ネット炎上の「防災訓練」とは 中小企業に役立つ有事への備えを解説
企業のネット炎上は、ある日、前触れも無く起こるケースが少なくありません。中小企業のネット炎上対策を考えるシリーズの3回目は、突然の炎上事案にも冷静に対応するため、企業が取り組むべき事前準備の方法や、「炎上防災訓練」のやり方を基本から解説します。
企業のネット炎上は、ある日、前触れも無く起こるケースが少なくありません。中小企業のネット炎上対策を考えるシリーズの3回目は、突然の炎上事案にも冷静に対応するため、企業が取り組むべき事前準備の方法や、「炎上防災訓練」のやり方を基本から解説します。
前回はネット炎上を察知する「モニタリング」の方法を紹介しました。ネット炎上は、早期の発見・対応が重要であると伝えてきましたが、今回は有事の際に早期対応をスムーズに進めるための事前準備について、詳しく解説します。
ネット炎上が発生したときの対応例は、以下のようなものが挙げられます。
有事の際は、上記のような対応を短時間で行わなければなりません。しかし、事前の準備なしに、迅速な判断や行動が冷静にできるでしょうか。答えは、否です。だからこそ、事前準備が重要なのです。
事前準備は多岐にわたりますが、本稿ではできるだけ簡潔に、ポイントを絞って説明します。
皆様の会社は、業務上の危機管理マニュアルを策定しているでしょうか。一般的には、災害や事故、テロなどに備えたもの、情報漏洩やウイルス感染などの情報セキュリティー、組織の内部統制など、事業の継続に関わる項目が挙げられると思います。
ソーシャルリスクの脅威も、それらと同列に定義しておく必要があります。では、中小企業の経営者や後継ぎの皆様は、何から取りかかればいいのでしょうか。
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まずは、ソーシャルリスク対策に関係する組織の体制づくりです。危機管理のために、各部門の連携と役割分担を定義します。
その際には、ソーシャルリスク対策マネジャーを定めて下さい。危機の感知から分析、対処といった一連のフローの中で、中心的な役割を果たす責任者となります。
ソーシャルメディアの特徴や危険性を理解し、全社的なリスク対策をリードし、有事の際に陣頭指揮を執る存在となりますので、中小企業においては、部署を横断して指示ができるポジションの方が良いでしょう。
もし社内に、ソーシャルメディアに明るい人物がいなければ、筆者が属する企業などが提供するソーシャルリスク対策マネジャーの養成講座などを利用するのも一案です。
次に、自社を取り巻く環境で、ソーシャルリスクとして起こりうる事象(インシデント)を洗い出しましょう。
例えば、労務問題や自社内のハラスメントに関しては、従業員がSNSに内部告発するかもしれません。飲食系であれば、異物混入も起こりうるでしょう。第1回で例に挙げたバイトテロも考えなければいけません。
このような事案を事前に想定し、有事の際に対応に関わるであろう各部門の担当者を集め、自社に起こりうるリスクを話し合い、洗い出してみて下さい。
洗い出しが終わったら、それらが自社に与える影響、インパクトを考えます。重要なのは、各インシデントの進行状況に応じて、自社にどのようなインパクトをもたらすかを検討することです。
内部告発を例に取ると、告発がSNSに投稿されたばかりなのか、広く拡散してニュースメディアから取材が入った状態なのか、によってインパクトが異なります。
進行状況が確認できたら、各段階ごとにどのような対応を取るかを定義します。
内部告発の例であれば、SNSに投稿されたばかりなら、事実の確認と関係部署への通知、モニタリングの強化などになります。ニュースメディアから取材が入るレベルなら、事実確認の結果や改善策を含めた情報開示内容の作成、記者会見などが考えられるでしょう。
それぞれの対応方法について、どの部門がどのような役割分担で行動するのかも定義する必要があります。
指揮・統制の系統やエスカレーションルール(どのような内容ならばどこに報告するかなどのルール)も定めなければなりません。例えば、事実確認は製造部門、情報開示は広報、方針の最終決定は役員会、といったイメージです。
投稿初期 | 投稿拡散期 | |
---|---|---|
担当部署 |
製造部門 |
役員会、広報 |
対応策 |
事実確認 関係部署への通知 モニタリング強化 |
情報開示内容の作成 記者会見 |
危機対応チームの招集ルールやメンバーもあらかじめ決めておきましょう。
これらの内容をまとめたものが、ソーシャルリスクに対する危機管理マニュアルとなります。マニュアルは有事の際、落ち着いて対処するためのバイブルとなり、早期の対処が可能となります。
さて、ここまでの定義ができたとして、本当に有事の際に機能するでしょうか。
どうか、年に1回でも「炎上防災訓練」を実施して下さい。危機対応チーム以外のスタッフが仕掛け人となり、危機管理マニュアルが本当に機能するかどうか、危機対応チームがシミュレーションするのです。
半日から1日かけて、インシデント発生から拡散、報道に至るまでの一連の流れを、バーチャルに実施します。
イメージするなら、炎上を仕掛けるチームと対応するチームに分かれて、マニュアルに基づいてシナリオを進行させていき、抜けや漏れがないかを確認します。訓練を通じてブラッシュアップすることで、より実践的なマニュアルに進化させることもできます。
変な言い方になりますが、一度でも炎上を経験した企業は強くなります。火災の避難訓練をおこなうのと同じように、定期的に訓練を行ってください。
また、危機対応チームは部門横断のケースが多いと思います。訓練を通して各部門のメンバーのコミュニケーションをはかっておくことも、有事の際には有効に働きます。
メンバーが相互を良く理解できていない状態では、緊急事態の発生時に、心もとないチームになってしまうからです。
そもそもインシデントの発生を予防するための対策についても紹介します。
予防策の多くは、教育やリテラシーの向上に帰着しますが、そのうちの一つが、従業員向けのSNS利用に関するガイドラインの策定です。
皆様の会社は従業員に、SNSの利用を推奨しているでしょうか、それとも禁止しているでしょうか。
今の時代、SNSの利用自体を完全に禁止するということはできないと思いますが、ここは企業ごとにポリシーが異なります。「会社のことはどんどん投稿して宣伝をしよう」と、SNSの業務利用を推奨する企業もあれば、業務上の発信に消極的な企業もあります。
どちらが良い、悪いということはありませんが、ここにも一定のルールを定める必要があります。
例えば、「業務上の内容を発信する際、個人情報が含まれる内容を投稿しない」、「自社商品の宣伝をする場合にはステマ(ステルスマーケティング)にならないように気をつける」といったものです。
実際、身元を伏せて自社製品のレビューをしていたスタッフが、関係者であることが判明し、「ステマ」と指摘を受けて炎上した例もあります。
このように、自社の従業員がSNSを利用するにあたって、企業としてのポリシーとガイドラインを策定しておきましょう。
ポリシーとガイドラインは作って終わりではなく、浸透させなければ意味がありません。告知や教育方法についてもぜひ検討し、実行して下さい。
中小企業は、ソーシャルリスクが事業の継続にも影響を与えてしまう重大事となりかねません。大企業と異なり、中小企業は規模の点においては教育や意思統一がしやすい部分もあると思います。そのメリットを生かし、ぜひ浸透させていただきたいと思います。
ソーシャルリスクについて、従業員の知見を深めるための教育も行ったほうが良いでしょう。方法は次回以降に説明します。
今回はソーシャルリスクに対する、社内の事前対策について解説しました。日々の備えが、いざというときに役立つということを知っていただけたなら幸いです。
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