「断面勝負」のサンドイッチに日本料理 柔軟さでテイクアウトを差別化
秋田県湯沢市で創業95年の老舗料亭「日本料理福富」。料亭らしさにとらわれない柔軟な発想のメニューが豊富で、女性からも人気です。コロナ禍でも、その強みを生かし、利用シーンを想定した新メニューを次々開発し、とくに「和素材のサンドイッチ」は予約待ちとなるほどでした。新メニューの開発を支援した経営相談窓口の湯沢市ビジネス支援センター(ゆざわ-Biz)から開発の舞台裏を紹介します。
秋田県湯沢市で創業95年の老舗料亭「日本料理福富」。料亭らしさにとらわれない柔軟な発想のメニューが豊富で、女性からも人気です。コロナ禍でも、その強みを生かし、利用シーンを想定した新メニューを次々開発し、とくに「和素材のサンドイッチ」は予約待ちとなるほどでした。新メニューの開発を支援した経営相談窓口の湯沢市ビジネス支援センター(ゆざわ-Biz)から開発の舞台裏を紹介します。
目次
1926年に食堂として始まった福富は戦後、高度経済成長期にかけて需要が多かった本格的な日本料理を中心とした「料亭」へと変貌をとげました。
特徴は、料亭ながらも、茄子の田楽など創業当時から変わらない素朴な味。地元では、家族代々で来る客も多く、誕生日や還暦などのお祝いから法事など、中には三世代にわたって利用する人たちもいます。
一方で、近年は女性を意識したコースメニューや料理の品が豊富で、「女性でも楽しめる料亭」としても地元では人気です。
創業4代目にあたる小川祐美子さんは、東京都内のデザイン系の大学を卒業後に秋田市のデザイン会社へ就職。今から約20年前に福富へ戻り、31歳で調理師学校に通い始め、料理の道に進みました。
当時は、全国的にも地方の料亭の売上の一部を支えていた「官官接待」が禁止になったほか、料亭を多く利用していた地元企業も倒産するなど、それまでの料亭が抱えていた顧客層とは違ったニーズの掘り起こしが求められた時代でした。
そのような時代の流れの中、女性を意識したメニュー作りを始めたのは、小川さんが福富へ戻った当初の約20年前。たまたま母親と食材の買い出しに行って商品を選んでいる際に「女性が入りやすい料亭がない」ことにふと気づき、それまでの男性をターゲットにした献立から、女性を意識した構成に変えていきました。
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小川さんのデザイン会社での勤務経験は、福富のポスターやチラシ作りはもちろん、女性向けのメニュー開発の際にも、彩りや盛り付けなどで発揮しています。
福富では、メニューや盛り付けは、小川さんと母親が中心になって考え、実際の調理は父親を含めた家族3人で分担しながら作り上げます。
福富がゆざわ-Bizに初めて相談に訪れたのは、新型コロナウイルスによる影響が色濃く出始め、全国で初の緊急事態宣言が発令された後の2020年6月。全国的に自粛と「巣ごもり」が続くなか、大人数での会食需要は蒸発し、数十人規模が入る大部屋を持つ福富でも団体客が入らず、大幅な売上減少に見舞われました。
こうした中、少しでも減少した売上をカバーするため、一緒にお弁当などのテイクアウトメニューの開発に一緒に取り組みました。
ゆざわ-Bizの支援で心掛けているのは、「テイクアウトを始めましょう」という提案で終わらず、相談に訪れる店舗ごとの強みや客層を分析したり、時には消費者の利用シーンを考えたりしながら、具体的なメニューのアイディア出しや開発まで、きめ細やかなお手伝いすることです。
福富の強みは、「女性でも楽しめる料亭メニュー」はもちろんですが、料亭という一般的に格式が高いとされる業種にも関わらず、小川さんや父親がもともと会社勤めのあとに料理人の道に進んでいることもあり、「料亭とはかくあるべき」という固定観念にこだわらない柔軟なメニュー開発ができる点でした。
また、家族経営で、全員が料理人のため、メニューのコンセプトを決めるとすぐに試作品ができるというスピード感も持ち味でした。
女性が気軽に食べることができるテイクアウトの弁当はもちろん、利用シーンに合わせたオードブルの開発も積極的に行いました。
それまで、誕生日やお祝い事など特別な日に来店して食事をしていった消費者たちにむけ、自宅でも特別な日を楽しんでもらうお祝いごとに向けたオードブルや、「成績がうなぎのぼり」の鰻のかば焼き、「華麗に勝つ」ためのカツカレーなどを詰め合わせた、受験生などに送る縁起ものメニューを集めた験担ぎオードブル「弁財天」なども誕生し、注目を浴びました。
また、秋田県産の新品種米「サキホコレ」が県内で一斉発売されて脚光を浴びた際には、「サキホコレがあきたこまちと違うのかちょっと食べてみたい」というお客さんの声をもとに、「あきたこまちとサキホコレの食べ比べ」ができるようにおにぎりをオードブルにオプションでつけてみたところ、非常に好評でした。
こうしたテイクアウトメニューは、それまでの福富を利用していた消費者だけでなく、まだ福富を利用したことがない人へのアプローチにもなり、結果的に顧客層が広がりました。
福富と新たな目玉商品となるテイクアウトメニューを模索する中でヒントになったのは、福富で働く女性の声でした。
「まかないの際はご飯ではなく、たまにはパンがいい」というスタッフの声からはじまり、最近の女性客のニーズを探っていくと、「弁当にご飯ではなくパンはないか」といった声も聞かれるといいます。
日本料理とパンという一見相反する組み合わせですが、これも女性を意識したメニュー開発で、これまでにコースメニューの中でキッシュやバーニャカウダを提供して人気になるような福富ならではの特徴だと筆者は感じました。
ただ、テイクアウトのお弁当のご飯を単にパンに置き換えるだけでは面白みがありません。そこで出たアイディアが「料亭がつくる本格的な日本料理をサンドイッチの具としてパンに挟んでみてはどうか」というものでした。
近年、だし巻き卵など和の食材をサンドイッチの具として挟んだりするのが人気です。しかし、調べてみると全国的に料亭が本気で作った和のメニューをパンに挟んでサンドイッチにしているケースはほとんどありません。
それに加え、福富の特徴である料理の色彩の鮮やかさも、「断面勝負」のサンドイッチとしては非常に相性がいいという特徴もありました。
具は、鮭の麹漬とちりめん山椒や、はんぺんと明太子チーズとあおさ海苔を混ぜた和食材に、極めつけは、秋田牛のすき焼きとサキホコレの中にいぶりがっこと三関産のセリを混ぜ込んだ“おにぎり”。本格日本料理が具に挟まり、他ではお目にかかれないサンドイッチが完成しました。
アイディアが出てからメニューとなるまで数週間という早さで完成した「料亭が作った和素材のサンドイッチ」は、老舗料亭のノウハウをふんだんに詰め込んだ料理とふかふかのパンの相性も抜群で、福富が強みとする女性客を中心に大反響を呼び、一時は「予約待ち」の状態にもなりました。
新型コロナウイルスによる影響の中、1926年から続く料亭の味を守りながらも、消費者のニーズに合った斬新なテイクアウト商品をつくることで、それまでお店を利用したことがなかった顧客が弁当などを購入し、その結果「新規顧客の開拓」にもつながりました。
2022年5月には新型コロナウイルスの感染者が湯沢市でも減りはじめ、湯沢市の補助による飲食店等の割引キャンペーンもあって客足が回復しています。それまでのお客さんに加えて、テイクアウトをきっかけに新たに開拓したお客さんの来店につながり、「コロナ前のにぎわいが戻りつつある」と福富では実感しています。
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