仕事で手ごたえと成長を得るには? 自分の役割と適切な目標を設定しよう
Amazonの日本法人で広報部門を立ち上げ、アメリカの本社と連携しながらブランド育成や従業員教育を手がけてきた小西みさをさん(AStory合同会社代表、aLLHANz合同会社共同代表)が、アマゾン流のマネジメント術を紹介します。初回のテーマは「役割と目標設定の重要性」についてです。
Amazonの日本法人で広報部門を立ち上げ、アメリカの本社と連携しながらブランド育成や従業員教育を手がけてきた小西みさをさん(AStory合同会社代表、aLLHANz合同会社共同代表)が、アマゾン流のマネジメント術を紹介します。初回のテーマは「役割と目標設定の重要性」についてです。
目次
みなさん、将来の夢はありますか。人生100年時代、何度もチャレンジできそうな感じがしますね。
弊社のクライアントで大変公益性の高い事業を推進している社長は「人は思ったとおりにしかなれない」と言います。
「社長になりたい!」
「店をもちたい!」
「家族と幸せに暮らしたい!」
など、どんなことも目標ができると人は頑張れるものです。日本の衣料品通販大手ZOZO(ゾゾ)創業者の前澤友作氏が日本人の民間人として初めて宇宙旅行を実現したように、夢を描き求め続ければ叶うのでは、という期待感があります。
私は「PRを極めるんだ!」と決めてから、PR・ブランディング業の道で30年以上のキャリアになります。そして、本日(1月5日)はPR・ブランディングで起業して以来5周年を迎えました。
この道を目指しはじめたきっかけは今振り返れば正直とても安易でした。学生時代の留学先だったアメリカのインディアナ州で、日本の企業から派遣されてきた留学生(といってもずいぶん先輩でしたが)に「あなたの会社だったら私はどの部門にいそうですか」と聞いたところ、「PRって感じだね」と言われたのがきっかけです。押しが強いのとおしゃべりだからという理由だったと記憶してます(笑)
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理由はともあれ、自分に向いていそうなPRってどんな仕事だろうと興味が沸き、勉強そっちのけで調べてみました。その結果、「なんだか面白そう! これはやってみたい!」と思うようになり、「よし! 私は就職してPRパーソンになるぞ!」と自分に誓ったのでした。
そのような志を持って留学先のアメリカでの就職を目指しましたが、簡単なことではありませんでした。PRを志願したものの、実績や会社への深い理解が求められる仕事のため、未経験の自分をPRとして採用してくれる事業会社がなかったのです。
それでも諦めずに探しているうちに、「日本の本社でよければPR人材として採用を検討しますよ」という会社がご縁を通じて運よくでてきて、熱意が伝わったのか願いが叶いPR部門に配属されました。
一方で、当時の日本企業はスペシャリストを育てるよりはゼネラリストを育てる傾向が強かったので、PR部門にずっといれるかはわかりませんでした。
「目の前のことに全力を尽くそう」とがむしゃらに働いていた頃、先に転職していた元上司から誘いを受け、1回目の転職をしました。その後6年が経ち当時一緒に仕事をしたことのある提携先の企業から声をかけていただき2回目の転職をして、複数の企業のPRに携わることができました。
気が付くとPRの経験も10年を超え、その頃初めてヘッドハンターから声がかかるようになってきました。
ある日突然会社にヘッドハンターから手紙が届いたのがはじまりです。自分の実績を高く評価し、オーナーシップを持たせてくれる会社があれば、転職してみたいという気持ちになり、ご紹介いただいた複数の企業の面接を受けてみました。
そのうちの1社がAmazon(アマゾン)でした。18年前のことですが、当時のアマゾンは日本に上陸してまだ3年足らずで、社員数100人前後程度のスタートアップ企業でした。外資でスタートアップ。自分にとってはこれまで経験したことのない環境で、はじめは懸念材料もありましたが、上司になる本社のアメリカ人女性にとても共感できたことと、新たなチャレンジの場としては最高の機会だと思い、入社を決めました。
そんなスタートアップのアマゾンでしたが、意外にも当時から色々なことが整っていたように記憶しています。例えば採用プロセスもそうですし、今回のテーマでもある目標設定もそのうちの1つでした。
みなさんは普段、どのように目標設定をしていますか。納得のいく目標がありますか。明確なKPI(Key Performance Indicator、一般的に「重要業績評価指標」)を立てていますか。
最近、組織のなかで人材マネジメントをする管理職の方々から、部下のマネジメント方法についてご相談を受けることがしばしばあります。
「オーナーシップをもって取り組んでくれなくて困っている」
「誰かに言われるまで自分で改善しようとしない」
などなど。
そんな相談ごとを聞いたとき、
「部下の職務内容は明確にしていますか」
「目標設定に対して貴方も部下も納得していますか」
「目標設定は数値化していますか」
などと質問してみます。
すると多くの場合、
「職務内容は大枠ではあるが、はっきりとは決まっていない」
「目標設定はしてもらっているが、(管理部門なので)数値化はしていない」
という回答が返ってきます。そんなときの参考にしていただければと、アマゾンでの目標設定方法や職務内容の明確化の話をします。
例えば、アマゾンでは社員全員がSMARTゴールを設定します。事業部門だけでなく間接部門の人事や法務、総務、そして我々のようなPRも同様です。
SMARTゴールとは、Specific(具体性), Measurable(測定可能), Achievable(達成可能), Relevant(関連性), Time-based(期限)の頭文字をとったものです。
具体的には、Specific(具体性)は、「5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)」で具体化します。
Measurable(測定可能)は、目標達成への到達度を本人や上司がすぐに把握できるよう、契約数など何かしら数字で表します。
Achievable(達成可能)は、達成可能な目標を立てることが重要です。
Relevant(関連性)は、目標が自分の部署や企業の目標に関連していることです。
最後にTime-based(期限)は、その目標をいつまでに達成するかを設定することです。これがないと先延ばしにしてしまいがちになります。
そして大事なことは、SMARTゴールをつくるときに、会社のビジョンやミッションから逆算してつくります。アマゾンでは、「地球上でもっともお客様を大切にする企業」であることをビジョンに掲げ、品揃え・価格・利便性をイノベーションで強化していくというミッションがありました。
どの部門もこのビジョン、ミッションを達成することを目的にした目標設定を毎年行います。例えば、私はPR部門の責任者でしたが、PR部門は間接部門で独立採算部隊ではないので、社内のステークホルダー(利害関係者)である経営層や事業部等がゴールを達成するための追い風にならなければなりません。
そこで会社全体及び各事業部の目標を理解しながら、追い風になるためのSMARTゴールを設定します。
PR部門の全体のゴールは責任者である私が設定することになります。私自身のゴールにもなるわけです。そのゴールを達成するために、部下の人たちに個々の役割の中で達成すべき目標(案)を立ててもらいます。そして何度も面談を繰り返しながら、目標を最終化していきます。大事なことはお互いに納得いくかどうか。議論の余地があれば納得いくまで徹底的に話し合います。
みなさんは自分の上司の目標をご存知ですか。知らない場合、何をベースに目標設定していますか。
アマゾンでは、自分が目標達成できないと上司も上司自身の目標達成が難しくなる仕組みがありました。インプットKPIとアウトプットKPIというものです。アウトプットKPIは結果のKPIのこと。一方のインプットKPIはどんな活動をしたらアウトプットKPI(結果のKPI)につながるのかという、結果に結びつけるための指標であり達成度を重要視しています。
つまり、上司のKPIは自分のアウトプットKPIであり、自分のKPIはインプットKPIになります。自分のインプットKPIの達成度が高くなると、結果アウトプットKPI(上司のKPI)に貢献できるはずという関係です。
アマゾンでは、たまたま外部環境が追い風になってKPIの達成度が高くなることを良しとしません。あくまでも自分の活動のKPI(インプットKPI)をどの程度達成できるかが評価の対象になります。
私は仕事とはチームや人の課題解決に貢献することだと思っています。「自分の成長はどうなるの」と思われるかもしれませんが、課題解決対象が増えていくと簡単ではなくなるので本気で達成しようとしているうちに自然と成長するようになります。ですので、「自分は一体誰の何の課題を解決しようとしているのか」を目標設定の際に考えることが大切です。
その意味でまずやるべきことは、自分が関わる社内のステークホルダーの課題を理解することです。上司や同じ部門の同僚、仕事上関わる他部門の担当者などなど、どのような課題をもっていて自分はそのステークホルダーに何が貢献できるのか。自分が計画して、実行した解決策に相手が満足すれば、自然と会社内で評価されるようになります。
「自分の上司の課題なんて聞いたことない」という方がいらっしゃれば、まず上司に部や課の目標や課題を尋ねることからスタートしてみてください。その際、部門に貢献したいんだという意欲を理解してもらうことが重要です。
昨今、日本でも「ジョブ型雇用」が浸透しつつあります。ジョブ型雇用とは、あらかじめ職務内容であるジョブを明確にし、そのジョブに必要なスキルや知識を備えた人材を雇用する制度です。職務内容が明確になっているので、仕事の専門性は高くなります。その道のスペシャリストを採用したいという企業が増えていますから、今後は「ジョブ型雇用」が主流になるかもしれません。
みなさんは、自分の職務内容を理解していますか。役割が不明瞭だと目標設定は難しいかもしれませんね。ぜひ上司の目標設定のためにも、自分の役割を明確化しましょう。
自分の役割が明確になり、目標設定ができたとしても、本当に達成できるか心配になることもあるかもしれません。アマゾンでは、管理職になると、直属の部下との1on1(1対1)ミーティングを毎週30分程度設け、進捗・課題・個人的な悩みなどを確認します。
個人的な悩みも聞くのは、オフ時間の悩みがオン時間にも影響する可能性があるからです。もちろん強制的に聞くことはしませんが、部下が安心して上司に相談でき、業務上必要なサポートを得ることは、結果、部下にとっても上司にとってもプラスに働くのです。
「毎週1on1ミーティングをやっていましたよ」と他の企業の友人に話すと、「そんなに頻繁にやる必要あるの?」と驚かれます。仮に1か月間に1度のミーティングだと、部下がまめに報告してくれない限り、その間課題に気づかず部下の士気が下がり、時間のロスが生じる可能性があります。課題解決が先延ばしになるリスクになります。
部下の障壁になっているものをより早く取り除くことで、部下はスムーズに仕事を軌道にのせることができます。ですので、仮にみなさんが「上司と定期的にミーティングしてないよ」という状況でしたら、できれば課題がある時点で積極的に上司に時間を取ってもらって相談してみてください。
管理職は部下を育てることが一番の使命です。「忙しいから無理」という上司は、私からすると人材を育てようと努力しているように思えません。いい上司は部下の育成を優先するものです。
皆さんが手ごたえを感じながら仕事をして成長し続けるために、ぜひ自分の役割の明確化、会社のビジョン・ミッション、部門のゴール、上司や他ステークホルダーの課題解決を視野に入れた目標設定にチャレンジし、上司とのコミュニケーションを積極的にしてみてはと思います。
(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2022年1月5日に公開した記事を転載しました)
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