目次

  1. コモディティ化とは 消費者と企業から見た意味
  2. コモディティ化が起きる理由
    1. 企業側の原因
    2. 消費者側の原因
  3. コモディティ化による影響
    1. 企業側の影響
    2. 消費者側の影響
  4. 自社商品のコモディティ化を避けるには
    1. 競合が簡単には真似できないものをつくる
    2. 競合が真似したくないものをつくる
    3. 消費者の特性を理解してターゲットを決める
  5. 一層進むコモディティ化

 コモディティ化とは、独自性やブランド力によって差別化されていた商品が、多数の類似商品の出現によって、一般的な商品になることです。コモディティ化が起こると、同じような商品が潤沢に流通するため、顧客は価格が安い方を選択するようになります。すると、価格競争が激しくなり、企業が利益を得られなくなっていきます。

コモディティ化の概要
コモディティ化の概要(デザイン:吉田咲雪)

 コモディティ化が起きる原因について、企業側と消費者側に分けて考えてみます。

 米国のハーバード・ビジネス・スクールのウィリアム・J・アバーナシー教授(1933-1983)とマサチューセッツ工科大学スローン経営大学院のジェイムズ・M・アターバック教授(1941-)は、企業がどのような段階を経てコモディティ化へと向かうのかを示しました。これは、「アバーナシー・アターバック・モデル」(1978年、通称「A-U モデル」)と呼ばれています。

 1994年に、アターバック教授はモデルに修正を加え、コモディティ化へと向かうプロセスを、「流動段階(Fluid phase)、移行的段階(transitional phase)、特定状態(Specific phase)」の3段階で表しました。

アバーナシー・アターバック・モデル
アバーナシー・アターバック・モデル

 「流動段階」は、製品が定まらず試行錯誤している段階で、消費者も評価しかねている状況です。企業が製品を改良することに注力しているため、製品イノベーションが最も起こりやすくなります。生産プロセスは不安定な状態のままです。

 試行錯誤の結果、支配的デザイン(Dominant design)というものが出現します。ノウハウが蓄積されると、製品のスタンダードとなるべき重要な機能や要素が明確になってくるのです。そして、企業は需要に応えるために大量生産へと向かい、生産プロセスの効率化に注力するようになります。これが「移行的段階」であり、生産プロセスイノベーションが最も起こりやすくなります。

 「特定段階」では、生産プロセスも確立され、工程がモジュール化(交換可能な構成単位に分解)されます。標準化、細分化、自動化が進み、やがて生産効率が最大化されます。その硬直的な生産プロセスが、製品イノベーションを起こりにくくしてしまうのです。そして企業は、いかにコストを下げるかということに注力するようになります。この状態で価格競争が起きているのがコモディティ化というわけです。

 コモディティ化は、消費者の製品に対する「関与度、知識、判別力」の低下でも引き起こされます。

 「関与度」とは、製品に対する関心や思い入れの高さです。たとえば、住宅を買う際には、何度もモデルルームに通ったり、セールスパーソンに相談したりして、時間をかけて検討します。このように製品との結びつきが強くなると、関与度が高いということになります。

 「知識」とは、製品の属性や機能に関して、どの程度知っているかです。現代ではインターネットで容易に情報が手に入るため、消費者は自宅で一人で知識を得ることが可能です。知識を保有すればするほど、製品の差異に気づくことができるため、企業には差別化するインセンティブが生まれます。

 「判別力」とは、知覚で差異を判断できる能力です。「知識」があればより高まるでしょう。しかし、たとえばカメラの画素数を一定水準以上に増やしても、消費者は差異が判別できません。このように、製品が過剰な属性や機能をもつことをオーバーシュートと言います。

 消費者は、「関与度、知識、判別力」が高ければ高いほど、製品に高い対価を払う傾向があります。しかし、製品が広く普及すると、このような特性のレベルが低い顧客の割合が増えていきます。

 その結果、市場全体として、オーバーシュートが起きます。そうすると企業が機能を高めても、消費者全体にとっては意味のない差別化となってしまい、企業はイノベーション競争ではなく、価格競争へと向かわざるを得なくなります。

 では、コモディティ化が起きると、具体的にどのような影響があるのでしょうか。

 コモディティ化が起きてしまうと、企業は価格競争をしなければならないため、経営が厳しくなるでしょう。アバーナシー教授は、生産性を高めるほど、製品イノベーションが起こりにくくなっていくことを「生産性のジレンマ(Productivity dilemma)」という用語で表現しました。イノベーションが起こっているときは、生産性が低いため、利益が出にくいのです。

 しかし、断片的なイノベーションを起こすことは可能です。市場が成熟しているということは、規模もある程度大きいわけです。そして、消費者がその製品の存在を知っていて、お金を払って手に入れる習慣もすでにあるのです。ニッチな市場を狙っても、そもそも市場が存在しないことがありますが、コモディティ化したものの市場は存在しています。したがって、脱コモディティ化に成功すれば、利益は大きなものとなります。

 消費者側から見れば、コモディティ化は総じてありがたいことのはずです。たとえば、車はどれを買っても、マニュアルを見ずに運転できます。それは規格化しているからです。パソコンも、昔は一部の人しか使いこなせませんでしたが、いまでは多くの人がマニュアルを見なくても操作できます。それは価格が低下して流通量が増えたからです。

 もし、パソコンやスマートフォンがコモディティ化していなければ、日本全体の生産性が低いままで、世界でもっと競争力を失い、より貧しくなっていたでしょう。クレジットカードや電子マネーも今後さらにコモディティ化が進み、やがて淘汰されていくとみられます。しかし、消費者にとっては、利便性が高くなるでしょう。

 自社の商品やサービスがコモディティ化しないようにするには、上記の原因を避ければよいということになります。

 製品イノベーションが、個人によってしか起こらないものや、真似をするのに長い年月を必要とするものをつくります。それは、人海戦術という資本の力では対抗できないものです。ひらめきや時間が差別化要因となります。

 繊細な技術が必要なものとしては、服飾雑貨やデジタルカメラのレンズなどがあります。ITベンチャーは、一人の天才的な人から発祥し、差別化したサービスを提供しています。

 生産プロセスイノベーションが起こりにくいものをつくります。すなわち、工程をモジュール化しづらく、標準化、細分化、自動化が進まないものです。労働集約的にはなりますが、真似したいという企業も多くは出てきません。本質的に、人間はラクをして稼ぎたいものだからです。

 桃などの果実栽培は、まだロボットによる収穫が難しいとされています。教える仕事も、相手の反応を見ながら行わなければならないものがあるため、完全にはオンデマンド化しないでしょう。

 商品への「関与度、知識、判別力」の高い消費者をターゲットとすれば、価値を理解してくれるため、それなりの対価を払ってくれるでしょう。対面で商品を提供するのであれば、このような特性を持つ地理的に近い顧客としっかりとつながっておく必要があります。

 高級レストランは、おもてなしの心遣いや技術が理解できる顧客のみを相手にするほうが良いでしょう。ターゲットを広げようとして、宅配サービスを始めたところ、クレームが来るようになったという例もあります。顧客が自ら店舗へ行くという「関与度」が下がってしまったのが一因でしょう。

 ひと昔前であれば、日持ちのしない生菓子は零細企業でも大手に対抗できていたため、街にはケーキ屋や和菓子屋がありました。しかし、コンビニスイーツの品質が上がり、大量に流通するようになったことで、コモディティ化が進みました。特別なイベントでしかケーキ屋や和菓子屋で買わない人が増えてきたため、こうしたお店が閉店に追い込まれています。

 物流の進化により、日持ちがしないものでもコモディティ化が進みつつあります。また、通信技術の発達により、地域でヒットしたお菓子はあっという間に伝わり、大手にミート戦略(差別化のポイントを真似して追随し、相手を封じ込める戦略)をとられかねません。これまでの常識が通用しなくなっていることに注意が必要です。

 コロナ禍では、法人向けだけでなく個人向けでもオンラインを手掛けなければと動いた方も多いでしょう。このようにリスクを分散しておくことも大事ですが、ターゲットを広げると失敗につながる可能性もあります。自社の製品やサービスをコモディティ化しないように気をつけたいところです。

 意外と手堅いのは、経営者のような孤独な人の相手をする仕事かもしれません。例えば株を買うだけであれば、ネットで買うほうが手数料も安くて速いです。しかし、証券のIFA(金融商品仲介業者)も活躍しています。富裕層に良い商品を勧めるだけでなく、話し相手となっているからだと思われます(労働集約的になるので、やりたいかどうかは別ですが)。

 規模のそれほど大きくない企業は、ある程度労働集約的なことをせざるを得ないとすれば、苦痛にならないものを選択することが望ましいでしょう。