「宇宙の旅」実現、宇宙にネット基地局網……宇宙ビジネス激動の1年。2022年はどうなる?
宇宙ビジネスの産業発展を支える一般社団法人「SPACETIDE」の共同設立者・理事である佐藤将史さんが、リアルな宇宙ビジネスの“いま”を伝えます。第7回は、宇宙ビジネスにまつわる「2021年重大ニュース」を振り返ります。
宇宙ビジネスの産業発展を支える一般社団法人「SPACETIDE」の共同設立者・理事である佐藤将史さんが、リアルな宇宙ビジネスの“いま”を伝えます。第7回は、宇宙ビジネスにまつわる「2021年重大ニュース」を振り返ります。
2010年代から本格化した新しい宇宙ビジネスの潮流。
まだ短い歴史ではあるが、2021年は象徴的な1年となった。
今回は、今年の宇宙ビジネスの重大ニュースを振り返りたい。
従来の宇宙産業はBtoG、つまり政府を顧客とした事業が中心だった。
現在の宇宙ビジネスにおいてもサービス調達制度(第3回コラム参照)など、時代に合わせて変化しながらBtoGは健在だ。
2010年代は衛星データが様々な異業種に使われ始めるなど、BtoBも大きく進んだ。
そして2020年代を象徴する新たな宇宙ビジネス市場がBtoC。
一般消費者に宇宙サービスが提供される時代が幕を開けた。
1つ目は、宇宙旅行時代の幕開けだ。
宇宙ビジネスの夜明け前だった2000年代、「宇宙ビジネスと言えば宇宙旅行」と言われていた。
数多くのアメリカの起業家が宇宙旅行ビジネスを提唱していたからだ。
しかし、技術的なハードルの高さから成功者が現れず、失われた存在になりつつあった。
それが2021年、突然現実のものになった。
それも立て続けに、だ。
2021年7月にアメリカのヴァージン・ギャラクティックが、飛行機型の宇宙船「スペースシップ2」を上空86キロの宇宙空間に到達させることに成功した(アメリカ空軍は80キロより上空を宇宙と定めている)。
創業者のリチャード・ブランソン氏を始め、ヴァージン・ギャラクティックの社員4人が搭乗していた。
そのわずか1週間後には、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏が立ち上げた宇宙企業・ブルーオリジンが、ベゾス氏本人や民間の顧客を乗せた宇宙船を自社ロケットで打ち上げ、高度100キロ超に到達させた。
両社とも、創業から20年弱を経て初めての商業フライト成功。
多くの業界関係者にとって待望の瞬間だった。
ブルーオリジンは10月にも顧客を乗せたフライトに成功。
12月にも3回目を予定している。
これに続いたのがアメリカの宇宙企業・スペースXだ。
資産家のジャレッド・アイザックマン氏がスポンサーとなり企画した有人ミッション「インスピレーション4」。
驚かされたのは、その行き先がヴァージン・ギャラクティックやブルーオリジンのはるか先、高度約580キロの地球軌道だった点だ。
スペースXの有人宇宙船クルー・ドラゴンで3日間地球を周回した商業宇宙旅行となった。
12月8日には衣料品通販サイト運営会社「ZOZO」の創業者・前沢友作氏が、スペース・アドベンチャーズ社の宇宙旅行サービスの顧客として、ロシアのソユーズロケットに搭乗して国際宇宙ステーション(ISS)に滞在予定となっている。
宇宙に行くことはこれまで、優れた頭脳や技能を持ち、心身も健康で、厳しい試験とトレーニングを受けて選ばれた、国の宇宙飛行士の専売特許だった。
しかし、今年相次いだ民間の宇宙旅行ミッションの搭乗者は、18歳~90歳の老若男女。
高額チケットを買う経済的余裕がある点を除けば、特別な訓練を積んだわけでもない普通の民間人がほとんどだ。
がんの既往歴のある人も含まれる。
この事実は、商業宇宙旅行ビジネスの市場の裾野が大きく広がっていることを物語る。
最も安い弾道飛行(ヴァージン・ギャラクティックやブルーオリジンが実施したような、地球を周回しない約10分間、高度80~100キロの有人フライト)でも数千万円もするのが現状ではある。
ただ、実績が積み重なった先には、低価格化によって、より多くの人に宇宙旅行のチャンスが訪れる未来がある。
2つ目は、通信衛星コンステレーション(通信衛星群)のサービス開始だ。
現在、世界で最も多くの人工衛星を軌道上で運営している衛星コンステレーションがスペースXの「スターリンク」だ。
これまで同社のファルコン9ロケットで、計1800機を超える通信衛星を打ち上げてきた。
全世界をカバーするインターネット通信網を宇宙経由で提供するという壮大なビジネスで、
2020年に北米の一部地域でベータ版が提供され、2021年に入って本格的なサービスが始まった。
現在約20か国でスターリンクによるインターネットの中継回線を提供している。
今は通信アンテナの設置コストが1000ドル超だが(それでもゼロから光ファイバー網を敷設するよりコスト効率ははるかに良い)、近い将来、300ドルほどに下げていくという。
それが実現すれば、さらに多くの人々がネットにつながる環境を提供できる。
ライバルの動きも同様に速い。
その筆頭が、日本の通信大手ソフトバンクが出資するアメリカの衛星サービス企業・ワンウェブ。
2021年にサービス開始し、これまでに350機超の通信衛星を打ち上げた。
まずは北極から北緯50度までの地域を対象にサービスを提供し、2022年から全世界へ展開予定だ。
世界人口70億人のうち30億人ほどは、いまだに十分にインターネットにアクセスできていない。
アジアやアフリカなどでは、主要都市以外にネット網が存在しない国も多い。
アメリカのような先進国でも、内陸部で回線網が未整備だったり老朽化していたりする地域がある。
この巨大なデジタルデバイド(情報格差)市場が、地球全体をカバーする通信衛星コンステレーション、通称「メガ・コンステレーション」による通信ビジネス競争の舞台だ。
この国際的な競争には、他にもアマゾンやメタ(旧フェイスブック)などが参入を狙っている。
2021年は、実は日本にもこの波が押し寄せてきた1年だった。
5月には、ワンウェブに出資してきたソフトバンクが、日本を含む世界でのサービス展開に向けてワンウェブとの協業を発表。
9月には、KDDIがスターリンクの国内展開の提携先としてスペースXとの協業を発表した。
通信キャリア大手の相次ぐ宇宙ビジネス参入は、大きな注目を集めた。
他の国内通信キャリアの動きも活発だ。
NTTも2021年5月、スカパーJSATなどと組み、通信衛星(IoT衛星)、リモートセンシング衛星、データセンター衛星と光通信技術を組み合わせた統合型の衛星ネットワークを構築すると発表した。
楽天モバイルはアメリカの衛星通信ベンチャー・AST & Science社に出資し、低軌道衛星による通信サービスの提供を2023年以降に始める。
国内キャリア4社が通信衛星ビジネスの舞台に出そろった1年となった。
3つ目は、日本の宇宙ビジネスの進展だ。
2021年6月に発表された政府の「成長戦略実行計画」では、重点分野の1つに宇宙が位置付けられた。
「宇宙は成長産業であるとともに安全保障、防災、SDGs達成等にとって不可欠である」との記載があり、“ビジネスとしての宇宙”が強調された。
政府の成長戦略において宇宙が成長産業であると明記されたのは初めてのことで、その意味は大きい。
今後は政府による民間サービス調達によって、日本発の小型衛星コンステレーションが整備されていく。
また、商業ロケットの打ち上げや宇宙旅行の拠点となる「宇宙港」の整備も含め、アジアの宇宙ビジネスの中核拠点としての産業政策が推進されていくことになる。
そんな中、2021年は日本の宇宙ベンチャーの隆盛がさらに加速した。
宇宙ベンチャーは64社となり、資金調達総額は過去最高を塗り替える339億円以上になることが確実だ。
コロナ禍でも成長が加速する日本の宇宙ビジネスは、間違いなく日本経済にとって重要な成長産業の1つになってきている。
激動の2021年の宇宙ビジネスを振り返り、来る年の未来を占う場がやってくる。
筆者が理事を務める一般社団法人SPACETIDEが主催する、アジア・太平洋地域で最大規模の宇宙ビジネスカンファレンス“SPACETIDE 2021 Winter in Nihonbashi”が東京・日本橋で12月13~16日に開かれる(オンライン視聴も可能)。
日本、欧米、アジア、オセアニアより約100名のスピーカーが参加し、宇宙ビジネス最前線について熱く議論する。
コロナ禍で海外スピーカーはオンライン登壇となるが、国内スピーカーは原則としてリアル参加し、参加者同士が会場で交流する機会もある。
今回のカンファレンスのコンセプトは「宇宙ビジネス、事業化ステージのはじまり」だ。
今回のコラムで触れた商業宇宙旅行や通信衛星コンステレーションを始め、いよいよ現実のビジネスとして展開され始めた宇宙ビジネスの全容を、あらゆる切り口で語り合う4日間。
初日の“Japan Day”には国内の産官学の業界リーダーが集結。
宇宙ベンチャーに加え、ソフトバンクや、小型ロケットや月面アバターの開発を発表して今年大きな話題となったホンダなど、異業種企業が数多く登壇する。
2日目の“Space-Enabled World powered by Tellus”は、衛星データビジネスに特化した日となる。
衛星サービス・プロバイダのみならず、金融やゼネコン、シェアリングエコノミー業界からもスピーカーを招き、ユーザー業界から見た衛星ビジネスを議論するのが特徴だ。
3日目はアジア・太平洋地域の宇宙ベンチャーによるピッチ“APAC Startup Pitch powered by Starburst Aerospace”を開く。
日本を含むアジア・太平洋地域から集まった10社の宇宙ベンチャーによるピッチは、オーディエンス参加型で行う。
国際的な宇宙ビジネス・アクセラレータである Starburst Aerospace の協力の下、参加者がスマホでリアルタイム採点をする。
最終日は“Global Day”。
世界各国の政府や企業、ビジネス・プロフェッショナルによる世界最先端の「宇宙ビジネスの今」を議論する。
注目はヴァージン・ギャラクティック、ブルーオリジンの宇宙旅行ミッションに搭乗した「宇宙帰り」の民間宇宙飛行士が2名登壇する点だ。
他にもスペースXやアマゾン・ウェブ・サービスなど、業界をリードするプレイヤーの生の声を聞くチャンスがある。
堀江貴文氏、佐藤航陽氏、田中邦裕氏など、日本を代表するIT起業家も登壇し、ロケット打上げや衛星データ事業を語る。
筆者も僭越(せんえつ)ながら複数のパネルセッションのモデレーターを務める予定だ。
“SPACETIDE”という言葉は単なる団体やイベントの名称ではなく、世代、業界、国の垣根を越えた、あらゆる人々と共に創る新しい産業の潮流(TIDE)そのものを指す。
宇宙ビジネスに関心を持つすべての人々が日本橋に集まり、私たちと共に2022年に向けたビッグウェーブを起こしてくれることを期待している。
(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年12月3日に公開した記事を転載しました)
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