「資さんうどん」の創業精神が進化 会社一丸で取り組む人材育成
北九州市発祥の「資(すけ)さんうどん」は「ウエスト」「牧のうどん」と並ぶ三大福岡うどんチェーンとして親しまれています。ソニーやファーストリテイリングなどを経て転身した佐藤崇史さん(48)が2018年、3代目社長として経営を引き継ぎました。創業家でも従業員でもありませんでしたが、ファンとのつながりを大切に、創業の精神を軸に進化を恐れない人材育成やユニークな新商品開発などを仕掛けています。
北九州市発祥の「資(すけ)さんうどん」は「ウエスト」「牧のうどん」と並ぶ三大福岡うどんチェーンとして親しまれています。ソニーやファーストリテイリングなどを経て転身した佐藤崇史さん(48)が2018年、3代目社長として経営を引き継ぎました。創業家でも従業員でもありませんでしたが、ファンとのつながりを大切に、創業の精神を軸に進化を恐れない人材育成やユニークな新商品開発などを仕掛けています。
資さんうどんは1976年、大西章資(しょうじ)さん(故人)が北九州市で創業し、「株式会社資さん」が運営しています。
その5年前の71年、大西さんがダイビング仲間から北九州市戸畑区天神の「まるやすうどん」の譲渡を持ちかけられたことが始まりでした。しかし、店は赤字。大西さんにうどん作りのノウハウはありませんでしたが、試行錯誤を重ね、約2年かけて納得のいく味を完成させました。
いつの間にか繁盛店となり、76年、自身の名前から1文字とった「資さんうどん」1号店がオープンしました。
福岡名物の「ごぼ天うどん」や「丸天うどん」、ボリューム満点の「カツとじ丼」、あんこたっぷりの「ぼた餅」など、100種類以上の豊富なメニューを誇ります。今では福岡、熊本、大分、佐賀、宮崎、山口各県に56店舗を構え、従業員2千人以上を擁する一大チェーン店です。
佐藤さんは2018年、根強いファンを抱える資さんうどんの3代目社長に就任しました。ツイッターでは来店者にお礼のコメントを書くなどこまめに発信を続け、個人アカウントのフォロワー数は、1万1千人(2022年5月現在)にのぼります。
佐藤さんは、うどんチェーンの社長としては異色のキャリアの持ち主です。ソニー、ボストン・コンサルティンググループを経て、ユニクロを運営するファーストリテイリングに勤めました。その後は東京の飲食系で仕事をしていました。
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経営変革や戦略系のポジションに就いていた経験が長く、ビジネス畑出身とも言えます。なぜ資さんうどんの経営に携わるようになったのでしょうか。
「2011年ごろ、出張で訪ねた北九州で同僚に勧められて資さんうどんを初めて食べました。本当においしくて感動したんです。こんなお店がたくさんある北九州って幸せだなあと思いました」
創業者の大西さんが15年に亡くなり、17年に会社関係者から佐藤さんに「これから一緒に資さんを支えていく人を探している。経営者にならないか」という誘いがかかりました。
「その時、7年前の味が瞬時によみがえり、声がかかった直後の週末には北九州に飛び、資さんうどんを味わいました。一気に8店舗も巡ったのですが、どこも本当においしくて店にも活気がありました」
佐藤さんは資さんうどんの可能性を確信し、決意を固めました。
「こういうお店だからこそ、北九州に来た人に地元の人が勧めるんだなと実感しました。それってソウルフードですよね。とても大きな可能性を感じ、ここで働く人たちがもっと幸せになるといいなと思ったのです」
佐藤さんは18年3月、資さんの3代目社長に就任しました。7年前の出張で食べたうどんが「運命の一杯」となりました。
18年当時、資さんうどんは第2創業期を迎えていました。「創業者はすでにこの世におらず、私はお会いしたこともありません。それでもその時代からの従業員は、創業者から直接薫陶(くんとう)を受け、DNAを受け継いでいました」
創業者は味や接客のすべてが「お客様を喜ばせるため」と考え、試行錯誤やチャレンジ精神を絶やさず、すべての仕事にしっかりと理由付けをしていたといいます。
「しかし、創業者が亡くなってから入社した従業員は直接薫陶を受けていません。また、出店エリアも徐々に広げていく時期でもありました」
これからは創業者を知らない世代の従業員がどんどん増えていきます。「創業者のDNAが薄れていき、従業員が別々の方向を向いてしまう可能性があります。今は大丈夫でも、将来資さんうどんが別の店になってしまうのではないかという懸念を覚えました」
過去、創業者の時代に北九州から博多を含む福岡市周辺に初出店した際、福岡市周辺で普段食べられているうどんが同じ福岡県でも北九州と比べて、だしの味も麺の固さも違い、受け入れられるのに時間がかかったといいます。
「安易に博多のうどんに寄せることに、創業者が反対したと聞いています。そうして時間をかけて、資さんの味が受け入れられるようになったという歴史があります」
事業の発展には新規出店が必要ですが、同時に未来の「資さんうどん」をもっと輝かせるために、守らなければいけないものがありました。
「『お客様を喜ばせる』という創業者のDNAと、これまでの先輩も含めれば1万人以上の従業員の皆が築き上げてきたお客様との信頼を、きちんと継承して進化させていくことが重要だと感じたのです」
会社として取り組んだのが、経営理念の策定プロジェクトでした。
「我々は何者で、どこを目指すのか。それをはっきりさせなければなりません。社会がどんどん変化する中で、資さんうどんが進化するためのよりどころは経営理念にしかないのです」
これまでは、創業者である大西さんから直接薫陶を受けた従業員たちがそのDNAを受け継いでいました。そのため、経営理念は明確な言葉になっていなかったのです。
佐藤さんは店長から厨房、ホール、工場のスタッフに至るまで、あらゆる従業員と話す中で、資さんうどんへの愛が強い従業員が多いことを感じました。その想いを大切にしながら、資さんうどんが今後向かうべき方向性を示す必要があると考えたのです。
そして、選抜した社内メンバーとともに経営理念策定プロジェクトを発足させ、ワークショップや意見交換会を重ねました。そのプロジェクトは半年もの期間を要しました。
そして19年、ついに新しい経営理念が完成しました。それは、「幸せを一杯に。」という言葉に集約されています。
これからの未来、そしてあらゆる場所に資さんうどんがあっても「お客様を喜ばせたい」という創業者の思いを軸に進化し、一杯を通じて幸せを分かち合う。そんな意志が込められています。
新しい経営理念はカードにして全従業員に配布し、店内にも掲げられました。従業員はもちろん、お客様や取引先に対しても、資さんうどんが大事にしていることを伝えたいと考えたからでした。
「今働いている2千人以上の従業員に経営理念を浸透させるには、言葉だけではなかなか伝わらない」と、ブランドムービーも制作。カード、ポスターなども加えた様々なツールで普及に取り組みました。
現在は、従業員一人ひとりをさらに輝かせている取り組みとして、人材育成に注力しています。
「昔は、創業者の背中を追っていけば会社は良くなると信じてやってきました。しかしこれからの変化の時代において、誰か一人を追うというやり方には限界があると思いますし、会社の規模としても難しくなっています」
資さんの人材育成は従業員一人ひとりが自ら考えて行動するための考え方や指針を身につけることを目指し、組み立てられています。
まずは経営陣自らが講師となり、エリア長への教育から着手。真の商売人としてのスキルを身に付け、「幸せを一杯に。」を体現するために、様々な議論や実践を用いたプログラムを実施しました。
そして現在は、外部の専門的な講師にも協力を依頼し、内容の進化や対象の拡大を進めています。
「どれだけ組織が大きくなっても、中心にある経営理念にすぐに立ち返ることで、従業員一人ひとりが自ら動けるようになる。そんな組織を目指すべく人材育成の教化に取り組んでいるのです」
また、新店オープンに向けて従業員のレベルを引き上げるため、専属トレーナーによる教育にも力を入れています。
「新規出店地域で採用した従業員は『資さんうどん』を知らない人ばかりです。調理方法や接客についてのマニュアルを用意した教育は可能であっても、それだけだと表面的になってしまう可能性もあります。根本にある『幸せを一杯に。』という経営理念や『お客様を喜ばせたい』という資さんうどんのDNAを伝えていくために、専属トレーナーによる教育を行っていくことにしました」
「既存の店舗で資さんの経営理念を体現し、人に教えるのが好きな人や得意な人に専属のトレーナーになっていただき、新店の現場で一緒に働きながら、言葉では伝わりにくいことまで伝え、落とし込むようにしているのです」
一つひとつの作業に宿る理由から、技術や接客に至るまで、資さんが大切にしている経営理念の「幸せを一杯に。」を実現するために欠かせない仕組みになっています。
※後編は通販サイトの開設やファンブックの制作、新感覚のスイーツ「ぼたトッツォ」の開発など、コロナ禍からの打開策に迫ります。
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