目次

  1. 煩雑な事務処理を懸念
  2. 都市部には配慮を求める
  3. インバウンド復活は2025年
  4. マイクロツーリズムが有効に
  5. 事業者はリピーターの獲得を

 「Go To トラベル」は1人1泊2万円を上限に、旅行代金の半額相当を補助する仕組みで、20年7月に始まりました。新型コロナの感染再拡大で、12月下旬から全面停止したままになっています。感染の第5波が収束の気配となり、観光庁が制度の再開に向けて、21年10月に実証実験ツアーを始めました。

 国は、「Go To トラベル」の再開にあたって、観光客の分散を図るため、土日と平日で割引率を変えることや、中小事業者の割引率を優遇することなども検討する考えを示しています。

 しかし、星野さんは「仕組みが分かりにくければ、私たち宿泊業者だけでなく、旅行会社や、Go Toの事務局の作業が煩雑になります」と話します。

 「前回、Go To トラベルが突然、中断・中止したときは、キャンセル処理などで、事務処理コストがかかりました。複雑な仕組みを作ることには、ネガティブな印象を持っています」

 中小事業者への割引率優遇にも、疑問を呈しました。「コロナ禍の宿泊業は大手は有利で、中小が不利という単純な構図ではありません。コロナ禍でも、地方の観光地は規模を問わず、恩恵を受けた一方、都市部のビジネスホテルはダメージが大きい割に、Go To トラベルのメリットが少なかった印象です」

 そのため、Go To トラベル再開時には、都市部のホテルと、沖縄県など需要減が大きい一部地域に重点対応するよう求めました。星野さんは「できるだけシンプルな制度を」との立場ですが、都市部への対応に限っては「配慮しなければいけない」という意見を述べました。

星野リゾートが運営する「星のや 東京」では、飛沫の飛散を防ぎながら食事を楽しむための「提灯会食」を提案しています(同社提供)

 星野さんは、Go To トラベルをインバウンド需要の復活まで続けることを提案しました。「観光業を盛り上げるというより、下支えの手段として続けるためには、期間を長くしたり、補助率を下げたりすることも選択肢でしょう」

 インバウンド需要はいつごろ回復するのでしょうか。星野さんは「25年の大阪万博まで100%にならないのでは」とみています。

 アジアを中心に、ファイザー社やモデルナ社以外のワクチンを接種している国も多いため、インバウンドの回復率を、22年15%、23年40%、24年70%、25年100%と見込んでいます。

 インバウンドが戻るまでは、同社が提唱する「マイクロツーリズム」(車で1~2時間圏内の旅行)が、観光需要を支えるとみています。同社の施設でも、マイクロツーリズム圏内の顧客の割合が急増し、インバウンドの落ち込みをカバーしています。

 コロナ禍では、マイクロツーリズムのほかにも、旅先で仕事をするワーケーションの人気が高まりました。しかし、星野さんは諸外国の例から「放っていたら、働き方は元に戻ってしまうでしょう」と危機感を募らせています。

星野さんは観光業界の底上げを見据えています(星野リゾート提供)

 「長年、繁忙期と閑散期の差が大きいのが、旅行業界の課題でした。ワーケーションは年間の旅行ニーズを平準化する有効手段になります。業界をあげて、ワーケーション定着に向けたロビー活動が必要です」と提言しました。

 中小の観光業者がこれから反転攻勢に出るために、必要なことは何でしょうか。

 星野さんは「第6波、第7波の可能性もある中、中小の事業者はマイクロツーリズムで、リピーターを獲得するような戦略が必要です」とアドバイスを送ります。

 「中小事業者なら、把握しなければいけない客数や席数は限られています。エクセルなどを使いながら、お金をかけずに顧客を管理して、ダイレクトメールを送るなどの囲い込み策もできるはずです。星野リゾートも各地で、食材を仕入れる農家や、工芸家など地域との連携を深めていきたいです」と話しました。