目次

  1. ローソン「2025年までに売上5倍」目標
  2. 冷食は「緊急時に役立つ」位置づけだった
  3. セブン-イレブンは2008年が「冷食元年」
  4. 広がる品ぞろえ。他社との差別化も模索中
  5. 伸びる冷食市場が追い風。「店舗で解凍」も拡充へ

 前回コラムでは、これからのコンビニで主力商品の一角を担うコンビニスイーツを紹介した。今回は、もう1つの「四番打者」候補として、近年著しく台頭する冷凍食品を紹介したい。コンビニの強みは、すぐに食べられる商品が数多くそろっていること。一方で冷凍食品は、家庭の冷凍庫にストックしておく商品である。それをなぜ今、コンビニは強化しているのか、個人的な冷食体験も踏まえてお話ししたい。

 読者のみなさんは、コンビニで冷凍食品を購入した経験があるだろうか。冷凍食品とは、アイスや氷を除いた、炒飯(チャーハン)やコロッケといった主食や副菜である。家族の食事を担う方たちには当然の存在かもしれないが、外食の多い、主に20~30代の独身男性であれば、利用機会はほとんどないかもしれない。

 ところが近年、コンビニの新しい主力商品、すなわち「四番打者」として台頭してきたのが、この冷凍食品、略して冷食である。大手チェーンは売場を拡大し、扉のついたタテ型の冷凍ケースだけでなく、手に取りやすい平型の冷凍ケースを導入し、購買を促進している。

コンビニの冷食売場は拡大の方向にある。平型の冷凍ケースは手に取りやすい=2019年7月、沖縄県のセブン-イレブンの店舗(画像は注記のあるものを除き筆者提供)

 商品のラインナップも増えている。ローソンは2025年までに、冷食の売場を2倍、売上を5倍にしたいと目標を示している。最も早くから取り組んだセブン-イレブンも、最近は洋食系の小皿料理など、バラエティに富んだ品ぞろえで訴求している。そこで、コンビニ各社が冷食を拡充してきた経緯を振り返ってみたい。

 筆者が大学を卒業した1980年代半ば、コンビニの冷凍食品はパッとしなかった。唯一利用したのが、アルミ鍋の「鍋焼きうどん」である。ワンルームマンションの電熱器の上にアルミ鍋を置いて、冬の深夜に独りですすって食べていた覚えがある。筆者にとってコンビニの冷食はその程度だった。

コンビニの冷食といえば、鍋焼きうどんを第一に挙げる中高年は多いだろう。画像は現在の鍋焼きうどん

 やがてコンビニの取材を始めるようになり、冷食の売場に疑問を抱くようになる。「コンビニの役割を考えると、冷食の売場は不要なのではないか」と。アルミ鍋など人気の根強い一部の商品は、アイスクリームの売場に「避難」させ、それ以外の、スーパーマーケットで売られているような商品は取り扱いをやめればいいと考えた。

 というのも、1980~90年代のコンビニは「即食(飲)」「即使用」「緊急時」に役に立つ業態だと教えられていたからだ。当時でも、都市部では歩いて10分以内にコンビニはあった(今では5分以内)。

 昼休みに弁当を買ってオフィスで食べる。夏の暑い日に立ち寄って、車内で炭酸飲料を飲む。夜間に蛍光灯や懐中電灯が切れたので、買いに走る。

 よく知られるセブン-イレブンのCM「開いててよかった」は、緊急時に頼れる店であることを強調したフレーズである。その意味で、冷食は家庭の冷凍庫に収納しておく「ストック型」の商材であり、コンビニが扱う必要はないと思った。

 しかし、詳しい人に聞くと、冷食も実は「緊急時」のカテゴリーに分類されているという。すなわち次のようなシチュエーションだ。

 日中に働く母親が、スーパーマーケットに立ち寄る時間もなく帰宅し、冷蔵庫にある食材で夫と子どもの夕食を作る。ところが、あらためて冷蔵庫をのぞくと、子どもに明朝持たせる弁当のおかずがない。そこで、近所のコンビニへ弁当のおかずを買いに行く。それが冷食であり、「開いててよかった」になるのだ。

買い忘れた「弁当のおかず」は、コンビニがしっかりサポートしていた。画像はコンビニ各社の弁当のおかずになりそうな商品

 冷食は「間に合わせ」の弁当のおかずだから、コロッケや春巻き、鶏の唐揚げ程度でよかった。コンビニには冷食以外にもハムやソーセージがあり、それらも弁当のおかずになった。

 冷食の利便性は、全てを使い切らなくても、残った分をラップして、再び長期保存できる点にある。その意味でも、弁当のおかず用には最適だった。ただ、1980~90年代のコンビニの主要客層から見れば、冷食は傍流のカテゴリーに過ぎなかった。

 2000年代に入ると、首都圏で「SHOP99」チェーンが急速に店舗展開を始める。原則として税抜き99円均一の「SHOP99」は主に、コンビニが退店した後の居抜き物件に入居した。野菜や日配品の品ぞろえも充実させ、若者だけでなく、高齢者の支持も集めていった。ピーク時には店舗数が1000店に達した(2011年に「ローソンストア100」に看板替え)。

 年金生活の高齢者の中には、貯金があっても節約を心がける人は多い。スーパーマーケットと比べ、1品当たりの量が少なく、特に単身の高齢者にとって使い勝手の良い店として評価された。

ローソンは店舗改装で、これまでの2倍の商品数を収容できる冷凍庫(右)を設置していく=2021年11月、東京都品川区、朝日新聞社

 セブン-イレブンが「SHOP99」に対抗したかどうかは分からない。しかし、影響を受けていないわけはない。

 セブン-イレブンは、2008年に焼き餃子(ぎょうざ)、五目炒飯、エビピラフといった1人用の冷食を100円(税別、以下同)で販売した。特に焼き餃子は、5個入りの分量と100円という価格設定が単身者に丁度よく、SHOP99を利用するような高齢者にも訴求でき、大ヒットとなった。後にセブン-イレブンは2008年を「冷食元年」と呼んでいる。

 セブン-イレブンによると、2008年の平均販売額の指数を100とした場合、冷食の販売体制を強化した2012年は213、冷食用の平型冷ケースを導入した2013年が273、さらに商品の拡充を続けた結果、2018年上期には536と、販売額を10年で5倍に伸ばした。

 しかし、5倍と言っても、もともとの母数が少ない。売上を底上げする起爆剤がほしい。そこでセブン-イレブンが目を付けたのが、男性客である。

 冷食の主な販売チャネルは、今も昔もスーパーマーケットが主軸である。スーパーマーケットの利用者は、どうしても女性の比率が高くなる。女性客はコンビニでも、冷食売場に近づくことに抵抗が少ない。

 ところが、スーパーマーケットで買い物をめったにしない、コンビニを利用する男性客(特に20~30代)に、冷食を手に取ってもらうのは簡単でない。そこでセブン-イレブンは、“ラーメンが好きな男性客”にターゲットを絞り、2018年3月に「7プレミアム すみれチャーハン」(248円。価格は発売時、以下同)、2018年6月には「蒙古(もうこ)タンメン中本 汁なし麻辛麺(マーシンメン)」(298円)を発売した。

セブン-イレブンは、若い男性客に人気の「すみれ」ブランドの冷食チャーハンを世に送り出した。すでに発売していた「すみれ」のカップ麺との買い合わせも想定した

 セブン-イレブン・ジャパンの石橋誠一郎・商品本部長(当時)は次のように語っている。「今まで、冷凍食品のお買上げのなかった若い男性のお客様に“きっかけ”を提供することにより購入を促し、結果として冷食全体を著しく伸長させた。商品の売れ方が変わる手応えを感じている」

 「すみれ」は札幌の有名ラーメン店。すでに「すみれ」の名を冠したカップ麺を販売していたので、すみれのメニューの1つであるチャーハンを商品化した。「蒙古タンメン」は辛さを売りにする東京の人気ラーメン店。ラーメンに興味があれば、これらを知らない人はいない。

 浮き沈みのあるラーメン店のブランドを借りたのはなぜだろうか。例えば、「本格中華の炒飯」「旨辛純正ラーメン」といった無難な商品やネーミングでもよかったのはないか。

 しかし、それでは若い男性客に刺さらない。あえて尖(とが)った商品でターゲットを絞り、若い男性客を冷食売場に引き込もうとしたのだ。

 客層を広げた後は「利用動機」を増やすこと。セブン-イレブンは2018年の秋冬に、ご飯のおかずにも酒のつまみにもなる「おかづまみ」シリーズを投入し、「手羽中唐揚げ」(238円)をヒットさせた。2019年上期には「きょうのおかず」シリーズを発売。「炭火で焼いた牛カルビ」(318円)など、単身や2人世帯に適量の商品を提供してきた。

夕食のメインディッシュになる「きょうのおかず」シリーズ。スーパーマーケットの冷食に比べ小容量で、コンビニの客層にマッチしている

 もともと冷食の生産は大手食品メーカーに依頼してきた。しかし近年は、セブン-イレブンの米飯弁当やおにぎりを生産しているデイリーメーカーも参画させ、独自仕様で差別化を試みている。2021年12月には「レンジで旅するシリーズ」と称して「ジェノベーゼ」「ゴルゴンゾーラ」「アラビアータ」(各278円)といった提案性の強い商品を投入した。

セブン-イレブンの最近の「おかづまみ」シリーズ。ワインのつまみになる

 ローソンは冒頭で記したように、売場も売上も拡大する方針で、勝負を賭けている。この冬のラインナップで特に目を引いたのが、畜産と鮮魚の商品である。畜産も鮮魚も、商品管理の難しさからコンビニが手をつけてこなかった分野だが、冷凍なら課題をクリアできると見ている。

ローソンは、かつて経験したことのない「刺し身」の品ぞろえに冷食で挑戦する

 「鮮馬刺し赤身スライス」(2022年1月25日よりエリア限定、税込み798円で発売予定) は、冷凍のため鮮度の良い状態が維持できるとうたい、高タンパク低カロリーな馬刺しを流水解凍で簡単に食べられる。「真鯛お刺身」(2022年1月18日よりエリア限定、税込み498円で発売予定)も、国内養殖場から活魚のまま工場へ出荷、スライス後に凍結するため、ドリップもなく簡単にお皿に並べられる。

 コンビニが満たそうとするのは、冷凍庫に保存できるストック需要だけではない。店舗の業務用電子レンジで解凍して食べられる「即食ニーズ」に対応する商品も拡充する方向だ。業界内には、かつてのコンビニam/pm(1989年~2011年)が、冷凍の弁当を店内で温めて販売していた経験がある。

 コンビニの冷食拡充には、冷食市場全体の伸びも影響している。国民1人当たりの冷食消費量は年々増加傾向にある。2020年の国内消費量は約284万トンで、15万トンだった50年前の約19倍、133万トンだった30年前の約2倍、245万トンだった10年前の約1.15倍に増えている(一般社団法人 日本冷凍食品協会「冷凍食品国内消費量の推移」より)。

 このように、コンビニの食といえば、かつては「即食」ニーズが主流であった。やがて日本は超高齢社会となり、中高年の比率が大幅に増えた。さらにコロナ禍で人々の移動が減り、在宅勤務も一部で定着した。感染防止の観点から、買い物は1カ所で済ます傾向が強くなった。

 コンビニでは「即食」需要に加えて「ストック」需要も顕著となり、買い置きできる冷食は、重要度を増している。また、食品廃棄ロスが出にくい冷凍食品は、コンビニ加盟店にとっても扱いやすい商品として受け入れられている。

コンビニの冷食はデザートやクロワッサンなど、新たな領域に及んでいる。画像はローソンの商品

 コンビニの冷食は、日本酒やワインのおつまみ、夕食の本格的なおかず、食後のデザートまで、幅広い品ぞろえになってきた。ぜひ1度、コンビニの冷食売場をじっくり眺めてみることをお勧めしたい。

 

(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2022年1月6日に公開した記事を転載しました)