目次

  1. 損益分岐点とは
  2. 計算式は損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率
  3. 損益分岐点と損益分岐点比率・安全余裕比率
    1. 損益分岐点比率
    2. 安全余裕比率
    3. 二つの比率から何が分かるか
  4. 損益分岐点を下げるには
    1. 固定費を削減する
    2. 変動費を削減する
    3. 売上高を上げる
  5. 損益分岐点をエクセルで求めよう
    1. エクセルで形式を作成する
    2. 変数を設定する
    3. グラフ化する
  6. 自社の損益分岐点を把握し、経営の指針にしよう

 損益分岐点とは、「売上高がこの数字を超えれば黒字、超えなければ赤字」がわかる指標です。

 通常、事業を行う際には、必要な経費が発生します。その経費を売上高で回収していき、経費を超えるだけの売上を計上すれば、黒字になります。

 したがって、損益分岐点が分かれば、最低でもいくら売上高を計上しないといけないかが判断できます。

損益分岐点の計算式と損益分岐点を下げる方法
損益分岐点の計算式と損益分岐点を下げる方法(デザイン:吉田咲雪)

 損益分岐点となる売上高は、次の計算式で求められます。

損益分岐点の計算式
損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率
  • 固定費
    売上高に関係なく発生する一定の費用
    例:人件費・物件の賃借料・減価償却費

  • 限界利益率
    限界利益(売上高から変動費を差し引いた利益)の売上高に対する比率
    計算式:限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高
    ※経済学で言う限界とは、変数(変動する可能性のある数値)を1単位増やした際に増加する別の単位のこと。
    損益分岐点売上高の計算で用いられる限界利益率は、売上高が1単位変動した際に、利益がいくら増加するかの割合を示す。そのため、割合が大きければ大きいほど、効率よく利益を生み出せていることになる

  • 変動費
    売上高に連動する費用
    小売業の場合は、販売したものの仕入が該当する。売上高に応じて、ライセンス料を支払うという場合も変動費として扱われる

 例えば、固定費が10,000円で、限界利益率が50%の場合、以下の計算になります。

損益分岐点の計算例
損益分岐点 = 10,000 ÷ 50% = 20,000

 20,000円の売上高になれば損益が0となり、それ以上の売上高を計上すれば黒字化できるということです。

 なお、上記の計算式は売上高をベースにしたものですが、商品の販売個数を元にしたものもあります。

損益分岐点の計算式
損益分岐点販売個数 = 固定費 ÷ 1個あたりの限界利益(※)
(※)1個あたりの限界利益=1個あたりの売上高 - 1個あたりの変動費

 例えば、上記の計算式で3,000個という数字が算出された場合、3,000個よりも多く売ることができれば黒字、売れなければ赤字ということになります。

 損益分岐点が分かれば、実際に自社の現状に基づいて、損益分岐点比率や安全余裕比率を求めることができます。

 損益分岐点比率とは、「損益分岐点となる売上高は、現状の売上の何%になるか」を示し、低ければ低いほど健全に運営できていることがわかる指標です。次の計算式で求められます。

損益分岐点比率の計算式
損益分岐点比率 = 損益分岐点売上高 ÷ 現状の売上高 × 100

 例えば、損益分岐点の売上高が20,000円で現状の売上が25,000円だった場合は、

損益分岐点比率の計算例
損益分岐点比率 = 20,000 ÷ 25,000 × 100 = 80%

 損益分岐点となる売上高は、現状の売上の80%ということになります。

 安全余裕比率とは、現状の売上高が、損益分岐点から見てどれくらい余裕があるかを見る指標です。そのため、安全余裕比率が高ければ高いほど、健全に運営ができている状態となります。

 安全余裕比率は、100%から損益分岐点比率を引いて算出するのが一般的です。上記の損益分岐点比率の例題をもとに計算すると、安全余裕比率は20%(100 - 80)となります。

 損益分岐点比率と安全余裕比率を算出すると、現状の売上から見て、売上の余裕が分かります。

 上記で示した損益分岐点比率80%(安定余裕比率20%)は、例えば、サブスクビジネスを行い、毎年安定して売上高を計上できる企業であれば、安心です。

 一方、スポットでの売上高がメインで売上高が毎期、変動する企業であれば、赤字になるリスクがありますので、下記で紹介する損益分岐点の引き下げを検討する必要があります。

 また、余裕がない場合は早めの改善が大切なので、定期的にチェックすると良いでしょう。観測のペースは、企業や事業は決算の関係で1年単位で経営成績を見るため、3ヶ月に一度くらいがおすすめです。

 損益分岐点となる売上高は、高ければ高いほど、赤字になるリスクが大きい状態です。そのため、損益分岐点を下げるための施策を考案し、実行しましょう。

 損益分岐点を下げるには、計算式から分かるように「固定費を削減する」「限界利益率を上げる」必要があり、限界利益率を上げるには「変動費を削減する」か「売上高を上げる」かしなければいけません。それぞれの具体策をご紹介します。

 まずは、各固定費の金額について、それが妥当なのか、下げることはできないか検討します。とくに固定費の割合を大きく占める人件費や物件の賃借料、減価償却費は優先して見ておきましょう。

 人件費の削減は従業員のモチベーションに関係するため、慎重に行う必要があります。賃借料は、オフィス移転等で下げることも可能です。減価償却費は、保有する固定資産をなるべく減らすことで削減できます(ただし、すでに計上されている減価償却を削減することは基本的にできないため注意が必要です)。 

 変動費を削減するには、仕入額の削減が有用です。より低単価で同品質の材料を使用する、仕入れる容量を削減する、などがあげられます。小売業の場合は、仕入先の見直しも視野に入れるべきでしょう。

 売上高を上げる方法は、価格を上げるというのが考えられますが、様々な製品を販売している場合は、セールスミックス(製品の販売構成比率。例えば、A、Bという製品を4:6で販売している、といった形で使います)を見直してみるというのも有効でしょう。

 より、高単価な商品やサービスを販売できれば、企業全体の売上効率は向上していきます。

 損益分岐点を求める際には、エクセルを活用すると良いでしょう。エクセルが優れているところは、各種の前提条件を変えた際に、簡単に計算をし直せるところです。

 具体的な算出方法を、画像とあわせて解説します。

 まずはエクセルを開いて、入力のための形式を以下のように作成します(筆者が、簡易的に損益分岐点の分析を実施する際に用いているものです)。

簡易的に損益分岐点の分析を実施する際の形式
簡易的に損益分岐点の分析を実施する際の形式

 なお、C10からD14セルには、下記の計算式を入力してください。これによって、売上数量や売上単価などを入力すると、売上高や損益分岐点売上高が自動的に算出されます。

C10からD14セルに入れる計算式
C10からD14セルに入れる計算式

 損益分岐点を計算する際には、主に以下が変数となります。

 ・売上高(売上数量、売上単価に分解すると有用)
 ・変動費率
 ・固定費

 売上高は、数量や単価を変化させることで、シミュレーションをしやすくするために分解をしています。変動費率および固定費は、実際の数値から算出して設定すると良いでしょう。

 これらをC3からC6のセルに入力すると、C10からD14の数値が更新され、損益分岐点売上高がわかります。

 損益分岐点売上高を算出したら、グラフ化して直感的にわかりやすくするのがおすすめです。形式は自分が説明しやすいものであれば何でも構いませんが、ここでは私が実際に作成するときのやり方をご紹介します。

 まずは、作成した表のうち、売上高、売上高+固定費、固定費を選択してから、挿入タブからグラフを選択します。

挿入タブからグラフを選択
挿入タブからグラフを選択

 ここで、「その他の折れ線グラフ」を選択すると、様々なグラフを選択できるので「面」を選択します。

「その他の折れ線グラフ」から「面」を選択
「その他の折れ線グラフ」から「面」を選択

 塗りつぶされたグラフが出てきたら、設定を変更して折れ線グラフにします。

 塗りつぶされている箇所にカーソルを移動し、右クリックを行なうと、オプションが表示されるので、上にある「塗りつぶし」と「枠線」を選択します。

「塗りつぶし」と「枠線」で調整
「塗りつぶし」と「枠線」で調整

 「塗りつぶし」は塗りつぶしなし、「枠線」は見やすい色を選択すると良いでしょう。枠線の太さも変えられるので調節してみてください(完成図では3ptを使用しています)。

 完成は以下の通りです。青色と黄色の線が交錯しているところが、損益分岐点となります。

損益分岐点の完成図
損益分岐点の完成図

 事業を進めていくときに、明確な目標値があると、やるべきことが明確化され、組織のモチベーションや力が上がります。

 損益分岐点はその重要な目標値のひとつなので、明確にできていない場合は、算出してください。その上で、現状の自社の状況と比較すれば、新たな課題や優先的に解決するべき課題が見つかることでしょう。