目次

  1. 法改正の背景に男女格差
  2. 育休意向確認の注意点は
  3. 「産後パパ育休」制度を創設
  4. 育休取得も分割が可能に
  5. 有期雇用労働者の取得要件を緩和
  6. 育休取得状況の公表が義務化
  7. 相談窓口設置や研修の実施も
  8. 意思決定層の理解を深めるには
  9. 育休推進が経営に与えるメリット

 育児・介護休業法が改正された背景には、男性の育休取得率が女性と比べて大幅に低いことが挙げられます。厚生労働省の調査(2020年度)によると、男性の育休取得率は12.6%で、前年度比で約5ポイント上昇したものの、女性の81.6%に比べて大きく水をあけられています。

 東京都に限ると、男性の育休取得率は23.8%になりますが、これも女性の96.0%に比べて大きな差があるのが現状です。

 新田さんは法改正の狙いについて、次のように説明します。

 「国の調査では男性が育休を取りにくい主な理由として、制度がなかった、収入を減らしたくない、職場で取りづらい雰囲気だったから、という三つが挙げられています。改正法では本人や配偶者の妊娠・出産を知った労働者には、制度の説明と育休取得意向の確認を事業主の義務とし、産後8週間以内は休業中でも一定の条件の下での就労や育休の分割取得が可能になるなど、これまで以上に柔軟かつ実効性があるものになりました」

 22年4月から、本人または配偶者の妊娠・出産の申し出をした労働者には、事業主から育休制度の周知と取得の意向確認が義務づけられました。

 新田さんは「事業者側から声をかけることで、男性が育休を取りやすくなります」と言います。

 ただし、声をかける際、事業主が注意しなければいけない点があります。

 「育児休業は労働者の希望で取るもので、会社から期間の指定はできません。『人手不足なんだよ』とか『まさか取るつもりじゃないだろうね』といった圧力をかける伝え方は禁じられています。正社員だけでなく、取得対象の有期雇用労働者に対しても同じ義務が課せられます」

 周知や確認の方法も面談(オンラインも可能)や書面交付となり、ファックスや電子メールは労働者が希望した場合に限ります。「会社のイントラネットで見てもらうというのではなく、労働者に対面で直接説明をするというのが基本的な考え方です」

 説明義務としては、男性育休の制度や申請時の申し出先、育児休業給付や育休期間中の社会保険料の取り扱いなどが含まれます。

 「担当者の中には細かい部分までは分からない方もいるでしょう。厚生労働省のサイトでは、周知文の見本などをホームページで示しているので、それをもとに対応しましょう」

 今回の法改正では「産後パパ育休」制度が創設され、22年10月1日から施行されます。従来の育児休業とは別に、子どもが生まれた後8週間以内に最大4週間(28日)まで2回に分けて取ることも可能になります。

 新田さんは制度の意義について次のように説明します。

 「産後8週間は母親の体調が戻るまでの大切な時期です。赤ちゃんもずっと泣いていて、育児に慣れない母親が寝不足で追い詰められ、産後うつの発症も一番多くなります。この大切な時期に夫が一緒にいるかいないかは、その後の家族の関係にも影響します。夫婦がお互いに慣れない時期から、夫が育児に参画することでいいスタートが切れると思います」

 産後パパ育休では、労使協定を締結し労働者が合意した範囲内であれば、休業中に働くことも可能になりました。ただしその範囲は、休業期間中の所定労働日・労働時間の半分、休業の開始日と終了日は所定労働時間数未満という制限があります。

 「育休は労働者が同意した範囲で働いてもらうという認識が必要です。働くことを条件に育休を取らせたり、労働者側に育児の事情で急な期間変更などがあったりしたことで、復帰後に労働条件を不利にする措置や、ハラスメントに該当するような行為をしてはいけません。人数の少ない事業所は男性労働者が何日も休むことを不安に思うかもしれませんが、管理職にも産後パパ育休中の労働について理解してもらう必要があるでしょう」

 22年10月1日からは、育児休業も柔軟に取れるようになります。従来は原則として分割は不可でしたが、2回に分けて取得することが可能になります。

 また、子どもが1歳以降に保育所に入れないなどの事情で延長した場合の育休開始日も、柔軟に決められるようになりました。今までは子が1歳、または1歳半になった時点に限定され、夫婦が交代で育休が取りにくいという問題がありました。しかし、開始日を柔軟に設定することで、夫婦が仕事の事情などに合わせて交代で育休を取りやすくなります。

厚生労働省資料をもとに作成

 新田さんは「今までは、女性は子が1歳になるまで休み、その後に延長する場合も、女性がそのまま1歳半や2歳まで取るというケースがすごく多かったわけです。しかし、今回の法改正で、男性は産後パパ育休も含めれば、子が2歳になるまで育休を最大6回取れることになります」と説明します。

 「片方だけが長期間ずっと休むのではなく、色々なパターンを組み合わせてきめ細かく交代し合うことで、女性も仕事復帰しやすくなります。労働者側が法改正の中身を詳しく知らないことも考えられるので、事業所の担当者が法改正の内容を理解し、積極的に説明すると良いでしょう」

 有期雇用労働者の育休取得要件の緩和(22年4月1日施行)も法改正の特徴です。従来の二つの要件から、1.が撤廃されました。

  1. 事業主に引き続き雇用された期間が1年以上の者
  2. 子が1歳6カ月を経過する日までに労働契約が満了し、更新されないことが明らかでない者

 新田さんは事業主側に対し「労働契約の把握を」と呼び掛けます。

 「労働契約に『更新する』『更新の可能性あり』と書かれている場合は育休が取得できますが、『更新なし』『更新上限○回』と書かれている場合は申し出の時期などによって取れないケースもあります。どの有期雇用者が育休を取れるのか、事業主側の理解が必要です」

 有期雇用者の割合が多い業種などには人手不足への懸念もありますが、新田さんは「人手不足は現実的な問題ではありますが、法改正の趣旨を理解し、社員を尊重する経営に切り替える姿勢が大切ではないでしょうか」と強調します。

 従業員数が1千人超の企業は23年4月1日から、育休取得状況を年1回公表することが義務づけられます。新田さんは取得率を高めるだけでなく、育休の中身にも目を向ける必要があると指摘します。

 「取得率の数字を高めるために育休を数日取るだけの人を増やすというのでは、本来の姿とは違います。短期でも長期でも、希望通りに育休が取れる状況を作ることが大切だと感じます」

 男性育休取得の推進には大企業だけでなく、中小企業にも一層の取り組みが求められます。

 「人数が限られているから育休なんて絶対無理と思い込んでいる事業者も多いと思います。長くても短くても労働者が希望する日数を休めることは大切ですが、復帰後も育児はずっと続きます。普段から残業の削減やテレワークの導入、業務の効率化・共有化などによる配慮が重要です。育休に限らず、病気や介護など様々な事情を抱える人が増えていく中で、助け合って業務を回すことができれば、結びつきの強い会社になると思います」

 「経営層が男性の育休に反対していた中小企業があるのですが、3年前に男性の育休第1号が出たところ、後からどんどん続いたんです。取りたいけれど様子をうかがっていた男性がたくさんいたのだと思います。育休中は業務の工夫をしているため、男性労働者が休んだとしても大きな問題は生じていないといいます。今後、男性の育休に否定的で育休が取りにくいような事業所は、若い人から選ばれなくなるのではないでしょうか」

 事業主には22年4月から、育児休業・産後パパ育休を取りやすくするための環境整備が義務付けられました。例えば相談窓口の設置や研修などです。

 新田さんは「義務だからということで相談窓口を形だけ決めて終わりというのを、少し危惧しています」としたうえで、次のようにアドバイスします。

 「相談窓口の担当者は制度や育児休業給付、育休中の社会保険料負担はもちろん、ハラスメントが起きないよう様々な相談に乗れるだけの知識が必要です。中小企業の担当者が情報収集して知識を蓄えるのは負担が大きいかもしれませんが、国や市区町村などが開催する男性育休に関するセミナーに参加したり、自治体が開設しているウェブサイトをみたりすれば、たくさんの情報が得られますので、参考になさってください」

 「研修は全社員を対象にするのが理想ですが、少なくとも管理職には理解してもらうことが必要です。厚生労働省のイクメンプロジェクトのサイトには、社内研修ができる動画などのコンテンツが何本も提供されているので、うまく活用すると良いと思います。また、男性育休に特化せず、ダイバーシティーの視点で社内全体を対象としたコミュニケーション研修などを行うのも一つの方法です」

取材に答える新田さん

 男性育休の推進には、事業所内の意思決定層の意識改革が必要になりますが、意思決定層は子育てを終えた世代の人も少なくありません。この点についても、新田さんはこう話します。

 「意思決定層の理解を深めるには、他社の成功例を人事などから伝えることが考えられます。これからの時代、長時間労働を続けていては、育児だけでなく、介護との両立や70歳までの継続雇用に対応できないということに気がつけば、年齢が高い人にも響くかもしれません」

 新田さんは行政機関のサポートも必要になると考えています。

 「男性が育休を取っても業務が回るにはどうすればいいか、そのヒントを欲している会社が多くあります。行政機関も企業の事例をたくさん示し、社会保険労務士などの専門家派遣、事業主や担当者向けのセミナーなどを進めることが必要です」

 厚生労働省の「両立支援等助成金」や、公益財団法人東京都しごと財団の「働くパパママ育休取得応援奨励金」のように企業への支援制度もあります。

 「助成金や奨励金の存在を知ることで、ハッと思う中小企業もあるようです。男性育休を進める企業への支援金が広がれば、後押しになると思います」

 男性育休の推進は、企業経営にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。

 新田さんは「企業が生き残るには新しい技術を採り入れるなど、従来の発想を変えて柔軟に対応することが必要です。男性育休を否定するような社員の希望を押さえつける経営では、新しいものが生まれず衰退してしまうのではないでしょうか」と話します。

 「若い世代は固定観念にとらわれず、デジタルなど新しい技術をすぐに受け入れる人が大勢います。彼らの能力を生かしてもらうには、彼らのプライベートを尊重することが重要です。そんな環境であれば、働く人が会社を誇りに思い、貢献したい気持ちが芽生えるので、会社の成長につながると思います」