ワーケーションは仕事の効率を上げるのか? 新しい働き方の課題を考える
ワーケーションとは「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語。2000年代に有給休暇の取得率が低かったアメリカから始まったとされています。働き方が多様化している昨今、“ワーケーション”という言葉を耳にすることが増えました。みなさんの身近にも「実際にワーケーションをしてみた」という人や興味を持っているという人も多いのではないでしょうか。ワーケーションのメリットやデメリット、課題について考えます。
ワーケーションとは「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語。2000年代に有給休暇の取得率が低かったアメリカから始まったとされています。働き方が多様化している昨今、“ワーケーション”という言葉を耳にすることが増えました。みなさんの身近にも「実際にワーケーションをしてみた」という人や興味を持っているという人も多いのではないでしょうか。ワーケーションのメリットやデメリット、課題について考えます。
目次
ワーケーションは「働きながら、休暇をとる」という過ごし方。
コロナ禍で多くのビジネスパーソンが経験した、在宅やレンタルオフィスなどでの「リモートワーク」とは少し異なります。
ワーケーションに期待されるのは「生活と仕事の両面に好影響」をもたらすこと。
「せっかく旅行にきたのに、仕事があるから帰らなければならない」といった悩みを解消し、リフレッシュした環境で仕事をすることで、業務の質や生産性を高め、個人と会社、双方にとって、良い面を最大限に生かすことを目指します。
ただ、ワーケーションは本当に仕事の質を上げることにつながるのでしょうか。
2020年6~7月に、NTTデータ経営研究所とJTB、JALなどが連携して、ワーケーションの効果検証を目的にした実証実験が行われました。
実験場所は沖縄県名護市にあるカヌチャリゾート。参加者は実験に参加した企業の所属メンバーを中心とした男女18人でした。
ワーケーション期間は6月26日~6月28日。実験では、26日を勤務日、27、28日を休暇日として過ごしました。参加者はリストバンド型の機器を装着し、ワーケーション中とその前後の活動量や睡眠時間などのデータを提供し、仕事に対する姿勢などを問われるアンケートに複数回答えます。
その結果、ワーケーションが仕事の生産性と心身の健康にポジティブな効果があることがわかりました。
検証結果によると、ワーケーションによって仕事のパフォーマンス(※生産性を測るうえで代表的な指標とされる「WHO-HPQ」の値)が20.7%上昇することがわかりました。さらにその効果はワーケーション終了後も1週間ほど続き、ワーケーション中だけではなく、終了後もポジティブな効果が5日間続くことがわかりました。
生活圏を離れて非日常の場所に行くという移動そのものが、生産性やクリエイティビティを向上させるという分析でした。
また、ワーケーション前後で仕事のストレスが37.3%低減されたという結果も出ました。「活気」が上がって「不安感」というストレスは低減された一方で、「疲労感」は下がりにくい傾向もみられました。調査結果では「ワーケーションは活動が増える分、身体的な疲労感を伴うことが確認されました」としています。
こうした調査から考えられるように、心地よい環境に身を置いて働くことは、私たちが思っている以上に重要なことなのかもしれません。
次にワーケーションのメリットとデメリットを考えてみます。
上記のデータでもわかるように、仕事の生産性が上がるケースは多いようです。
沖縄や軽井沢、熱海といったリゾート地や温泉地など自然に触れる場所にいることで、仕事が終わったあとの過ごし方が変わり、仕事とプライベートのメリハリがつきやすくなります。その結果、メンタルヘルスの改善や向上につながります。
ワーケーションにより、社員はワークライフバランスが保ちやすくなります。そのため、会社への愛着や帰属意識が高まると考えられます。
また生産性高く仕事ができることは自分の自信にもなり、仕事に対してポジティブなイメージを抱くことができるように変化することが期待できます。
日本の有休消化率はいまだに低く、長期休暇や有給を取りづらいのが現状です。
ワーケーションを導入することで、仕事との関わりを保ちながら長期休暇を取得できるため、休みが取りやすくなります。「周りの目が気になって、休みがとりづらい」と職場の様子を気にせざるを得ない方にとっては休みが取りやすくなるかもしれません。
オープンな環境で利用できるWi-Fiでは、残念ながら情報流出のリスクも否定できません。
そもそもリモートワークを制度化した企業であっても、オフィス外で仕事ができる場所については自宅や指定されたコワーキングスペース以外は禁止など、何らかの制限を設けているケースが多いです。
ワーケーションを企業が認めるためには、そうしたセキュリティ面や情報の取り扱いについて、対策が必要となりそうです。
ワーケーションでは、仕事とプライベートの時間の区別が曖昧になるため、勤務時間の管理が難しくなります。実際の労働時間が把握できるようなシステムを導入し、構築することも必要となります。
日本では労働基準法で雇用主が勤務地を定めることになっています。ワーケーション先でもし事故などがあった場合、労災認定が難しくなります。またワーケーションで利用した旅費交通費を経費扱いにするのか、ある程度個人で負担するのか、企業によって対応に差が出てしまうことも考えられます。
様々な魅力があるワーケーション。約6割の会社が取り入れたいとする一方で、直近1年で実際にワーケーションをしたという人はわずか6.6%でした。ワーケーションが浸透しない背景には、どんな課題があるのでしょうか。
前出のデメリットでも挙げた通り、セキュリティの問題や仕事を円滑に進めるために必要なインターネット環境が整っているかどうかなど、通信環境に関しての課題があげられます。
インターネット環境が悪く、「オンライン会議がうまく進まない」という状態になることは望ましくありません。リモートワークでもコミュニケーションを滞りなくできる通信環境、そして、社内システムにアクセスするための環境整備が課題と言えそうです。
ビジネスパーソンにとって避けられない人事評価。ワーケーションでは、社員が遠隔から仕事をするので、管理職が「仕事への態度やモチベーションなどが見えづらい」という理由でワーケーションに難色を示す可能性がある点も課題と考えられます。
リモートワークでも、通常の仕事と変わらずにコミュニケーションがとれること、仕事の生産性を下げないことを普段の仕事で示すことで、組織のワーケーションへの理解も進むかもしれません。
ワーケーションは、宿泊先があるリゾート地や地方にとっても、観光需要の創出や地元での消費に伴う経済振興につながります。そのため、最近では環境省や農林水産省などの助成も始まり、ワーケーションの促進が進められています。
環境省では「国立・国定公園、温泉地でのワーケーションの推進事業」として、それぞれの事業者や地域協議会に対して、ワーケーションツアーを企画しています。それら企画のプロモーション活動や通信環境の整備などを支援しています。なかには、子供向けのプログラムもあるため、家族連れでもワーケーションという働き方を選べそうです。
農林水産省では、農村地域でのワーケーションにニーズが高まっていることを受けて、「農泊」に取り組む地域を支援しています。例えば、地域資源を生かした体験プログラムや食事メニューの開発経費や、Wi-Fiや机・椅子などの環境整備のための経費を支援しています。
矢野経済研究所が今年3月に発表した「ワーケーション市場に関する調査を実施(2020年)」によると、2020年度は699億円と予測した国内ワーケーション市場規模は、2025年度には3622億円になると予測しています。
これらの取り組みや調査内容からも、将来的なワーケーションの需要は高まっていき、利用者は増えていくのではないかと考えられます。先ほどの通信環境の問題といった課題が国の支援などを得て少しずつ解消されれば、ワーケーションという働き方がより浸透していくかもしれません。
(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年10月11日に公開した記事を転載しました)
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