目次

  1. コンビニコーヒー定着で、スイーツに脚光
  2. 生ケーキの草分けは名古屋のサークルK
  3. 大ヒットしたローソン「プレミアムロールケーキ」
  4. コロナ禍でコンビニスイーツにチャンス到来
  5. スイーツは発展途上。どのチェーンにも勝機あり

 前回コラムでは、今のコンビニに必要なのは新たな主力商品、野球で言うところの「四番打者」だとお伝えした。コンビニでは長らく、「おにぎり」「米飯弁当」「おでん」が売上を牽引(けんいん)してきた。これらに衰えが見られる中、新たな「四番」候補に浮上したのがコンビニスイーツである。歴史をひもときながら、今なぜコンビニスイーツなのかを考えたい。

 初めて販売するわけではないが、何かのきっかけで売上が急増する商品がある。最近では「コンビニコーヒー」がそうだ。カウンターで提供するコンビニコーヒーは、実はセブン-イレブンが1977年から導入と撤退を繰り返し、現在の姿につなげたと前回コラムで書いた。

 ボタンを押すと電動ミルが豆をひき、良い香りがふわりと広がり、やがてカップにコーヒーが抽出される。昔のコンビニコーヒーはドリップした後の作り置きで、おいしくなかったと当時の関係者は証言している。いれたてを実現したことと、缶コーヒーより安い100円(税込み)という価格設定が、お客に支持される要因となった。

コンビニコーヒーはコンビニの定番商品に育った=2017年12月、セブン-イレブン千代田二番町店、筆者撮影

 カフェと同レベルのコーヒーがコンビニで手軽に買えるようになり、人々がレギュラーコーヒーを飲む機会は増えた。店からすると、1日100杯売ったら1万円以上の売上になる。日販(1日の売上高)が50~60万円の店にとって、1万円のオンは大きな貢献になる。

 本格的なコーヒーが定着したら、次に売りたい商品はスイーツである。コーヒーとスイーツは相性が良い。「カフェ&スイーツ」の利用を促せば、新たな来店動機を掘り起こし、客数と売上が増える可能性がある。つまり、コンビニのスイーツには、新たな「四番打者」に定着する潜在能力があると言える。

 草創期のコンビニ業界で、本格的な生ケーキを手掛けたチェーンがサークルKだ。母体のユニー(本社・愛知県稲沢市)が1980年3月に名古屋に開いたサークルKの1号店「島田店」では、専用の冷蔵ケースに地元メーカーの生ケーキを並べたところ、意外な売れ筋になったという。コンビニで何が売れるのか模索していた時代である。

 ところが生ケーキの販売は長くは続かなかった。既存の配送ルートで品質を保てるのか、店舗の従業員が他の商品同様にストレスなく扱えるのか、といった課題があった。

 例えば洋菓子専門店では、繊細な技巧が施された色とりどりのケーキがショーケースに並んでいる。注文を受けたスタッフは、トングを使ってケーキをそっとつかみ、ていねいに紙箱に並べていく。受け取ったお客も、紙箱の中のケーキが崩れないよう、持ち運びに気を配る。お店とお客の連携があって、専門店のケーキを自宅で楽しむことができるのだ。

セブン-イレブンはスイーツを幅広い価格帯で展開するが、近年は税込み300円超の商品が増えている=筆者撮影

 一方のコンビニは、ありとあらゆる形状の商品がトラックの荷台から下ろされ、バックヤードに積まれていく。スタッフはお客の少ない時間帯を見計らい、次から次へと棚に商品を並べていく。1つ1つの商品をじっくり見ている余裕はない。語弊があるかもしれないが、「雑に扱っても売り物になる」商品しか扱えないのだ。

 そこに突破口を見いだしたのが、1995年ごろ開発されたセブン-イレブンの生ケーキだった。当時、商品本部にいた本多利範氏(現・本多コンサルティング社長)は、新商品の開発会議で生ケーキの販売を提案したが、配送や販売が難しいと却下された。その後もアイデアを練り続け、生ケーキをプリンのようなプラスチックケースに収め、コンビニの店頭でも簡単に販売できるようにした。

 店のスタッフが少し雑に扱うだけで「不良品」になるようでは、コンビニに置くことはできない。プラスチックケースに収まっていれば、手で直接つかんで陳列しても、お客がセルフでレジに運んでも、レジ袋を揺らしながら家に持ち帰っても、商品の形状は維持される。

 逆に言えば、イチゴがすぐに転がるようなショートケーキは販売できないということだ。こうしてコンビニスイーツの原型ができあがっていった。

 2000年代に入り、コンビニ間の競争が激しくなると、チェーン本部は目的来店性(その商品を目当てに客が来店してくれること)が高い商品カテゴリーの強化に乗り出した。それまでのコンビニスイーツは、各チェーンがヒット商品を世に出すものの、単発の訴求で終わってしまっていた。

 そこでサークルKサンクスは2007年、スイーツ専用のブランド「シェリエドルチェ」シリーズを立ち上げた。「窯出しとろけるプリン」「濃厚焼きチーズタルト」といった、専門店品質に1歩近づけたブランドの訴求を始めたのだった。ここにはサークルKサンクスが抱える課題があった。

ファミリーマートは他チェーンと比べ、価格をやや抑え気味。200~250円近辺で勝負をかけている=筆者撮影

 サークルKサンクスは、文字通りサークルKとサンクスが経営統合したチェーンだ。サークルKは愛知県発祥で、地域性ゆえ車の利用が便利な郊外ロードサイド立地を中心に店舗網を築いていった。お客はドライバーが多く、男性客の比率が7割と高かった。たばこ、弁当、飲料、雑誌など、男性客が好む商品カテゴリーを強化していた。

 こうした状況で売上を伸ばすには、現状の「男性客≒大盛り弁当」を土台にしつつ、いまだ来店していない新規の客層にアプローチするべきだ。そこで「女性客≒スイーツ」と考え、ブランド訴求を強化し始めた。その結果、こだわりのブランド「シェリエドルチェ」は一定の成果を得た。

 セブン-イレブンが2008年に「なないろカフェ」、ミニストップが2009年に「ハピリッチ」と、スイーツの新ブランドを相次いで立ち上げた。

 コンビニスイーツに光が当たる中、ローソンが2009年に発売した「プレミアムロールケーキ」は大ヒットを記録した。この「プレミアムシリーズ」は購入者の女性比率が47%と、当時のローソンの顧客の男女比率(男性70%、女性30%)と比べて非常に高かった。プレミアムロールケーキは現在も改良を重ねながら、ローソンの売れ筋として「定番」のポジションを確立した。

ローソンのプレミアムロールケーキは発売以来のロングセラー。ローソンのスイーツの看板商品だ=ローソン提供

 コンビニスイーツは新たな「四番打者」として期待され始めた。しかし、キャッチーな洋菓子を訴求するカフェや、街なかの洋菓子専門店、デパ地下などでスイーツの新作が次々と生まれ、市場は百花繚乱の状態に。

 「インスタ映え」という言葉も生まれ、スイーツはネットに画像を上げる格好のアイテムになった。コンビニスイーツも100~200円という大衆的なマーケットの中で、味と見栄えに磨きをかけていった。

 そんな中、新型コロナウイルスの感染拡大による人々の意識と行動の変化は、コンビニスイーツを活気づけた。人々の行動範囲が狭まり、人気のカフェや遠くの洋菓子店、お客が密集するデパ地下を避け、近くのコンビニを利用する人が増えたためだ。

 それを裏付ける資料がある。ローソンが2021年9月に開いたスイーツの新作発表会で用いたデータだ。

ローソンのスイーツブランドは「ウチカフェ」。税込み300円超の高品質化・高価格化を進めている=筆者撮影

 クロス・マーケティング社が実施した「スイーツに関する調査(2021年)」は、「家でスイーツを食べる機会の変化」について尋ねている。

 それによると「増えた」が13.1%、「やや増えた」が19.7%で、合計32.8%が増えたと回答した。一方で「減った」が5.5%、「やや減った」が2.6%で、合計8.1%が減ったと答えた。家庭でのスイーツの需要が確実に増えていることが分かる(「変わらない」は59.0%)。

 次に「外でスイーツを食べる機会の変化」について聞いた。「増えた」は1.2%、「やや増えた」は2.4%にとどまった。逆に「減った」は33.9%、「やや減った」は16.3%で、外で食べる機会が減ったと回答した人が半数を超えた(「変わらない」は46.3%)。

 スイーツを食べる機会は増えた、しかし外で食べる機会は減った。つまりコロナ禍では、家でスイーツを食べる機会が増えたことが分かる。

 そのスイーツの購入先はどこか。洋菓子メーカーのモンテールが発表した「スーパー・コンビニ スイーツ白書 2021」によると、「コロナ禍でスイーツの購入頻度が増えた店舗」は「スーパーマーケット」が28.0%、「コンビニ」が26.3%で続いた。スーパーやコンビニといった身近な場所で購入する機会が増えているのだ。

 実際、2021年1~8月のローソンの「チルド和洋菓子」カテゴリーの全店売上高は、コロナ禍前(2019年1月~8月)と比べ約15%増えた。ウィズコロナの中で、コンビニスイーツのニーズは高まっている。

 こうしたチャンスにコンビニ業界は何をすべきか。それは、トレンドを取り入れ、品質を高め、結果として価格帯を上げることだ。

 国内人口は減っている。業態を超えて店数は増えている。スタッフの時給は毎年3%伸びている。

 こんな状況では、お客をワクワクさせる、専門店品質の、それに見合う価格の商品を売りたい。そうでなければ、コンビニ業態そのものの持続性が危うくなりかねない。

ミニストップは「目的来店性」を高めようと、高品質で値頃なスイーツを強化している=筆者撮影

 もちろん、用途に合わせた100円や150円の品ぞろえは絶対に必要だろう。それに加え、専門店に負けない品ぞろえにより、お客にアピールするチャンスが到来している。実際に各チェーンの品ぞろえを見ると、300円超えの商品が幅を利かせている。

 スイーツに新たな「四番打者」の可能性を感じるのは、同質化競争から抜け出すチャンスがあるからだ。あるチェーンの商品部の人が、こんなことを言っていた。

 「おにぎりや米飯弁当、サンドイッチ、おでんなどはコンビニの独壇場。同業他社で売れている商品があれば、似た商品がすぐに自社でも売られてきた。でもスイーツは違う。学ぶべき専門店がたくさんあり、どのチェーンにも創意や工夫により大ヒット商品を生み出すチャンスがある」

 コロナ禍は多くの店舗にダメージを与えたが、人々の意識や行動が変わる中、新たな「四番打者」を生み出す可能性も高まっている。コンビニスイーツのジャンルはこれまで、低価格での完成度の高さが評価されてきた。これからは専門店品質に挑もうとしているのだ。

 

(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年11月29日に公開した記事を転載しました)