目次

  1. 宇宙は何でできているのか?
  2. ダークマターの不思議な3つの特徴
  3. なぜダークマターの存在がわかったのか?
  4. 未発見の「素粒子」がダークマターの候補
  5. ダークマターが存在する意味

鍋のおいしい季節になりましたね。鍋はいいですよね。肉でも、魚でも、野菜でも、どんな食材も受け入れてくれます。

じつは、宇宙は“やみ鍋”みたいな世界です。何かが入っているらしいが、その正体はわからない。でも突っついてみたくなる。そんな話です。

getty images

宇宙のことは、5%しかわかっていない、とよくいわれる。これは比喩的な表現ではなく、定量的な事実である。

宇宙は何でできているのか?
最先端の観測から、その内訳がわかっている。

宇宙の成分

・ふつうの物質            5%
・正体不明の物質        26%
・正体不明のエネルギー        69%

「現代科学をもってしても、宇宙の95%が正体不明って、どうなの?」と思わないでほしい。宇宙の片隅の片隅にいる人間が、「自分たちの知っているものは5%だ」と言えるのはすごいことだ。そう頭の片隅に入れておこう。

「ふつうの物質よりも正体不明の物質のほうが多い。“ふつう”って何なの?」と思うのはじつに鋭い。正体不明の物質は、ふつうの物質の5倍ある。もはや、我々の知っている物質のほうが、マイノリティだ。ついつい、自分の世界にあふれているものを「ふつう」としてしまう。気をつけないといけない。

専門用語で、正体不明の物質は「ダークマター」、正体不明のエネルギーは「ダークエネルギー」という。宇宙の7割を占めるダークエネルギーについては、次回以降に話していきたい。

今回はダークマターにスポットライトを当てる。といっても、スポットライトを当てても、何も見えない。ダークマターは、目に見えない物質なのだ。

ダークマターは、謎の物質である。謎であるが、ヒントはある。

ダークマターの特徴

ダークマターの特徴

・見えない
・触れない
・でも質量はある

まるで透明人間のような、つかみどころのない物質だ。

そもそも「見える」とは、どういうことか。

人間の場合、瞳孔から入った光が、水晶体というレンズで屈折して網膜のセンサーにあたり、脳に認識され像を結ぶことで「見える」。このようにして見えるのは、光(電磁波)の一部である「可視光」だ。

広い意味では、物体から届く光(電磁波)がセンサーによって感知されれば、それは「見えた」ことになる。

getty images

例えば、サーモグラフィや暗視カメラは、「赤外線」を検知する。真っ暗闇のなかで田畑を荒らすイノシシは、人間の目では見えないが、暗視カメラであれば犯行の様子を「見る」ことができる(そして翌朝には、見たくない現実が待っている……)。

例えば、天文学で使われる望遠鏡は、可視光以外にも、「X線」「紫外線」「電波」といったさまざまな周波数の電磁波を観測することで、生まれたての星、爆発する星、系外惑星やブラックホール(の影)などのいろんな天体を見ることができる。

いろいろな電磁波=getty images

しかし、ダークマターは、そういった電磁波を出していない。だから見えない。

さらに、ダークマターは、見ることができないだけでなく、触ることもできない。

日常生活のなかで、我々が(ふつうの)物を「触って感じる」ことができるのは、「電磁気力」のおかげである。物と物が触れた部分をズームアップして見ると、原子と原子が触れあっていて、それぞれの原子の外側を回る電子と電子が、マイナスとマイナスの電気を持つために反発しあっている。電磁気力があるから、手触りがある。

 

しかし、ダークマターは電磁気力を感じないため、あらゆる物質をすり抜けてしまう。好奇心の琴線には触れるが、物理的に触れることは(まだ)ない。

ではなぜ、そんなダークマターが「存在している」とわかったのか。

1930年代、銀河が集まった銀河団の観測が行われた。個々の銀河の運動を調べると、動きが速すぎた。光っている銀河以外の目には見えない何者かが、重力によって、銀河団がバラバラにならないようにつなぎとめている。

1970年代、恒星が集まった銀河の観測が行われた。個々の恒星の運動を調べると、動きが速すぎた。銀河中心に密集している恒星以外の目に見えない何者かが、重力によって、銀河がバラバラにならないようにつなぎとめている。

銀河をとりまくダークマターの想像図(出典=ESO/L. Calçada)

コピペのような文章に凝縮して恐縮だが、このように、「見えるものを観たら、見えないものが視(み)えてきた」のである。ていねいに観察することは大切だ。

目には見えないけど、そこには質量のある物質が存在し、重力を及ぼしていて、銀河団や銀河の形を維持している。

我々は、つかみどころのない物質にがっしりとつかまれていたのだ。

ダークマターは正体不明ではあるが、まったくのお手上げ状態というわけではない。1970年代から、さまざまな候補が考えられ、検出を目指した研究が行われてきた。

ダークマターの候補として、未発見の新しい「素粒子」が有力視されている。

 

あらゆる物質は、原子からできている。原子は、中心にある原子核のまわりを電子がまわるシステムである。原子核は、陽子と中性子からできていて、陽子と中性子は、「トップクォーク」や「ダウンクォーク」という素粒子からできている。電子はそれ以上に分解できない素粒子の一種だ。

 

「標準理論」とよばれる理論では、17種類の素粒子が知られている。知らないうちに親戚がいっぱいいてびっくりする。

素粒子の研究者は、標準理論より上の「大統一理論」、さらに上の「量子重力理論(超ひも理論)」を完成させることを目指している。

 

これらの理論のなかでは「超対称性粒子」という粒子の存在が予言されていて、そのなかの「フォティーノ」「ジーノ」「ヒグシーノ」という粒子が混合状態を成している「ニュートラリーノ」が、ダークマター候補として有力視されている。なんのこっちゃ。

 

余談だが、イタリア語の接尾辞「イノ ino」は「小さい」を意味する。たとえば、バンビーノは小さな男の子を意味する。イタリアの風が吹く超対称性粒子の名前は、いつか「陽子」「電子」「涼子」「優子」「桜子」のような「〇子」という趣のある和名がつくようになるんだろうか。

 

さて、超対称性粒子は理論上の予言はされているが、まだ1つも見つかっていない。

他には、超対称性とは別の観点から存在が予言される「アクシオン」という素粒子も候補にあげられている。いずれにしても、この宇宙に本当に存在するのかさえ、わかっていない。

 

候補の粒子がダークマターだとしたら、どのような兆候が見られるかを予測し、その予測を検証するために、独自の実験装置を開発して、実証にのぞむ。

見えないものをどうにかして見ようと、触れないものをどうにかしかして触ろうと、宇宙(国際宇宙ステーション、人工衛星)、地上、南極の地下に検出器を設置して探索が行われている。

研究者たちは、日々、改善を続けながら取り組んでいるが、発見から約90年、探索から約50年経っても、いまだダークマターは見つかっていない。

ダークマターは、138億年前の宇宙初期につくられたと考えられている(誕生から38万年後の宇宙に、ダークマターが存在する痕跡が残されている)。

時間が経つにつれて、ダークマターは、だんだん濃い部分と薄い部分に分かれていく。濃いところは重力が強いため、ふつうの物質を多く集めるようになり、恒星や銀河がつくられるようになった。

getty images

つまり、ダークマターが存在していなければ、今のような世界はなかったのだ。

どうやら我々は、正体不明のダークマターに感謝しないといけないらしい。まるで生産者の顔が見えない食材に感謝するように。

 

いや、考えてみれば、もともと生産者の顔が見えなくても感謝すべきなのだ。お金を払えば手に入ることを、当たり前だと思ってはいけない。畜産業も、水産業も、農業も、狩猟業も現場は大変だ。

銀河のような華々しい世界の裏には、それを支える影の存在がある。ダークマターが銀河団や銀河をつないでくれているように、自分の知らないところで、いろんな人が縁をつないでくれたおかげで、今があるはず。

 

我々が感謝すべきダークマターはいったいどんな物質で、どうやってつくられたのか。闇に包まれた謎を研究者が明らかにしてくれる日を待ちわびつつ、今夜は、よりいっそうの感謝をこめて鍋を堪能しようかな。先輩ハンターが仕留めてくれたイノシシ肉をたっぷり入れて。

雪山でイノシシを追う筆者。自分で仕留めたことは、一度もない。弾の軌道が思うようにいかないのは、ダークマターのせい……ではないか=筆者提供

 

(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年12月7日に公開した記事を転載しました)