父の急逝で突然の事業承継 心がけたのは「変えないこと」
2019年夏に先代である父が急性大動脈解離で急逝し、真空成形トレイ・パッケージ製品などを手がける「モリパックス」の住田裕子さんは突然、代表取締役を継ぐことになりました。そのとき心がけたことは「とにかく変えない」ことだったといいます。事業承継から今日に至るまでの約2年間感じてきたことをグロービス経営大学院とツギノジダイ共催のオンライン・セミナーで語りました。(構成:牧野佐千子)
2019年夏に先代である父が急性大動脈解離で急逝し、真空成形トレイ・パッケージ製品などを手がける「モリパックス」の住田裕子さんは突然、代表取締役を継ぐことになりました。そのとき心がけたことは「とにかく変えない」ことだったといいます。事業承継から今日に至るまでの約2年間感じてきたことをグロービス経営大学院とツギノジダイ共催のオンライン・セミナーで語りました。(構成:牧野佐千子)
愛知県稲沢市生まれの住田さんは、祖父母・両親・妹と3世代で暮らしていました。家の目の前に本社工場がある環境で育ってきたので、幼い頃から実家が会社を経営している環境には慣れ親しんでいたといいます。大学はイギリスに留学し、2010年に家業に入社。総務部と経営企画室で会社全体を見渡す部署を経験し、2019年に社長に就任することとなりました。
モリパックスは、真空成形の技術を使って、自動車の部品やガラス基盤などを運ぶ工業用トレイや日用品のパッケージ製品の企画製造販売を手がけています。真空成形で作られる製品には、たとえば、卵のパックやコンビニ・スーパーで売られている弁当の容器などがあります。
いまは真空成形事業が大きな会社の柱ですが、住田さんの祖父が1959年に「森岡合成有限会社」(現・モリオカ)を創業した時は、スタンプ台の組立加工やインクの充填の仕事から始まりました。
その後、時代の変化とともにスーパーマーケットが台頭し、陳列販売に必要な「プリスターパック」を作れないかと打診されたのを機に、たどり着いたのが「真空成形」という技術でした。
新しい技術を使ったモノづくりは失敗の連続で非常に苦労したそうですが、顧客の声にこたえるため、真空成形の技術習得に励んでいたと、当時を知るOBから聞いたことがあるそうです。
住田さんの父は、販売形態が変わっていく時代に「包む」という文化はますます必要不可欠な役割になることと、この真空成形の技術をもっと高めていけば、文房具や日用品だけでなく、さらに販路を広げられるのではないかという可能性を感じ、1979年に「モリオカ商事」(現・モリパックス)を立ち上げました。
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2010年に入社した住田さんは2019年8月、父の急逝により代表取締役社長に就くことに。突然の事業承継でも、今日まで続けてこられたのはたくさんの人に支えられてきたからだといいます。
ひとつは、父の時代から支えてくれた「番頭さん」が会社を統率してくれたこと。また、住田さんが社員の時代から、父は住田さんをどこへ行くにも一緒に連れて行っていたことで、取引先や従業員にも「お父さんと一緒にやってきた娘さん」と認識されていたことも助けになりました。
さらに、グロービスで共に学んだ仲間の中には、同じような状況で事業承継した人もいて、気兼ねなく相談できる先輩・仲間との貴重なネットワークは大きな支えになったといいます。
ほかにも、祖父と父が形作ってきた60年の歴史を形に残すことができた「創業60周年の記念社史」と、次世代に向かって「私たちのモノづくりのお城を創っていこう」という構想で建てた新社屋「テクノベーションセンター」は、父が遺してくれた希望が形になって支えてくれているといいます。
住田さんは自らを「私は心の弱い人間」と表現しますが、父の無念や想いを将来につなげられるのは「自分しかいない」という一心でここまで走り続けてきました。
事業承継後に心がけていることとして、まず「原点回帰」を挙げました。会社の存在意義を確かめる意味でも、各取引先にいろんな思い出話や、取引のきっかけなどを直接聞いているそうです。同時に、これまでの会社のDNAを受け継ぎながらも、自分たちらしい経営理念やブランドロゴに刷新し、次世代のスタートラインにも立ちました。
さらに、会社のトップが変わること自体が大きな変化だったので、従業員が安心し、落ち着いて仕事に取り組めるように「とにかく変えない」ことを意識的にやってきたといいます。
たとえば、父が20年以上毎月の給料明細に入れていた「社長メッセージ」。もし、この社長メッセージが入っていないだけでも不安に感じる従業員がいるかもしれないと思い、父が亡くなって1週間後に〆切が迫る中でも、自分なりの言葉で書くことを決め、今も続けています。また、父親の生前に動き出していた各プロジェクトも、止めることなく全て計画通り実行することを決めました。
そして、従業員のモチベーションを下げないことも意識したといいます。そのために、中長期計画や将来像を何度も自分の言葉で伝えたり見せたりして、みんなで前に進むきっかけを作ろうとしました。
最後に住田さんは、自身の経験をもとに似た境遇にいる中小企業の後継者たちに向けてメッセージを送りました。
目の前のご家族や、ご友人含めて、今の時間を大切に過ごしていただきたいなと思います。現在お父様や親族の方が社長をされている企業の後継予定者の方もいらっしゃると思いますが、現社長と過ごす時間や空間、会話はかけがえのないものになるはずです。また、自分の弱い気持ちや不安な気持ちも大事にしながら、事業承継に向き合い、自分の心との対話を続けてほしいなと思います。そうすることで、いつの間にか前を向いて歩んでいる自分に出会えます。無理にカッコよく見せようとせず、ぜひそういった気持ちを大事に、日々を過ごしてほしいです。
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