目次

  1. 周囲とうまくやれない原因は、個人の性格ではない
  2. コミュニケーション回数と親近感の相関とは
  3. 苦手な人にこそ、毎日声をかけてみる
  4. 「目を見て話す」「お礼を言う」の思わぬ効果

こんにちは。

行動習慣コンサルタントの冨山です。

 

緊急事態宣言が解除され、街に人が戻りつつあります。

これまでリモートワークばかりだったというビジネスパーソンの中にも、出社するスタイルに戻った、という方がいらっしゃるのではないでしょうか。

いよいよ経済が回り出す……とはいえ、職場で働く際には、リモートにはない悩みもいろいろ出てきますよね。

緊急事態宣言が解除された朝、マスク姿で通勤する人たち=2021年10月1日、大阪市北区、朝日新聞社

その1つが「対人関係」です。

様々な職場で働く人にヒアリングをしていると、人との関係づくりやコミュニケーションの取り方に悩む人がとても多いと実感します。

 

例えば職場で新しいチームに配属された人にとって、「どうやってメンバーと良好な関係を築くか」は大事な問題です。

「先輩として後輩にアドバイスしたいけど、面倒くさがられたらイヤだなぁ」とか、「メンバーと仲良くしたいけど、人と積極的に話すのは得意じゃないなぁ」とか、「あまりなれなれしくすると嫌われるかなぁ」とか、いろいろ考えてしまうかもしれません。

 

このとき自分や相手の内面にフォーカスしてしまうと、問題をなかなか解決できません。

つまり、相手から好きになってもらったり、相手を好きになったりするための努力はしなくていい、ということです。

 

行動科学マネジメントでは、フォーカスすべきは行動そのものです。

周りの人とうまくやれないのは、自分や相手の性格が原因ではない、という考え方です。

だから、好かれようとか好きになろうという気持ちは、いったん忘れましょう。

 

仕事で付き合う人との関係性で重要なのは、相手との距離感です。

例えば後輩が自分の指示やアドバイスどおりに行動してくれることと、相手から好かれたり相手を好きになったりすることは関係ありません。

 

もちろん、わざわざ相手から嫌われる必要もありませんし、相手を好きになるのが悪いわけではありません。

ただ、「あの人は好き、この人は嫌い」とか「(指示どおりに動いてくれないので)なんかムカつく!」という感情に振り回されていては、相手との「ちょうど良い距離感」が分からなくなってしまうのです。

スムーズに仕事を進めるには、相手との「ちょうど良い距離感」が大事

同僚や後輩の態度や行いに、いちいちイライラしたり腹を立てたりして、不機嫌になる――。

これは相手との距離が近すぎる場合。

なんとなく苦手な人とは関わりたくない、コミュニケーションを避ける――。

これは距離が遠すぎる場合。

いずれもスムーズに仕事を進めることはできませんよね。

先輩としてのあなたの評価も、同僚からの評判も下がりかねません。

 

「ちょうど良い距離感」とは、「お互い、仕事を通しての付き合い」という関係性です。

相手の領域には踏み込みませんし、自分の感情をかき乱されることもありません。

 

この関係性を築くための重要なポイントは、コミュニケーションの「回数」です。

つまり、どのくらいの頻度でコミュニケーションを取っているか、ということ。

社会心理学では「接触回数」と呼ばれます。

人はコミュニケーションを取る回数が増えるほど、相手に親近感を抱くようになるのです。

 

だからといって「毎日職場で隣の席に座る」「一緒にお昼ごはんを食べに行く」といったことをお勧めしているわけではありませんよ。

例えば毎日のあいさつや話しかけ。

あなたが先輩だったとして、自分から後輩に毎日あいさつをしているでしょうか?

1日のうちに何回、相手に話しかけているでしょうか?

 

企業で研修をさせていただくと、「そんなことはできているよ」という先輩リーダーの方も多いです。

しかし、詳しく分析してみると、話しやすい相手には何度も話しかけるけど、苦手な相手にはわざわざ声をかけない、という方が実は大勢いるのです。

 

「苦手な相手には声をかけない」のは一般的な行動です。

でもその結果、接触回数が減り、お互いに親近感を抱けなければ、ちょうど良い距離感を築くこともできませんよね。

 

そこで、職場ではマイルールを作るようにしましょう。

例えば「苦手な相手にも、1日1回以上、必ず声をかける」といった簡単なことで構いません。

ルールどおりに行動すれば、コミュニケーションの回数は増えていきます。

毎日話すうち、苦手な相手との距離感も縮まっていく

ちなみに私が先輩リーダー向けに推奨しているのは、チームの各メンバーと毎朝1分間、対話することです。

この対話の目的はコミュニケーション回数の確保なので、話の内容は実はあまり重視していません。

「今日はどの顧客を訪問予定か」など簡単にやり取りするだけです。

 

もちろんこれは職場での対話のみならず、リモートワークの場合も有効です。

接触回数が増えれば親近感も増す、というコミュニケーションの基本は、対面でも非対面でも同じです。

 

もしもあなたに苦手な同僚や後輩がいるなら、マイルールを作り、試しにコミュニケーションの機会を持ってみて下さい。

「声をかけて無視されたらどうしよう」「いきなり話しかけたら驚かれるのでは」という思いはいったん脇に置きましょう。

 

職場でのコミュニケーションに関して、行動科学マネジメントでは「回数」と同様に、「相手を認める」ことを重視しています。

相手の存在そのものを認めることで、相手に対してリワード、つまり“メリット”を与えるのです。

こうした非金銭的メリットを与えられることは、次世代のリーダーに必要な資質です。

 

相手を認めることを行動として示すのは、決して難しいことではありません。

例えば会話中に相手の目を見て話すことも、存在を認める、つまり相手の存在承認欲求を満たす行為になります。

また、「ありがとう」という感謝の言葉をかけることも、相手にとっては自分を気にかけてくれることに値する大きな報酬となるのです。

お礼を言うことも、相手との関係改善に役立つ=筆者提供

目を見て話す、お礼を言う、うなずきながら話を聞く――。

こうしたちょっとした行動が、相手との関係性づくりに大きな影響を及ぼします。

忙しい時はつい忘れがちですが、ぜひ意識してみて下さい。

 

(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年10月22日に公開した記事を転載しました)