就活で挫折したザボディショップ倉田浩美社長が「何でも可能」と気づくまで
ビジネスの最前線で活躍するリーダーたちはどんな若手時代を過ごしたのか。さまざまな分野のリーダーに「若手時代をどう過ごしたか」「いま若手なら何をするか」を語ってもらうインタビュー企画です。
ビジネスの最前線で活躍するリーダーたちはどんな若手時代を過ごしたのか。さまざまな分野のリーダーに「若手時代をどう過ごしたか」「いま若手なら何をするか」を語ってもらうインタビュー企画です。
目次
自然の原料をベースにしたイギリス生まれの自然派化粧品ブランド「THE BODY SHOP(ザボディショップ)」日本法人で社長を務める倉田浩美さん。今のキャリアに至る原点は何だったのでしょうか。
――倉田さんの若手時代、20~30代前半で経験してよかったことは何でしょうか?
まず就職活動がうまくいかなかった経験ですね。私は出身が福岡なのですが、当時は地元の短大を出て、何もしなくても就職はできるものだと思っていました。でも卒業式までに就職が決まらなかったんです。
当時はバブル期で、就職が決まらない人の方がマイノリティー。やっと5月に就職ができましたが、「自分は社会に求められている人間なのだろうか」という人生初めての挫折を、まず就職活動で味わいました。
その後の就職先では、経理や営業のアシスタントをするという仕事をしながらも、毎日15時にお茶出しをしていました。ですが、「これを私は一生やっていくの?」と感じて、そこからやはり何か一つ、特別なスキルを身につけたいと思いました。
両親から言われていたのは、女性として社会人として生きていくことの大切さ。そのために、「何でもいいから特別なスキル、手に職を一つでいいからつけなさい」ということを言われていました。なので、このまま働き続けても何かあったときに生き残っていけるのか? と、2年間働いて留学を決めました。それが22歳のとき。しかもその留学が人生初めての海外でした。
――なぜ語学力、英語の力を伸ばしたいと考えられたのでしょうか?
私は全体の成績はそんなにトップクラスということではなかったんですが、英語だけはすごく好きだったんです。英語だけは唯一、私自身が自信をもって好きと言えることでした。
苦手なところをどれだけやっても、得意な人と同じ結果を出そうとすれば、100倍や、下手したら1000倍の労力がかかりますよね。それで得意な英語を伸ばすには? と考えて留学という決断に結びついたんだと思います。
当初は1年の留学予定だったところが、結局4年ほど学生生活をして、そこから現地で6年働きました。22歳から32歳まで、10年間アメリカにいました。
――アメリカに留学、そして就職という経験を通じて、価値観はどのように変わりましたか
私が感じているのは、アメリカはよく「アメリカンドリーム」と言われるように、比較的みなさん根拠のない自信がありますね。そこが日本と大きく違うところだと思います。
仮に仕事がうまくいってなくても、自信にあふれています。表現の仕方がまず違うなという印象です。でも自信たっぷりに言うと、自信があるように見られるから可能性も広がるんですね。
ほかにも“Anything is possible(何でも可能)”という考え方ですね。そこは私がもしずっと日本にいたら、今ほどそういう考え方になっていなかったと思います。
日本はとても調和のとれた国、と言われますが、良い意味でも悪い意味でも周りの目をすごく気にしますよね。それはそれですごく大切で重要な文化であると思います。一方で現代は新型コロナで価値感が変わって、「箱から出てもいいんだよ」という感じで時代は変わってきていると思います。
ザボディショップの創設者のアニータ・ロディックはそういう人で、箱から完全に出て、ここまでのザボディショップを築き上げた人です。そういう精神というのはこれからの20~30代の方には、より求められる考え方なのかなと思います。
――その後アメリカのコンサルティング会社に就職されます。そこで挑戦してよかったと思えることは何でしょうか?
就職したコンサルティング会社は日本法人の海外のオフィスではなくて、完全にアメリカの会社でした。なので、日本人はマイノリティーでした。アメリカ現地の新卒で入社した人たちと同じ立場で、いかに結果を出していくかという状態です。
毎年1~2人は日本人が新卒で入社はしますが、結果を出していくうえで、やはり語学がハンディーになる。だからほとんどの人は2年目で昇格できずに同じポジションにとどまってしまうんです。そういうことを聞いていたので、なんとか昇格できるようにどうやって立ち振る舞えばいいんだろう、ということに対して取り組んでいたことはチャレンジだったと思います。
学生の頃の英語のコミュニケーションと、仕事での英語は全然違うなと思いました。頭の良さはIQと言いますけど、関係性を作るのをEQとよく言うことがあります。アメリカで育った人たちと関係性を作るには、どういうふうに立ち振る舞えばいいか、言い方を変えれば、どうすれば好かれるか、を最初の1年目はものすごく意識しましたね。
――色々なプロジェクトに呼ばれる人に、特徴のようなものはあったんでしょうか?
一言でいうとチャーミングなんですよね。ビジュアルとして、ということではなくて、人間として。ポジティブだし、常に笑顔だし、誰に対しても人当たりが良い。フレンドリーで、一緒の空間にいても話が止まることがないですね。そういった第一印象がいかに大切か、ということも学んだ時期でした。
――若手時代に影響を受けた作品などはありましたか?
アメリカの方で、アンソニー(トニー)・ロビンズさんという方のコーチングについてのビデオ本ですね。歴代のアメリカ大統領など多くの方のコーチングをしていて、私がアメリカに住んでいた頃、テレビ番組に出ていて、チームや自分の人生をどう変えていくかということをコーチングで伝えるんです。
この方のトークを聞いて、すごく衝撃的で、こういうふうに考え方を変えると人生180度変わるんだと思いました。当時はビデオ本が1巻20ドルぐらいで、全部で10巻程度ですが、何回も見ました。
コーチングの原点は、答えはすべて本人が持っているというものです。特に20~30代前半は、答えは自分のなかにあるけど、それが明解ではないような時期でもあるかと思います。
それをどう引き出してあげるか、というのがコーチング。その答えを引き出せるように質問するんです。なので、その方の発信していた内容には影響を受けたと思います。
――若手時代に身につけた習慣で、いまでも役に立っている習慣はありますか?
自分の好きなことは中途半端にしないという習慣、考え方だと思っています。
私は昔から何でも真面目にしっかりやるという優等生タイプではなかったんですが、好きなことは本当に徹底的にやるタイプでした。アメリカの大学にいたとき、3~4年生のときですね。人生で初めてというくらい、たくさん勉強しました。夜中の0時まで図書館が開いているんですが、ほぼ毎日夜中まで残って勉強していました。
どうしてそこまで勉強できたかというと、私の場合、一度社会に出ようと思って就職のときに満足いく結果が出なかったので、ここでしっかり良い成績をとらないと、また失敗を繰り返すという焦りがすごくあったから。あと、自分が好きなことは後悔がないようにベストを尽くしたい、という考え方が身につけられたからだと思います。
――ほかの人がどうこう、ということではなく、自身が後悔したくなかった
そうですね。20~30代前半という時期は、自己肯定感を高めることはとても大変だと思うんです。私は「30歳までに自分が楽しいと思える仕事に出会いたい」というぼんやりとした目標がアメリカに行ったときにありました。
「この仕事が好き!」「一生続けたい!」と思えるような仕事に出会いたいという願望がありました。「こういう風になりたい」という目標があれば、どれだけ努力しても全然苦にならないと思います。だから図書館で夜中まで勉強する、というのは全然想像できませんでしたが、まったく苦にならなかったのかなと思います。
当時25歳くらいのときは、具体的に「何をする」という目標はありませんでした。ただ、何かワクワクして、楽しいと思える仕事をやりたいなとは思っていました。
多くの社会人の方も20代のうちは、自分が何に向いてるかわからないのではないかと思います。私は28歳のときにアメリカのコンサルティング会社に入り、最初は監査法人の業務をやりました。
でも全然自分に合わないことに気がついて、そこから半年ほどで小売業やファッションといった消費者向けの業界、ブランドに特化した業界のコンサルティング部門に異動することができました。ちょうど日本語ができるスタッフを探していたんですね。そうしたら、その仕事がとても楽しくて。消費者に直結する仕事はこんなに楽しいんだ、ということにそのとき気がつきました。
――いまの仕事に対して、自分は向いてないなと思っている人はどういう行動をとったほうがいいと思いますか?
仕事をしていくうえで転職を考えるタイミングはこれからの時代必ず来ると思います。そこで自分がこの仕事向いていないと思っていても、一番大切なことはベストを尽くしたかどうかだと思います。
私は毎日15時に男性社員にお茶を出す仕事をしていたときに「この仕事を毎日やるんだ……」と、一瞬ネガティブに思っていました。女性社員が何人かいて、曜日ごとに当番が回ってくるんですね。朝と15時に2回出す。
ただその仕事でも、人によって、ちょっとした雑談をして場を和ませている方と、本当にお茶だけ出して事務的に終わる方がいる。同じことをしていても空気が全然違う。そこでどんな仕事でも極めることの大切さがあることを学びました。
私も20代のときにそういった経験をしているので「この仕事はもうやりたくない」という方の気持ちもわかります。ただ、この仕事を一生やりたくない、と思っても、それをすごく極めている方はどうやっているのか、というところを見てみる。自分も同じようにやってみたら何かスキルを学べるんじゃないか、ということを意識してみてもよいかもしれないですね。
だから今、20~30代で「この仕事つまらない」「自分に合っていない」と思っている方がいれば、まず自分が与えられている仕事にベストを尽くしてみて、周りの人と比べてもっと学べて、もっとよくできることはないかということを1回考えてみてほしいです。そこで結果を出していくことが自己肯定感を高めることにもつながると思います。ベストを尽くしてみて、これ以上新しいことは学べないと思うときが転職のタイミングだと思います。
一方で、すごくつらい上司に当たって、メンタル的につらいからやめます、というのもありだと思うんです。ただ、上司は選べないですし、反面教師でこうはなりたくないな、ということを学ばせてもらえる機会だとも思います。
最近では新型コロナの影響などもあるかと思いますが、自分で選んでいないのに辞めざるを得ないという状況もあると思います。大切なことは、自分がベストを尽くしたかであって、ピンチをチャンスにポジティブ変換することだと思います。
――ザボディショップの商品でご自身を例えるなら何でしょうか?
2つあります。1つはカモマイルという商品で、ザボディショップの商品のなかでも、日本で一番人気のアイテムです。クレンジングバター、いわゆるクレンジングです。
カモマイルはヨーロッパを中心に昔から煎じ薬として使われていたと言われるほどで、「働く女性を癒す」という花言葉を持つそうです。そういう存在に自分はなりたいなと思っていますし、お客様やザボディショップのファミリーのみんなに、寄り添うような存在になりたいなという想いがあります。
2つ目がDOY、ドロップ オブ ユースというシリーズで、主な成分であるエーデルワイスは、アルプスのような高い山、過酷な環境でも美しい花を咲かせることができる、力強い植物幹細胞のパワーを持っています。
この商品の中にはエーデルワイスのほか、“奇跡の木”と言われるモリンガのシードオイルが保湿成分として含まれています。水がないような乾燥地帯でも、1年間で3メートルも伸びると言われるほど生命力が強い木なんです。それらがタッグを組んでいるシリーズです。モリンガはコミュニティフェアトレードでルワンダの現地の方に種を採取してもらい、その種からオイルを抽出しています。
コミュニティフェアトレードとはザボディショップ独自のフェアトレードの仕組みです。創業者アニータ・ロディックが貧困を減らすために最も効果的だと信じ始めた取り組みで、優れた資源を持ちながら支援を必要としているコミュニティと対等なビジネスパートナーとなり、生産者から直接、良質な原料や雑貨類を公正な価格で購入する仕組みです。
私自身も商品を通してお客様に笑顔になってハッピーになっていただくと同時に、より良い社会に貢献したいという思いがあるので、この2つを挙げました。
――いま若手時代を過ごしているビジネスパーソンの方々に伝えたいことは何でしょうか?
自分の好きなことをとことん突き進んでほしいと思います。自分の好きなことを突き進めていくと、必ず天職と思える仕事、どんなに大変でも楽しいと思えるものに出会えると思います。
20~30代はまだ探している最中だと思うので、どんなことでも前向きに、貪欲に取り組んでほしいと思います。あと何事にも好奇心をもって色々なことに挑戦してほしいですね。好奇心があればその分成長できます。
まずこうなりたい、こうありたいということを妄想してみて、すぐに答えは見えなくても、考える時間は大事だと思うので、ぜひそういう時間をつくってほしいです。
仕事では想定外なことが必ず起きます。特にコロナ禍で、多くの方にとって想定外なことが多く起きていると思います。そこで大切なのは、「想定外なことが起きるのも想定内である」と、気づくことではないでしょうか。想定外なことが起きた時にも、個人的感情に振り回されずに、これも想定内と思えば気持ちが楽になり、ポジティブに先に進むことができると思います。
倉田浩美(くらた・ひろみ)。アメリカのセントラルワシントン州立大学を卒業後、コンサルティング会社のプライスウォーターハウスクーパーズ(PwC)に入社。1998年に帰国後、GAPジャパン、COACHジャパン、FURLAジャパン社長などを経て、現職。
(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年6月4日に公開した記事を転載しました)
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