組織文化とは?アップデートする効果的な手順も事例とともに解説
働き方の変化、キャリア意識の変化など外部環境の変化にともない、企業も組織変革を求められています。本記事で、組織コンサルティングが専門の中小企業診断士が、そもそも組織文化とは何かを整理し、ビジネス環境にマッチした組織文化へアップデートする手順についてわかりやすくご紹介します。
働き方の変化、キャリア意識の変化など外部環境の変化にともない、企業も組織変革を求められています。本記事で、組織コンサルティングが専門の中小企業診断士が、そもそも組織文化とは何かを整理し、ビジネス環境にマッチした組織文化へアップデートする手順についてわかりやすくご紹介します。
組織文化とは、組織内で共有されている価値観や行動規範、信念のことです。
就業規則などとは異なり、明確には表現されない習慣や組織特有の仕事の仕方をイメージするとよいでしょう。各家庭の中にある習慣などと同様で、組織があれば習慣が生まれますし、その習慣は組織ごとに異なります。
組織文化を知る上では、組織のメカニズムを紐解いたモデルとして1977年にナドラーとタッシュマンが提唱したコングルーエンス・モデルが参考になります。
コングルーエンス・モデルは、現有リソースや環境から組織の成果を創出(転換)させるための4つの基本要素があることを示しており、その一つに組織文化が挙げられています。組織文化は、組織が機能する上で重要な位置づけであるといえるでしょう。
組織の価値観や信念が習慣化されたものが組織文化であるため、組織に経営理念が正しく定着・浸透することは、良い組織文化を形成することにもつながります。
組織文化と類似する言葉に、組織風土があります。
風土とは、気候や地質によって、生活や文化に深く働きかけるものです。寒い地域の人々の特徴、温暖な地域の人々の特徴があるように、生活の中でいつのまにか根付いているものです。自然に発生しているがゆえ、風土自体を変化させることは簡単ではありません。
例えば、組織の中で「出る杭が打たれやすい」、「ミスをすると強く叱責される」などの事象が多発している職場では、挑戦を怖がるなど、保守的な組織風土になりやすいでしょう。
また、ミスや不祥事を隠ぺいする組織は、本当は良くないことだとわかっていながら「どうせ他の人も同じことをしているだろう」、「発覚したら企業価値が下がる。それよりは隠し通すべき」と隠ぺいが慣例化し、ミスや不祥事を軽視する風土が根付いてしまった例といえます。
こうした組織風土は、一度根付いてしまうと変えていくことが困難になります。事例からもわかるように、組織風土は、良くも悪くも従業員のモチベーションや組織のパフォーマンスに大きな影響を与えるのです。
組織風土は、自然と根付いた空気感である一方、組織文化は組織内の価値観や習慣です。では、どのような組織文化があるか、次項で見ていきましょう。
組織文化は、簡単に類型化できるものではありませんが、ミシガン大学のロバート・クイン、キム・キャメロンらにより開発された競合価値観フレームワーク(Competing Values Framework:CVF)が参考になります。
CVFの横軸は、組織内部を重視するか、組織外部を重視するかの違い、縦軸は、柔軟性・創造性を重視するか、安定性・統制を重視するかの違いです。
それぞれの文化には、以下のような特徴があります。
アドホクラシー文化 | ・変革を通じた成長性を重視する組織 ・変化を受け入れ、新製品や新サービス開発などに力点を置くイノベーション文化 |
クラン文化 | 一体感や仲間意識を重視する組織 調和を重視するため、従業員が同じ価値観や目標を共有しやすい家族文化 |
ヒエラルキー文化 | 安定と統制を重視する組織 組織の規則やルールを大切にしており、着実性に重きを置く官僚的文化 |
マーケット文化 | 結果・成果が重視される組織 利益、売上などを基準にし、競争に勝つことに重きを置く文化 |
創業時から組織文化を見直すことなく進んできた会社が、事業環境の変化や従業員のモチベーションや働き方の変化により、組織文化アップデートの必要性に迫られることがあります。
今は外部環境の変化が激しく、特にそうした状況に立たされている企業は少なくないでしょう。
ただ、組織文化をアップデートしようとして組織文化だけが独り歩きし、組織の現状と乖離してしまっては意味がありません。より良い組織文化にアップデートしていくために、組織文化を創り出す要素について説明します。
組織文化の要となるのは、やはりその会社の始まりを作った創業者です。
創業者の創業時の思い、苦労した経験、成功体験、大切にしたい想いなどが従業員に語られることで、会社の成り立ちとこれまでの組織文化の形成を知ることとなります。これらが受け継がれ、さらなる組織文化を創り出していきます。
そのため、組織文化をアップデートしていく上では、創業者の行動や想いは無視できない項目となります。
仕事の進め方やリーダーシップの特徴は、従業員の行動や価値観を決める重要な要素となります。
例えば、リスクを取ることを良しとする仕事の進め方なのか、手順をしっかり踏み安定的に物事を進めるかは真逆なスタイルです。
従業員はそのスタイルを見て学び、組織での行動基準を作っていくため、組織文化を考える上で、マネジメントやリーダーシップのあり方は大切な要素となります。
人事評価の仕組みは、組織で求められる能力や態度を明確にするため、その企業の価値観を表しやすいです。
自由闊達な行動や言動に対して高い評価をもらう組織があれば、ルールを守らない人を厳罰化する制度もあります。
制度そのものは、経営者や組織トップの思いが色濃く反映され、ルールや価値観として浸透していくため、組織文化を考える上で人事評価の仕組みは、大切な要素となります。
過去の体験や経験は、組織を結び付ける重要な要因となります。
特に、経営危機を乗り越えた経験や、大きな取引を獲得した成功体験などは、組織内の共通体験として語り継がれ、その体験をしていない従業員にも前向きな気持ちを醸成させることになります。
そのため、組織文化を考える上で過去の重要な体験は、大切な要素となります。
組織文化のアップデートには、新しい人材の確保を通じて行う方法もあります。
一方、組織のメンバーに変化がない場合、価値観が硬直化しやすくなり、経営環境の変化により自社の変革が必要になったときに柔軟に動きにくくなります。
そのため、採用活動も組織文化を考える上では大切な要素となります。
では、組織文化のアップデートの手順について見ていきましょう。
本記事では、ジョン・P・コッターの企業変革のステップをベースにして説明します。大まかな進め方は以下のとおりです。
順に詳しくご説明します。
私たちが健康診断を受けて自身の健康をチェックするのと同様に、組織の置かれている現状を正しく把握することが大切です。
具体的には、自社の組織文化の強みと弱みを把握し、その文化が自社のビジネスにどのように影響を与えているのか、さらには時代の変化に合わせてどのように変化させるべきかを整理します。
これらの把握により危機意識が強まり、変革の動機と機運を作り出していきます。不必要に危機意識を高めることではなく、現状を的確に把握することが重要です。
従業員の思いを無視して進めれば、現状にそぐわない文化を創り出してしまいかねません。そのため、メンバーは、経営者層だけでなく中間層や若手も含め幅広くアサインすることが重要です。
ただし、人数が多くなりすぎないよう注意しましょう。ドイツの心理学者リンゲルマンが行った集団効率の実験では、人は集団になるほど手を抜きやすい(リンゲルマン効果)と言われています。
人が増えるほど、他のメンバーにフリーライドしやすくなりますので、主要メンバーは多くても8人以内におさめるとよいでしょう。
変革のためのビジョンを作り、組織文化アップデートの方向性・目指したい姿を決めます。あわせて、その組織文化を実現するための事業戦略を具体的に描きます。
戦略を描く際は、組織のハードとソフトの両側面に目を向けながら戦術を考えることが大切です。
組織のハードとは、組織そのものや制度やシステムなどのルールです。ソフトとは、従業員の能力や価値観などです。ハードは短期的に変更が可能ですが、ハードを動かすのは人ですので、両方に目を向けなければ結果的に戦略が実行できません。
さらに、周知の段階も注意が必要です。従業員の中には変化を嫌う人も出てきます。なぜ変化が必要なのかを丁寧に説明すること、一度ではなく繰り返し説明することが大切です。
3つ目のステップで適切に狙いが伝わっていれば、従業員の自発的行動、すなわち前向きな行動が見込めます。
しかし、行動した結果失敗してしまうというリスクを恐れたり、変化を極端に避けたい人材がいたりすると、周囲の変革意欲が削がれる可能性があります。
失敗を許容し、たとえ失敗しても周囲が支えあう環境づくりや、支障となるルールや考え方が根付いていれば、それを撤廃していくことも重要です。
組織文化のアップデートは、時間がかかります。規模や内容にもよりますが3年程度は要するでしょう。
ただ、3年経たないと結果がわからないでは、経営者も従業員も不安になりますので、短期的な成果や小さい成果を見込める計画を立案し、その成果創出を繰り返しながら長期的な変革に臨むことが大切です。
短期的な成果や小さい成果をもとに、変革機運をさらに盛り上げ推進していきます。
また、成功パターンが見えてきたら、モラールサーベイや社内アンケートなどを実施して、その結果を目に見える形にし、さらなるアップデートや定着に活用していくと良いでしょう。
最後に、組織文化のアップデートに成功した事例を2つ、ご紹介します。
創業15年、従業員40人、内装工事サービス業を営む中小企業の事例です。
この会社は、スタートアップ時は創業者と社員数名でがむしゃらに働き、売上を確保することに一生懸命取り組み、今の規模まで大きくなりました。
しかし、年数を経て規模が大きくなったものの、多忙なあまり疲弊してしまう社員や教育が不十分でルールを守らない社員などが出てくるようになり、社員が定着していかなくなりました。そこで、企業価値を損ねる前に、組織文化を変革させようと取り組みを開始しました。
そこで実施したのが、現状の組織を把握するためのモラールサーベイです。すると「がむしゃらに頑張れる人だけが認められる風土」や「生産性の低下」、「品質低下」といった問題が顕在化したため、組織文化のアップデートのために次の取り組みを実施しました。
アップデートに成功したこちらの企業では、新たに5名の採用し定着に成功するとともに、今まで課題だった離職率の高さも改善できたとのことです。
創業65年、従業員35人で営む製造業の事例です。
現在の社長は2年前に先代から事業承継し、3代目となりました。社長は積み上げてきた信頼で顧客からの支持を獲得していましたが、今後のビジネス環境から、新規顧客の開拓や開発力の強化が必要と考えていました。
ところが、現在の社員は意見や考えを述べない者がほとんど。良くも悪くも「あうんの呼吸」で仕事が進んでおり、幹部さえも新しいことを進めたくても進め方がわからない、という状態でした。
企業の成長のためにも、組織文化変革を契機とした個人の成長の必要性に迫られた社長は、以下の取り組みを実施しました。
組織文化のアップデートを実現したことで、今では中堅社員を中心とした開発プロジェクトが発足したりするなど、コミュニケーションも少しずつ活発化するようになり、各個人が、企業の成長のために自発的に仕事に取り組むようになっています。
組織文化のアップデートは、長期的視点で取り組むことが必要ですが、粘り強く取り組むことで、“働きがい”と“働きやすさ”を創出することが可能です。また、新しい文化が、従業員と経営者を強くし、さらなる改革、さらなる成長を後押しします。
とはいえ、取り組み手順を間違えたり、闇雲に施策を乱発したりしてしまうと組織を壊しかねません。慎重かつ大胆に、組織文化のアップデートに取り組むことが大切です。
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