目次

  1. レベニューマネジメントとは
  2. レベニューマネジメントの具体的な活用例
    1. 航空業界
    2. ホテル業界
    3. レンタカー業界
  3. レベニューマネジメントを行うときの流れ
    1. 現状分析
    2. 顧客分析
    3. 需要予測・オファーの企画
    4. 効果検証
  4. レベニューマネジメントの導入支援ツール
    1. IDeaS Revenue Management System
    2. メトロエンジン
    3. Dynamic Plus
  5. ダイナミックプライシングの時代こそレベニューマネジメントを

 レベニューマネジメント(Revenue management)とは、需給や在庫のバランスに応じて価格を弾力的に変化させ、売上と利益の最大化を図る一連の管理システムのことです。

 元々はイギリスの国営航空会社のBOAC(英国海外航空)が始めた「アーリーバードディスカウント」が由来とされています。

 航空業界は、航空機の減価償却費や人件費など、固定費が恐ろしく高い業界として知られています。そんな航空会社が空席在庫を最小化して売上を確保するために、一定の期間前に座席を購入してくれた人に割引価格を提供したのが始まりとされています。

 レベニューマネジメントは、いわゆるペリシャブル在庫(消費期限がある製品・サービスの在庫)を適正に管理する施策であり、それを取り扱う企業にとって売上逸失リスクの低減と実際の売上確保というメリットをもたらします。

 そのため、今は航空業界のみならず、ホテル業界、レンタカー業界、エンターテイメント業界、運輸業界、広告業界などさまざまな業界で導入が進んでいます。

 レベニューマネジメントの具体的な活用例として、「航空業界」「ホテル業界」「レンタカー業界」におけるケースをご紹介します。

 航空業界におけるレベニューマネジメントの事例といえば、先の「アーリーバードディスカウント」を導入し、今のレベニューマネジメントの原型を作ったアメリカン航空が有名です。

 航空業界の規制緩和を受け、価格競争を強いられ始めた同社は、1980年代初頭よりレベニューマネジメントへの投資を始めました。

 1985年にDynamic Inventory Optimization and Maintenance Optimizer(動的在庫最適化メンテナンスオプティマイザー)と呼ばれる新システムを導入し、空席在庫の価格をいたずらに下げるのではなく、空席率が一定の水準に達した便の座席にのみ割引価格を行うよう仕組みを改めました。つまり、レコメンデーションの精度と効果を高めたのです。

 これにより同社の翌年の売上高は14.5%増加し、利益も50%近く増加しました。

 航空業界と同じく「ペリシャブル在庫」を取り扱うホテル業界で、レベニューマネジメントに真っ先に飛びついたのがマリオットホテルです。

 1990年代から需要予測と在庫レコメンデーションを行う自動レベニューマネジメントシステムを導入、傘下ホテルの全部屋を対象にした運用を開始しました。その後、宿泊客の予約パターンを分析し、空室率の最適化と価格レコメンデーションを行う機能なども追加し、さらなる進化を遂げました。

 マリオットホテルは、今では自社のレベニューマネジメントシステムを外部に提供するプラットフォーム事業も展開しています。

 レンタカー業界も「ペリシャブル在庫」を取り扱う業界です。

 レンタカー業界で初めてレベニューマネジメントを導入したのはナショナル・カーレンタルであるとされています。

 経営悪化で倒産の危機に瀕していた同社は、1993年に初めてレベニューマネジメントシステムを導入し、利用者の属性や利用目的などに応じた「最適価格」をオファーする仕組みにしたところ、導入初年度から黒字転換を果たすことに成功しました。

 同社はその後もレベニューマネジメントシステムの改良を続け、1994年度の一年間で売上高を5600万ドル(約67億2000万円)増加させています。

 では、実際にレベニューマネジメントを行う際は、何をすればいいのでしょうか。筆者は、以下のプロセスを経ることをお勧めしています。

 最初のステップは現状分析です。

 ホテルなどの宿泊業であれば「売上高」「営業利益」「客室稼働率」「宿泊客単価」「宿泊客数」「リピート率」「一人当たり宿泊数」などのデータを集め、現状を正しく把握します。データの集計は月次ベースで行い、過去3年間程度遡って見てみるといいでしょう。

 ここでのポイントは、特に未稼働の部屋の具体像を浮き彫りにすることです。

 レベニューマネジメントの要諦をひと言で言うと、「適切な製品やサービスを、適切な顧客に対して、適切な価格で、適切なタイミングで販売すること」です。そのためには、自社の顧客についての情報を集め、その実像やニーズを知る必要があります。

 例えばホテルの場合、予約受付時に取得する顧客情報や、宿泊時のアンケート調査、ウェブやスマートフォンを使った顧客満足度調査などの方法が考えられます。また、ホテル予約サイトでのコメントや、施設やサービスへの評価などを参考にしてみてもいいでしょう。

 顧客の情報が取得できたら、顧客をそれぞれ属性に応じてカテゴリーに分けます。「ファミリー客」「ビジネス客」「リピーター」「個人客男性」「個人客女性」「外国人客」など、キャラクターが明確にわかるセグメントに切ってください。

 いかに正確に需要を予測し、「適切な製品やサービスを、適切な価格で、適切なタイミングで販売する」かがレベニューマネジメントを成功させる最大のポイントです。

 それぞれのカテゴリーの顧客の需要を予測し、最も売上と利益が取れる「オファー」を企画します。

 例えば、「ビジネス客」に対しては、連泊での利用を促す連泊プランを提供したり、「リピーター客」に対しては、今後のリピートを促す特別プランを提供したりといったイメージです。

 先のアメリカン航空では、座席の在庫管理と需要予測を徹底して行い、顧客をニーズなどに応じてセグメンテート(分類化)し、各セグメントに最適化した価格とサービスを提供しました。

 具体的には、法人のビジネス客に対してはキャンセル料無料のプレミアム価格を提供し、できるだけ低価格で乗りたい一般客に対しては、払戻金ゼロのディスカウント価格を提供するなどです。 

 オファーを企画し、告知して販売したら、その効果を把握して検証しましょう。

 効果検証の方法はさまざまですが、前年同期との売上高と利益額の比較、予想値と実際の数字との乖離率、施設全体の稼働率の推移などの実数をもって行うといいでしょう。

 レベニューマネジメントとは、一朝一夕にできるというものではなく、通常はある程度の時間をかけて「進化」してゆくものです。効果測定と検証を行い、改善を繰り返しながら「最適化」するよう努めてください。

 レベニューマネジメントは、システム投資や人材育成などに一定の投資が必要なことから、実際には導入がなかなか難しいとされていますが、最近は導入支援ツールなども出てきています。

 ここでは、おすすめの導入支援ツールを3つご紹介します。

 SAS子会社IDeaSが開発・提供しているホテル業界用レベニューマネジメントシステムです。エアポート、リゾート、シティホテルなど、各カテゴリーに特化して最適化されたレコメンデーションを受け取れます。大手チェーンを含む世界中のホテルが利用しており実績も豊富です。

製品名 IDeaS Revenue Management System
開発元 IDeaS
対象業界 ホテル業界
利用形態 クラウド・オンプレミス
特徴 ・各カテゴリーに特化して最適化されたレコメンデーションを受け取れる
・SASと連動が可能
・世界中で豊富な利用実績がある
おすすめの企業 ・ある程度の規模があるホテルを運営しているが、レベニューマネジメントをまだ導入していない企業
・社内でSASを運用している企業
コスト 個別見積り
公式サイト https://ideas.com/ja/

 メトロエンジン株式会社が開発・運営している、ホテル業界用レベニューマネジメントシステムです。

 過去の天気や天気予報、近隣イベントの有無、平均稼働率や客室単価などをビッグデータ化し、AIによる価格レコメンデーションを行っています。国内ホテル用レベニューマネジメントシステムとしては業界トップクラスのシェアを誇っています。

製品名 メトロエンジン
開発元 メトロエンジン株式会社
対象業界 ホテル業界
利用形態 クラウド
特徴 ・日本国内市場でトップクラスのシェアを誇る
・ビッグデータ+AIによる価格レコメンデーションを実施
・競合施設のデータなども毎日収集、レコメンデーションに反映させている
・ホテル予約サイトへの価格反映を自動化できる
おすすめの企業 ・これまでにレベニューマネジメントシステムを導入したことがなく、社内に専用のスタッフも存在していない企業
・ホテル予約サイトからの予約受付が多い企業
コスト 個別見積り
公式サイト https://metroengines.jp/

 Dynamic Plusは、膨大な過去データをもとに、さまざまな需要を予測できるシステムです。対象業界が幅広いため、まずはこちらから検討するのもよいでしょう。

製品名 Dynamic Plus
開発元 ダイナミックプラス株式会社
対象業界 スポーツエンターテイメント業界、音楽業界、小売業界、飲食業界
利用形態 クラウド
特徴 ・Jリーグ、プロ野球、プロバスケットボールなどのスポーツエンターテイメント業界にレベニューマネジメントシステムを提供、豊富な実績を誇る
・経済動向や気象データなどのマクロデータを参照、正確な需要予測を実現
おすすめの企業 ・レベニューマネジメントシステムを初めて導入する企業
・売れ残りや不正な高額転売に悩む企業
コスト 個別見積り
公式サイト https://www.dynamic-plus.com/

 需給バランスなどに合わせて価格を変動させるダイナミックプライシングの導入が、各所で進んでいます。

 筆者は、ダイナミックプライシングはレベニューマネジメントとニアリーイコールであると考えていますが、レベニューマネジメントは顧客中心主義を立脚点にしているところが大きな違いだと考えています。

 レベニューマネジメントの導入を検討中の企業は、あくまでも顧客中心主義をもって導入を進めてください。