心理的安全性の作り方は?必要な心得や実践・測定方法を事例で紹介
心理的安全性とは「価値創造に欠かせない組織の土台」です。過去の成功にとらわれない新たな価値創造が求められる現代、企業で注目されるようになりました。本記事では、企業の社員として心理的安全性の向上に尽力しつつ、研修講師として他企業の支援も行っている筆者が、実践のポイントをご紹介します。
心理的安全性とは「価値創造に欠かせない組織の土台」です。過去の成功にとらわれない新たな価値創造が求められる現代、企業で注目されるようになりました。本記事では、企業の社員として心理的安全性の向上に尽力しつつ、研修講師として他企業の支援も行っている筆者が、実践のポイントをご紹介します。
目次
心理的安全性とは「率直に発言できる組織風土」です。
現代の企業組織では、業務が複雑化し、様々な人との協働が行われています。また、人々の価値観が多様化して、新たなアイデアが常に求められています。そのため率直に発言できる組織風土は不可欠であり、心理的安全性が注目されています。
組織の心理的安全性が高いと、自分の意見を率直に言えることから、社員がチャレンジ精神を持ちやすくなります。経営者や上司とも積極的に対話できるようになるでしょう。結果として多くの価値創造ができる組織となります。
逆に組織の心理的安全性が低いと、率直な発言やチャレンジを社員が控え、経営者や上司の指示に従うだけの組織になる可能性が出てきます。
では、心理的安全性の高い組織を作るためには、どんなことを意識したらいいのでしょうか。筆者は、次の3つが重要だと考えています。
心理的安全性の高い組織を作るとは、組織風土を変えることを意味します。そのため、組織風土に大きな影響力のある経営者や上司が率先して変わることが不可欠です。
心理的安全性は、同じ企業でもチームによって大きく差があることが研究から分かっています。チームとは、プロジェクトチームや、普段から密に連携して業務を行っている集団のことです。いくつかのチームを選び実践して、効果を評価しながら、取り組むチームを増やしていくアプローチを検討するといいでしょう。
心理的安全性研究の第一人者であるハーバード・ビジネススクール教授エイミー・C・エドモンドソン博士は、心理的安全性とは「対人関係のリスクを取っても安全だと信じられる職場環境」と述べています。そして、対人関係のリスクとして、具体的に次の4つが紹介されています。
①無知だと思われるリスク | 質問をする、あるいは情報を求めることで、周りから無知だと思われるリスク |
②無能だと思われるリスク | 間違いを認めたり、支援を求めたり、ミスをすることで周りから無能だと思われるリスク |
③ネガティブな人だと思われるリスク | 周りとは違う意見を言うことで、ネガティブな人だと思われるリスク |
④邪魔をする人だと思われるリスク | 意見や情報、あるいは支援を求めることで、周りから他の人の邪魔をする人だと思われるリスク |
心理的安全性を高めるためには、こうした対人関係のリスクを減らすことが重要です。
一方で、部下の積極的な行動を促すというアプローチもあります。上司から促されることで、1人の人間として認められていると感じるからです。
組織の心理的安全性を作るには、「対人関係のリスクを減らす」そして「積極的な行動を促す」ことが特に鍵を握ります。なぜなら、組織風土とは、組織メンバーの日々の言動とも言えるからです。
具体的な方法をご紹介します。
話を丁寧に聴くとは、最後まで聴いて理解を示すことです。話を途中で遮られると「自分の意見に価値が無い」と思ってしまい、対人関係のリスクを強く感じるようになる人もいます。
必ずしも相手の意見に同調することではありません。相手の意見と自分の意見が違う場合は、話を最後まで聴いて理解を示してから、自分の意見を伝えるようにしましょう。それによって「よりよい対話をしよう」というメッセージになります。
近年、部下との1on1ミーティングを実践する企業が増えています。1on1ミーティングの実践は部下の成長を促す効果があり、また心理的安全性を高める効果もあります。
ただし、大半の時間が説教や業務指示など、上司の意見を伝えるだけの場となっては効果がありません。1on1ミーティングを実施する際は、ぜひ部下の話を丁寧に聴いてください。
業務に関わることに対して「教えてほしい」や「自分が間違えていた」と謙虚に言うことは、自分自身を対人関係のリスクにさらすことになるため、抵抗を感じる方もいると思います。
しかし、上司が謙虚な姿勢を示すことで、部下も対人関係のリスクを感じなくなり、組織の心理的安全性が高まります。
また謙虚な姿勢は、相手を1人の人間として認めていることを伝えるメッセージにもなります。例えば、新卒新入社員に、若者としてのアイデアや企業文化に染まっていない視点で業務改善の意見を求めると、企業の戦力として認められていると受け取るでしょう。
立場にとらわれず謙虚な姿勢でコミュニケーションをとることは、心理的安全性を高め、部下の積極的な発言や行動を促す効果があります。
業務でミスをした際、一番つらいのはミスをした当人です。迷惑をかけたことで心を痛め、ミスを取り返すための努力をしなくては、とも思っていることでしょう。その状況で上司から怒りの言葉や嫌みを言われたら、対人関係のリスクを強く感じて失敗を恐れるようになり、チャレンジする気持ちが失われます。
ミスをした部下をねぎらい、ミスを取り返すための協力をすることが上司としての大事な役割です。そして、その出来事を学習の機会にして、チームでミスを防ぐ対策を講じることが、チーム力を高めると同時に、心理的安全性を高めることになります。
とはいえ、ミスの報告を受けた時に反射的に余計なことを言ってしまう人もいると思います。そのような方にお勧めなのが、感情の高ぶりを感じた時に「ちょっと待て!」と心の中でつぶやくことです。それによって冷静に考えることができ、適切な言動を選ぶことができます。
部下がチームのためになる行動をしたら、やって当たり前と考えず、ぜひ感謝の言葉を贈ってください。
人は感謝の言葉を受け取ると自分が認められていると感じると同時に、より積極的になります。感謝を伝え合う風土が醸成されることで心理的安全性が高まります。
感謝の言葉を贈る際は、どのような行為に対して感謝しているか具体的に伝えるようにしましょう。
例えば、
①いつも後輩の面倒を見てくれてありがとう。
②忙しいのに嫌な顔せず、AさんやB君が困った時によく相談にのってくれてありがとう。2人とも君のおかげで仕事を早く覚えることができて、とても助かっていると言っていたよ。
どちらでも同じようにうれしく感じるかもしれませんが、②のほうが「こういった行動も見てくれて、評価してくれる」と感じやすいでしょう。
また、感謝の言葉を贈るためには、相手のよい行為を見つける意識が必要です。それを意識し続けることで、今まで気に留めていなかった部下の良いところに気づく力が養われます。
その力をチーム全員で養うことは、心理的安全性を向上させると同時に、積極的に行動するチームメンバーが増える効果もあります。
スタンフォード大学教授キャロル・S・ドゥエック博士の研究より「努力して学習や経験を積むことで能力は大きく伸すことができる、と信じること」が、大きな成長の要因になることが分かっています。このようなマインドセットをドゥエック博士はGrowth Mindsetと名付けました。
皆さんが部下の成長を信じて促すことは、部下のGrowth Mindsetを養うことにつながります。それによってチャレンジする風土が醸成され、心理的安全性も高まります。
心理的安全性の向上は継続して取り組む必要があり、そのためには定期的に測定して改善につなげることが重要です。
測定方法はさまざまですが、エドモンドソン博士が開発した7つの質問が効果的です。組織のメンバーへ次の7つの質問を提示して「非常にそう思う」~「全くそう思わない」の7段階で回答してもらいます。
1. このチームでミスをしたら、きまって咎められる。(R) 2. このチームでは、メンバーが困難や難題を提起することができる。 3. このチームの人々は、他と違っていることを認めない。(R) 4. このチームでは、安心してリスクを取ることができる。 5. このチームのメンバーには支援を求めにくい。(R) 6. このチームには、私の努力を踏みにじるような行動を故意にする人は誰もいない。 7. このチームのメンバーと仕事をするときには、私ならではのスキルと能力が高く評価され、活用されている。 ※(R)はReverse(逆にする)の頭文字です。つまり1,3,5の質問では「非常にそう思う」は心理的安全性が低いことを示し、2,4,6,7の質問では「非常にそう思う」は心理的安全性が高いことを意味します。 |
(引用:エイミー・C・エドモンドソン(2021)『恐れのない組織』英治出版)
測定をする際のポイントとしては、本音で回答してもらうために、誰が回答したか分からない工夫をすることです。社内にそのようなプラットフォームが無い場合は、SurveyMonkeyのようなWeb上のアンケートツールを利用すると良いでしょう。
この測定を定期的に行うことで、次のような活用ができます。
また、もう1つ大きな効果として、7つの質問による測定を行うこと自体が、心理的安全性の向上に企業として本気で取り組む、という社員向けのメッセージになります。
先進組織の事例として、Google社とNASA(アメリカ航空宇宙局)を取り上げます。どちらも日本の組織ではありませんが、対人関係という意味では日本の企業と大きな違いはありません。
心理的安全性が注目を集めるようになった大きなきっかけは、Googleの「プロジェクト・アリストテレス」と呼ばれる5年にわたるプロジェクトの発表でした。
プロジェクトの目的は「効果的なチームを可能とする条件は何か?」という問いに対する答えを見つけ出すことで、その成果として心理的安全性が圧倒的に重要であると結論づけられています。
その後、Google社では心理的安全性を高める取り組みが行われています。一部の内容がGoogle re:Workというサイトで日本語でも公開されています。
なお、こちらのサイトから「心理的安全性を高めるためにマネージャーにできること」というPDFファイルがダウンロードできます。マネージャーの行動指針とも言える事項が書かれているので、参考になるでしょう。
1986年(昭和61年)に起きたスペースシャトル「チャレンジャー号」の爆発事故、そして2003年(平成15年)に起きたスペースシャトル「コロンビア号」の空中分解事故、いずれも事故につながる可能性のある問題に気づいた人がいたことが後から分かっています。
しかし、率直に発言できる風土ではなく、懸念が上層部へ共有されませんでした。この2つの事故は、心理的安全性の低い組織の事例としてよく取り上げられています。
そのNASAでは組織風土の変革が進んでおり、OSMA(Office of Safety and Mission Assurance)というサイトで、心理的安全性に通じる取り組みが多く紹介されています。
例えば、Safety Cultureを構成する要因を定義して共有する、あるいは日常業務で安全対策を忠実に行っている人をたたえる、などです。こちらのサイトを見ていると、組織内にとどまらず、外部へ発信していること自体から強いリーダーシップを感じることができます。
経営者や管理職の方より、社員への不満として「自分の意見を言ってほしい」「自律的に行動してほしい」「チャレンジ精神を持ってほしい」といった言葉を聞くことがあります。確かに本人の気質やモチベーションの問題もあるでしょう。
心理的安全性が高いことは、責任の所在がはっきりせず、チームの仕事への意識が低い「ぬるま湯組織」とはまったく別物です。
心理的安全性を高めるためには、組織風土に大きな影響力のあるリーダーが率先して変わることが大事です。リーダーの皆さんは人任せではなく、ぜひ自分の責任として取り組んでください。
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