目次

  1. 安売り競争に母も社員も疲弊
  2. ブランド化へ材料費が高くても
  3. おしゃれに持ち歩けるデザインを
  4. 売り込みなしでも取引依頼が続々
  5. 商機を確信した政府会議の写真
  6. 「売っているのは水ではない」

 矢野さんの母方の祖父母が所有する、大分県宇佐市院内町羽馬礼(はばれい)の土地は、良質な水が湧く水源地です。矢野さんの母は、県内の親戚が営んできた水関連事業に長年関わり、2010年には飲料水製造会社を法人登記して社長に就任。従業員約20人で、国内のホテルや旅館、大学、店舗向けのオリジナルペットボトル飲料水をOEM(相手先ブランドでの生産)で供給してきました。

大分県宇佐市院内町羽馬礼(はばれい)の風景。矢野さんは子どもの頃、お盆や正月に訪ねたという

 矢野さんによると、日本は水資源に恵まれているため、水を買う文化が定着しづらい面がありました。味の違いを万人に分かるよう伝えるのも困難です。このため飲料水業界は差別化が難しく、値段の安さで取引が決まることが多いそうです。

 「他社が0.1円でも安い単価を示すと、取引先はそちらに移ってしまいます。各事業者は、水源地が海外資本に買収されるリスクも抱えています。薄利多売の世界で、母も社員も疲弊していました」

 矢野さんは京都市で生まれ育ちました。東京の大学を卒業後、都内の技術系商社に就職し、主に中東での海外事業を担当します。ある日、出張で欧州に行くと、空港で紙パック入りの飲料水を見かけました。

 「日本では紙パックの飲料水を見たことがない。自分が作れば国内初になるのでは」

 この思いつきが、紙パックの飲料水事業を始めるきっかけとなりました。

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