「部屋干しを楽にする」タオル 3人の子育て中に生まれたアイデア
パイル織物の産地として知られる和歌山県橋本市高野口町で生地や糸の染色を請け負う「木下染工場」は、一般サイズより一回り小さく吸収性の高いバスタオルを開発した。初回となった2021年5月に生産した1千枚は、4カ月で完売したという。開発のきっかけは、部屋干しするときにかさばるバスタオルの大きさに疑問を抱いたことだった。(高田純一)
パイル織物の産地として知られる和歌山県橋本市高野口町で生地や糸の染色を請け負う「木下染工場」は、一般サイズより一回り小さく吸収性の高いバスタオルを開発した。初回となった2021年5月に生産した1千枚は、4カ月で完売したという。開発のきっかけは、部屋干しするときにかさばるバスタオルの大きさに疑問を抱いたことだった。(高田純一)
同社の工場内。染色機の前で、代表取締役の木下茂紀さん(57)と取締役で妻の暉世(てるよ)さん(54)がバスタオルを広げ、「小さいでしょう。でもこの小ささが部屋干しを楽にするんです」と教えてくれた。
夫妻は3人の子育てに奮闘した。洗濯物は毎日大量に出た。なかでも幅60センチ、長さ120センチの一般的なサイズのバスタオルは、大きくて干しにくかった。暉世さんは「なぜこんなに大きいの?」と、いつも気になっていた。
2年前、小さくしたらもっとたくさん干せることに気づいた。得意先だった会社から織物業を譲り受けたのを契機に、小さなバスタオルの開発準備に取りかかった。
同社は1962年に先代が創業し、地域内の織物業者を相手に生地や糸の染色をしてきたが、海外の安い製品の攻勢で受注が減るようになった。2010年から市外へ営業範囲を拡大し、高級ブランド製品の染色も手がけるようになった。茂紀さんは「地域密着型だったが、衰退する伝統産業を絶やしたくなかった」と話す。
新たに考案したバスタオルのサイズは幅45センチ、長さ100センチ。市内で編み上げた生地を使用し、表面は速乾性に優れたポリエステルのマイクロファイバーで、裏面はふわふわした手触りの綿素材のものを張り合わせた。
5月から販売すると、購入した主婦らから「マイクロファイバーだけの方が髪は乾きやすい」などの声が寄せられた。両面ともマイクロファイバー、綿の2種類にして、10月9日から発売している。
バスタオルの商品名は「てる日和」。中央にゴムひもが縫い付けられ、ハンガーに通して干すことができるが、その干した形がてるてる坊主に似ていることから名付けられた。ハンガーにかけられるので風が吹いても飛ばされず、省スペースで大量に干せる。
洗髪した頭に巻くのにも便利で、長髪の女性に好評だという。暉世さんは「地域の伝統技術を高め、うちにしかできないものをつくり続けたい」と意気込む。(2021年10月9日朝日新聞地域面掲載)
和歌山県橋本市高野口町伏原。従業員は18人。1962年創業。2020年にネット販売サイト「コモdeすこやか」を開設した。バスタオルの「てる日和」は、マイクロファイバーが1650円、綿が1760円(いずれも税込み)。
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