「父の商売をもう一度盛り上げたい」 再始動したバイク会社GAWZWAY
株式会社GAWZWAY(ガウズウェイ=東京都墨田区)は、1975年創業のバイクショップ運営会社です。全盛期には東京・浅草を中心に7店舗を展開したものの、バイクブームの陰りとともに規模を縮小し、2007年に休眠状態となりました。しかし、創業者の長男である生畑目星南(なばためせいな)さん(32)が2021年に会社を継ぎ、事業を再開させようとしています。
株式会社GAWZWAY(ガウズウェイ=東京都墨田区)は、1975年創業のバイクショップ運営会社です。全盛期には東京・浅草を中心に7店舗を展開したものの、バイクブームの陰りとともに規模を縮小し、2007年に休眠状態となりました。しかし、創業者の長男である生畑目星南(なばためせいな)さん(32)が2021年に会社を継ぎ、事業を再開させようとしています。
GAWZWAYは、ホンダでメカニック(整備士)をしていた星南さんの父・信行さん(71)が1975年に個人事業として始めました。後に法人化し、1985年に現在の社名に変更しました。社名はGallantry(気高さ)、Action(行動)、Wild(野生の)、Zeitgeist(時代精神)の頭文字と、WAY(道)を合わせた造語です。
最初に浅草に店を構えた後、1970~80年代のバイクブームの後押しもあり、1990年ごろには東京都新宿区や横浜市などに7店舗を抱え、従業員20人ほどを雇用していました。その後、のれん分けという形で4店舗を従業員に事業譲渡しました。
信行さんは会社を経営しながら、バイクレースであるモトクロスの選手としても活動していました。星南さんは「父は根っからのバイク好きなんです。今でも浅草の自宅には、たくさんの賞状やトロフィーが飾られています」と話します。
しかし、1990年代に入ると、バブル崩壊とともにバイクブームも下火となりました。GAWZWAYの業績も悪化し始めます。
信行さんが扱っていたバイクは年代物の旧車(中古車)で、コレクションとして飾ったり、カスタマイズして乗り回したりするぜいたく品です。長い不況が始まり、需要が一気にしぼんでしまったのです。
2007年までに全ての店を閉め、GAWZWAYは休眠状態になりました。その後、信行さんは個人事業主として、バイクパーツのネット販売を細々と続けてきました。
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星南さんは子どものころ、家業をどう捉えていたのでしょうか。
「父は浅草のバイクショップの近くに住まいを借り、週末だけ家族の住む横浜の自宅に帰る、という生活をしていました。私が家業に触れる機会はほとんどなかったんです」
バイクの乗り方やカスタマイズの仕方を知りたい友達がいれば、信行さんのお店に連れていってあげたこともありました。それでも、信行さんがバイクを修理したり、お客さんと会話したりする様子を見たことはなかったそうです。
星南さんは、大学卒業後、父とは全く別の道に進むことになります。新卒で人材系のベンチャー企業に就職し、人材教育系の企業、個人宅を回る一般紙の飛び込み営業、投資商品を扱うベンチャー企業、経営コンサルティング会社と様々な仕事を経験します。
「父に進路相談をすることはあっても、会社を継ぐという選択肢は考えたことがありませんでした。父の側も、僕がバイクに強い関心を持たない限り、継がせることは考えていなかったみたいです」
2019年7月、星南さんはSENA株式会社を設立しました。営業資料の作成サポートやウェブマーケティング支援のほか、地域の中小企業のPR戦略をクリエイターとともに考える「スポカン会議」の運営などを行っています。
自分が経営者になると、父のすごさに改めて気づいたといいます。信行さんは会社経営に目を配りながら、メカニックとして整備の現場に立ち、モトクロスのレーサーを続け、週末は家族と過ごす、という生活を続けてきました。
「どんなに仕事が忙しくても、週1回自宅に帰ることを欠かさなかったんです。自分のやりたいことを実現しながら家庭も大切にするって、当たり前なようで、なかなかできることではないですよね」
ある時、父の何げない一言で、家業への向き合い方が変わりました。一緒に歩いていたところ「足悪いから、そんなに速く歩かれると、俺ついていけねえよ」と言われたのだといいます。
「年々老いていく父を目の当たりにして、ショックを受けました。時間の経過の残酷さを思い知ったんです。それに両親は基本的に年金暮らしで、余裕のある生活をしているわけではありません。もっと経済的に楽をさせてあげられないか、と思うようになりました」
信行さんが持つ、旧車バイクに関する知識や技術を眠らせておくのは惜しい、とも感じました。旧車バイクの修理やカスタマイズができるメカニックは、近年減っているといいます。SENA株式会社の経営を通じた顧客とのつながりや、経営コンサルティングのスキルなどを生かし、父の商売をもう一度盛り上げたい、その利益で両親を経済的に支援できたら最高じゃないか――。そう考えるようになったのです。
こうして2021年夏、星南さんはGAWZWAYの今後について父に打ち明けます。
「父さんが創業した会社をこのままつぶしてしまうのはもったいない。うまくいくか分からないけど引き継ぎたい」
それまでバイクに関心を示してこなかった息子からの突然の打診に、信行さんは「バイクに興味ないと思っていたのに、どうしたの?」と驚いていたといいます。
信行さんが積極的に会社を継がせようとしてこなかったのには、いくつか理由がありました。子どもの頃にバイクを触っていた星南さんを見て「センスがなさそうだ」と感じたこと、星南さんが成長するにつれバイクに興味や関心を示さなくなったこと、自分の価値観で星南さんの人生を縛りたくなかったこと、などです。
驚いてはいたものの、継ぐこと自体に信行さんから否定的な意見は出なかったといいます。代替わりした上でGAWZWAYを再出発させることが決まりました。
具体的な手続きは、SENA株式会社で付き合いのある税理士や中小企業診断士らに頼みました。登記変更手続きや補助金関係のサポート費用として30万円ほどかかりました。こうして2021年12月、星南さんはGAWZWAYの社長に就き、信行さんは取締役として会社に残ることになりました。
「その後、家族で居酒屋で飲みながら、今後の計画について話す機会がありました。酔っ払った父が『今日は最高だな』と、うれしそうに話していたのが印象的でした」
一般社団法人日本自動車工業会の資料によると、国内のバイク生産台数は1980年に643万台ありましたが、2020年は48万台にとどまります。バイクブームはとうに去り、国内市場の大きな伸びも見込めない中、会社を継ぐことに不安はなかったのでしょうか。
「不安はあまりなかったですね。確かに市場は縮小していますが、旧車バイクには熱量の高いマニアの方々がいるので、一定の需要はあります」
コロナ禍以降、密を避ける移動手段としてバイクへの注目が高まっているとも言われます。星南さんはこの点もビジネスチャンスとして前向きに捉えているそうです。
また、信行さんは個人事業主としてバイク用パーツを「ヤフオク!」などで販売してきたため、パーツの在庫がかなりあるそうです。GAWZWAYが今後パーツのネット販売を始める際、大量の在庫を仕入れなくてすむ点も、継業を考える際のプラス要素になったといいます。
本格的な事業展開はこれからです。当面は家族経営で、星南さんと信行さん、星南さんの姉の3人が関わります。具体的には3つの事業に取り組む予定です。
1つ目はバイクパーツのネット通販事業です。信行さんは個人事業主として活動中、主に「ヤフオク!」でパーツを売っていましたが、自社サイトでの販売に絞ることで手数料などのコストを抑えます。現在、自社のECサイトを構築中です。
インターネット広告を使って集客を図るほか、星南さんの人脈を使ってバイク好きの経営者たちにサービスを広めたいといいます。また、ホンダの販売代理店の資格があるため、信行さんの目利きにより売れ筋のパーツを仕入れて販売することができます。
2つ目は旧車バイクの修理事業です。修理依頼は自社サイトで受け付け、信行さんの知識や技術を生かしてバイクを直します。実店舗は構えず、横浜市の実家のガレージで作業する予定です。
3つ目はカスタムバイクの販売事業です。顧客から「こういうバイクがほしい」という注文を受け、信行さんが必要な部品を調達し、組み立てて販売します。
星南さんは、先に立ち上げたSENA株式会社と並行して、かじ取りを担います。GAWZWAY単体で、2022年中に月商50万円と黒字化、1年後をめどに月商100万円を目指し、自分以外の家族の生活費を稼げるくらいになりたい、と考えています。
事業を長く続ける上で課題になるのが、技術継承です。バイクの修理や部品の目利きを、いつまでも信行さん1人に頼るわけにはいかないからです。
そこで、ECサイトの運営を通じ、旧車バイクを愛する人たちが集まるオンラインコミュニティを作ろうと考えています。旧車バイクに関する様々な質問が寄せられ、ユーザー同士で解決し合う場です。コミュニティ内で信行さんの後継者になりうる人が見つかれば、協力を求めたいといいます。
また、信行さんの持つ知識と技術を記事や動画にまとめ、自社ECサイト内やYouTube上で発信するアイデアも温めています。主な3事業との相乗効果を期待してのことです。
長期的には愛好家だけでなく、若い世代にも旧車バイクの魅力を感じてもらえるようにしたい、と星南さんは語ります。
「最近は若い世代を中心にエコロジー意識が高まり、物を持たないミニマリストに共感する人も一定数います。『欲深い=悪』みたいな風潮さえあると感じます。でも個人的には、『ステータスとして格好いいバイクに乗る』というふうに、男くさく、欲求に忠実な生き方がもっと認められていいと思います。格好いい憧れのアイテムとして、バイクが若い世代に今以上に受け入れられたらいいですね」
星南さんは静岡・伊豆に住んでいます。今も浅草に住む信行さんと対面のコミュニケーションを取れず、苦労したことも多かったそうです。
「Zoomの使い方を繰り返し教えて、ようやく父も操作できるようになりました。めちゃくちゃ大変でした」と笑います。
自分が初めてバイクに触れたときのワクワク感や心が震えるような体験を、多くの人に届けたい――。
そんな信行さんの思いから始まったGAWZWAY。ガレージの隅で眠っていたバイクに再びエンジンがかかったように、親子で走り出そうとしています。
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