目次

  1. 自社製品を作り始めた町工場たち
  2. 「垢抜けなさも魅力」
  3. 同じ機械からまったく違う製品が生まれる町工場
  4. 共同出展のきっかけは「おやっさん」
  5. 「町工場プロダクツ」は事業として継続へ

 新型コロナによる緊急事態宣言が明けた2021年10月中旬、東京ビッグサイトで「インターナショナル ギフトショー」が開かれました。おしゃれ雑貨や美容用品、エンタメグッズなどが展示されるなか、メタリックな製品が並んでいたのが「町工場プロダクツ」の共同出展ブースです。

 「町工場」の看板を掲げて、ギフトショーに出るのは今回が3回目。普段、部品の製造・加工をするBtoB向けを主な仕事としている町工場たちが、アウトドアグッズやスピーカー、蚊取線香ボックスなど消費者に直接届く自社製品を開発し、ギフトショーで展示しました。

 「町工場プロダクツ」共同発起人、デザイナー真鍋玲さんは「出展社にまず伝えたのが、希望小売価格を決めることでした。発注元から見積もり依頼が届いて……という普段の仕事とは違い、自分たちでまず値決めをしなければ、買いつけにきたバイヤーさんと話が始まりません」と話します。

 ブースでは「掛け率」(希望小売価格に対する卸値の割合)などの質問に戸惑いつつも、次々と訪れる来場者に対応していました。

 展示方法は、各社に委ねられており、これまでに開発した商品がぎゅうぎゅうに並べられたブースも。そんな様子に、真鍋さんは「ほかのブースと比べると、洗練されていないかもしれません。でも、そんな垢抜けなさも逆に魅力かなと考えています」と笑いかけます。

 事前に決めておいた統一ルールは、各ブースの上部に「町工場×○○」と掲げること。真鍋さんが各社に「会社名でなく、自分たちのことが一番伝わるワードを選んでください」と宿題を出していました。

 機械加工業「パーツ精工」の自社ブランド「Wee!Hub」が出したメッセージは「町工場×わくわく」。担当の大金誠さんは「ジャンルにこだわらず、身近な生活の軸となるようなものを作っていこうと考えるなかで、らしさを表す言葉が『わくわく』でした」と話します。

 東京都大田区のハタノ製作所の代表波田野哲二さんは「同じ業界、同じ機械で作っていても、生まれてくる製品はまったく違う。町工場にはそんな魅力があります」と話します。

 波田野さんが展示したのは、溶接技術を生かした「茶筒」。

ハタノ製作所が溶接技術で製作した「茶筒」

 手作業で生まれる波模様と、枯れ葉のような独特の焼け色が特徴です。「来場者から作り手の息づかいが感じられますね、と言ってもらえるなど生の声が聞ける貴重な機会となりました」と話します。

 波田野さんは今回が初出展。「共同出展により、出展費用だけでなく、商品の見せ方や出展の細かなルールまでバックアップしてもらえたのが大きかったです。なによりほかの工場の取り組みが刺激になりますし、困ったときには手伝ってもらえる連帯感が心強かったです」と話しました。

 町工場が共同出展するきっかけを作ったのは、Twitterで「おやっさん」として活動している埼玉県川口市の栗原精機社長の栗原稔さん(61)。2020年には、サントリー缶コーヒーBOSS「スピリットオブボス」の発売記念WEB動画に出演した経営者です。

栗原精機の栗原稔さん

 栗原さんはこれまで、機械要素技術展など業界内の展示会しか出展経験がありませんでしたが、ギフトショーの主催者から打診を受けて出展を始め、今回が3回目になります。

 共同出展する理由について、栗原さん自身は次のように答えました。

 「製造業全体が厳しい状況に置かれるなかで、うちだけが良い思いをできるわけがなく。60歳を過ぎて次の世代に何か爪痕でも残したい、製造業全体を盛り上げたい。そう考えています」

 出展企業は、栗原さんがTwitterのダイレクトメッセージでスカウトして集めます。

 精密板金加工を専門とする「小沢製作所」CEO小沢達史さんもその一人。Twitter上でやりとりしているうちに栗原さんに展示会に誘われ、直接会いに行った上で出展を決めたといいます。

 「栗原社長が長年悩んで苦労して、今の自社製品と展示会に行き着いた経験を、若手に惜しげもなく教えてくれ、共同出展という参加しやすいスキームに落とし込んでくれるような面倒見の良さ。一方、ただ言われた通り開発、展示会に出るだけでは成長しない、自分達でなんのためにやるのか、どうやってやるのかを、時に突き放して考えさせてくれます。早く俺のことなんか追い抜いてよと言って、第一線にいながら若手の成長を願っている温かさを感じてます」

 今回、共同出展に初めて「町工場プロダクツ」と名づけました。そこには、発起人の真鍋さんや栗原さんが「町工場プロダクツを事業として継続していきたい」という思いが込められています。

町工場プロダクツに出展した企業の皆さん

 コロナ禍で中止にはなってしまいましたが、これまでにも百貨店などから催事としての出展の打診があるなど「お客さんを集められるコンテンツ」として注目されつつあるといいます。

 栗原さんは「長く続けて、いずれ若手にバトンパスしたい。具体的な取り組みはこれからですが、そんなことも考え始めています」と先を見据えています。