目次

  1. SPAC(特別買収目的会社)とは
  2. SPAC、アメリカ株式市場で急増
  3. SPAC人気、背景に「コロナ禍」とESGブーム
  4. 買収側のメリット
  5. 日本もSPAC検討に着手
  6. 金融庁が制度検討する3つのポイント

SPACとは、「Special」(特別)、「Purpose」(目的)、「Acquisition」(買収)、「Company」(会社)の頭文字から名付けられています。その会社自体は特定の事業を持たず、成長が期待されるスタートアップなど株式を公開していない企業を買収することのみを目的として設立した会社です。

SPACは上場後、運営実態のない「空箱」の状態で投資家から出資を募り、その資金を使って未公開企業を買収します。

買収後は、買収した企業と合併し、その事業を継続する上場企業として存続。買収した企業が競争力を磨き、成長していくための研究開発などに資金を投じ続けます。

そして、企業が成長して株価が上昇したところで、配当の形で投資家に還元していく仕組みです。

投資家だけでなく買収した企業の経営者、従業員がすべてメリットを享受できるとしてアメリカでは注目と期待を集めています。

日本の金融庁や東京証券取引所によると、SPACは2003年にアメリカの株式市場に登場。ただ、1年間で数件~60件ほどだったため、あまり注目はされてきませんでした。

それが2020年には248件に急増。アメリカにおけるすべての上場の約4割を占めるまでになり、金融関係者の注目を集めるようになりました。

さらに2021年は9月末までの段階で447件に急増しました。すべての上場の7割を超す規模で、資金調達額も1280億ドル(14兆6000億円)まで膨らんでおり、SPAC人気は、いっそう熱を帯びている状況と言えそうです。

ソフトバンクグループなどがSPACを上場させているアメリカのナスダック市場=アメリカ・ニューヨーク、朝日新聞社

アメリカでSPACが買収したり交渉したりしている企業はテクノロジーやヘルスケア、金融、エネルギーなどいろんな分野があり、目当ての業種を特定していない「空箱」も、2~3割はあるようです。

東京証券取引所によると、2003年から上場したアメリカのSPACは1083社。2021年9月末の段階で413社が買収を終え、「空箱」を卒業したそうです。

ほかに、121社が買収先を公表済みで、手続き中。まだ459社の「空箱」があり、さらに、282社がSPAC上場の検討を公表しています。

金融庁や野村証券によると、SPAC人気に火をつけているのは、富裕層などの個人投資家や機関投資家と言った伝統的な投資家たちです。

アメリカが大規模な金融緩和を進めた結果、投資資金が市場に出回りました。コロナ禍の影響で経営が傷んだ企業が多く、旧来の投資先が魅力を失い、投資家が資金の受け皿探しに躍起になっているという状況も背景にはあるようです。

投資判断にESG(環境、社会、ガバナンス)の要素を重視する投資家が増え、国際的にSDGs(持続可能な開発目標)への意識が高まってきたことも大きな要因です。

地球環境や人びとの暮らし、ガバナンス(企業統治)など、いろんな観点で投資家が持続可能性のある有望株への投資を考えていることが、SPACブームの下支えになっているようです。

買収される側のメリットも大きそうです。

アメリカでもスタートアップ企業が世間の信頼を勝ち取り、上場して安定的に投資資金を集められるようになるまでには、一定の時間がかかります。

けれども「空箱」をつくった投資家と上手にマッチングでき、空箱の中に身を置くことがかなえば、早い段階で実質的に上場ができます。広く資金調達をすることが早期に可能になれば、成長を急ぎたい買収される側の経営者にとっても、有力な選択肢となり得るからです。

SPACはアメリカで人気の制度で、日本企業には無縁なのかというと、そうではありません。

孫正義会長兼社長が率いるソフトバンクグループ(SBG)は2021年、いくつものSPACをアメリカの株式市場に上場させました。「空箱」と有望株との合併を狙っていく戦略です。

10月21日には、SBGが出資して経営再建を進めてきた米シェアオフィス大手ウィーワークがSPACを通じてニューヨーク株式市場に上場しました。

このSPACの導入は、世界の主要国に広がっています。

金融庁によると、アメリカ以外でもすでにイギリスやフランス、ドイツ、イタリア、カナダ、韓国の主要取引所でSPAC上場が制度化され、投資家の資金の受け皿になっています。 

2021年には日本の政治にも動きがありました。

菅義偉前首相は6月にとりまとめた「成長戦略実行計画」に、初めて「SPAC制度の検討」という項目を盛り込みました。

「我が国(日本)企業のダイナミズムの復活」を目指すのが実行計画の柱で、SPACについては「スタートアップ企業を早期に上場させることができる仕組み」として注目されています。

ただ、日本の金融当局では、SPACを通じて上場したアメリカの企業で2020年、自社の技術について虚偽の説明を重ねてきた疑惑が浮上したことを非常に問題視しています。

この企業は投資家の期待を集め、一時、大手自動車メーカーのフォードを時価総額で上回る「成果」を見せました。ところが、疑惑発覚後に株価は急落。投資家の期待を損なう結果になりました。

このため、当時の麻生太郎金融相がSPACについて「この種の新しいものは極めて疑わしい」と指摘するなど、SPAC導入については閣内でも見解が割れていました。

それでも「実行計画」には、日本でのSPAC導入について「我が国の国際競争力の強化の視点を踏まえつつ、投資家保護策等の観点から検討する」との表現で、検討方針が明記されました。

金融庁によると、すでにアジアにおける投資資金の受け皿づくりをめぐって各国間で激しい競争が始まっており、日本が後手に回ることがないよう急ぐ必要に迫られているようです。

制度設計を進める金融庁では今後、

  1. 「空箱」をつくる投資家の目利き力
  2. スタートアップ企業の上場適格性の担保
  3. スタートアップ企業が上場しやすいマザーズ市場との相関性

といった切り口で、「日本版SPAC」の仕組みづくりを検討していく考えです。

東京証券取引所=朝日新聞社

日本でも最近は日経平均株価が高値水準で推移しており、投資資金の新たな受け皿づくりに期待する投資家らの声は強まっています。

アメリカ発のSPACが日本でも導入されるのか。金融関係者の注目が集まっています。

(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年10月27日に公開した記事を転載しました)