上代・下代とは?仕入れ・商品取引時に知っておきたい用語の意味と計算方法
商品を取引する中で「上代(じょうだい)」や「下代(げだい)」といった単語があります。中には似たような単語もあり、使い方を誤るとトラブルにつながるケースがあります。そこで、仕入れをはじめとした商品取引時に知っておきたい用語やその計算方法について、中小企業を中心に業務支援をしている中小企業診断士が解説します。
商品を取引する中で「上代(じょうだい)」や「下代(げだい)」といった単語があります。中には似たような単語もあり、使い方を誤るとトラブルにつながるケースがあります。そこで、仕入れをはじめとした商品取引時に知っておきたい用語やその計算方法について、中小企業を中心に業務支援をしている中小企業診断士が解説します。
目次
上代とは、一般消費者へ商品を販売するときに設定する小売価格のことです。流通業界の専門用語と言ってもよいでしょう。たとえば、メーカー側の担当者が「消費者への販売価格は1,000円」と言ってきたら、それが上代です。
ただし、メーカー側の担当者が“上代”と言った場合、そこに消費税がふくまれているかどうか、注意する必要があります。
基本的に、上代には消費税を含みません。しかし、メーカー側の担当者によっては消費税を含んだ価格を上代として話す場合もあるからです。実際、筆者が支援している企業では、卸元の企業から「事前に話していた上代と異なるので、なぜそうなっているのか話を聞きたい」というやり取りがありました。
ですから、メーカー側の担当者が上代に関する話をした場合には、その価格に消費税が含まれているのか、「こちらって、消費税別ですよね?」と確認することをお勧めします。
メーカーと話をしていると、上代に関連し、似たような用語が出てくる場合があります。上代との違いを知っておくと、間違えの防止にもつながるため、便利です。
参考上代とは、メーカーが「この商品についてはこの金額で販売してほしい」と希望している金額のことを言います。あくまでも“参考”であり、この価格にする必要はありません。参考上代は、メーカー以外にも、卸元や輸入元が用いることもあります。
メーカー希望小売価格とは、メーカーが小売店に対して「この商品については消費者にこの金額で売ってほしい」という価格です。参考上代とほとんど同じ意味ですが、メーカー希望小売価格はメーカーのみが用いる、という違いがあります。また、仕入れ担当者によっては「上代という言葉がついていない分、参考上代ほど、定価のような価格の拘束力(詳細後述)を感じない」という人もいます。
オープン価格とは、メーカーが上代・参考上代・メーカー希望小売価格を設定せずに出荷価格だけを決め、販売価格については小売業者が自由に決めてOKという価格です。
上代に関連してこれだけさまざまな呼び方がある背景には、独占禁止法や二重価格表示の防止があります。
皆さんの中には定価という言葉を知っている人も多いでしょう。元々、定価と希望小売価格はともに、メーカーがあらかじめ設定した小売価格のことを指します。
定価と希望小売価格には価格の拘束力があるかどうかという点で大きな違いがあり、定価には価格の拘束力があります。メーカーが定価を設定している場合、小売店は商品を定価で販売しなくてはなりません。しかし、独占禁止法により、定価を設定してよいとされている商品は、たばこをはじめ、書籍・新聞・CDといった著作物に限られています。
このように価格の拘束力のあるのが定価ですが、実は上代も、本来はこの定価を表す用語です。
ただ、独占禁止法施行で自由な取引が促された影響で、いつしか販売店側が自由に価格を決めてもよいときも、上代と呼ばれるケースが出てきました。そこで、トラブルを避けるために、単に上代という単語を使うのではなく参考上代としたり、メーカー希望小売価格といった言葉を使ったりするようになった、と考えてよいでしょう。
また、オープン価格については、小売店による二重価格表示を防止することを目的として使われるようになった価格表示法です。昔は商品が発売されて間もなく、また、値下げを実施していないにもかかわらず「メーカー希望小売価格から90%オフ!」というような表示を出して、消費者の注目を集めていたことがありました。そのため、家電メーカーが中心となり、消費者を混乱しかねない偽りのお得感が世の中に横行しないよう、オープン価格が使われるようになりました。
筆者が支援をしている企業を見ていると特に、参考上代とオープン価格を混同している担当者を見かけることが多いように感じます。単語の間違えは商品取引上のトラブルに発展しかねないので注意が必要です。
下代とは、仕入れ先が設定した仕入れ価格のことです。担当者によっては「卸単価」や「仕切り」といった言葉を使うこともありますが、卸単価も仕切りも下代を意味すると考えてよいでしょう。
下代を計算するときには、上代と掛け率が必要です。例えば、メーカー側の担当者から「上代が3,000円で掛け率は50%だ」と言われたとしましょう。この場合の下代は以下のように計算できます。
上代(3,000円)× 掛け率(50%)=下代(1,500円) |
下代を計算するときに用いる掛け率とは、上代に対する下代の比率のことです。一般的には、その商品が販売価格の何%で仕入れられるのかを示していると思ってください。
ちなみに、筆者にも経験があるのですが、メーカーと仕入れの話をしていると「あぁ、5掛けでいいよ」といったフレーズが出てくることがあります。この場合「上代に5割を掛けた金額で卸せるよ」ということを意味しているので、5掛け=掛け率50%と同じ意味になります。
筆者の経験も含めると、仕入れをはじめとした商品取引をする際には「掛け率はどのくらいですか」というよりも「何掛けですか?」と言うケースが今でも多いと感じます。
掛け率は、業界によってさまざまです。また、同じ業界内だとしても、各メーカーや卸元によって企業間の関係性が異なることもあるため、一定の掛け率になることは少ないでしょう。しかし、業界ごとの製造コストや流通コストを考慮すると、掛け率の相場というものはあります。
例えばアパレル業界の掛け率は60%前後、食品業界やおもちゃ業界の掛け率は70%前後が相場と言ってもよいでしょう。飲食業界では、以前は掛け率30%前後が多かったようですが、最近では掛け率40~50%になることも多いようです。
掛け率と混同しやすいものに“利益率”があります。筆者が支援する企業担当者の中で、掛け率と利益率との違いについて説明する機会が何度かあったため、ここで説明しておきます。
利益率とは、売上高に対する利益の割合のことです。商品が売れた全合計に関連する利益を算出したい時に使われます。
一方、掛け率は仕入や商品値付けのときに使われるものです。
商品1点1点に関連して使うのか、商品が売れた合計金額に関連して使うのか。この点をしっかり覚えていれば掛け率と利益率を混同することはないでしょう。
商品を仕入れる側からみると、下代は可能な限り安くしたいと考えることが一般的でしょう。下代が安ければ、それだけ利益を生むことができるからです。
しかし、メーカーや卸元からみると、下代が安くなってしまうと自社の利益が少なくなります。とはいえ、掛け率交渉は無理のない範囲内でチャレンジするべきです。
ここでは、筆者の経験も踏まえながら、商品仕入れの担当者とメーカー・卸元の担当者との間でうまく掛け率交渉をするために知っておきたいポイントを3点紹介します。
仕入れたい商品が複数の企業から仕入れられる場合には、可能な限り各会社から見積もりを取り寄せましょう。
各社同じ掛け率なのかそうでないのか知ることもできますし、ここで取り寄せた各社の掛け率をベースにして、本当に取引したい企業と「実は、他社からこのような掛け率で取引提示を受けたのですが、弊社としては御社との長いお付き合いもありますので、どうしたものかと考えておりまして……」といった掛け率交渉も可能でしょう。
仕入れる商品数が多くても在庫として残らない見込みがあるのなら、仕入数を通常よりも大きくして「多く仕入れるので掛け率を少し落としてもらえないだろうか」という掛け率交渉をすることも可能です。
筆者の経験でいうと、毎月15~20日の間に商品仕入れをする場合には、この交渉がうまくいくことが多々あります。
メーカーや卸元の担当者は、基本的に月単位で販売数量の目標を持っていて、15~20日というのは「販売数量が思うように伸びていないな……。ここで販売数量を稼いでおかないとまずい」となりやすい時期です。
そのため、上記のような交渉を持ちかけると、多少低く掛け率を設定してもらえる可能性があります。これは、悩みを抱えやすい時期に持ちかけるのがミソなので、半期末や年度末に近づいたタイミングでも有効です。
ただし、本当に販売数量が伸び悩んでいるかは、担当者本人から直接聞かないと判断が難しい面もあります。ですので、仕入れの際は、担当者の言葉に注目することが重要となるのです。
また、こうした悩みは、日頃から懇意にしている相手ほど打ち明けやすくなるものです。そのため、日頃からメーカーや卸元の担当者とのやり取りを綿密にしておくのも、ポイントになるでしょう。
毎回掛け率交渉をしていると、メーカーや卸元の担当者は「またか……」と辟易してしまいます。掛け率交渉そのものを受け入れてもらえない可能性が出てくるので、「ここぞ」というときのみ、掛け率交渉をしてください。
商品を仕入れる際、メーカーや卸元の担当者と話していると、上代・下代をはじめ、ここまで出てきたもの以外の単語が出てくることもあります。メーカーや卸元の担当者とのスムーズなやり取りに繋がるので、以下の用語についても意味を覚えておくとよいでしょう。
商品を仕入れるためにその企業へ利用登録をすることを「口座を作る」「口座を開設する」などと言います。メーカーや卸元の担当者から「御社とは取引がないので、口座を作るところからですね」と言われたら、その企業へ利用登録をするための手続きを行ってください。銀行口座のことではないので注意が必要です。
代金を追って支払う約束をした上で商品を先に入手することを「掛けで買う」「掛け買い」などと言います。この方法を用いれば、例えば、その月の5日と15日に同じ仕入先に商品を発注し、その月で締めて翌月末に一括で振り込み支払いする、といった取引ができます。「掛け」という言葉が使われていますが、掛け率のこととは異なりますので注意が必要です。
商品を仕入れる際、多くの場合は送料が発生します。その送料について、商品発送時にメーカー・卸元が送料を支払う場合は「元払い」、商品到着時に自社が支払う場合は「着払い」と言います。筆者の経験上、今まで取引がない場合や1度きりの取引の場合は「着払い」になるケースが多いように感じます。
仕入に関連した単語の中には、意味を混同しやすいものや誤って使いやすい単語が多くあります。メーカー・卸元担当者とスムーズにやり取りを行い、良好な商慣習・商売関係の構築に繋げるためにも、これらの単語の意味を正しく理解しておきたいところです。
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