おにぎり、弁当、おでん……長期不振のコンビニ主力商品 次の「四番」は?
私たちの暮らしに欠かせないコンビニ。優れた商品や便利なサービスを次々に提供する一方、各チェーンは人件費の高騰、食品廃棄、24時間営業の維持など新たな問題も抱えています。「月刊コンビニ」元編集長の梅澤聡さんが、コンビニが描く新しい未来を、50年の歴史を踏まえて解説します。今回のテーマは「コンビニの次なる主力商品は何か」についてです。
私たちの暮らしに欠かせないコンビニ。優れた商品や便利なサービスを次々に提供する一方、各チェーンは人件費の高騰、食品廃棄、24時間営業の維持など新たな問題も抱えています。「月刊コンビニ」元編集長の梅澤聡さんが、コンビニが描く新しい未来を、50年の歴史を踏まえて解説します。今回のテーマは「コンビニの次なる主力商品は何か」についてです。
目次
今コンビニに求められているのが、野球で言うところの「四番打者」である。売上を引っ張ってくれる、頼りになる存在だ。これまでは「おにぎり」「米飯弁当」「おでん」がそうだった。しかし、その主力商品が長期の不振に陥っている。「四番」の条件とは何か。歴史をひもときながら、新たな主軸に定着したコンビニコーヒーも含め、商品開発について考えたい。
コンビニのおにぎりは、野球に例えると「四番打者」、つまりチームの主砲である。
どれだけ売れているのか。セブン-イレブンを例に挙げると、1日1店舗当たり平均280~290個(「数字で見るセブン-イレブン・ジャパン」をもとに計算)で、1日3万円台後半の売上になる。
おにぎりほどではないが、おでんも稼ぎ頭だった。おでんを1個で済ますお客はほとんどいない。たまご、大根、白滝、牛すじ、がんもなど複数購入する。5点で500円弱。仮に1日30人が利用すれば1万5000円前後になる。
セブン-イレブンの店舗平均日販(1店舗当たりの1日の平均売上高)は、コロナ禍の影響を受ける前の2019年度、65万6000円だった。売場面積比で見ると、おにぎりは非常に効率の良い商品であることが分かる。おでんも店舗で仕込むため粗利が高く、上手に販売すれば、加盟店オーナーにとって利益が出やすい(半面、廃棄ロスもあるが)。
近年、頭角を現したのが「コンビニコーヒー」である。ラテを含むコンビニコーヒーの販売数は、1日1店舗当たり約140杯(上記「数字で見るセブン-イレブン・ジャパン」をもとに計算)で、毎日およそ1万5000円前後の売上になる。
しかし、コロナ禍で異変が生じた。現在は緊急事態宣言が解除され、首都圏のほとんどの店舗で酒類販売の時間制限も撤廃された。
ただ、国民の多くがマスクを着け、旅行や帰省を控え、一部ではテレワークが定着している。海外の感染状況を見ても、なお油断できない局面で、2019年のような人々の動きは戻っていない。
コンビニの売上は、人の移動が活発になるほど増える。どこかへ移動する際、その動線上にあるコンビニに立ち寄るためだ。オフィスに向かう途中、得意先を回る途中、帰省の途中など、多くは何かの目的で移動している「途中」に立ち寄って買い物をする。
片手で食べられる「ワンハンドフード」の代表格であるおにぎりも、人々の移動が活発になるほど売上が増える。それゆえコロナ禍の2020~21年、目に見えて売上を落とした。
片手で食べざるを得ない状況とは、仕事中のオフィスや、駐車場の車内、スポーツ観戦の客席、野外活動、居酒屋で飲んだ帰りの路上など、何かしら理由のあるシーンが多い。それらがコロナ禍で吹っ飛んでしまった。おにぎりの品質改善は続くものの、「四番」の地位にあり続けるのは、もはや難しいのかもしれない。
おでんも苦境にあえいでいる。感染防止策として、専用のおでん什器(じゅうき)による販売を取りやめた店舗も多く、「おでん=コンビニ」の図式が崩れつつある。コンビニでは代わりにパック入りおでんを売っているが、同じような商品を格安で売っているスーパーマーケットとの違いを打ち出しづらい。
もちろん、従来の什器で販売している店舗もある。ただし、衛生上の問題から、ビニールカーテンの内側で、しかもフタをしっかり閉めている。特有の匂いが店内に漂わず、売っていることに気づかないお客も多いのではないか。おでんは、おいしそうな湯気がたって初めて強みを発揮する。
新しい主力商品に定着したコンビニコーヒーは、成長途上にあるものの、オフィスへの出勤が減り、特に都市部の店舗では売上減に見舞われている。
そもそもコロナ禍以前から、おにぎりと米飯弁当を合わせた「米飯類」の売上は、この20年で1店舗当たり数十%減っている。おでんの売上も、20年間にほぼ半減した。廃棄ロスを嫌っておでんの取り扱いをやめる店舗は、コロナ禍以前から出ていた。
「四番打者」といえば、かつてはビールもその1つだった。初期のコンビニは酒販店からの業態転換が多かった。酒販免許を持っているので、「酒+コンビニ商品」で優位に立てたためだ。冷えた缶ビールとつまみ類は、酒販免許を持つコンビニにとって、非常に「おいしい商品」であった。
しかし、2003年9月に酒の販売が自由化され、スーパーや免許を持たないコンビニが一斉に販売を始めた。さらにドラッグストアも安売りに参戦した。その結果、酒販店出身のコンビニは主砲を失ってしまった。
コンビニが獲得したいのは、スーパーやドラッグストアが扱わない、あるいは扱えない「強打者」である。大手ナショナルブランドメーカーが製造するビールや飲料、菓子、カップ麺、洗剤などには到底務まらない。
他業態との差別化のための苦労は、コンビニの草創期にもあった。1970年代、日本に71万軒あった零細な食料品店は、スーパーの脅威にさらされていた。雨後のタケノコのように現れる大型の安売り店に対し、狭い店内、少ない人員、少量仕入れの零細店は、なす術もなく廃業に追い込まれていった。当時スーパーが武器とした「薄利多売」に対抗できなかったのだ。
セブン-イレブン(・ジャパン)の実質創業者である鈴木敏文氏は、1974年5月、東京江東区の豊洲に1号店をオープンした。親会社であったイトーヨーカ堂の信用はあったものの「セブン-イレブン」の信用は薄く、既存の商品をかき集めた品ぞろえからスタートしている。
その新業態に鈴木氏が求めたのは、ほしい商品が、ほしい時に、ほしいだけ手に入る店だった。ほしい商品は本部が用意するものの、それだけではスーパーと差別化できない。そこで、アメリカのセブン-イレブンと同様に長時間営業を売りにし、欠品を生じさせない店舗運営を徹底した。
当時のスーパーは、安売りの目玉商品をチラシで訴求し、売り切れご免の販売体制だった。夕方にはほしい商品がなくなるため、安心して買い物できなかった。一方のコンビニは、決して安くはないものの、いつ来店しても、ほしい商品がほしいだけそろっている売場にこだわったのだ。
次に打った施策が、コンビニ独自の商品開発である。1978年、セブン-イレブンは「手巻きおにぎり」を開発した。ご飯とのりを別々にして、のりのパリッとした食感を訴求するおにぎりである。家庭で握る直巻きおにぎりと一線を画し、後の主力商品となった。
鈴木氏には「周囲が反対した三大話」がある。セブン-イレブンが成功を収めた後年になって、本人がよく口にする話題だ。1つ目が「日本におけるセブン-イレブンの創業」、2つ目が「銀行の創業」、3つ目が「おにぎりや弁当の販売」である。
1970年代の日本で温かいご飯を食べるには、家庭か食堂か、当時開発された保温式の弁当箱を持ち歩くしかなかった。作り置きの弁当に関しては、1970年に始まった国鉄のキャンペーン「ディスカバージャパン」で個人旅行が増え、駅弁が定着して人気が出た。しかし、コンビニでおにぎりや米飯弁当を購入する発想はまだなかった。
アメリカのセブン-イレブンを視察した鈴木氏は、ファストフードの中で、サンドイッチやハンバーガーが売れていることを知る。片手で食べられるワンハンドフードとして定着し、車内や屋外で気軽に食べられていた。
そこで鈴木氏は、サンドイッチやハンバーガーを日本流に置き換えて、おにぎりに注力した。もしセブン-イレブンがハンバーガーに傾注していたら、いずれマクドナルドに負けていただろう。
次に登場したのがおでんだ。セブン-イレブンが1979年に専用什器「おでんウォーマー」を開発し、1982年に全国展開した。
コンビニは「家庭の冷蔵庫」と呼ばれるくらい、冷やした状態で商品を管理している。夏場に涼みに訪れ、冷えた飲み物を買えるのがコンビニの強みと言える。コンビニの売上が1年で最も多くなるのが7月下旬、ちょうど子どもたちが夏休みに入った頃だ。
ところが、秋になると売上は急速に落ち込む。秋から冬にかけ、これといった集客の武器がないのだ。そこで開発されたのが、おでんだった。
おでんにはコンビニでしか扱えない強みがある。セルフ販売にせよ従業員が手伝うにせよ、常に従業員の目が届く範囲で管理する必要がある。スーパーが導入したくても扱えない商品だったのだ。コンビニのおにぎりもおでんも、他の業態から売上を置き換えるのではなく、新たな需要を作り出した。もちろん、おにぎり屋やおでん屋は存在したが、コンビニとは市場規模が全く異なる。
そして、新たに登場した主力商品がコンビニコーヒーである。セブン-イレブンが2013年1月に始め、ファミリーマート、ローソンにも導入された。
どのコンビニに入っても、レギュラーコーヒーが簡単に買える。100円という安さも相まって、市場を大きく広げている。既存のコーヒーチェーンから売上を奪ったというより、新たな利用機会を創出した。
全日本コーヒー協会の資料によると、2012年と2020年の1週間当たりコーヒー平均飲用杯数は、レギュラーコーヒーが3.20杯から4.41杯へと急増。他方、インスタントコーヒーは4.46杯から4.00杯に、缶コーヒーは1.93杯から1.15杯に減っている。オフィスでインスタントコーヒーを飲んだり、自販機で缶コーヒーを買ったりしていた人たちが、コンビニコーヒーに切り替えた可能性は高い。
実は、セブン-イレブンは草創期の1977年、すでにカウンターでコーヒーの提供を始めていた。カウンター内でいれたコーヒーを、ドリップ後2時間まで提供していた。ただ、当時を知る人に聞くと、現在と比べておいしくなかったという。その後、いくつかの実験を経て、2013年にようやく現在の提供方法が確立された。
確かに、コンビニコーヒーは、近年コンビニが開発した画期的な商品と言えるだろう。ただ、業界内には、新たな需要を作り出した商品がコンビニコーヒー以降あるのかと課題を挙げる人も多い。新たなコンビニ商品と需要創造については、次回の連載で検証したい。
(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年10月28日に公開した記事を転載しました)
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