過剰債務の「ゾンビ企業」が1割強に 帝国データバンク調査
信用調査会社・帝国データバンクは2022年夏、創業10年以上で過剰債務に陥っている「ゾンビ企業」に関する調査結果を初めて発表しました。新型コロナウイルスの感染拡大以降、「ゾンビ企業」の割合は全体の1割強にのぼると推計され、今後も増える可能性があると分析しています。事業継続や雇用維持のために、やむを得ず「ゾンビ企業」になる側面はありますが、同社は私的整理の活用や事業構成の見直しなども促しています。
信用調査会社・帝国データバンクは2022年夏、創業10年以上で過剰債務に陥っている「ゾンビ企業」に関する調査結果を初めて発表しました。新型コロナウイルスの感染拡大以降、「ゾンビ企業」の割合は全体の1割強にのぼると推計され、今後も増える可能性があると分析しています。事業継続や雇用維持のために、やむを得ず「ゾンビ企業」になる側面はありますが、同社は私的整理の活用や事業構成の見直しなども促しています。
目次
まず「ゾンビ企業」とはどのような状態を指すのでしょうか。帝国データバンクが調査で用いたのが、インタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)という経営指標です。
ICR=(営業利益+受取利息+受取配当金)÷支払利息・割引料
ICRは企業が支払利息(インタレスト)の何倍の利益を稼げているかを表し、数字が大きいほど経営が健全といえます。逆に1倍未満の場合は、事業利益で利払いを負担しきれていないということになり、経営にとって好ましくない状態といえます。
同社は国際決済銀行(BIS)の基準を用いて、「ゾンビ企業」を以下のように位置づけました。
3年以上にわたってICRが1倍未満、かつ設立10年以上
次章からは「ゾンビ企業」に関する調査結果を具体的に見ていきます。
帝国データバンクの企業財務データベースによると、2020年度に「3年以上にわたってICRが判明しており、かつ設立10年以上」の企業は10万6918社になります。そのうち、前述した「3年以上にわたってICRが1倍未満」の「ゾンビ企業」は1万2037社で、全体の11.3%となりました。
過去の指標を見ると、08年のリーマン・ショック以降、「ゾンビ企業」の割合は増加し、11年度は19.8%にのぼりました。その後は減少傾向で、10年代後半は10%前後で推移していますが、20年度は19年度の9.9%から1.4ポイント増えています。
同社は「コロナ禍におけるゼロゼロ融資などが一因となっている。21年度以降もコロナ禍の影響が続く中で、ゾンビ企業の割合は横ばい、あるいは増加する可能性がある」とみています。
また、同社の企業概要データベースに収録されている146.6万社に前述の「ゾンビ企業率」11.3%を当てはめ、日本のゾンビ企業の実数を約16.5万社と推計しました。
2020年度の「ゾンビ企業」(1万2037社)の内訳を見ると、売り上げや従業員の規模が小さいほど過剰債務に陥っていることがうかがえます。
売り上げ規模では1億円~5億円の企業が全体の44.4%を占めるなど、「ゾンビ企業」の3社に2社が年商5億円未満の中小企業です。従業員構成比では、20人以下の小規模企業が67.9%を占めています。
また、業歴別では30年以上が「ゾンビ企業」全体の7割強を占めました。
帝国データバンクは「10年以上という業歴に比べて、収益力が思うように高まらない中小・零細業者がゾンビ企業化しやすい」と分析しています。
調査では、ゾンビ企業と後継者の有無との相関関係についても触れています。ゾンビ企業の中で後継者不在と答えた企業は61.0%になりました。
企業全体の後継者不在率(2021年、帝国データバンク調査)は61.5%なので、数字上は大差が無いように見えます。
しかし、同社は「ゾンビ企業が設立10年以上の企業を対象にしていることを考えれば、実質的な後継者不在率としてはやや高いと言える」とみています。
業種別に「ゾンビ企業」の含有率を見ると、コロナ禍の影響が浮き彫りになっていることがうかがえます。
含有率が最も高いのが、コロナ禍による消費低迷の影響が直撃した小売業(17.4%)で、全業種平均の11.3%を上回っています。燃料価格や人件費などが上昇しながらも価格転嫁が難しい「運輸・通信業」(14.9%)も高い水準です。
業種をさらに細かく見ると、「菓子・パン類卸売業」(ゾンビ企業率26.3%)、「酒場・ビヤホール」(同25.6%)「病院」(同24.3%)、「印刷業」(同24.3%)が高水準です。
帝国データバンクは「価格転嫁が難しく比較的収益性の低い業種と、設備投資による債務過多に陥りやすい業種とにおおむね二分されている」とみています。
調査では「ゾンビ企業」と倒産企業の財務状態も比較しています。
まず企業の収益力を示す「売上高経常利益率」を見ると、「ゾンビ企業」の平均はマイナス3.59%で、倒産企業平均のマイナス4.07%に近い経常赤字の水準となりました。同社は「ゾンビ企業の収益力は倒産水域にあると判断できる」としています。
一方、手元資金の量を示す「現預金手持日数」には違いが出ました。「ゾンビ企業」平均が83.63日で、倒産企業平均の27.90日と比べれば、資金が潤沢と言えます。
企業の安定性を示す自己資本比率も、「ゾンビ企業」平均は1.24%でかろうじて資産超過を維持。倒産企業の平均がマイナス18.50%と大幅な債務超過に陥っていることを考えれば、踏みとどまっていると言えそうです。
帝国データバンクは「ゾンビ企業」の財務結果を踏まえ、次のように分析しています。
「ゾンビ企業は収益力の低さと過剰債務によって生み出されている半面、借り入れによる手元資金の確保と低金利によって一応の資金繰りをつけられている。しかしながら、自己資本比率は債務超過一歩手前であり、過剰債務の解消と抜本的な収益力の向上が早期に果たされなければ、倒産という選択肢を採らざるを得なくなる可能性が高い」
調査結果で注意しなければいけないのは、「ゾンビ企業」のすべてが危険水準というわけではないということです。
コロナ禍でも倒産や廃業を選ばず、事業継続や雇用維持への意欲を示した結果、コロナ関連融資が膨らみ、結果的に「ゾンビ企業」になったという側面もあります。
帝国データバンクの調査担当者は取材に対し「雇用の維持や事業立て直しの猶予期間として、ゾンビ企業が一定数発生することはやむを得ません」と答えています。
一方、将来的にはコロナ関連融資などの借入金返済が負担となり、金融機関の支援が受けられなくなる事態も想定されます。
「ゾンビ企業」を脱するために考えられる対策の一つが、私的整理手続きの活用です。
担当者は「いたずらに延命された上で経営破綻となれば地域経済へのインパクトも大きくなってしまいます。私的整理などを有効に活用した淘汰と言う方向性も選択肢に入れなければならない局面に来ていると考えます。会社というハコはつぶしても、私的整理やM&Aなどで、事業や従業員を別の会社に譲渡することも手段の一つではないでしょうか」としています。
「ゾンビ企業」を脱するもう一つのポイントは、倒産企業よりは高水準にある手元資金を活用した事業の構造転換で、収益性を高めることです。
帝国データバンクの担当者はアパレル企業を例に、次のように話します。
「メンズとレディースに分かれていたラインをユニセックスの商品に統一して効率化を図ったり、洋服だけではなくコスメも一緒に売ったりして、業績を回復させた例があります。OEM(相手先ブランドによる生産)が主流だった企業が、自社ブランドを立ち上げるのも有効な手段の一つでしょう」
調査結果では、ウクライナ情勢や原油・原材料の高騰の影響で、中小企業の負担を軽減するための金融支援策が行われ、当面は「ゾンビ企業」が増えることも予想されると指摘しています。
ただ、こうした「ゾンビ企業」が、支援策を足がかりに構造転換を図れるかどうかが、事業継続の成否を握ることになりそうです。
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