目次

  1. 新規事業の立ち上げが重要な理由
    1. 外部環境の変化
    2. 新規事業は人材育成につながる
  2. 新規事業の立ち上げプロセス フレームワークも活用
    1. 専任の新規事業立ち上げメンバーを決める
    2. 経営資源を分析する~PEST・SWOT分析
    3. 製品戦略を考える~ペルソナ分析・4P分析
    4. 市場調査を行う~3C・ポジショニングマップ
    5. 外部パートナーを探す
    6. 改善しながら運営する
  3. 新規事業立ち上げの成功・アイデア事例
    1. 卸売業A社:担当者が新規事業開発専任 社長も一緒に開発
    2. 板金加工業B社:若手社員を任命 製品開発力が高まる
  4. 新規事業立ち上げに利用できる補助金
    1. 事業再構築補助金(中小企業等事業再構築促進事業)
    2. ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業)
  5. まず経営資源の洗い出しから始めよう

 経営資源が限られる中小企業では、新規事業の立ち上げが難しいという声もあります。しかし、次のような理由から、中小企業でも新規事業の立ち上げを積極的に目指していく必要があります。

 人口減少による国内需要の変化や、国際競争の激化など、中小企業を取り巻く外部環境の変化は激しいものになっています。

 特に、新型コロナウイルスの感染症拡大では、これまで想定していなかった様々な外部環境の変化が起こりました。

 また、IoT、ビッグデータ、AIなどの発展によって、産業構造が急激に変化することもあります。

 現代は、先行きが不透明で将来の予測が困難な状態である「VUCA(ブーカ)時代」とも言われています。

 先行きが不透明な今、企業の持続可能性を高めるためにも、これまで行ってきた事業にこだわらず、新たな市場やニーズがないかどうか見極めることが求められています。

 新規事業開発は簡単なものではありません。アイディアの発掘、市場調査、プロダクトやサービスの開発といった様々なプロセスが必要です。

 それぞれのプロセスには、乗り越えなければならない壁が多くあります。

 新規事業開発によって、社員自らが課題を設定して施策を実行する力や、社内外の利害関係者を巻き込んで事業を推進する力が身につきます。

 これらの経験は、将来の幹部候補の育成や、若手社員の育成に役立つでしょう。

 では、中小企業が新規事業を立ち上げるには、どのようなプロセスを踏めばよいのでしょうか。主な進め方は次のとおりです。

  1. 専任の新規事業立ち上げメンバーを決める
  2. 経営資源を分析する~PEST・SWOT分析
  3. 製品戦略を考える~ペルソナ分析、4P分析
  4. 市場調査を行う~3C・ポジショニングマップ
  5. 外部パートナーを探す
  6. 改善しながら運営する

 それぞれのステップについて、詳しく解説します。

 まず、新規事業を誰に担当してもらうのか、担当者を決めましょう。

 新規事業開発がうまくいっている企業では、担当者を既存業務から切り離し、新規事業のみの担当にしています。

 既存事業のルーティンワークや緊急業務が発生することで、担当者が新規事業に取りかかる時間を満足に確保できなくなることが多いからです。

 また、新規事業は組織横断的に行う必要性もあることから、営業・製造・経理など複数部門から担当者を選抜した企業もあります。

 一方、新規事業開発が思うように進まない企業の事例もあります。

 例えば、経営者が開発初期段階から入らなかったことで意思決定が遅れたり、「こんなプランではだめだ」とあとから案を否決したりするなど、出戻りの工程が発生しています。

 新規事業担当の部署は社長直結の組織とし、事業開発の初期段階から経営者も一緒にプロジェクトの進捗をチェックしましょう。

 そうすることで、組織横断的な意思決定が必要な場面でも、速やかな意思決定が可能となり、事業開発のスピードを早めることができます。

 チーム構成が整ったら、次は自社の経営資源の棚卸しを実施します。利用できるフレームワークとしては、PEST分析やSWOT分析があります。

フレームワーク①PEST分析

PEST分析
PEST分析

 PEST分析は、企業を取り巻く外部環境を分析するフレームワークです。上図の4つの視点から、自社の事業活動に影響を与える要因を考えます。

 外部環境分析からは、新規事業で解決すべき「課題」も見えてきます。自社の外側にはどのような課題があるのか、それはどのようなニーズなのか、考えましょう。

フレームワーク②SWOT分析

SWOT分析
SWOT分析

 SWOT分析は、企業の内部環境と外部環境を分析するツールです。

 Strength(強み)とWeakness(弱み)が内部環境分析にあたり、企業が持つ強みとなる資源や、逆に弱みとなっている部分を洗い出します。

 Opportunity(機会)とThreat(脅威)は外部環境分析にあたり、PEST分析で発見した要素をいれます。

 弱みを改善し、機会を生かして強みを伸ばす方向性がないか探りましょう。

 外部環境と内部環境を分析し、新規事業で解決すべき課題がみえたら、次はその課題を解決できるような製品・サービスを検討します。

 ここでは、ペルソナ分析や4P分析といったフレームワークが役立ちます。

フレームワーク①ペルソナ分析

 どんな人がこの製品やサービスを使うのかを検討するフレームワークです。

 ペルソナとは、年代や価値観など、新規事業がターゲットとする具体的な顧客像です。BtoCであれば実在するような人物になるまで具体的に落とし込みます。

 BtoBであればどのような企業がターゲットとなるか、その企業や担当者が抱えている課題はなにか、具体的に落とし込みましょう。

フレームワーク②4P分析

4P分析
4P分析

 4P分析はマーケティングで用いられるフレームワークです。Products→Price→Place→Promotionの順番で検討します。

 自社の強みと外部環境の機会を生かせる製品・サービスはなにか、いくらであれば買ってもらえるか、ターゲットに向けてどこで売るのか、ターゲットに対してどのように知らせるのかを検討します。

 新規事業の製品・サービスやそのターゲットが固まったら、これから向かう市場がどのようになっているか、規模は十分かを調べます。

 ここでは、3C分析とポジショニングマップをご紹介します。

フレームワーク①3C分析

3C分析
3C分析

 3C分析は、顧客・競合・自社の3つの視点から市場環境を分析し、課題の発見や戦略立案に役立てるフレームワークです。

 自社の強みを生かして競合とどのように差別化していくかを考えます。

フレームワーク②ポジショニングマップ

ポジショニングマップ
ポジショニングマップ

 ポジショニングマップは、ターゲットとなる市場において、自社の製品・サービスを競合とともにマップへ落としこみ、市場での位置付けを考えるフレームワークです。

 このフレームワークを使うときに最も難しい点は、ポジショニングマップの軸を定めることです。

 軸の定め方には様々な切り口がありますが、「顧客が購買を決める要素」や「自社の強みとなる要素」といった視点で対立軸を考えると、様々な軸のアイディアが生まれます。

 ポジショニングマップをつくることで、新規事業が競合や類似製品とどのような差別化要因を打ち出していくかを検討できます。

 新規事業開発は、それまで自社で行っていた事業と異なる市場や製品・サービスで行うことになるため、内部資源だけでは実現できない場合があります。

 例えば、これまでBtoB製品のみだった企業がBtoC市場に参入する場合、BtoC製品に熟知したデザイナーを探す必要があります。

 こういった外部パートナー探しには、中小企業支援機関や金融機関でビジネスマッチングを目的とした紹介事業があることもあります。ぜひ相談してみましょう。

 製品・サービスのコンセプトが完成し、外部パートナーも見つかると、実際の製品・サービスの構築に入ります。

 新規事業開発が順調に進んでいる企業は、速やかに製品・サービスのプロトタイプを製作し、そこから実際のユーザーとなるターゲット層に検証をしています。

 製品のプロトタイプ作成には、3Dプリンターが活用できることもあります。3Dプリンターは中小企業支援機関で貸し出しをしているところもありますので、相談してみましょう。

 ターゲット層となりうるユーザーに対する検証を実施したら、検証を通して更に製品・サービスの改善点を洗い出していきます。

 新規事業を順調に進めるカギは、このPDCAサイクルを早く回すことです。

 これは製品・サービスを実際に世の中に出したあとも重要で、新規事業には様々な課題や壁がつきまといます。

 机上で考えることも大事ですが、方向性が見えたらまずは行動してみる。新規事業がスムーズに進む企業は、その行動力が早いのも特徴です。

 では、新規事業に成功した企業にはどのような特徴があるのでしょうか。事例を2つご紹介します。

 消費者向け生活用品を扱う卸売業のA社は、卸売業は利益率が低いことや、「中抜き」と呼ばれる卸なしの直接取り引きが拡大していることが経営課題でした。

 そこで収益性向上のため、自社製品を開発することにしました。

 自社の経営資源をフレームワークを用いて洗い出したところ、「卸だからこそ消費者ニーズを熟知している」という強みを再認識しました。

 しかし、A社は卸売業ですので、仕入先や販売先のネットワークは豊富にあるものの、製品開発のノウハウはありません。

 まず、社長は新規事業のために専任担当者を1人任命し、社長直結の部署としました。このことにより、担当者は新規事業に集中してリソースを割くことができました。

 さらに製品開発のノウハウを学ぶため、中小企業支援機関が実施している講座を受講します。

 新規事業の立ち上げから社長と担当者が一緒になって開発に取り組んだため、工程の出戻りが少なく、短期間で製品を市場にだすことができました。

 製品開発後は、自社の強みである販路ネットワークと売り場提案力を生かして販売を拡大。今では第2、第3の自社製品・サービスを開発するまでに成長しています。

 板金加工業を手がけるB社では、下請け型のビジネスモデルから脱却するため、従来B社にあった製品のリニューアルを行う新規事業を立ち上げました。

 それまでもB社では自社製品開発はしていたものの、社長自らが行っており、社員への「製品開発力」の波及が経営課題でした。

 そこで社長は若手社員を担当者に任命し、若手の視点からこれまでになかった設計変更を実施。軽量化も実現することで、競合他社との競争力も強化できました。

 また、製造だけでなく営業や設計など部門横断でチームを組んだことで、組織間の連携もスムーズに進んだそうです。

 若手社員が新規事業開発のノウハウを学んだことで、B社ではその後も次々と新規事業が生まれ、収益の柱になっています。

 新規事業に積極的に取り組む企業を応援するため、国や地方自治体では様々な補助金制度を整えています。

 このなかから2つ、補助金を紹介します。

 事業再構築補助金は、新型コロナウイルス感染症の影響が続く中、中小企業等が新分野展開や業態転換などの事業再構築を通じて、コロナ前のビジネスモデルから転換するための事業に対する補助金です。

 ものづくり補助金は、中小企業・小規模事業者等が取り組む、革新的サービスの開発・試作品の開発などを行うための設備投資等を支援する補助金です。新規事業のために新たな設備を導入する、といった場合に利用できます。

 新規事業に積極的に取り組む中小企業は、外部環境の変化を「ピンチ」と捉えず、逆に自社の強みを更に生かすことができる「チャンス」と捉えています。

 しかし、自社の経営資源が持つ強みや、外部環境がどのように変化しているのかを把握していないと、新規事業に取り組むことは難しいでしょう。

 どのように変化するかが不透明な時代に生き残るのは、変化の波にも「しなやか」に対応できる企業なのかもしれません。

 まずは、自社が持つ経営資源を洗い出すところから始めてみてはいかがでしょうか。