目次

  1. 毎日1店舗平均300個近く売れるおにぎり
  2. 「米飯類」「おでん」の売上、過去20年で大幅減
  3. 酒販店出身コンビニの主力商品だったビール
  4. 新たな需要を作り出した独自の商品開発
  5. 40年越しでノウハウを確立したコンビニコーヒー

 今コンビニに求められているのが、野球で言うところの「四番打者」である。売上を引っ張ってくれる、頼りになる存在だ。これまでは「おにぎり」「米飯弁当」「おでん」がそうだった。しかし、その主力商品が長期の不振に陥っている。「四番」の条件とは何か。歴史をひもときながら、新たな主軸に定着したコンビニコーヒーも含め、商品開発について考えたい。

 コンビニのおにぎりは、野球に例えると「四番打者」、つまりチームの主砲である。

 どれだけ売れているのか。セブン-イレブンを例に挙げると、1日1店舗当たり平均280~290個(「数字で見るセブン-イレブン・ジャパン」をもとに計算)で、1日3万円台後半の売上になる。

 おにぎりほどではないが、おでんも稼ぎ頭だった。おでんを1個で済ますお客はほとんどいない。たまご、大根、白滝、牛すじ、がんもなど複数購入する。5点で500円弱。仮に1日30人が利用すれば1万5000円前後になる。

おでんはアジア各国の日本型コンビニでも導入され、売上に寄与している。台湾西南部・台南市のコンビニ店頭では、日本以上の仕込み量で販売していた=2019年3月、筆者撮影

 セブン-イレブンの店舗平均日販(1店舗当たりの1日の平均売上高)は、コロナ禍の影響を受ける前の2019年度、65万6000円だった。売場面積比で見ると、おにぎりは非常に効率の良い商品であることが分かる。おでんも店舗で仕込むため粗利が高く、上手に販売すれば、加盟店オーナーにとって利益が出やすい(半面、廃棄ロスもあるが)。

 近年、頭角を現したのが「コンビニコーヒー」である。ラテを含むコンビニコーヒーの販売数は、1日1店舗当たり約140杯(上記「数字で見るセブン-イレブン・ジャパン」をもとに計算)で、毎日およそ1万5000円前後の売上になる。

 しかし、コロナ禍で異変が生じた。現在は緊急事態宣言が解除され、首都圏のほとんどの店舗で酒類販売の時間制限も撤廃された。

 ただ、国民の多くがマスクを着け、旅行や帰省を控え、一部ではテレワークが定着している。海外の感染状況を見ても、なお油断できない局面で、2019年のような人々の動きは戻っていない。

 コンビニの売上は、人の移動が活発になるほど増える。どこかへ移動する際、その動線上にあるコンビニに立ち寄るためだ。オフィスに向かう途中、得意先を回る途中、帰省の途中など、多くは何かの目的で移動している「途中」に立ち寄って買い物をする。

ミニストップは集客力を高めるため、2019年7月から約2000の全店舗で、通常のおにぎりを全品100円(税抜き)に統一した。店内加工のおにぎり(画像で「当店炊きあげ」とある商品。中心価格158円)を販売する店舗もある=筆者撮影

 片手で食べられる「ワンハンドフード」の代表格であるおにぎりも、人々の移動が活発になるほど売上が増える。それゆえコロナ禍の2020~21年、目に見えて売上を落とした。

 片手で食べざるを得ない状況とは、仕事中のオフィスや、駐車場の車内、スポーツ観戦の客席、野外活動、居酒屋で飲んだ帰りの路上など、何かしら理由のあるシーンが多い。それらがコロナ禍で吹っ飛んでしまった。おにぎりの品質改善は続くものの、「四番」の地位にあり続けるのは、もはや難しいのかもしれない。

 おでんも苦境にあえいでいる。感染防止策として、専用のおでん什器(じゅうき)による販売を取りやめた店舗も多く、「おでん=コンビニ」の図式が崩れつつある。コンビニでは代わりにパック入りおでんを売っているが、同じような商品を格安で売っているスーパーマーケットとの違いを打ち出しづらい。

 もちろん、従来の什器で販売している店舗もある。ただし、衛生上の問題から、ビニールカーテンの内側で、しかもフタをしっかり閉めている。特有の匂いが店内に漂わず、売っていることに気づかないお客も多いのではないか。おでんは、おいしそうな湯気がたって初めて強みを発揮する。

各チェーンが具材の多様性やつゆの地域性にこだわってきたコンビニのおでん。コロナ禍で売上が急落している=2019年8月、ファミリーマート本部、筆者撮影

 新しい主力商品に定着したコンビニコーヒーは、成長途上にあるものの、オフィスへの出勤が減り、特に都市部の店舗では売上減に見舞われている。

 そもそもコロナ禍以前から、おにぎりと米飯弁当を合わせた「米飯類」の売上は、この20年で1店舗当たり数十%減っている。おでんの売上も、20年間にほぼ半減した。廃棄ロスを嫌っておでんの取り扱いをやめる店舗は、コロナ禍以前から出ていた。

 「四番打者」といえば、かつてはビールもその1つだった。初期のコンビニは酒販店からの業態転換が多かった。酒販免許を持っているので、「酒+コンビニ商品」で優位に立てたためだ。冷えた缶ビールとつまみ類は、酒販免許を持つコンビニにとって、非常に「おいしい商品」であった。

 しかし、2003年9月に酒の販売が自由化され、スーパーや免許を持たないコンビニが一斉に販売を始めた。さらにドラッグストアも安売りに参戦した。その結果、酒販店出身のコンビニは主砲を失ってしまった。

 コンビニが獲得したいのは、スーパーやドラッグストアが扱わない、あるいは扱えない「強打者」である。大手ナショナルブランドメーカーが製造するビールや飲料、菓子、カップ麺、洗剤などには到底務まらない。

 他業態との差別化のための苦労は、コンビニの草創期にもあった。1970年代、日本に71万軒あった零細な食料品店は、スーパーの脅威にさらされていた。雨後のタケノコのように現れる大型の安売り店に対し、狭い店内、少ない人員、少量仕入れの零細店は、なす術もなく廃業に追い込まれていった。当時スーパーが武器とした「薄利多売」に対抗できなかったのだ。

 セブン-イレブン(・ジャパン)の実質創業者である鈴木敏文氏は、1974年5月、東京江東区の豊洲に1号店をオープンした。親会社であったイトーヨーカ堂の信用はあったものの「セブン-イレブン」の信用は薄く、既存の商品をかき集めた品ぞろえからスタートしている。

 その新業態に鈴木氏が求めたのは、ほしい商品が、ほしい時に、ほしいだけ手に入る店だった。ほしい商品は本部が用意するものの、それだけではスーパーと差別化できない。そこで、アメリカのセブン-イレブンと同様に長時間営業を売りにし、欠品を生じさせない店舗運営を徹底した。

「ほしい商品が、ほしい時に、ほしいだけ手に入る」というコンセプトを突き詰めて、コンビニ業態は発展してきた。24時間営業はその軸となるものだ=筆者撮影

 当時のスーパーは、安売りの目玉商品をチラシで訴求し、売り切れご免の販売体制だった。夕方にはほしい商品がなくなるため、安心して買い物できなかった。一方のコンビニは、決して安くはないものの、いつ来店しても、ほしい商品がほしいだけそろっている売場にこだわったのだ。

 次に打った施策が、コンビニ独自の商品開発である。1978年、セブン-イレブンは「手巻きおにぎり」を開発した。ご飯とのりを別々にして、のりのパリッとした食感を訴求するおにぎりである。家庭で握る直巻きおにぎりと一線を画し、後の主力商品となった。

セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問(元会長、CEO=最高経営責任者)の鈴木敏文氏=2019年2月、東京都千代田区、朝日新聞社

 鈴木氏には「周囲が反対した三大話」がある。セブン-イレブンが成功を収めた後年になって、本人がよく口にする話題だ。1つ目が「日本におけるセブン-イレブンの創業」、2つ目が「銀行の創業」、3つ目が「おにぎりや弁当の販売」である。

 1970年代の日本で温かいご飯を食べるには、家庭か食堂か、当時開発された保温式の弁当箱を持ち歩くしかなかった。作り置きの弁当に関しては、1970年に始まった国鉄のキャンペーン「ディスカバージャパン」で個人旅行が増え、駅弁が定着して人気が出た。しかし、コンビニでおにぎりや米飯弁当を購入する発想はまだなかった。

 アメリカのセブン-イレブンを視察した鈴木氏は、ファストフードの中で、サンドイッチやハンバーガーが売れていることを知る。片手で食べられるワンハンドフードとして定着し、車内や屋外で気軽に食べられていた。

 そこで鈴木氏は、サンドイッチやハンバーガーを日本流に置き換えて、おにぎりに注力した。もしセブン-イレブンがハンバーガーに傾注していたら、いずれマクドナルドに負けていただろう。

 次に登場したのがおでんだ。セブン-イレブンが1979年に専用什器「おでんウォーマー」を開発し、1982年に全国展開した。

 コンビニは「家庭の冷蔵庫」と呼ばれるくらい、冷やした状態で商品を管理している。夏場に涼みに訪れ、冷えた飲み物を買えるのがコンビニの強みと言える。コンビニの売上が1年で最も多くなるのが7月下旬、ちょうど子どもたちが夏休みに入った頃だ。

 ところが、秋になると売上は急速に落ち込む。秋から冬にかけ、これといった集客の武器がないのだ。そこで開発されたのが、おでんだった。

 おでんにはコンビニでしか扱えない強みがある。セルフ販売にせよ従業員が手伝うにせよ、常に従業員の目が届く範囲で管理する必要がある。スーパーが導入したくても扱えない商品だったのだ。コンビニのおにぎりもおでんも、他の業態から売上を置き換えるのではなく、新たな需要を作り出した。もちろん、おにぎり屋やおでん屋は存在したが、コンビニとは市場規模が全く異なる。

 そして、新たに登場した主力商品がコンビニコーヒーである。セブン-イレブンが2013年1月に始め、ファミリーマート、ローソンにも導入された。

 どのコンビニに入っても、レギュラーコーヒーが簡単に買える。100円という安さも相まって、市場を大きく広げている。既存のコーヒーチェーンから売上を奪ったというより、新たな利用機会を創出した。

コンビニコーヒーは新たな主力商品として定着した。沖縄県のファミリーマートでは、店内調理の焼きたてパンと合わせて訴求していた=2019年7月、ファミリーマート浦添高校前店、筆者撮影

 全日本コーヒー協会の資料によると、2012年と2020年の1週間当たりコーヒー平均飲用杯数は、レギュラーコーヒーが3.20杯から4.41杯へと急増。他方、インスタントコーヒーは4.46杯から4.00杯に、缶コーヒーは1.93杯から1.15杯に減っている。オフィスでインスタントコーヒーを飲んだり、自販機で缶コーヒーを買ったりしていた人たちが、コンビニコーヒーに切り替えた可能性は高い。

 実は、セブン-イレブンは草創期の1977年、すでにカウンターでコーヒーの提供を始めていた。カウンター内でいれたコーヒーを、ドリップ後2時間まで提供していた。ただ、当時を知る人に聞くと、現在と比べておいしくなかったという。その後、いくつかの実験を経て、2013年にようやく現在の提供方法が確立された。

セブン-イレブンは、1970年代後半から約40年越しでコンビニコーヒーを定着させた。マシンの性能や100円という安さなど、様々な成功要因がある=2017年12月、セブン-イレブン千代田二番町店、筆者撮影

 確かに、コンビニコーヒーは、近年コンビニが開発した画期的な商品と言えるだろう。ただ、業界内には、新たな需要を作り出した商品がコンビニコーヒー以降あるのかと課題を挙げる人も多い。新たなコンビニ商品と需要創造については、次回の連載で検証したい。

  

(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年10月28日に公開した記事を転載しました)