目次

  1. 利益保険とは
    1. 利益保険への加入は必要?
    2. 利益保険の補償内容や保険金の支払い対象となるケース
    3. 利益保険の保険金の算出方法
    4. 利益保険と休業補償(休業損害)の違い
    5. 利益保険の保険料の決まり方
  2. 利益保険を選ぶときのポイント
  3. 利益保険を取り扱う主な保険会社
  4. 利益保険に加入するときの注意点
  5. 利益保険は企業経営における心強い存在

 利益保険とは、火災や自然災害などで、工場や事務所、店舗などが損害を負ったことで、失われた利益と復旧するまでに支払った費用などをカバーする保険です。事業が中断したときの損失を補償する保険であるため「事業中断保険」と呼ばれることもあります。

 火災や自然災害で事業が中断すると、多額の損失が発生するおそれがある企業にとって、利益保険の必要性は高いといえます。

 まず火災や自然災害などで工場や事務所、店舗などが損傷して事業が中断すると、営業収益や営業利益は減少するでしょう。

 また事業停止中、施設の地代や家賃などは支払い続けなければなりません。復旧後にスムーズに事業を再開するためには、業務内容や機械の操作方法を把握した従業員を確保しておく必要があるため、人件費の支払いも発生します。

 他にも、残存物の片付け費用や臨時の営業拠点の地代、家賃など、復旧をするために臨時で支払いが必要となる費用もあるでしょう。

 工場や事務所などが火災や洪水などで損害を負ったときに備えて「火災保険」に加入している経営者も多いでしょう。しかし火災保険は、建物の再建築費用や財物の再購入費用などをカバーできても、失った利益まではカバーされません。

 火災保険とあわせて利益保険にも加入することで、災害によって失ってしまった利益や、復旧までに支払いが必要な固定費などもカバーでき会社の損失を抑えられます。

 利益保険に加入すると、以下のような事由で自社の工場や事務所などが損害を負い、利益損失が発生すると保険金の支払い対象となります。

  • 火災・落雷・破裂・爆発
  • 風災・雪災・雹(ひょう)災
  • 給排水設備等の事故による水濡れ
  • 騒擾(そうじょう)・集団行為
  • 建物外部からの物体の落下、飛来など
  • 盗難
  • 破損
  • 水災
  • 電気的・機械的事故

 火災や風災は、基本的にどの保険会社で加入しても補償の対象です。一方で「電気的事故や機械的事故」や「水災」は、保険会社によっては特約を付けなければ補償の対象とならない場合があります。

 保険金の支払い対象となる事例は、次のとおりです。 

  • 経営しているレストランの調理機器から出火し、店舗が全焼し休業した
  • ホテルの厨房でガス爆発が起こり、建物や設備が全焼し休業となった
  • 工場が台風による洪水で浸水、設備が壊れて商品を生産できなくなった
  • 落雷によって工場内の電源が停止し、商品を生産できなった

 利益保険の保険金は、事故で失われた利益(逸失利益・喪失利益)、収益の減少を防ぐのにかかった費用(収益減少防止費用)をもとに計算されます。それぞれの計算式は、以下のとおりです。 

  • 逸失利益(喪失利益):減少した売上高×約定補償率
  • 収益減少防止費用:収益減少を防止するためにかかった費用 × 約定補償率 ÷ 利益率

 約定補償率は、利益保険を契約するときに、50%や70%など任意の値に設定します。利益率は、直近の会計年度における営業利益や経常費などをもとに算出するのが一般的です。

 例えば、減少した売上高が5,000万円、約定補償率35%、利益率40%、収益減少を防止するためにかかった費用が2,000万円である場合、支払われる保険金は以下のとおりです。

  • 逸失利益(喪失利益):5,000万円 × 35%=1,750万円
  • 収益減少防止費用:2,000万円 × 35% ÷ 40%=1,750万円
  • 合計:1,750万円+1,750万円=3,500万円

 保険金の支払い対象となる期間は、事故によって売上が減少してから、売上が回復するまでです。ただし「最大12か月まで」のように限定されるのが一般的です。

 保険会社によっては、逸失利益を計算するときにアクシデントがあったために支出せずに済んだ費用が差し引かれることがあります。また支払い保険金額を計算する際に「付保率」をかける保険会社もあります。

 付保率とは、1年のあいだで被害が継続されると想定される期間のことです。例えば、復旧まで6か月かかるのであれば、付保率は50%となります。

 利益保険と企業向けの損害保険に付帯できる休業補償(以下、休業補償)は、どちらも工場や事務所などが損害を負ったときの補償ですが、主に支払われる保険金の計算方法が異なります。

 休業補償は、災害や事故によって休業した日数に応じて、支払われる保険金の額が決まります。対して利益保険は、事故が発生したときから復旧するまでのあいだで生じた収益減少額などにもとづいて、支払われる保険金の額が決まる仕組みです。

 また利益保険と休業補償には、補償の対象となる費用などに違いがあることがあります。加入を検討している保険会社が、利益保険と休業補償のどちらも取り扱っている場合、違っている点を担当者に詳しく説明してもらうと良いでしょう。

 利益保険の保険料は「業種」「従業員数」「保険金額」「約定補償率」などで決まります。保険会社によって算出方法が異なるため、契約内容や会社の規模などの条件が同じであっても保険料が同じであるとは限りません。

 また保険会社によっては、補償の対象となる工場や事業所などの場所が保険料計算に影響する場合もあります。

 利益保険を選ぶ際のポイントは、以下のとおりです。 

  • 事業が中断したときの損失を想定する
  • 工場や建物などにあるリスクに応じて補償範囲を設定する
  • 複数の保険会社を比較して選ぶ

 利益保険に加入する際は、保険金額や約定補償率などを決める必要があります。事業の中断から復旧するまでにかかる期間や、復旧するまでに払い続ける固定費(経常費)などを把握していなければ、保険金額や約定補償率を適切に設定するのは困難でしょう。

 また補償範囲を適切に設定するためには、工場や建物など補償の対象となる建物のリスクを把握することが大切です。例えば、自社の工場が洪水によって稼働停止するリスクがあるのなら、利益保険の補償範囲に「水災補償」を含めたほうが良いと考えられます。

 利益保険の補償範囲や保険料の計算方法、付帯できる特約などは、保険会社によって異なります。加入を検討する際は、複数の保険会社から見積もりを取り寄せたり、担当者の話を聞いたりすると良いでしょう。

 利益保険を取り扱う保険会社の例は、次のとおりです。

  • 東京海上日動
  • 損保ジャパン
  • AIG損保
  • Chubb損害保険 など

 利益保険を加入する際の注意点は、次のとおりです。

  • 補償の対象にならないものがある
  • すでに加入している保険と補償が被っている可能性がある
  • 保険会社によって補償の範囲が大きく異なる

 利益保険の補償対象にできるのは、基本的に建物や構築物のみです。「自動車・船舶」「動物・植物」「データ・ソフトウェア」などは、一般的に補償対象になりません。

 また地震・噴火・津波が原因で建物や店舗が負った損害は、原則として補償対象外です。

 利益保険は、単品加入できるケースもあれば、企業向けの保険商品に特約を付けて加入するケースもあります。すでに企業向けの損害保険に加入しているのであれば、補償の重複を防ぐために、すでに事業中断時の補償がセットされていないか確認しましょう。

 損害保険会社によってカバーできる範囲が異なるのも、利益保険を加入するときに注意すべき点です。加入を検討する際は、パンフレットや約款などに目を通したり、保険会社の担当者から説明を受けたりして、どこまで補償されるのかを必ず確認しましょう。

 自社の工場や事務所などが火災や自然災害で損害を負うと、建物の再建築に費用がかかるだけでなく、復旧するまで売り上げが減少するでしょう。また、復旧するまでのあいだ、家賃や地代、人件費などの固定費(経常費)は支払う必要があります。

 安定的に企業経営をしていくうえで、保険の活用は欠かせません。工場や店舗などが損害を負ったことで事業が中断すると、多額の損失が発生するおそれがある企業は、利益保険への加入を検討してみてはいかがでしょうか。