同社の工場内。染色機の前で、代表取締役の木下茂紀さん(57)と取締役で妻の暉世(てるよ)さん(54)がバスタオルを広げ、「小さいでしょう。でもこの小ささが部屋干しを楽にするんです」と教えてくれた。

 夫妻は3人の子育てに奮闘した。洗濯物は毎日大量に出た。なかでも幅60センチ、長さ120センチの一般的なサイズのバスタオルは、大きくて干しにくかった。暉世さんは「なぜこんなに大きいの?」と、いつも気になっていた。

 2年前、小さくしたらもっとたくさん干せることに気づいた。得意先だった会社から織物業を譲り受けたのを契機に、小さなバスタオルの開発準備に取りかかった。

 同社は1962年に先代が創業し、地域内の織物業者を相手に生地や糸の染色をしてきたが、海外の安い製品の攻勢で受注が減るようになった。2010年から市外へ営業範囲を拡大し、高級ブランド製品の染色も手がけるようになった。茂紀さんは「地域密着型だったが、衰退する伝統産業を絶やしたくなかった」と話す。

 新たに考案したバスタオルのサイズは幅45センチ、長さ100センチ。市内で編み上げた生地を使用し、表面は速乾性に優れたポリエステルのマイクロファイバーで、裏面はふわふわした手触りの綿素材のものを張り合わせた。

 5月から販売すると、購入した主婦らから「マイクロファイバーだけの方が髪は乾きやすい」などの声が寄せられた。両面ともマイクロファイバー、綿の2種類にして、10月9日から発売している。

バスタオルに縫い付けられたゴムひもを使えばハンガー干しも簡単=木下染工場提供

 バスタオルの商品名は「てる日和」。中央にゴムひもが縫い付けられ、ハンガーに通して干すことができるが、その干した形がてるてる坊主に似ていることから名付けられた。ハンガーにかけられるので風が吹いても飛ばされず、省スペースで大量に干せる。

 洗髪した頭に巻くのにも便利で、長髪の女性に好評だという。暉世さんは「地域の伝統技術を高め、うちにしかできないものをつくり続けたい」と意気込む。(2021年10月9日朝日新聞地域面掲載)

「てる日和」を頭に巻いてみる。ちょうどいいサイズ感

木下染工場

 和歌山県橋本市高野口町伏原。従業員は18人。1962年創業。2020年にネット販売サイト「コモdeすこやか」を開設した。バスタオルの「てる日和」は、マイクロファイバーが1650円、綿が1760円(いずれも税込み)。