目次

  1. チョコレートを「調理」? 独自の製法で生んだ味わい
  2. 派生商品だったダース 足かけ5年で誕生
  3. 激しくなるチョコレート市場 ニーズも多様化
  4. レアダース、異業種コラボ......。新しい「ダースらしさ」
  5. 30周年を前にリブランディング開始

「12個だからダースです」

印象的なCMのフレーズで知られる森永製菓のDARS(ダース)は、今なお親しまれるロングセラー商品である。

絶妙な2層構造が織りなす、まろやかでコクのある味わい。

長年愛され続ける秘密は「森永独自の製法があるからこそ」だと担当者は語る。

1918年、森永製菓はカカオ豆からのチョコレート一貫製造を日本で初めて開始した。

大規模な設備投資を実施し、さらにはアメリカから製菓技術者を招いてまで、日本発のカカオ豆からのチョコレート一貫製造に力を注いだ。

左が「ダースミルク」、右が「白いダース」=写真はいずれも森永製菓提供

国産チョコレートのパイオニアとして、研究開発にかける並々ならぬこだわり。

これこそ「ダースがこれまで愛されてきた所以(ゆえん)になっている」とダースのマーケティング担当を務める吉積優さんは話す。

 

DARSの前身となったのは1988年に発売された「ソリッド」。

その頃は、ミルクやカカオ、それぞれの種類別にこだわったチョコレートがあまり発売されていなかったという。

森永製菓は他社にはない差別化した味わいの商品を出そうと考えたそうだ。

そこで生まれたのが、ミルクとチョコレートを煮詰め、調理するという森永独自の「CCX製法」だった。

ダース製造工程の様子

この独特の製法は「カカオの香り」「甘さのキレ」「口どけのよさ」「ミルクのコク」の味わいを引き出す。

ダース製造工程の様子

研究開発チームが編み出したCCX製法は、これまでにないチョコレートのおいしさを生み出した。

当時は板チョコ全盛の時代、粒チョコレートでヒットしている商品は少なかった。

そこで、粒チョコレートに活路を見出したのがダース開発のきっかけになった。

 

ただ、開発には相当の苦労を要したと吉積さんは話す。

「ひと粒でおいしく食べられる形、大きさや噛み応え、口どけなどにこだわり、粒の形を作り上げるだけで1年かかりました。ほかにも、なめらかな口どけや、コクのある味わいを出すのにも試行錯誤を重ねたそうです。そのため、ソリッド発売から、ダース発売に至るまでに足掛け5年の時間を要しています」

 

苦労の末、1993年に発売されたのは「ダース〈ミルク〉」と「ダース〈ビター〉」の2種類。

1995年には「白いダース」もラインナップに追加された。

発売当初は小沢健二さん、その後1998年の金城武さん、2000年頃からはKinKi KidsさんのCMを打ち、他のチョコレートとは一線を画すイメージを醸成していった。

 

ちなみに現在のDARSというアルファベットの呼称になったのは2001年。

それまではDOZENという表記だった。

DOZEN時代のダース

12粒という個数から命名されたのではなく、「DARS=ダース」という響きの良さが決め手になっているという。

DARはスペイン語で「与える、贈る」、ARSはラテン語で「技術」という意味があるといい、ダースの魅力をもっと多くの人に届けたいという思いから、DARSに呼称を変更した。

ダースは現在、4種類の定番商品と、期間限定で発売する商品を展開している。

特に期間限定の商品を世に送り出すためには、毎シーズンごとに味の選定や企画、開発までを行う必要があり、創意工夫の成果が試される。

また、市場に多くのチョコレート商品が登場したことで、各メーカーも次々と新商品の開発に乗り出している。

 

そんななかで、新たなヒットを生み出すための商品開発は並大抵のことではない。

「どうしても他社の商品と味がかぶってしまうことがあるんです。『昨年出した味は当たったが、今年のは外れた』などと一喜一憂し、堂々巡りになりやすいのが、ダースの期間限定商品の開発で大変なところだと思っています」(前出のDARSマーケティング担当の吉積さん)

 

近年は期間限定の新商品も売れづらくなっている。

さまざまなお菓子が登場し、ニーズが多様化。

一方で若い世代があまり新しい商品を積極的に買わなくなり、「味のわかる、間違いないものを買っておこう」と考える若年層が増えているという。

社会環境の変化によって、親世代が子供にお菓子を買い与える際、味を知っている既存商品を選ぶ傾向もあるそうだ。

そんな状況下でも「ダースの持つ個性を、どうお客様に伝えるか」というテーマで、さまざまな訴求をしてきたと吉積さんは語る。

市場に数多くの粒チョコレートが並ぶようになったことで、他が打ち出していない形でダースの魅力を伝えられるよう心がけてきた。

 

例えばレアダース。

12個のうち、1個だけ「Lucky」や「Happy」、「Peace」などの文字が刻印されたチョコレートが入っていることがある。

レアダースでは、12個のうち1個だけ「Lucky」や「Happy」などの文字が刻印されたチョコレートが入っている

ちょっとした遊び心ある取り組みは、話題喚起や笑顔になってもらうきっかけづくりにもなっている。

また、アパレルブランドや人気アニメとコラボしたパッケージデザインを販売したことも。

普段チョコレートを買わない層に対して、ダースを認知してもらう機会をつくることができたという。

 

最近では、ダースの特徴である2層構造のチョコレートの味わいを、じっくりと感じてほしいという思いから「目を閉じるとおいしくなる」という切り口のプロモーションを実施した。

口どけやコクといったダースのおいしさだけではなく、新たな“ダースらしさ”が伝わるような価値を伝えようとしている。

個性あふれる粒チョコレートとして愛されてきたロングセラー商品は、2021年秋から大幅なリブランディングを始めた。

吉積さんは「時代が進み、他のチョコレートに埋もれてしまっているのでは、という危機感を持っていました。ロングセラーと言えども、成熟期から衰退期に差し掛かってくれば、ブランドを刷新しないとお客様に支持されなくなってしまう。そこで今回、大胆なリブランディングを決めました」と話す。

 

ダースの持つ本質的な価値は何か。

ダースの原点に立ち返り、ゼロからブランドに向き合って出した答えは、「コクのあるミルクの味へのこだわり」だった。

ダースの新しいパッケージ。左が「ダース<ミルク>」、右が「白いダース」

ダースはこれまで、CCX製法による独自のおいしさを追求してきた。

ヘビーユーザーからは特にミルクの味を高く評価されてきた。

さらに、ミルクにこだわったチョコレートのブランドが現在の市場に少ないことから、今までなめらかな口どけを推していたダースの魅力を再定義し、ミルクチョコレートとしての新しい価値を打ち出そうと考えた。

 

しかし、現在のラインナップにある「ダース〈ビター〉」はミルクと相反するカカオをベースにした商品。

ミルクにこだわった商品としてダースの価値を伝える際に、中途半端な存在になってしまう。

そこで今回のリブランディングを機に、現行品の「ダース〈ビター〉」と「苺のダース」は終売し、新しく「ダークミルク」と「全粒粉ビスケットクランチ」の2つの味を投入した。

新しい2つの味、左が「ダークミルク」、右が「全粒粉ビスケットクランチ」

「新生ダースとして再出発していくことで、改めて若年層にも手にとってもらえる商品になれるよう、尽力していきたいと思います」

吉積さんはそう語った。

 

ロングセラーの宿命。

それはいつの時代でも新しい価値を見出し、輝き続けることだ。

生誕30周年を前に、意を決してブランドを一新するダース。

末永く愛されるチョコレートとなるべく、新たな挑戦が始まった。

 

(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年10月4日に公開した記事を転載しました)