目次

  1. 積立有給休暇制度とは?
    1. 積立有給休暇制度のメリット
    2. 積立有給休暇制度のデメリット
  2. 積立有給休暇制度の導入の際に検討しておきたいこと
    1. ①積立有給休暇制度を利用できる従業員の範囲
    2. ➁積立有給休暇制度において積立ができる日数の上限
    3. ➂積立有給休暇制度において連続使用できる日数の上限及び下限
    4. ④積立有給休暇制度を利用できる使用事由の制限の有無
    5. ➄積立有給休暇制度を使用した場合の出勤率算定、賞与・退職金への影響
    6. ⑥積立有給休暇の退職時の取扱い
  3. 積立有給休暇制度の導入手順
    1. 1)運用ルールの検討・明確化
    2. 2)運用ルールの明文化
    3. 3)運用ルールの社内周知の実施
  4. 積立有給休暇制度の規定例・申請書式例
    1. 就業規則への記載例
    2. 申請書式へ記載すべき項目例
  5. 積立有給休暇制度を活用して従業員のエンゲージメントを向上させよう!

 積立有給休暇制度とは、通常2年で時効消滅する年次有給休暇を一定期間積み立てておけるようにする制度です。法律で定められた制度ではないため、ストック有給制度、積立保存制度、特別積立休暇など企業ごとに様々な名前で呼ばれています。

 例えば、入社5年目の正社員で考えてみましょう。通常、この社員には年次有給休暇が16日付与されます。

 このうち、5日しか使わなかったとすると、1年後には取得しなかった繰越分11日の有給が発生します。この繰越分が消化できなかった場合、その翌年には権利が消滅してしまうのですが、その残日数を積み立てられるようにして従業員が利用できるようにしているのです。

積立有給休暇制度のイメージ図
積立有給休暇制度のイメージ図

 なお、各社の導入事例については「働き方・休み方改善ポータルサイト」で様々な企業の取組が紹介されています。

 では、具体的に有給休暇制度にはどんなメリットがあるのでしょうか。ここでは企業側と従業員側、それぞれの立場からご紹介します。

 企業が積立有給休暇制度を導入する最大のメリットは、採用や人材定着で有利になるという点です。

 働き方改革の定着により、従業員のワーク・ライフ・バランスが重視されるようになりました。その結果、求職者が企業選びをする際に、こうした制度の有無を確認することはもはや当たり前のことになっています。ですから、このような制度を設けることそれ自体が企業のイメージアップにつながることになり、優秀な人材の獲得に有利になるでしょう。

 また、こうした制度を設けることで従業員のエンゲージメントの向上が見込めます。優秀な人材の流出を防ぐ対策になるのも、積立有給休暇制度の導入メリットです。

 一方、従業員には、この制度を利用することで、経済的な心配をすることなく不慮の病気の際に休養できるようになる、突発的な家族の入院・介護・看護などに対応できるようになる、といったメリットがあります。

 また、このような有給制度を利用することで、リカレント教育(職業に就いた後も大学などの教育機関で学びなおし、仕事で求められる能力を磨き続けること)を受ける際のハードルは低減するでしょう。

 積立有給休暇制度は、このように企業と従業員双方にとって大きなメリットのある制度と言えます。

 企業側から見た積立有給休暇制度の最大のデメリットは、人件費の増加です。

 本来であれば消滅する年次有給休暇を積み立てることになるため、そのコストが発生し、管理もまた煩雑になります。

 また、この制度を活用すれば1か月以上連続した休みを取ることも可能となるため、従業員から長期の取得を希望された場合は、人員の配置や業務の手配など管理職者の負荷が大きくなることが想定されます。

 加えて、制度があっても実際に取得できるような社内風土や環境が整っていない場合は絵にかいた餅となってしまうため、かえって従業員に不満を抱かれる可能性があります。

 一方、従業員には積立有給休暇制度のデメリットはありません。

 このように、積立有給休暇制度にはメリット・デメリットがあるため、導入検討する場合は運用まで明確にイメージして実施することが重要です。

 積立有給休暇制度は法律で定められたものではないため、導入の際にはトラブル防止のために注意すべきことがいくつかあります。ここでは、導入にあたり検討しておくべき実務的に重要な項目を6つご紹介いたします。

積立有給休暇制度を導入するにあたり検討しておくべきポイント

 積立有給休暇制度を利用できる従業員の範囲について、あらかじめ定めておきます。例えば正社員のみに限定する、全社員に適用する、入社後5年以上の社員に限定するなど様々なバリエーションが想定されます。

 積立有給休暇制度で積み立てられる有休日数に上限を設定するか否か、する場合は何日を上限とするかをあらかじめ定めておきます。この際に、積立ができる1年間の日数の上限を設定することもできます。 

 なお、1年間に積立ができる日数を定める場合は、年5日(法律で1年度内の消化が義務付けられている日数)を超えた分のみが対象となります。

 たとえば入社5年目の社員には16日間の年次有給休暇が付与されますが、最大11日間分が積立有給休暇の対象日数となります。この11日間すべてを積み立てるようにしてもよいですし、年度ごとに積立上限を設けて年5日までなどと制限することも可能です。

 上記➁とも関連しますが、積立有給休暇制度を連続して取得できる日数の上限をあらかじめ定めておきます。

 私の関与先企業では、積立有給休暇制度における連続取得日数は10日までと定めています。この定めがあることにより従業員の人員調整を行いやすくし、業務の引継ぎ範囲を限定できるなどの効果があり、実効的な積立有給休暇制度の運用に寄与しています。

 また、逆に積立有給休暇を取得する下限日数を定めることもできます。

 1日単位での利用を認める、あるいはまとまった日数でのみ利用を認めるなど、管理上のコストや運用を考えながら具体的に定めていくことが重要です。

 なお、この上限日数・下限日数は下記④のように使用事由を定める場合、事由ごとに定めることも可能です。

 積立有給休暇制度は、その取得用途により利用の可否を制限することができます。

 平成28年の人事院調査によると、積立有給休暇制度を導入している企業のうち7割以上が使用事由に制限を設けています。

 想定される用途は下記のとおりですが、導入にあたっては自社の社員にどのようなニーズがあるか、またどのような理由で休職・欠勤しているかなどヒアリングして設定することで、より従業員満足度の高い制度が構築できるでしょう。

 <積立有給休暇制度を利用できる使用事由の例>
 ・私傷病による療養
 ・家事、育児、介護など家庭の事情
 ・ボランティア参加
 ・自己啓発や資格取得を目的とする研修、セミナー、勉強会などへの参加

 年次有給休暇を取得した日は、次年度の年次有給休暇の付与の条件となる8割以上の出勤率の計算に含めなければなりません。しかし、積立有給休暇制度の場合は算定の基礎に含めないとすることが可能です。

 また、賞与の支給にあたって出勤日数を評価項目としている場合の取扱いや、在籍年数を基礎とする退職金についてどのように取り扱うかも事前に検討しておくべきでしょう。

 年次有給休暇は法定の休暇であり、従業員が消化を希望すれば退職日前に残日数を取得させなければなりません。しかし、積立有給休暇は法定外の休暇であるため、退職時に取得を認めるかどうかは企業の判断にゆだねられます。

 また、年次有給休暇は退職時に限り買取清算をすることが認められていますが、積立有給休暇については企業の判断により買取の可否を決めることができます。したがって、買い取らないとすることもできますし、この制度を活用して退職金代わりに積立有給休暇を買取清算するということも可能です。

 その場合は、積立有給休暇の1日あたりの単価をどのように設定するかも併せて考慮しておきましょう。従業員ごとに定める場合は平均賃金額を用いる方法や、基本給を所定労働日数で割って算定する方法などが考えられます。

 また、一律で5000円にしたり、職位ごとに金額を定めることも可能です。

 それでは、実際の制度導入にあたり、必要な手順をフェーズごとにご紹介します。

 上記で掲げた積立有給休暇制度に関する検討事項を洗い出し、それぞれについて内容を検討します。

 実効性ある運用のために、今まで従業員がどのような理由で欠勤しているかを社内ヒアリングをする、企業としてどのような目的でこの休暇制度を設けるのかという観点を持つ、ということが大切です。

 また、取得にあたり書面での届け出を求める場合には、併せて書式の整備も行います。

 検討したルールを明文で記載します。休暇に関する内容は就業規則の絶対的必要記載事項に該当しますので、従業員数10名以上の企業で導入する場合は必ず就業規則に記載が必要です。

 また、就業規則の整備義務のない企業で導入する場合も、トラブル防止のために簡易的な規定をつくっておくことが望ましいでしょう。

 なお、就業規則を改定した場合は、労働基準監督署への届け出が必要です。

 積立有給休暇制度を導入する旨や取得の際の具体的手順などを、従業員へ周知します。

 説明会を開いて説明する方法が望ましいですが、手順書の回覧や掲示でも代替できます。また、取得にあたり書面での申請を要件とする場合は、その書式の保管場所や提出先なども併せて説明しておきましょう。

 最後に、積立有給休暇制度の就業規則への記載例と、制度を使いたい従業員が用いる申請書の記載項目例をご紹介します。

 就業規則の記載例として、下記のような内容が考えられます。導入時には自社の制度をどのように設計するかにより記載内容を変更してください。

第○条(積立有給休暇制度)
1.会社は、従業員に対し、時効消滅してしまう未消化の年次有給休暇の有効活用を目的として積立有給休暇を与える。
2.積立有給休暇制度を利用できる従業員の範囲は正社員のみとする。
3.積立てられる日数は、事業年度内において各人5日を上限とし、かつ、各人ごとの最大積立日数は60日を上限とする。
4.積立有給休暇制度は、授業員が下記の事由のため業務に服することができない場合、本人の申請により取得を認める。なお、会社はその事由の確認のために必要な書類の提示を求めることができる。
 ①私傷病の休養及び治療
 ➁家事、育児、介護など家庭の事情
 ➂資格取得を目的とした通学及びスクーリングへの参加
5 積立有給休暇制度を申請する場合は、書面にて取得開始希望日の1か月前までに申し出なければならない。
6.積立有給休暇制度を取得した場合は、年次有給休暇の付与の基準となる出勤率の算定に当たっては、その日数を所定労働日数より控除する。
7.積立有給休暇制度を取得した場合は、賞与の支給額の支給基準となる出勤率の算定に当たっては、その日数を欠勤したものとする。
8.積立有給休暇制度を取得した場合は、退職金の支給額の支給基準となる在籍年数の算定に当たっては、その日数を欠勤したものとする。
9 .積立有給休暇制度と年次有給休暇の使用順序は、年次有給休暇を優先する。
10. 積立有給休暇を取得した際には通常の賃金を支払うこととする。

 申請書式は企業ごとの任意書式で構いませんが、次のような項目を網羅しておくとよいでしょう。

・申請者の所属及び氏名
・取得希望期間(うち、年次有給休暇を取得する期間及び日数)
・取得を希望する目的

 従業員にとって、積立有給制度はデメリットのない魅力的な福利厚生制度です。

 そのため、導入にあたっては実効性のある制度構築が欠かせません。制度はあるのに使えない……という不満を持たせないためにも、上記のような検討事項を踏まえて明文化し、運用のルールを徹底させることが重要です。

 従業員の組織への信頼を向上させて従業員エンゲージメントを高めていくためにも、積立有給休暇制度をうまく活用することをご検討いただければと思います。