コロナ禍で注目 かざすだけの「タッチ決済」どこまで広がる?

かつて“キャッシュレス後進国”と言われた日本。近年はクレジットカードや電子マネーの利用が進み、「どのカードがお得?」「ポイント還元率は?」といった会話も日常の風景になりました。業界を30年以上取材してきた岩田昭男さんが、“キャッシュレス狂騒曲”を冷静に見つめ、利点や問題点を分析します。
かつて“キャッシュレス後進国”と言われた日本。近年はクレジットカードや電子マネーの利用が進み、「どのカードがお得?」「ポイント還元率は?」といった会話も日常の風景になりました。業界を30年以上取材してきた岩田昭男さんが、“キャッシュレス狂騒曲”を冷静に見つめ、利点や問題点を分析します。
新型コロナウイルスを担当する西村康稔経済再生相が5月3日、キャッシュレス決済に言及する場面がありました。
出演したテレビ番組で、紙幣に付着した新型コロナウイルスは約1週間生きているとして「お金は世の中回ってきて自分のところに来るが、1週間分の誰かのウイルスがついていることがある」と説明。
「手洗い、消毒は徹底してもらうと同時に、できるだけキャッシュレスでやってもらうのがいい」と話しました(5月3日付朝日新聞デジタル記事より)。
これにマスコミや世論は敏感に反応し、SNS上では大臣の話を批判する意見が相次ぎました。
例えば「お札に感染というのはちゃんとした根拠があるのか」「入国管理がガバガバなのに、そこにはダンマリだよなぁ」「そんなささいな個人の行動を呼びかけるより、オリンピックやめた方が比較にならないほど効果があるけど」といった声です。
しかし、ことキャッシュレスに関しては「追い風」が吹き始めたと言えるでしょう。
現金=コロナ=良くないもの、というイメージが広まることで、キャッシュレス(クレジットカードや電子マネー、QRコード決済など)に対する人々の関心が高まるからです。
特に清潔さを売りにするタッチ決済(コンタクトレス決済)は、この報道によってさらに注目を集めることになりました。
タッチ決済とは、非接触ICチップを用い、クレジットカードを端末にかざすだけで買い物ができる便利なサービスのことです。
様々なメリットがあります。
クレジットカードを端末にかざすだけで、スピーディーな決済ができます。
カードを端末に差し込んだり、暗証番号を打ち込んだり、本人確認のサインをしたりという手間がありません。
便利で使いやすく、しかも清潔です。
ただし、不正利用防止のため、基本的に各社とも1回の利用上限額は1万円に設定され、超える場合はサインや暗証番号が必要になることがあります。
このサービスは、クレジットカード業界が一丸となって推進しています。
国際ブランドごとに言うと、ビザが「Visaのタッチ決済」、マスターカードが「Mastercardコンタクトレス」、ジェーシービーが「JCBコンタクトレス」、アメリカン・エキスプレスが「アメックスのタッチ決済」の名でサービスを展開しています。
一方、国内のカード発行会社では、三井住友カード、JCB、アメックス、NTTドコモ、エムアイカード、クレディセゾン、オリコカード、アプラス、ジャックス、楽天カードなど大手がそろって参加しています。
世界にタッチ決済が広まるきっかけになったのが、2012年のロンドンオリンピックと言われています。
多くの観光客が訪れることを見込み、ロンドン市内の飲食店やバスなどにタッチ決済用の端末が多数導入されたのです。
現在ではオーストラリア、台湾、シンガポール、イギリスなど200の国と地域で導入され、急速に広がっています。
やはり端末にかざすだけで支払いが終わる手軽さが受けているのです。
日本ではVisaグループが最も先行しています。
2020年2月、タッチ決済に対応したVisaブランドのクレジットカードの発行枚数が2019年末時点で1900万枚を超えたと発表し、話題になりました。
タッチ決済は、今やコンビニやスーパー、ファミリーレストランなど多くの店で使えるようになっているのです。
お手持ちのカードを見て下さい。
Wi-Fiの電波を横にしたようなマークが券面にあれば、タッチ決済に対応しています。
また、タッチ決済が使える店には同じマークのステッカーが貼ってあります。
今後、クレジットカード業界はますますタッチ決済に力を入れていくでしょう。
ここで気になるのが、非接触型の決済と言えば、国内にはSuicaという巨人がいることです。
Suicaは電子マネーなので、機能は少し異なりますが、かざして決済をするという点では同じです。
タッチ決済とSuicaの技術的な違いはどこにあるのでしょう。
実はタッチ決済もSuicaも同じ非接触ICチップを使っています。
NFC (Near Field Communication=近距離無線通信規格)という非接触通信技術です。
ただ、NFCの中で規格が分かれています。
タッチ決済の方はType A/Bと呼ばれる規格を使っています。
もともと買い物用に開発された規格で、路面電車などの乗り降りにも使えます。
世界標準の規格で、欧米やアジア諸国でも広く使われています。
一方、Suicaの規格はType Fと呼ばれます。
FeliCa(フェリカ)と言えばピンとくる人も多いでしょう。
2001年に実用化され、もう20年も全国の鉄道やバスで使われている働き者です。
ただ、FeliCaは日本とアジアの一部で使われているに過ぎず、Type A/Bとの互換性もありません。
ここが両者の決定的な違いです。
もともとFeliCaは交通乗車券としてのSuicaを作るため、ソニーによって開発された規格です。
通信速度は速いのですが、その分コストも高く、普及が遅れています。
海外での利用は少ないものの、国内の交通事業者をほぼ制覇している点は高く評価されるべきでしょう。
かざしただけで支払いができる仕組みについても簡単に触れておきます。
私が20年前、Suicaに関心を持ったのもまさにこの点でした。
カードをかざすだけで「チャリン」と買い物ができ、まるで魔法の杖を使っているようで、すっかり魅入られてしまいました。
科学的にはこういう仕組みです。
端末に電気を通すと、周りに電磁ドームができます。
そこにSuicaのカードを近づけると、カードに埋め込まれたICチップがアクティブになり、チップに書き込まれた金銭情報を無線通信でやりとりするのです。
電磁ドームの届く範囲は規格によって決まっています。
一般的に、だいたい10~20センチ以内に近づけば通信できます。
こうした仕組みを知ってから、私はにわかに非接触決済に関心を持つようになり、いまだにSuicaを使い続けています。
皆さんもこの仕組みを知った上でSuicaやタッチ決済を使うと、買い物や電車の乗り降りがより楽しくなるでしょう。
最後に今後の見通しについてお話しします。
クレジットカードやスマホを使ったタッチ決済は、今後ますます普及していくでしょう。
ただし、その裏で大きな戦いが起きると私はみています。
現在、交通分野はJR東日本が運営するSuicaの独壇場です。
しかし、ここにタッチ決済を展開するVisaグループが進出しようと手ぐすねを引いています。
すでに地方の複数のバス会社でVisaのタッチ決済が導入され、2021年4月からは大阪と和歌山を結ぶ南海電鉄でも実証実験が始まりました。
交通系事業というのは毎日確実に収入があるため、国際ブランドを含めた多くのカード会社にとって魅力的に映るでしょう。
これに対抗してSuicaがどんな手を打ってくるのか、注目です。
コロナ禍が明けたら、交通系の非接触決済を取り巻く環境が一変しているかもしれません。
(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年5月24日に公開した記事を転載しました)
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。