目次

  1. ふりかけ発祥は大正時代、薬剤師が考案
  2. 「赤しそでふりかけ」の挑戦
  3. 紫色の「縁(ゆかり)」を大切に

炊きたての白いごはんにひと振り、ふた振り。

しそのかぐわしさがほのかに漂えば、食欲は倍増する。

紫色のパッケージが目を引く三島食品(広島市)のふりかけ「ゆかり」。

大人だけでなく子どもにも人気がある家庭の常備食のルーツを調べてみると、2020年に誕生から50年を迎えていた。

ホカホカごはんに「ゆかり」をふりかける=写真はすべて三島食品提供

ゆかりの発売は1970年。

のりやかつお節を使ったふりかけを製造販売していた三島食品の社員の1人が、梅干しの色づけに使われていた赤しそに注目。

ふりかけに使えないか研究開発を続けた成果が実った。

 

それから半世紀あまり。

順調な道のりではなかった。

1970年に発売した初代「ゆかり」のパッケージ

日本でふりかけが商品になったのは大正時代(1912-26年)の初めで、歴史は意外に浅い。

三島食品や業界団体の国際ふりかけ協議会によると、熊本県の薬剤師、吉丸末吉さんが当時の日本の食糧不足、とりわけカルシウムの摂取量が不足していた状況を克服しようと、小魚を乾燥させて骨ごと砕いてごはんにかけて食べるアイデアを思いついたのが始まりだった。

おいしく食べる工夫としてノリやごまを混ぜ、みりんなどの調味料も加えて瓶詰めし、「御飯の友」という商品名で発売したという。

 

比較的安価に生産・販売できたため、栄養補助食品としてふりかけ市場には多くのメーカーが参入した。

いまも残る大手では、丸美屋食料品研究所(現・丸美屋食品工業)が1927(昭和2)年に「是(これ)はうまい」という商品を発売して創業。

これは真鯛や牛肉を材料に使い、百貨店で販売する高級品としてのスタートだった。

ふりかけは戦時中も、主に軍向けに供給するために生産が続けられたという。

 

三島食品の創業は1949年1月。

およそ3年半前、原子爆弾の被爆地となった広島市でのスタートだった。

 

ふりかけの当時の主流は魚粉を材料に使った商品だった。

三島食品も魚粉由来のふりかけで成長を続けた。

他方、ライバルの丸美屋は1960(昭和35)年に「のりたま」を発売。

高度経済成長で生活が豊かになるにつれて、ふりかけ市場にもバラエティーに富んだ品ぞろえが求められるようになっていた。

三島食品は1960年代、赤しそでふりかけをつくる研究開発に着手した。

だがそれは、当時としては常識外れな目標への挑戦だった。

何より、ふりかけの色合いや風味の決め手となる質の良いしそを調達するのが困難で、しその品質が中途半端だと独特の不快な臭いが生じ、消費者がふりかけに期待する風味を出せない問題に直面していた。

 

それでも三島食品は1970(昭和45)年、ゆかりの発売に踏み切った。

三島食品のホームページには、今もこのときの経緯について、次のように触れられている。

「発売当時の原料は、完全というにはほど遠いもので、一番の問題は色や香りでした。この色と香りを良くするには、大変な労力を必要とした」

 

なかなか満足できる出来に仕上がらず、売り上げも期待通りには伸びなかった。

それも、しその品質が一因だった。

主要産地の近畿、中部、四国だけでなく、良質のしそを栽培できそうな農家を日本中探し回ったが、こだわりたい品質のしそを十分に確保できないジレンマは1980年代末になっても続いていた。

苦心の末に三島食品が独自に開発した赤しその「豊香」

「自社でしその新品種をつくるしかない」

1988(昭和63)年、当時の社長がおいしいゆかりが作れるしその新品種を種から開発する取り組みに着手することを決断した。

 

それが完成したのは11年後の1999(平成11)年。

追い求め続けた豊かな香りへの思いを込めて、新種の赤しそを「豊香(ほうこう)」と名付けた。

農林水産省から翌2000(平成12)年に新品種と認められ、三島食品は豊香を商標登録した。

三島食品によると、ふりかけ「ゆかり」の商品名はそもそも、平安時代に編纂された古今和歌集に収められている次の和歌に由来するのだという。

「紫の ひともとゆゑに 武蔵野の 草はみながら あはれとぞ見る」

紫色の草が1本咲いているという縁(ゆかり)だけで、武蔵野じゅうの草花が自分と縁あるもののようにいとおしく感じられる、という意味の詠み人知らずの句だ。

材料の赤しそ、そして商品「ゆかり」の紫色だけでなく、商品と客とをつなぐ縁(ゆかり)を大切にしていきたい、という会社の思いが込められているのだという。

ゆかり(右)と妹分の「あかり」「かおり」「うめこ」と弟分の「ひろし」

品種改良に苦心した効果もあり、ゆかりは三島食品を象徴する商品に成長し、日本のふりかけ市場にとっても丸美屋の「のりたま」と並ぶ人気商品になった。

減塩タイプのほか、梅入りや胡麻(ごま)入り、しょうが入り、青菜入りなど、品数も年々増えた。

 

さらに、青じそふりかけの「かおり」、たらこふりかけの「あかり」に加え、2021年2月には地元の広島菜を使った「ひろし」も登場。

妹分、弟分の商品もラインアップに加わった。

 

三島食品の2020年12月期決算の売上高は約138億円。

このうち、ゆかり関連は約40億円を占め、名実ともに会社を支える屋台骨に成長した。

日本だけでなく、アメリカや中国、台湾、東南アジア、ブラジル、中東、欧州にも商圏は広がった。

ゆかりの原材料の赤しそ「豊香」の収穫風景

ゆかりの味の決め手、赤しその品質では妥協しない姿勢は今でも貫く。

ゆかりの生産のために調達するしそは1年間で約3千トン。

発売当初、原材料の調達に苦労したことを教訓に、地元の広島県だけでなく、静岡や愛知、三重、島根、愛媛、徳島、福岡、宮崎、長崎の計10県、さらに中国東北部の遼寧省、上海近郊の浙江省でも、ゆかりのために独自開発した「豊香」を栽培している。

 

常識外れの挑戦が実を結び、明日の暮らしを支える。

ひと振りのしその香りを楽しみながら、52年目を迎えたゆかりの味わいをかみ締めたい。

 

(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年4月28日に公開した記事を転載しました)