目次

  1. 多くの人が「目標を立てるが、行動が伴わない」
  2. 目標達成できない理由は「現在バイアス」?
  3. 目標そのものを忘れてしまうケースも
  4. 目標達成のために何をすればいいのか?
  5. 具体的な行動計画を立ててみよう

2022年を迎えて、今年の目標を立てた人も多いだろう。時間には切れ目がなく、連続的に流れている。年や日といった切れ目を作っているのは、地球の公転や自転という自然環境だ。

しかし、そうした区切りがあるおかげで、私たちは年間の目標や1日の目標を立てて、それを達成しようと努力する。もし区切りがなければ、目標設定はとてもやりにくいのではないだろうか。

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新型コロナ感染者数でも、感染者数が100人と99人の間には1人の違いしかないが、1桁違うだけで私たちの認識は随分違う。

このように区切りとなるものをうまく利用して、成長していきたいものだ。ただ、新年に立てた目標を達成できないことも多い。行動経済学の視点で目標を達成できない理由を考えて、対策を立ててみよう。

目標を立てても達成できない原因にはどのようなものがあるだろうか。「努力はしたけど、運が悪かった」ということも考えられるが、一番多いのは「目標は立てたけど、行動が伴わなかった」ということではないだろうか。

明治神宮に初詣で訪れ、間隔を空けて並ぶ参拝者=2021年1月2日、東京都渋谷区、朝日新聞社

例えば、「体重を減らす」という目標を立てても、「運動する」とか、「食事に気をつける」という行動が伴わなければ、目標は達成できない。

なぜ目標を立てたのに、それを実行する行動が伴わないのだろうか。どうすれば目標と行動のギャップを埋めることができるだろうか。

行動経済学では、目標が達成できない理由を「現在バイアス」で説明することが多い。

「現在バイアス」とは、将来のことは我慢強い意思決定ができるのに、現在のことについてはせっかちな意思決定しかできないことをいう。そのため、せっかく立てた目標があっても、そのために努力することを毎日先延ばししてしまうのだ。

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もし現在バイアスが目標を達成できない理由ならば、先延ばしをすることが難しくなるような状況に自分を追い込むことが解決策だ。

目標が達成できなかった場合に大きな罰則を課すのはその典型である。また、どうせ先延ばしにするのであれば、中間目標を細かく設定し、その締切には間に合うようにしていくことが対策になる。

要するに、目標達成のための「必要な努力」を先延ばしできないように、長期の目標だけでなく、短期的な目標に細分化し、締切を短めに設定して、それが守れなかった場合の罰則を決めておくことだ。

金銭的な余裕や時間的な余裕がなくなれば、長期のことを考えることもできなくなる。

そのためにも、新年という少し時間的余裕があるときに長期的計画を立てて、それを日々の目標にまで落とし込んでおくと、お金や時間に余裕がないときでもせっかちな意思決定で先延ばしをすることは防げるかもしれない。

計画した目標が達成できない2つ目の理由は、目標そのものを忘れてしまうというものもある。仕事の課題の締切に遅れる理由の1つは、多くの課題を抱えていて、1つ1つの仕事の締切を忘れてしまうことである。

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あるいは、課題そのものを忘れてしまうこともある。そのような場合、課題が提出されていないという催促があってはじめて、仕事に取り掛かるということもあるだろう。

このように目標や課題をしっかりと記憶できていないか、記憶が薄らいでくることが課題を達成できないことの理由であれば、それを忘れないような仕組みを整備しておけば目標達成が可能になる。

スマホのカレンダーに締切や目標を記入して、リマインドメールを送るように設定することが1つの手段だろう。

目標が達成できない3つ目の理由は、「目標があっても、それを達成するために毎日何をすれば良いのかがはっきりしないような計画になっている」というものである。

私たちは目標をもっていても、それを達成するために「何をするか」ということにまで落とし込まないと、毎日の行動として実行することができないのだ。

こうした具体的な実行計画の重要性は、失業者の職探し行動から行動経済学者が明らかにした。

※ABEL(2019)Abel M, Burger R, Carranza E, Piraino P.  Bridging the Intention-Behavior Gap: Increasing Job Search and Employment through Action Planning. American Economic Journal: Applied Economics 2019, 11(2): 284-301.

職探しをしている人たちに、目標を立てるだけではなくて、その目標達成のために「何をどうしていくか」という毎日の具体的な行動計画を立てさせるのである。

職探しのためには、いくつかの行動をしなくてはならない。まず、求人広告を見たり、知人に仕事の紹介を頼んだりする。次に、求人企業に応募するための書類を作成し送付する。そして、採用面接に出かける。これらの行動を積み重ねることが就職の確率を上げる。

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研究者たちは、一部の失業者に1週間の職探し行動計画書の様式を埋めてもらった。計画書の様式には、月曜日から日曜日までの欄があり、その曜日ごとに何時にどんな行動をするかを書いてもらう。

例えば、月曜日の午前中に新聞の求人欄を見るのであれば、何新聞の求人欄を見るかまで書く。火曜日の午後に履歴書を投函するのであれば、どの会社に投函するかを記入させる。

その後、毎日の欄の数字を合計して、毎週何社の求人をチェックし、何社に応募書類を送り、何時間求職活動するかという目標を書いてもらう。その横に、その目標が達成できたかどうかをチェックする欄が設けられている。

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これだけの作業をしてもらうだけで、応募書類の送付数はそのような作業を課していない失業者に比べて15%上昇し、採用提示を受けた数は30%増加し、実際に雇用された確率は26%増加した。

応募書類の送付数は増えたが、求職活動時間は変化していない。また、求職手段も友人・知人に相談するといったインフォーマルなものだけではなく、新聞やインターネットなど求人広告を利用するように手段を多様化させていた。

つまり、具体的な計画を立てたグループの方が効率的に職探しをしていたのだ。

なぜ、計画を立てることがそれほど効果的なのだろうか。

それは、行動計画は複雑な課題を特定の行動に分解することで、焦点を当てるべき目標とそれを達成するために必要なステップを現実的に理解できることが理由だ。目標を達成できないことのボトルネックは、具体的にどのように行動すべきかがあいまいであったということだ。

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「目標達成のために毎日何をすればいいのか」を明確にしておけば、私たちは毎日の課題さえこなせば、自動的に目標を達成できる。

つまり、目標を達成するためには、「目標達成に必要な具体的行動は何か」、「それをいつやるか」ということまで計画に書き込むようにすればいい。

目標を立てたら、そのために必要な行動を具体的に書いて「それをいつまでにするか」「毎日なにをすればいいか」というところにまで落とし込む。

そして、具体的な行動予定までスケジュールに書き込む。不確実な世の中だから、そこまで細かい計画を立てても意味がないと思うかもしれない。一方で、1度具体的な行動まで計画を立てておけば、計画変更の必要性が生じた時もすぐに対応できる。

将来何が起きるかわからないので、「事前に細かいことを考えすぎるのはよくない」と思いがちだ。だが、その場ですべてを考えるというのはとても難しい。年初には、目標とともにそれを達成するための具体的な実行計画を考えてみてはどうだろうか。

 

(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2022年1月7日に公開した記事を転載しました)