カーボンニュートラルとは?企業における重要性や取組み方も解説
カーボンニュートラルとは事業活動で出すCO2量を、吸収する量でプラスマイナスゼロにすることです。COP26を踏まえ、全世界はCO2排出量を抑え温暖化防止に向けて動きを加速させています。東京大学大学院の環境エネルギー政策プロジェクトから共著書を執筆したSDGs研究者が、企業が今後何に取組むべきか解説します。
カーボンニュートラルとは事業活動で出すCO2量を、吸収する量でプラスマイナスゼロにすることです。COP26を踏まえ、全世界はCO2排出量を抑え温暖化防止に向けて動きを加速させています。東京大学大学院の環境エネルギー政策プロジェクトから共著書を執筆したSDGs研究者が、企業が今後何に取組むべきか解説します。
目次
カーボンニュートラルとは、ライフサイクル全体でとらえ、事業活動で出すCO2をはじめとする温室効果ガス排出総量の全てを、排出削減・吸収する量でプラスマイナスゼロにすることです。
産業革命以降、石炭、石油の利用をはじめ、私たちの生活はどんどん便利になりました。
しかし同時に、地球は私たちが排出した温室効果ガスによって急激な変化をはじめています。例えば、気温上昇、海面上昇、北極海の海氷減少などです。
この現象が続けば、以前よりも極端に暑い日が増え、台風が大型化し、大雨による災害の頻度が多く発生することが予測されます。
人間だけでなく、多くの動植物が環境変化に適応できず、減少・絶滅する可能性も高まるでしょう。
カーボンニュートラルは、温室効果ガスによる環境破壊を抑制することで、地球に住む私たち人間を含む、生物の未来を守るための重要な施策なのです。
2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」、脱炭素社会を実現することを宣言しています。
2021年4月には「2030年度に、温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続ける」と菅総理(当時)が国際社会へ表明しました(参考:2050年カーボンニュートラルに向けた日本の気候変動対策 p.3~6│環境省)。
この目標は、2015年のパリ協定にもとづき日本が公表した「2030年度までに2013年度比26.0%削減」よりも努力しなくてはいけない数値です。
2021年4月に掲げた数値目標を達成するために、現在、日本では次の3つの取組みを行っています。
「COOL CHOICE」とは、CO2などの温室効果ガスの排出量削減のために、脱炭素社会づくりに貢献する「製品への買換え」「サービスの利用」「ライフスタイルの選択」など、日々の生活の中で、あらゆる「賢い選択」をしていこうという取組みです。
例えば車を電気自動車に買い換える、電力を再生可能エネルギーに切り換える、エコ住宅へリフォームするなどがあげられます。
もっと身近で今すぐできることは、LED照明に替える、公共交通機関を利用する、自転車を使う、健康の為に歩くという移動手段へ変更するなど、環境へも自分の健康へも配慮したライフスタイルの選択です。
COOL CHOICEは、プライベートでも賢い選択をする取組みです。こういった取組みで、家庭において約4割の削減を目指しています。
国の旗振りによって各自治体が主導する新エネルギーの取組みがあります。
東京都・京都市・横浜市を始めとする262自治体は「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」を表明しました(参考:地域における再エネの意義と課題解決にむけて│環境省)。
例えば、岡⼭県真庭市では、バイオマスの活用の推進しています。
森林から発⽣する切り捨て間伐材や林地残材、製材所等から発⽣する製材端材や樹⽪等を効率的に、価値を付け収集します。
収集した⽊材は集積基地でチップ化し、バイオマス発電⽤燃料として安定的に供給し発電します。資源調達から流通までの情報管理が可能なシステムを構築・活⽤し、⼭元へ利益還元ができる仕組み実現しています(参考:バイオマスの活⽤をめぐる状況 p.43│農林水産省)。
福岡県みやま市では、「⽣ごみ・し尿・浄化汚泥メタン発酵発電・液肥化プロジェクト」を実施しています。
2018年に稼働を開始したバイオマスセンターでは1⽇当たり、家庭系・事業系⼀般廃棄物、し尿、浄化槽汚泥を合計130t受け⼊れ、メタン発酵、ガス発電・熱併給を⾏い、電⼒と温⽔を施設内利⽤しています(参考:バイオマスの活⽤をめぐる状況 p.49│農林水産省)。
ゴミとして出される多くものを活用して電力と温水へと換える、環境に優しい仕組みがつくれることをみせてくれています。
エネルギーミックスとは、石油、石炭、原子力、天然ガス、水力、地熱、太陽熱などを使いやすい状態に転換・加工して得られる電力について、経済性、環境性、供給安定性と安全性を重視した「電源(電力)構成の最適化」です。
日本は資源に恵まれていないため、残念ながら優れたエネルギーはありません。
東日本大震災によって原子力発電が進められない今、エネルギーの大部分を火力発電に頼り、化石燃料に依存しています。
海外からの輸入を含め、エネルギー源ごとに強みを最大限に発揮し、弱みを補うようにエネルギー供給へ幾重にも考慮して実現することが必要です。
日本の環境、技術を考慮して全てをクリーンエネルギーだけにすることは、難しいことも事実です。
しかし、このまま温室効果ガスを排出し続けると、前述したように世界へ表明した目標は達成が難しくなります。
可能な限り太陽光や風、水流、バイオマスという海外から輸入する必要がなくCO2を排出しない(吸収できる程度しか出さない)クリーンエネルギーを導入し、それ以外を火力発電などで補うエネルギーミックスが推進されています。
一方、海外では、脱炭素社会に向けて、次のような流れがあります。
欧州を中心に1990年から始まったカーボンプライシング(炭素税・排出量取引制度)は今では世界で導入が進んでいます。
世界銀行の報告書によると、2020年4月時点で46カ国、32地域でカーボンプライシングが導入され、約12GtのCO2の排出量をカバーしています(参考:State and Trends of Carbon Pricing 2020 p.9│WORLD BANK GROUP)。
これは全世界の温室効果ガスの22.3%を占めています。
環境・社会・ガバナンスに配慮していない企業へ対して、投資している株式や債券、投資信託などを手放したり、融資している資金を引きあげる流れが強まっています。
約5年後には、欧州の投資会社を中心に、ESG視点で企業活動をしていない企業は淘汰されると言われています。
今や世界の多くの企業が、カーボンニュートラルに舵を切っています。温室効果ガス排出ゼロへ向けた取り組みは、世界的なトレンドと言えるでしょう。
今は大企業が中心ですが、中小企業の場合も早めに取組むことが重要です。その理由は、次の3点に集約されます。
カーボンニュートラルに取組むことで、企業におけるエネルギーに関する固定費の削減に繋がります。価格高騰に伴いエネルギーコストは上昇しています。
2021年版の「中小企業白書」によると中小企業は、大企業と異なり料金の上昇を製品に転嫁することが難しく、経営が厳しいという声が高まっています(参考:中小企業白書 小規模企業白書 2021年版 下 小規模事業者の底力 Ⅰ-88~92│中小企業庁)。
経済産業省によるセーフティーネットもありますが、その前に自社で出来る対策をすることが必要です。
カーボンニュートラルに取組むことは、環境課題に取組む先進企業という印象を与え、市場から高い評価が得られます。
それは他の企業、自治体、NPOなどの組織と結びつくキッカケとなるでしょう。
団体からの協力が得やすくなれば、例えばビッグチャンスを掴むために、新しい市場に挑戦することもできます。
また、個人からの評価も高まります。とくにミレニアル世代、Z世代は社会課題に取組む企業を重視しているため、カーボンニュートラルに取組めば就職活動・転職活動時に選ばれやすくなります。
J-クレジット制度を利用して削減(吸収)した温室効果ガスをクレジット化し、他の企業へ販売することで収益が得られます。
J-クレジット制度を利用するときは、J-クレジットの事務局に申請手続きを行い口座を開きます。J-クレジットのサイトで売買のマッチングができます。
ここまで読み進め「カーボンニュートラルは大事、でも自社でどのように進めたら良いか分からない、何から手をつければよいのか分からない」という方もいるのではないでしょうか。
カーボンニュートラルのために企業がすべきことは、次の3つです。
これらを実現するためには、次のように進めるといいでしょう。
まずは、削減目標を定めるために、設定の背景を明らかにした上で、目的・期待する効果を整理しましょう。
設定の背景は、2021年4月、政府が発表した温室効果ガス削減目標「2030年度に2013年度から46%削減」がベースになります。
これに各企業ごとの特徴、自社の事業活動における環境への配慮などを含めて設定しましょう。
目的は、自社だけでなく、社会、取引先、金融機関など、どこへ、どのように貢献できるか検討します。
期待する効果は、自社と従業員の成長につながることを考慮しましょう。
次に、現状として、一連の事業全体で温室効果ガスが何からどれくらい排出されているか、現状のサプライチェーン排出量の確認を行います。
サプライチェーンの排出量は、①Scope1(直接排出量)②Scope2(エネルギー起源間接排出量)③Scope3(その他間接排出量)で構成されています。
そのため、通勤・出張や原材料の輸送・保管、製品の製造・販売といった対象と、事業者自らの排出量だけではなく、事業者の購入先や販売先等の事業活動に関係するすべての範囲で排出量を確認します。
サプライチェーン排出量算定は、算定のEXCELも含め、環境省のウェブサイトに詳しく載っています。
事業計画・活動を行う際、気候変動による物理的なリスクによる自社への影響を想定します。
想定する際は外部環境(例:気候変動によって自然災害が頻発していくことや政府の方針)と不安要素(例:自然災害による供給の遅れや原材料調達コストの増加)を考慮し、状況に応じた事業や活動の方向性を検討しましょう。
事業計画の期間、社内の巻き込みの状況、洗い出した対策は、現場での導入に向けて、担当者・経営層で議論を進めます。
ここでのポイントは、社内だけの議論に固執しないことです。
特に自社内で充分に知識や技術が進んでいない部分は、パートナー企業などを導入したほうがスムーズに行えます。
方法、プロセス、実施体制、期間などを見て、実際に遂行が可能か、改めて確認します。その上で、乗り越えるべき課題は何か、わかりやすい言葉を使って整理しましょう。
課題を社内で共有することで、取組みを前に進めるための策が見つかり、完遂を目指しやすくなります。
なお、環境省が公開している「企業の取組事例」では、各企業が、どのように「削減目標」を決めたり、「現状の確認」を行ったりしているのか確認できます。
よければ参考にしてみてください。
地球上における全人類、動植物にとって最も重要なコンセンサスはシンプルです。
「産業革命前と比べて平均気温の上昇を1.5℃以下に抑える目標」そして、それを達成するために2050年までにカーボンニュートラルの実現。
「温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」ことが全人類の必ず実現すべき目標です。
森林火災が増えて緑の近くに住めなくなる、雨が降らなくなる、降ったら大雨、土砂崩れになる…地球に対して何もしなければ、私たちが生きている間に起きることです。
カーボンニュートラルは、従業員10~50名の企業も進めることができます。
まずは現状確認、目標設定を行い、社内はもちろん社外の関係する皆さんにも取組みを発信し、ひとつの目標へ向かって協力してもらうことが大切です。
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