「常に新しいことを」 アイデア商品連発するアーネスト2代目の着眼点
新潟県三条市のアーネスト株式会社は、アイデアあふれる日用品や生活雑貨を企画・販売する会社です。のりを型抜きしてデコ弁を作れる「にこにこパンチ」など、ヒット作を量産してきました。創業者の息子である鈴木一矢さん(53)は、2021年5月に社⻑に就任。クラウドファンディングや新規ブランドの立ち上げなど、積極的に事業拡大に取り組んでいます。新しいことにチャレンジする気概や今後の展望について聞きました。
新潟県三条市のアーネスト株式会社は、アイデアあふれる日用品や生活雑貨を企画・販売する会社です。のりを型抜きしてデコ弁を作れる「にこにこパンチ」など、ヒット作を量産してきました。創業者の息子である鈴木一矢さん(53)は、2021年5月に社⻑に就任。クラウドファンディングや新規ブランドの立ち上げなど、積極的に事業拡大に取り組んでいます。新しいことにチャレンジする気概や今後の展望について聞きました。
目次
金属加工を中心としたものづくりの街として、古くから栄えた新潟・燕三条。アーネストは1981年、鈴木さんの父・邦夫さんが創業しました。
創立10周年を機に、当初の「アイホー総業」から「アーネスト」に社名変更。自社工場を持たない「ファブレスメーカー」の強みを生かし、カテゴリーにとらわれない商品を開発してきました。調理器具から、「にこにこパンチ」「おむすびニャン」などのお弁当グッズ、洗濯・掃除用品まで、商品群は多岐にわたります。従業員数は70人余りです。
創業家に生まれた鈴木さんですが、「会社を継ぐ思いは特になかった」と昔を振り返ります。学生時代は北海道の温泉やホテル、スキー場などでアルバイトを経験。稼いだお金で北海道を周遊するなど、学生生活を満喫したそうです。その後、すぐには就職しませんでした。
「沖縄・西表島のユースホステルで、しばらく過ごしていました。お金が尽きた頃、夏は石垣島のリゾートホテル、冬は白馬のスキー場で働くという感じで、アルバイトを転々としていましたね」
やがて、そろそろ何か始めようと父に相談しました。すると「これからは中国が伸びる。勉強してこい」と言われ、中国の大学へ留学することに。
しかし、30年前の中国は現在のようなIT先進国ではなく、不便な生活を強いられたといいます。4年間の留学生活を続けることに限界を感じた鈴木さんは、1年で帰国を決めました。
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帰国後、大阪に本社を置くプラスチックメーカーに就職し、自社商品の販売部門で社会人生活をスタートします。10年ほど勤めた後、結婚して子どもが生まれ、ライフステージの変化を経験。「地元の新潟へUターンしたい」という思いが芽生えたことで、父の経営するアーネストへ入社することになったのです。2000年のことでした。
「父からは仕事や後継ぎのことに関して、何も言われずに半生を過ごしてきました。ただ、きょうだいは妹2人です。男は私1人なので、いずれ継ぐことになるだろうと、漠然と思っていました」
アーネストでは物流業務を2年間担当し、その後は営業に従事しました。父親の会社で働くことへのプレッシャーは特になかったといいます。
鈴木さんが社内で頭角を現すきっかけになったのが、2006年に始めたテレビショッピングでした。
「当時、カタログ通販やチラシによる販促だけでは売上が頭打ちになりつつありました。さらに、大きな販路である生協との取引に変更があり、売上に影響が出そうでした。打開策として着目したのがテレビショッピングです。大手のQVCジャパン(千葉市)と取引を始めると、売上年1億円の大口顧客となり、事業成長のエンジンになりました」
後に訪れたデコ弁ブームでは、時流に乗ったお弁当グッズを開発。実店舗を中心によく売れました。
長く営業を取りしきる中で、特に力を入れたのが販路拡大です。営業担当者が各所に顔を出し、「どこに行ってもアーネストがいるね」と言われたそうです。
「家電量販店やホームセンターなど、流通を押さえることを重視していました。地道な営業活動で、拡販の努力を怠らなかったことが、今の経営の礎になっています」
鈴木さんの役職は部長、専務と次第に上がりました。2019年にはクラウドファンディングによる応援購入サイト「Makuake(マクアケ)」の活用に挑戦。きっかけは、新潟県の他の企業がマクアケを利用していたことでした。
「身近な成功例があったので、当社も新たな販路を開拓しようと始めました。ただ、アーネストの主力商品である生活雑貨やキッチン用品は、女性向けが中心です。一方、マクアケの主な利用者層は男性。最初はマクアケに載せれば売れると安易に思っていましたが、実際には苦戦を強いられました」
そこで、マクアケ用に男性向け商品の開発を始めました。男性に響きそうな商品は何か、どう紹介したら興味を持ってもらえるか――。試行錯誤の末、2020年6月に掲載したマイクロファインバブルアダプター「爽泡(SAWAWA)」は、目標額を大幅に上回る資金を集めたのです。
「商品の見せ方は徹底的に工夫しました。例えば、掲載写真のモデルに男性を起用したほか、商品説明には『毛穴の汚れを落とす』『気になる頭皮ケア』といった、男性が興味を持ってくれそうな言葉を選びました。結果的に目標額の170倍に当たる3400万円の資金を集めることができました」
売り方のコツをつかんだ鈴木さんは2020年9月、同じ「爽泡」の洗濯用アダプターをマクアケで販売。洗濯機に取り付けるだけで、高級ドラム式洗濯乾燥機と同じマイクロファインバブル洗浄が実現できるとうたった商品です。最終的にサポーターは1万人を超え、1.1億円が集まりました。
マクアケでの大ヒットをきっかけに、メディアからの取材のほか、通販サイトや家電量販店からの取引依頼も増えたそうです。
実はこの頃、鈴木さんは社長就任を意識するようになっていました。社内向けの経営方針発表会で、父から「創業40周年を迎える2021年に、社⻑を息子に引き継きたい。この1年の仕事ぶりを見て判断する」と言われていたからです。
「ついにその時が来たと思いました」
こうしてマクアケのプロジェクトに全力投球し、見事に成功を収めたのです。また、社長に必要な知識や心構えを学ぶため、銀行主催の経営セミナーにも参加。同じような境遇の後継ぎとともに、経営の基礎を固めました。2021年5月、父から社長を引き継ぐことが決まりました。
「2020年はコロナで巣ごもり需要が堅調で、売上高は過去最高を更新しました。父からは『次は100億円を目指せ』と言われています」
ただ、実際に社長に就いてみると、さっそく課題にぶつかりました。ネット販売の値付けをコントロールできないという問題です。「問屋に商品を卸したことで、ECサイトごとに値付けがバラバラになり、収拾がつかない状況になってしまった」と鈴木さんは言います。
「解決策として、バイヤーと直接交渉できる直販の卸し先を開拓しました。今ではだいぶ価格が安定してきました」
事業を継ぐにあたって心がけたことは何かあるのでしょうか。鈴木さんは「肩ひじ張らず、真摯(しんし)に取り組むこと」と話します。
「平社員時代も社長になってからも、意識面は特に変わっていません。今までの仕事の延長線上で取り組んでいます。逆に、頑張ろうと奮起すると力が入ってしまう。冷静に、実直な姿勢で、社長の任務を果たすのが大事です。強いて言えば、私は飽きやすい性格なので、常に新しいことに目を向けています。テレビショッピングもクラウドファンディングも、そんな性格だからうまくいったのかもしれません」
数々の珍しい商品をヒットさせてきたアーネスト。斬新なアイデアが次々に社内で生まれるのはなぜでしょうか。
鈴木さんによると、アーネストでは社員全員が参加する「商品提案会議」を月に1度開き、各自がアイデアをプレゼンするそうです。新商品のアイデア出しを、商品開発スタッフに任せきりにしないこと。それが、毎月数点ペースでの新商品リリースにつながっています。「アーネストでは、社員全員が商品企画者です」
いま鈴木さんの目線は海外を見据えています。アーネストの強みである企画力や商品開発力から生まれた独自商品を、大きく海外展開する野望を抱いているのです。
「中国や韓国、台湾には商品を卸しています。幸い日本と文化が近いので、デコ弁のお弁当グッズなどを中心に売れています。一方、米国や欧州など文化が異なる地域では、まだまだ浸透できていません」
米国の有名クラウドファンディングサイト「Indiegogo(インディーゴーゴー)」にかつて挑戦しましたが、全く売れずに辛酸をなめたそうです。「日本での成功例をそのまま持っていっても通用しない」と学んだといいます。
「欧米人に合わせた商品を開発し、アーネストの知名度を上げ、将来的には越境ECや実店舗の出店も視野に頑張りたいです」
鈴木さんの挑戦は続きます。
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