のレジリエンス」です。「困難に直面しても心が折れることなく乗り越える」「状況の変化に臆せず適応する」。そのような個人の力を表します。
「個人のレジリエンス」以外ではどのような場面で用いられるでしょうか。
例えば2020年(令和2年)の新型コロナウイルス感染症のパンデミックといった国家レベルの困難を乗り越える力を表す「国家レジリエンス」、2008年(平成20年)のリーマン・ショックのような経済危機を乗り越える力を表す「経済レジリエンス」、エネルギー資源の変化に適応すると共に災害時にも安定してエネルギー供給する力を表す「エネルギーレジリエンス」などがあります。
このように、レジリエンスという言葉が様々な分野で用いられ私たちが目にするようになった背景としては、VUCA(※)という言葉が表す通り、先行きが不透明で将来の予測が困難になったからです。
また、グローバル化により国を超えて複雑に影響しあう社会へ変化してきたことも、大きな要因と考えられます。企業がレジリエンスに注目する理由も同様です。
(※)VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を合わせた、現在の社会が先行き不透明で将来予測が困難であるという時代認識を示す言葉
企業経営では社員1人ひとりの「個人のレジリエンス」と企業組織としての「組織のレジリエンス」の2つの側面があります。
VUCAな現代、企業が社員へ変化や成長を求めることが増えました。
ただし、社員によってはそれが困難と感じて心が折れてしまう、ひどくなると休職や離職という事態になることもあります。
そのような事態を回避しつつ、企業の期待に応えて社員が変化や成長するために「個人のレジリエンス」は大事です。
では「個人のレジリエンス」だけを考えれば良いのかというとそうではありません。
もちろん企業として「個人のレジリエンス」は大事な基盤となります。
ただし、その力を組織として活かすために「組織のレジリエンス」という側面でも考える必要があります。
なお「組織のレジリエンス」は最近よく聞くようになった言葉で、まだ確立した定義はありません。本記事では「環境の変化に適応して成長し続ける組織の力」と定義します。
ここからは「個人のレジリエンス」について詳しく解説します。その特徴やメリットを知るとレジリエンスの魅力が見えてきます。
レジリエンスの高い人には5つの特徴があります。
誰しも怒りや不安などネガティブな感情が湧いてくることがあります。そのような感情が湧いた時に、それに振り回されることなく本人にとって最適な行動を選択します。
困難や状況の変化に直面した時、1つの考え方にこだわらず多角的に考えることで困難から突破口を見出す、あるいは状況の変化に適応します。
長く険しい仕事でも途中で挫折することなく、自分を成長させながら諦めずに最後までやり抜きます。
厳しい状況でも「何とかなる」と希望を持ち、乗り越えるための行動をします。
普段から周りの人と信頼関係を築くことで、1人では乗り越えられない困難に直面しても周りの支援を引き出して乗り越えます。
企業にとってレジリエンスの高い人がもたらすメリットを5つ紹介します。
不必要なストレスを減らす企業の努力はもちろん大事ですが、避けられないストレスもあります。社員がストレスと上手に付き合う力を身につけることで、休職や離職を減らす効果があります。
営業活動には失敗がつきものです。失敗という困難にくじけず乗り越える力を社員が身につけることで、営業成績が向上します。
これまでの成功体験だけに頼るだけではない、変化に臆せずチャレンジできる社員が増えることで企業の適応力が向上します。
事なかれ主義な肩書だけのリーダーではなく、困難に臆せずリーダーシップを発揮できる社員が増えます。
マネージャーがレジリエンスを理解すると、部下の成長を信じてチャレンジを促せるようになり社員が成長します。
個人のレジリエンスを高める方法としては、レジリエンス研修を受講することが1つのアプローチになります。
本格的なレジリエンス研修は受講時間が長いデメリットはあるものの、総合的な知識やスキルを身につけることができます。
ここではレジリエンスの向上を妨げる代表的な3つの要因に対して、社内でもできるアプローチを紹介します。
感情が高ぶっていると適切な行動が取れないので、まずは感情を落ち着かせることが大事です。そのためには、その場を離れて間を空けることが有効です。
感情に振り回されやすい人には、散歩に行くなど気晴らしのテクニックを身につけさせると良いでしょう。
悲観的思考が強い人は盲目的になりやすいので、「何とかなる」と本人が希望を持てるように会話をしながら視野を広げてあげると良いでしょう。
例えば、「このプロジェクトをやり遂げられるとは思えません」という人がいた時、まずは「どうしてそう思うのかな?」と質問して相手の考えを聴いてみましょう。
すると「何でも自分でやらなくてはいけない」などと盲目的に考えていることがあります。
そのような状況であれば「〇〇はAさん、△△はBさんに手伝ってもらったらどう?」と助言することで、「何とかなる」と希望を持てるようになります。
普段から多くの同僚と仕事で接する機会を与えることで、多くの人と信頼関係を構築することができます。その結果、困難に直面しても支援を求めることができるようになります。
例えば、企業で働く年数が長くなるにつれて部署内や他部署の人たちとの関係が増え、経理ならCさん、営業ノウハウならDさん、IT技術ならEさんなどと、頼れる人が増えた経験が皆さんにもあると思います。また、他部署に気の合う仲間がいたという人もいらっしゃると思います。
そのように頼れる人が増えるのを偶然に任せるのではなく、例えば部署内のチーム構成を定期的に変える、あるいは部署を超えたジョブローテーションを行うなど、意図的に多くの同僚と仕事で接する機会を増やすと支援を求めやすくなります。
ここからは「組織のレジリエンス」について解説します。環境の変化に適応して成長し続ける組織になるために「組織のレジリエンス」ならではの側面を紹介します。
「組織のレジリエンス」には経営戦略の1つひとつが関係します。ここでは「個人の力を組織として活かす」という視点で3つの特徴を紹介します。
時代を経ても陳腐化することのないパーパス(※)を持つことで、VUCAな現代でも社員の力を引き出しています。
意見を言いやすく、またチャレンジした時の失敗が認められる心理的安全な職場によって社員の多様な能力を引き出し、社会の変化に適応しています。
企業が困難に直面した時でも、社員が希望を持って力を発揮できるように経営陣やマネージャーがリーダーシップを発揮しています。
(※)パーパスとは、企業が何のために存在して社会へどのような価値を提供するかという企業としての存在意義を示す言葉
レジリエンスの高い組織であることのメリットを3つ紹介します。
ゆるぎないパーパスを持ち、リーダーシップを発揮し、そして社員の力を結集することで、市場の変化や予期せぬ災害にも負けず適応することができます。
多様な意見を聴きあう職場、チャレンジした時の失敗が認められる職場によって、イノベーションが生まれる組織になります。
社員の意見やチャレンジが認められる組織は働く環境として魅力的です。魅力ある職場では社員の働く意欲が高まり、かつ優秀な人材を採用できるため業績が向上します。
「組織のレジリエンス」を高める方法としては組織開発コンサルティング企業の協力を得ることが1つのアプローチになりますが、ここでは社内でできる3つのアプローチを紹介します。
パーパスを掲げるだけではなく社員へ浸透させるために、定期的に社内へ発信する、また経営陣やマネージャーが社員と対話する機会を多く作ることが大切です。
社内へ発信する時に、メールなどの文章で伝える方法もあります。悪いことではありませんが文章では伝える情報量に限界があります。
そこで、例えば四半期や半期などに開催する全社会で経営陣が直接話すと効果的です。
全社会を行っていない企業もあると思いますが、今の時代はZoomなどWeb会議システムを利用することで職場が離れていても直接発信できますので、積極的に活用すると良いでしょう。
なお、1年に1回では空き過ぎですので、少なくとも半年に1回は発信することをお薦めします。
また社員と対話する時は、相手がどのように理解しているかまず聴くことをお薦めします。
相手は話すことで自社のパーパスが何か、企業がどこへ向かおうとしているのか理解を深めることができます。また、話を聴いた結果、もし理解の浅い人が多ければ伝え方を改善するきっかけにできます。
役職や能力に関わらず相手を尊重して意見を聴き、相手の考えや想いを理解する文化を育むことで職場の心理的安全性が高まります。
人は話を聴いているつもりで、実は自分自身に意識が向いてことがあります。
「自分の方が分かっている」「この人の話を聴く時間がもったいない」と思って相手の話を遮り、気がついたら自分が話しているということは会話で良くあります。そのようなことを繰り返していると意見を言わない職場になります。
経験年数や役職、能力に関わらず、こちらが思いつかないその人ならではのアイデアを持っていることは良くあることです。
相手へ意識を向け、話の良し悪しを評価せず、まずは謙虚に最後まで話を聴く姿勢が大事です。
現場を預かるマネージャーは日々社員へ影響を与えます。
マネージャーがレジリエンスを理解して自身のレジリエンスを高めると同時に、社員のレジリエンスを引き上げることで組織のレジリエンスも高まります。
「個人のレジリエンス」を高める方法は上述のとおりですが、マネージャーの「個人のレジリエンス」を高める時は、特に悲観的思考に陥らないことを意識すると良いでしょう。
悲観的思考が強い人は周りの人のモチベーションを下げてしまいます。皆さんのこれまでの人生でも、そのような人が周りにいたかもしれません。
一方で、人は前向きな人と一緒に仕事をしていると自然とモチベーションが高まります。
現場を預かるマネージャーは社員のモチベーションを高めることにも責任があります。自分の言動が社員にどのような影響を与えているか、意識することが大事です。
レジリエンスは困難があった時に初めて役に立つといったイメージを持たれることがあり、積極的に取り組む企業はまだ一部です。ただし、レジリエンスは企業経営に様々なメリットをもたらします。
困難を乗り越えるだけではなく、企業をより成長させるために積極的に取り組む価値があります。
レジリエンスはこれからの時代に一層必要となりますので、企業経営に活かすことをご検討ください。
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