ファンの声から生まれたスイーツ 「資さんうどん」のコロナ打開策
福岡県を代表する飲食チェーン「資さんうどん」3代目の佐藤崇史さん(48)は、創業家でも従業員でもなく、いちファンから3代目社長となり、創業者の理念を守りながら進化させることに注力してきました。後編では通販サイト開設やファンブックの制作、ファンの声から生まれた和スイーツの開発など、コロナ禍での積極策の数々に迫ります。
福岡県を代表する飲食チェーン「資さんうどん」3代目の佐藤崇史さん(48)は、創業家でも従業員でもなく、いちファンから3代目社長となり、創業者の理念を守りながら進化させることに注力してきました。後編では通販サイト開設やファンブックの制作、ファンの声から生まれた和スイーツの開発など、コロナ禍での積極策の数々に迫ります。
2020年からのコロナ禍による影響は、資さんうどんも例外ではありませんでした。
店舗の3分の2は24時間営業でしたが、時短営業を余儀なくされ、密を避けるために座席数を減らしたことなどもあり売り上げにも影響がありました。「それでも緊急事態宣言が明けるとお客様が戻ってきます。浮き沈みの激しさを感じた2年でした」
そんな状況下でも、佐藤さんたち資さんチームはすぐに行動を起こしました。テイクアウトのニーズの高まりを受け、持ち帰り容器の見直しや専用メニューの開発、宅配サービスを新たに始めました。
緊急事態宣言が出た20年4月には、急ピッチで通販サイト「資さんストア」も立ち上げました。
「資さんうどんを食べることが北九州の実家に帰った時の楽しみだったけど、帰省ができず悲しいというお客様の声に応えるべく、複数部署横断のプロジェクトメンバーによる約1カ月の突貫工事で通販サイトを立ち上げ、何とか大型連休に間に合わせました」
「資さんストア」では、定番の肉うどんやぼた餅から、メッセージカードや保冷バッグを付けた「母の日ギフト」など、シーズンに合わせたキャンペーン商品も展開しています。
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ローカル飲食店がコロナ禍で生き残るために、大切なことは何でしょうか。
佐藤さんは「お客様と従業員を大事にすることに尽きる」と言います。
「コロナ禍による人手不足で残された従業員の負担が上がると、どんなに素晴らしい商品があってもお客様のニーズに応えられなくなります。お客様と従業員、両方の声に耳を傾け、問題を解決していく意思決定をすることが我々経営陣の役割です」
コロナ禍で飲食店も非接触などのデジタルトランスフォーメーション(DX)が急速に進んでいます。
「新たにDXという武器が増え、資さんうどんも一部店舗でタッチパネルやセミセルフレジ、モバイルオーダーを導入しましたが、まだ試行錯誤中です。従業員に過度に負担がかからず、お客様がより便利になる。その両立を進めることが必要です」
21年夏、資さんうどんファンに衝撃が走りました。「資さんブック」(シティ情報ふくおか)というファンブックが発売されたのです。
創業者の大西章資さんが店を立ち上げた時のエピソードに始まり、年表、当時を知る従業員たちの座談会、代表的なメニュー紹介、さらには素材や器についてのこだわり、従業員たちや資さんファンたちの声などが、全128ページに盛り込まれた濃厚な内容です。
近年、数多くのチェーン店でファンブックが発刊されていますが、内容の量と質ともに「資さんブック」は頭一つ抜けた存在のように感じます。
ファンブックを立ち上げようと思ったのは、なぜでしょうか。
「元々は会社設立40周年を記念した社史を作る企画から始まりましたが、我々が大事にしているのは資さんの従業員であり、資さんファンの皆様です。生命線であるファンの方にも広く楽しんで頂けるように、社史ではなくファンブックを作ることになりました。コロナ禍で一時制作が中断しましたが、2年がかりで完成しました」
かつて佐藤さん自身が「資さん」の味を勧められたように、全国にいるファンは「北九州に行ったら資さんうどんに行くといいよ」と広めてくれるといいます。
あらゆる方面から資さんうどんを捉えた圧倒的な情報量が丁寧に編集され、心地良く読ませてくれる一冊になっています。
攻めの仕掛けはさらに続きます。21年11月には、ブームになったイタリアのスイーツ「マリトッツォ」をアレンジした「ぼたトッツォ」を新発売しました。
21年11月にオープンした北九州空港近くの製麺直売所や一部店舗でのみ取り扱っている、数量限定商品になります。
ぼた餅は元々、資さんうどんの人気商品でした。そんな中SNS上で「資さんがマリトッツォを作ったら面白いのにな」、「ぼたトッツォになるのかな」という声を知ったのが、きっかけになりました。
「資さんのぼた餅は甘さが控えめなので、生クリームと組み合わせてもおいしいのではないかと思い、工場メンバーが試作品を作ってくれました」
実際に作ってみると量産体制を取ることが難しく、一度はお蔵入りしかけたといいます。それでも製麺直売所の責任者や従業員たちの「ぼたトッツォを目玉商品として売りたい」という熱い気持ちが推進力になり、販売が実現しました。
発売後は行列ができるなど大きな反響がありました。数量限定ですが、予約すれば確実に手に入るという体制を整えています。
「資さんではお客様からの直接のご要望やご意見はもちろんのこと、GoogleやSNSに書き込まれたお声にもできるだけ目を通し、大切にするよう心がけている」とのことです。それが今回、意欲的な社員の後押しもあって「ぼたトッツォ」という形になりました。
22年2月には、「ぼたトッツォ」に続く第2弾の「ぼたケイク」も発売しました。ぼた餅の上に生クリームや季節のフルーツをトッピングしたもので、これまでに「あまおうとベリー」「トロピカルマンゴー」を展開し、人気商品となっています。
創業時から続くチャレンジ精神が、新たなブランド価値を作り出しました。
佐藤さんに、お勧めメニューを聞いてみました。
「初めて資さんうどんにいらっしゃった方には、鉄板メニューの肉ごぼ天うどんをぜひ食べてもらいたいです。先におでんを食べて、肉ごぼ天うどんを食べながらかしわおにぎりも食べてもらい、最後はぼた餅で締めていただくのもおすすめです。さらにご家族へのお土産もお持ち帰りして頂いたら良いのかなと思います」
「社長それ、フルコースです!」と突っ込みたくなるほど、自社の商品への愛に満ちていると感じました。
第2創業期を迎えている資さんうどんが描く未来は、どのようなものでしょうか。
「お客様のニーズに応えて、従業員が働きやすい環境を作ることに注力しながら、北九州から九州、そしてゆくゆくは『日本の資さん』になっていきたいです。今は中身をさらに進化させながら、準備をすることだと思っています。関西や関東への出店も夢のひとつ。具体的なことは決まっていませんが、いつかやりたいと思います」
資さんうどんは22年5月現在、56店舗、従業員約2千人以上、メニュー数100以上を誇る一大チェーンとなっています。
顧客と従業員の声に耳を傾けて行動に移すスピード感、創業者のDNAを受け継ぎつつ時代を見据えて制定した経営理念、失敗を恐れず試行錯誤を重ねる姿勢、何より佐藤社長をはじめ、従業員の皆さんの資さんうどんへの飽くなき愛が、成長の土台になっていると感じました。
北九州のソウルフードとして愛されてきた資さんうどん。第2創業期の中で、強くてしなやかな組織に進化を続ける今、「北九州の資さんうどん」が「九州の資さんうどん」になる日も遠くはありません。
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