経営悪化の林業を守る覚悟 森庄銘木産業4代目は強みを売り上げ増に
1927年から林業を営む森庄銘木産業(奈良県宇陀市)は、4代目で専務の森本達郎さん(28)が、存続危機だった家業に飛び込みました。林業の担い手が減る中でも建築資材のトータルコーディネートという強みを生かし、木材不足に苦しむ顧客に寄り添う営業や、家具や雑貨のオンライン販売に活路を求め、2022年には過去20年間で最高となる売り上げを達成しました。
1927年から林業を営む森庄銘木産業(奈良県宇陀市)は、4代目で専務の森本達郎さん(28)が、存続危機だった家業に飛び込みました。林業の担い手が減る中でも建築資材のトータルコーディネートという強みを生かし、木材不足に苦しむ顧客に寄り添う営業や、家具や雑貨のオンライン販売に活路を求め、2022年には過去20年間で最高となる売り上げを達成しました。
現在、ウッドショックで木材不足が深刻になっていますが、国内の林業の担い手は減少傾向にあります。国勢調査によると、1980年は約14万6千人だった林業従事者は、2015年には約4万5千人に減りました。高齢化率も25%で全産業平均の13%に比べ高い水準にあります。
一方、明るい材料もあります。林業従事者の若年者率(35歳未満の割合)は1990年以降に増加傾向となり、2015年は17%となっています。森本さんもそんな若き担い手の一人です。
宇陀市は日本有数の生産地・吉野地方に隣接。密植、多間伐の育林方法が行われ、節が少なく年輪幅が均⼀で細かく良質な木材の産地です。森庄銘木産業はこの地で4代にわたって林業を営んできました。
森本さんは林業の課題をこう語ります。
「林業は苗を植えて、育て、収穫(伐採)し、加工(製材)して、暮らしに届けるという流れは農作物などと同じです。しかし、200年の長いスパンで広大な土地でやるという点で誰でもできる仕事ではなく、会社化が難しい面があります。うちのような同族経営か、組合で運営しているケースが多いのが現状です」
さらに、土地の所有者と林業の経営者は別々であるケースがほとんどで、自分の土地の場所や状態を知らない所有者も少なくないといいます。
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同社は森の管理をする「山守(やまもり)」という仕事も担っていますが、所有者の中には、管理や手入れに関心の薄いケースもあり、森林が荒れたまま放置される問題も生じているとのことです。
「森を育てながら木を使い、私たちは生きてきました。この循環が途絶えると、土砂崩れや倒木、洪水、ひいては温暖化など、暮らしレベルでの不具合がたくさん出てきます」
国内の木材自給率は、2002年を底に上昇傾向に転じています。しかし、林野庁の資料によると、林業全体でみれば伐採面積に占める植林面積の割合は3割程度になっています。効率重視の伐採の結果、これまで先人が大切にしてきた「森づくりを行う林業」はすでに崩壊しつつあると、森本さんは危機感を募らせます。
「現代の生活では森や林業に触れる機会が少ないことが課題です。森のあるべき姿を知ってもらい、木の様々な使い方を提案していくことが重要だと感じています」
森庄銘木産業の社有林は約50ヘクタールで、山守(森林管理)を委託された森林が300ヘクタール。年間伐採量は約3000立方メートルにのぼります。
森本さんの父・定雄さん(60)が社長を務め、従業員は13人ほど。林業を中心に森林設計、製材、インテリアの製造販売などを展開しています。
次男として生まれた森本さんは「祖父や父、職人さんの背中を見てきて、かっこいいなと思いながら育ちました」と言います。
「だけど、林業をやることと家業を継いで会社を経営することは違います。兄も私も家業を継いでほしいと言われたことはないし、継ぐつもりもありませんでした」
高校卒業後は立命館大学経営学部へ進学。街づくりに興味があり、ボランティア活動にも力を入れました。東日本大震災のときに岩手県や福島県に向かい、復興に奮闘する人たちにふれ、地域の暮らしを支える企業を残すことの重要性を感じたといいます。
20歳のときに家業を継ぐことを決意し、大学卒業後は流通を学ぶために上場企業の商社に就職。輸入材の営業をメインに担当しました。「何万本という木材の販売を経験し、同じ木材でも適材適所があること、お客様に森の情報が届けば購入につながることを体感しました」
3年間の勤務を経て、19年春、森本さんは奈良県に戻り家業に就きます。そこで初めて知ったのは森庄銘木産業の深刻な経営状況でした。銀行からの借り入れは売り上げを上回る2億円近くにのぼり、毎月の返済と支払いがかなり苦しい状況でした。
同社の商売の軸は宇陀や吉野で伐採した杉やヒノキの皮をはぎ、表面を滑らかに磨き上げ、和室の柱などに使われる「磨き丸太」と林業でした。最盛期には年間1万本の「磨き丸太」を出荷していましたが、和室や木造建築が減るなかで経営状況は予想以上に悪化していたのです。
従業員の平均年齢も60歳を超え、仕事の継承も急務でした。
「現状にとても驚きましたし、祖父や父を責め、大げんかしました」。森本さんは採算第一と考え、商売のためなら皆伐もやむを得ないと考えたと言います。
そんな折、父から「皆伐した後、いったいその地域に何が残るねん」と言われ、森本さんはハッとしました。「森づくりを行う林業」は自社の経営の問題だけではありません。森づくりは地域の暮らしに大きく影響するもので、対価が安いからやめるというような簡単なものではなかったのです。
山の手入れは地域の環境を守り、防災につながる。言い換えれば、地域の暮らしといのちを守る仕事なのだと、自社の仕事の尊さに改めて気づかされたと言います。
腹を割って話したことで、先代たちの森に込める情熱や、地域の技術と職人を守ってきたことを理解しました。そして、時代に逆行しながらも地域と共に生きようとする父の覚悟を知ったのです。
森本さんにとって後を継ぐというのは、自分が2億円の借金を返していくことを意味しました。200年先を見据え、森を育てながらつないでいく林業は、合理性の追求だけでは解決しない課題も多くあります。
「そりゃ悩みましたよ。でもやっぱり森を残したいじゃないですか」。森本さんは林業をライフワークにする覚悟を決めました。
森本さんは大学時代に学んだことや商社時代の経験を踏まえて、改革に取り組みます。まず取り組んだのが、家業の経営資源の把握でした。財務諸表を見直し、売り上げの増減と品目の推移などを分析。強みと弱みを洗い出しました。
強みは以下のようにたくさんありました。
ただ、森本さんはその武器を「使う」ところまで至っていなかったと気づき、入社後1年間は営業活動に奔走します。既存取引先との関係強化に加え、新規開拓に力を入れました。
「建材にこだわって家づくりをしている工務店」をSNSでリサーチし、会社案内を持って営業をかけたのです。
「欲しいときに欲しい量の木材を適正価格で納めることができ、木材の物流ノウハウがあるのがうちの強み」。これを丁寧に伝えました。
商社時代の経験から、工務店にとってはまとまった木材を確実に確保するのが重要だと分かっていました。
「工務店や建築会社の多くは、木材の単価までは分かりません。単価を明確にしたうえで、安心安全でまとまった木材を適材適所で用意し、運搬まで含めて対応できるという点を評価していただけたと思います」
建築資材のトータルコーディネートができる会社は限られるうえ、ウッドショックで輸入木材の安定供給が難しくなっていたこともあり、新規契約が増えて1年間で売り上げを8千万円近く伸ばすことができました。
2020年には、林業で消費者と直接つながるD2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)企業を目指し、オンラインショップをオープンしました。小規模事業者持続化補助金を利用し、ホームページ制作ツールで学んで自力で仕上げました。
新ブランド「MORITO」を立ち上げ、自社の木材や磨き丸太の技術を使った椅子などの家具から、インテリア雑貨、建材まで直売。高級建材である吉野杉を使った「森の丸太スツール」(1万4800円)などを看板商品に、一般の人に木のぬくもりを感じてもらう仕組みを整えました。
森本さんの新たな試みに、社長も職人たちも協力してくれたといいます。「定期的にミーティングをして、職人さんには僕のやっていること、やりたい事業などを丁寧に話しています。結果として数字がついてきているので、理解も得られています」
オンラインショップの売り上げは年間200万円ほどで、会社全体で見れば大きな数字ではありません。それでも、森本さんは「木造住宅が減る中で、木の小物や家具など身近なものから木のぬくもりを感じてもらい、木に囲まれる暮らしや森に興味を持つきっかけになればうれしい」と言います。
森本さんは「森と暮らしをつなぐ」をテーマにした、情報発信にも力を入れています。
ツイッター、インスタグラム、ティックトックを活用し、消費者が目にすることが少ない林業の仕事や森に関する情報を掲載するだけでなく、「森のツアー」や研修などを企画。持続可能な森づくりへの意識を高める社会問題解決事業も進めています。また、SNSを活用した求人で若い世代への雇用にもつなげました。
SNSのほかに、しっかりとしたホームページを持って発信することで、信用度が増しているといいます。ホームページ開設後、会社に直接木材を見に来る人も増えたため、倉庫の一部をショール―ムに改築し、来客用トイレも整えました。
新規事業を行う際の補助金利用やノウハウは、地元商工会議所の後継ぎ塾やネットでの情報収集で学び、申請したそうです。
こうした努力が実を結び、22年3月期の会社全体の売り上げは、過去20年間で最高となる2億7千万円を記録しました。
「借入金も年間1千万円ずつ返済するくらいの経営状況にはなってきました。まだまだスタートしたばかりですが、数字として結果が出ると励みになります」
後継ぎの森本さんが新規事業に集中できるのは「会社の基礎となる部分を社長や職人さんが支えてくれているから」と強調します。
「森も根っこがしっかりしていないと足元から崩れます。会社もそれと同じで職人さんは本当に尊い存在です」
森本さんは木をいとおしそうに見つめながら、これからのビジョンを話してくれました。
「私たちは木を暮らしのために使える幸せな時代に生きています。多くの人が森に関心を持ち、木のある暮らしを次世代に残したいと思うように、林業家としての役割や責任を果たしていきたい」
5年後の27年、森庄銘木産業は創業100年を迎えます。森本さんはその節目に社長として事業継承する予定です。
「そのときまでに、若い人たちが林業をするなら森庄銘木産業で働きたいと思ってもらえる会社にしておきたいですね」と未来を見据えています。
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