目次

  1. FORYOUとは
  2. コロナ禍で民泊の売上が30%減 不動産業界の課題とは
    1. 不動産業界の競争の激化及び広告費の高騰
    2. 不動産業のオペレーションが労働集約型
    3. 入居審査を通過できない生活保護者も
  3. 事業再構築補助金を活用 生活保護支援事業を開始
  4. 生活保護支援の大きな課題
  5. 解決策としてのほゴリラ
    1. ほゴリラとは
    2. 生活保護診断機能
    3. 申請同行サービス
    4. 契約代行サービス「楽賃貸」
  6. 事業再構築補助金に採択されたポイント

 FORYOUは、札幌市内の家賃5万円以下の物件を専門に取り扱っている不動産会社です。2010年3月に設立し、補助金採択前は、不動産仲介・物販業務・民泊事業を主体としてサービスを展開していました。中でも自社のサイトを保有しており、不動産賃貸仲介業では、多くの問い合わせがありました。

 しかし、新型コロナの影響で、FORYOUの事業の一つである民泊事業が、コロナ前と比べて約30%の売上減少となってしまいました。

 新型コロナにより、民泊事業の廃止件数は、全国で増加しています。観光庁の民泊制度ポータルサイト「minpaku」によると、2022年5月12日時点で、届出件数の約4割が事業廃止に追い込まれています。

 札幌市でも届出件数の約6割が事業廃止に追い込まれており、全国でも特に深刻な地域です。

 そのため、民泊事業に固執することなく新たな事業が必要であると井口さんは考えました。その際に認識した課題は大きく3つありました。

 ほとんどの不動産会社は、賃貸仲介会社が運営しているポータルサイトを利用して入居希望者の集客をしています。しかし、そのポータルサイトのほとんどは、契約費用が高いばかりか、入居希望者から問い合わせを獲得しても競合他社にも同じ問い合わせが来ているために、決定率が低い傾向にあります。

 この課題を解消するために、井口さんは自社独自の集客方法が必要だと考えました。

インタビューを受けるFORYOU代表取締役の井口優さん

 不動産業は労働集約産業であるため、業務の軽減が困難です。

 電話対応のオペレーションや、取扱中の物件の内見など、不動産業のほとんどの業務内容は属人化されており、業務効率の低下や品質の安定性が課題視されています。

 このほか、生活に困っている人ほど住宅の賃貸が難しいという事情もあります。生活保護を受ける人のなかには、入居審査を通過できない方が多数います。また、個人的な事情から、無料停泊所に滞在できず、住居不確定による生活保護の申請ができないケースが多発しています。

 新型コロナの影響が長引くなか、生活保護の申請件数が増えており、2021年は前年よりも5%増えて、23万5063件に上りました。

 井口さんは以前、不動産事業の中で生活保護者への賃貸仲介をしており、その知見を活かし、入居できずに困っている生活保護者をサポートするサービスを提供してはどうかと考えました。

生活保護の申請書(AdobeStock)

 生活に困っている人は生活保護者に限りません。ここからは“生活困窮者”としてより範囲の広い対象に言及していきます。

 現在、身体・知的・精神において障害を抱え、自立した生活を送れなくなった生活困窮者が多くいます。生活保護を申請して受給できた割合は2022年2月で1.62%にとどまっています。

 また、生活困窮者の自立支援を促す地方自治体の窓口での2020年度の新規相談受付件数は、コロナウイルスの影響により2019年度の約3倍以上となりました。しかし、法律や制度を知らないばかりに相談に来られていない人はさらにいると考えられています。

 厚生労働省の検討会の資料(PDF方式)などによると、このような人については自立相談支援機関に所属する支援員による訪問支援などで早期発見と支援が必要だと言われていますが、属人的な業務フローによりなかなか潜在的な生活困窮者を見つけられないのが現状です。

 また、厚生労働省「生活困窮者自立支援制度の施行状況について」(PDF方式)によると、その相談者のうち包括的な支援の提供により就労・増収につながった人は、全体の1割にも満たず、状況の評価や分析、プランの見直しなどさらなる最適化が必要な状況です。

 井口さんは、こうした課題認識から、ITを活用した生活保護支援サイトの運営により、潜在的な生活保護者の救済及び、生活保護者の自立支援促進をしようと決意します。そこで考案したのが「ほゴリラ」です。

札幌市の生活保護診断・生活保護受給者向け賃貸情報「ほゴリラ」のサイトから

 「ほゴリラ」は、生活保護を受給しないシングルマザー、外国人、フリーランス、高齢者など住居確保困難者に対しても住居を貸し出すことで、顧客層を広げ、生活困窮者の包括的支援をする事業です。

ほゴリラのロゴマーク

 また、展開エリアでの就労支援所、派遣業者との提携をすることで就労支援をする予定です。就労を促すことで、根幹にある困窮からの脱却を支援し、生活保護を受けずとも生活が出来る基盤を構築することで、通常の賃貸住宅への入居を促進します。

 こうすることで、生活困窮者を救済すると同時に、前述した社会の課題を両面から解決することができると井口さんは考えたのです。

 具体的にはおもに3つのサービスを展開しています。

 生活保護を受給するには、収入制限や所持できる資産などいくつかの条件があります。サービスを活用すれば、ユーザーが生活保護を受ける前に診断が可能です。

 生活保護申請の際に、手数料を取る業者が多い中、FORYOUは完全無料で申請を手伝うことができます。住居も一気通貫で案内することにより、ケースワーカーの業務軽減にもつながります。

 生活困窮者の中には過去の家賃滞納により自己名義でお部屋を借りられない人がいます。そのような人を対象に、借りた住居を提供することで住居確保を手助けします。

 「楽賃貸」は主に4つの特徴があります。

  1. 保証人不要
  2. 保証会社不要
  3. 契約料金0円
  4. 家具家電付き即日入居

 札幌市で生活保護受給者の人が入居でき、負担0円の賃貸物件を紹介しています。

 ほゴリラを自社事業の柱とし、不動産事業の増強にも寄与するためには、多額の初期投資が必要でした。そこで、井口さんは、事業再構築補助金を活用できると、一定のリスク軽減ができると考えたのです。

 「今回の事業再構築補助金の採択が不可だったら、出資か借り入れを検討していたんです」

 しかし、事業再構築補助金が無事採択されました。お金のことを気にしなくて良くなり、サービスの展開を早められ、アグレッシブに事業に取り組めるようになったといいます。

 筆者が支援する中で感じた、当事業が事業再構築補助金に採択されたポイントは主に2つです。

  1. ビジネスモデルのオリジナル性が高いこと
  2. 自社のためだけではなく、生活保護者や行政の課題も同時に解決しようとしたこと

 ほゴリラは、エリアの拡大に向けて順調に事業を展開しています。交通インフラが整っていないエリアは、賃貸住宅に住まない傾向にあることがテストマーケティングでデータで出ているので、北海道でも交通インフラが整っているエリアを限定として展開しており、補助金採択から2期目の今年は、7月に横浜か川崎へのエリアの拡大を検討しています。