1996年7月21日、アトランタオリンピックの男子サッカー1次リーグで、日本がブラジルを1ー0で下しました。

世紀の番狂わせとも報じられ、試合のあったアメリカ・マイアミにちなんで「マイアミの奇跡」と呼ばれます。

ブラジル戦の勝利を伝える1996年7月22日付朝日新聞夕刊(東京本社版)

当時、日本は1993年のJリーグ開幕から3年が過ぎたばかり。

ワールドカップ(W杯)にも出場したことがありませんでした。

一方のブラジルは世界最強の一角。

双方にとってのリーグ初戦の前評判は当然ブラジルが上で、1996年5月8日付の朝日新聞朝刊(東京本社版)は「引き分けるか惜敗なら、勢いがつき(中略)決勝トーナメント進出に望みが出る」と書いています。

試合では、ブラジルの猛攻を日本が組織的な守備でしのぎ、GKの川口能活(よしかつ)選手も好セーブを連発しました。

0ー0で迎えた後半27分、日本の長い縦パスが絶妙な地点に落ち、ブラジルのDFとGKが交錯。

ゴールに向かって転がるボールを、駆け上がった伊東輝悦(てるよし)選手が蹴り込みました。

放ったシュートはブラジルの28本に対し、日本はわずか4本。

日本が数少ないチャンスをものにしました。

アトランタ五輪でブラジルに勝ち、引き揚げる選手たち=1996年、朝日新聞社

ブラジル相手の勝利を、報道各社は「(五輪で銅メダルを獲得した1968年の)メキシコ以来の快挙」「日本サッカー大金星」などとたたえました。

ただ、日本は2戦目のナイジェリア戦で敗れ、得失点差で決勝トーナメント進出を逃します。

この代表チームの指揮を執ったのが西野朗氏です。

2012年にロンドンオリンピックのサッカー男子が強敵・スペインを破ったことを受け、「マイアミの奇跡」について振り返っています。

2012年7月28日付の朝日新聞朝刊(東京本社版)によると「やっている本人たちは『奇跡』だなんて思っていなかった。今回だってそうでしょう」と話しました。

そして2018年。

W杯ロシア大会の開幕を2カ月後に控え、当時のハリルホジッチ監督が突如解任されます。

代わって指揮を託されたのが西野氏でした。

W杯1次リーグの初戦で日本はコロンビアを2ー1で破ります。

日本がW杯で南米勢に勝つのは初めてのことでした。

W杯ロシア大会で日本がコロンビアを破ったことを報じる2018年6月20日付朝日新聞夕刊(東京本社版)

2018年6月20日付朝日新聞夕刊(東京本社版)によると、守備的な布陣で少ないチャンスに賭けた「マイアミの奇跡」について、「将来性がない」との評価も受けたといいます。

記事の中で西野氏は「そのときの反骨心が、攻撃的なサッカーへとつながった」と述べています。

その後、Jリーグで攻撃的なスタイルを確立し、この日のコロンビア戦でもその姿勢を貫きました。

今回の勝利を「マイアミの奇跡」に続く奇跡か、と問われた西野氏は、うっすらと笑みを浮かべ、こう答えたそうです。

「ちっちゃい奇跡です。とてつもなく」

(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年7月21日に公開した記事を転載しました)