目次

  1. 慌てたau PAYとd払い、有料化を先送り
  2. PayPay「有料化後も使い続けたい」は37%
  3. PayPayと楽天ペイの2強時代に突入か

10月1日に始まった、PayPayの加盟店手数料の有料化。

それに合わせるように楽天ペイが発表した「1年間手数料無料」宣言が、キャッシュレス業界に大きな波紋を広げています。

 

PayPayは8月19日、それまで3年間無料にしてきた手数料を10月1日から有料化する、と発表しました。

そこへ楽天ペイが8月25日、「中小規模の新規加盟店の手数料を10月1日から1年間無料にする」と言い出したのです。

楽天ペイはそれまで一貫して3.24%の手数料を徴収してきたので、みんな驚きました。

 

慌てたのが、伝統キャリア組であるau PAY(KDDI)とd払い(NTTドコモ)です。

両者ともPayPayと同様、それまで手数料は無料で、10月から有料化を始める矢先だったからです。

もし予定通り有料化したら、自社の加盟店が PayPayの加盟店とともに、一斉に楽天ペイに流れてしまう可能性があります。

 

このためau PAYが8月30日、手数料無料キャンペーンを2022年9月末まで1年間延長すると発表しました。

続いて、d払いも8月31日、新規加盟店の手数料を1年間無料にすると発表したのです。

公表データを元に筆者作成

こうして無料組が楽天ペイ、au PAY、d払いの3者、有料組がPayPayのみという構図ができました。

一夜にして業界がひっくり返った形で、このクーデター的状況を読み切れた人は誰もいなかったのではないでしょうか。

 

QRコード決済サービスの競争は今後どうなるのでしょうか。

考えられるのは以下3つのパターンです。

 

1. PayPayが1強の地位を守り、他を寄せ付けない

2. PayPay、楽天ペイ、au PAY、d払いがそれぞれ同規模になる

3. PayPay離れが加速し、他3者よりシェアを落とす

きめ細かな営業で加盟店を開拓し、日本各地に浸透したPayPay。10月から手数料の有料化にかじを切った=2020年8月、広島県府中市、朝日新聞社

近い将来を予想するのに最適な調査結果が出ています。

PayPayオーナー500人にアンケートし、9月中下旬に実施されたMMD研究所の調査です。

調査結果の概要は次のようなものでした。

 

「手数料が有料化しても継続利用したい」という人は全体の37.0%でした。

その理由を尋ねると、最多は「キャッシュレス時代に適応しないといけないと感じるから」で47.6%を占めました。

次に「最も使われているスマホ決済だと思うから」が39.5%で続きました。

つまり、継続したい人たちは売上への寄与よりも、キャッシュレス時代への対応に重きを置いているのが特徴的でした。

 

一方、「無料期間が終わる時に解約する」と「今すぐ解約したい」を合わせると、全体の21.8%を占めました。

理由で最多だったのが「PayPayにより手数料がまかなえるほど利益が生まれていないから」で、57.8%とダントツでした。

 

中小の加盟店の多くは売上金額が小さく、手数料分を稼ぐのも大変なのでしょう。

PayPay側が手数料を1.6%まで下げてくれたとはいえ、ただではありません。

このため、手数料を払うくらいならやめた方がましと考えるオーナーは多いようです。

中小の小売店、特に飲食関係はコロナ禍で大打撃を受けており、今後も解約が増えるのではないでしょうか。

調査では、PayPayの解約意向を示した109人に「PayPay解約後に導入を検討するQRコード決済サービスがあるか」と聞いています。

「ある」と答えたのが20人(18.3%)で、うち10人(50%)が「楽天ペイ」と答えました。

母数が少ないとはいえ、楽天ペイがこれほどの支持を集めたのには驚きました。

PayPayの背中を追う楽天ペイ。今回の手数料無料化で、PayPayのシェアを奪うのか注目される。写真はSuicaとの連携を発表した記者会見の様子=2019年6月、東京都千代田区、朝日新聞社

なぜ多くの人がPayPayの後継として楽天ペイを挙げたのでしょう。

私なりに考えると理由は大きく次の2点です。

 

1. 楽天ポイントがたまりやすい楽天経済圏で生活するユーザーは多く、集客効果が高まるから

2. 楽天はアクワイアラ(クレジットカードが使える加盟店の新規開拓や、既存加盟店の管理業務を担う会社)でもあるのでクレジットカードの導入も早くできるから

 

一方、au PAYやd払いを挙げたのは各4人(20%)に過ぎません。

伝統的なキャリアが運営するau PAYとd払いではなく、キャリアの経験は浅いものの旅行、銀行、クレジットカードと様々な顧客接点を持つ楽天の可能性を評価する人が多い、という結果になりました。

公表データを元に筆者作成

こうした調査を見ていくと、今回の楽天ペイの「無料宣言」をきっかけに、ペイ業界は大きく変わっていく可能性を秘めていることが分かります。

PayPayの1強が長く続きましたが、今後は楽天ペイがPayPayに対抗する機会が増えるのではないでしょうか。

QRコード決済は2強対決の時代を迎えようとしているのです。

  

(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年11月1日に公開した記事を転載しました)