目次

  1. 柱を取り払って入りやすく「グローリー」
  2. 明確なキャッチコピーを大文字で「今村紙工」
  3. コンセプトが伝わりやすい商品名「寺本水産」
  4. バイヤーに売り場をイメージさせる「川辺」
  5. 体験型アトラクションの活用を「丸八化成」
  6. 照明の当て方ひとつで変わる存在感「石川県産業創出支援機構」
  7. 会場をまわって気づいたこと
    1. 展示会後の接点を作ろう
    2. 展示会をフィードバックの場に
    3. ワンテンポ待って登場を
清永健一(きよなが・けんいち)展示会営業マーケティング代表取締役。中小企業診断士。展示会を活用した売上アップの技術を中小企業に伝える専門家。これまでに見た展示ブースは53万社を超える。NHKラジオで展示会の未来に言及するなど展示会業界活性化にも尽力。著書は『飛び込みなしで新規顧客がドンドン押し寄せる展示会営業術』ほか

 会場に入った直後、清永さんが「これはいいですね」と注目したのが、輸入雑貨などを販売する「グローリー」(東京都)のブースです。

柱などがなくオープンに作られたグローリーのブース

 展示会のブースで多いのは、入り口頭上に社名が書かれた看板がかけられ、左右も支柱に囲まれているタイプ。しかしグローリーのブースは看板や柱をとりはらって、オープンな作りになっています。

 「ブースの面積があまり広くない場合、柱は邪魔な印象を持たせ、来場者が近づきにくくなる要因になります。余計なものをつけず、カドという立地も生かし、自然と人が入りやすい作りになっています。またブース内もオレンジ色に統一して、ライトの数も増やしてブースがとても明るく感じます。これも、人が近づきやすい要因になります。何をどう見せるかしっかり考えてブースを作っている好例だと思います」(清永さん)

 ブースが並ぶエリアに入ると、人の流れに押され、一つ一つのブースをゆっくり見る余裕もなくなりました。

 「派手な看板でなんとなく気にはなっても、何のブースなのかが数秒で伝わらなければ、来場者に足を止めてはもらえません。『あなたの役に立つ』など抽象的なワードはNGです」といいます。

 そんななかで清永さんが「キーワードだけで何を言いたいかわかる」と目を止めたのは、祝儀袋の紙加工品などを手がける「今村紙工」(愛媛)です。

今村紙工のブース。シンプルなキャッチコピーが大きな文字で並んでいる

 今村紙工が打ち出していたのは、脱プラにつながる「紙製ファイル」。ブース内には、遠めからもわかる文字の大きさで「紙製ファイルでSDGs」「50枚より小ロット対応」「企業イメージ好感度UP」と、その製品を使うことでどんなメリットがあるかが明確に打ち出されています。

 「ブースのパネルでは、もともとあったA4サイズのカタログをひきのばしてそのままはる企業さんも多い。そうすると文字が細かすぎて、近寄らないと見えません。パネルはシンプルで大きな白抜き文字にして、細かい説明はブースに入ってくれた人向けに手持ちの資料でやるという切り分けが大事です」

 清永さんがもう1点注目したのが、製品サンプルの置き場所でした。通路に面した正面手前にサンプルを集めるのではなく、壁に沿うようにコの字になって並べられています。スタッフと来場客が、ともに壁側をむいて話をしていますが、これがよいのだと言います。

サンプルが壁に沿って並べられた今村紙工のブース

 「正面に机をかまえて、スタッフと客が向かい合って話すような形では『圧』が出てしまい、話を聞くにもちょっと勇気が必要になります。スタッフと客がともに同じ方向(壁)を向いているほうが話を始めやすく、ブースの外から見ても入りやすい雰囲気になるんですよね」

 会社や製品の強みをコンパクトなキャッチコピーにまとめるのも重要ですが、「商品名を考える段階で、コンセプトがわかりやすいものを考えるのも手」と清永さんは話します。その好例とも言えるのが、カキの養殖販売を手がける「寺本水産」(広島)でした。

「鍛え牡蠣」をアピールする、寺本水産代表の寺本龍二さん

 サンプルを配っていたのは「鍛え牡蠣」。一度栄養の少ない厳しい環境で育ててから、そのあとで栄養のある海域に移すことで、カキが多く栄養を吸収するようになり、濃厚で臭みのないカキができるのだそう。「とてもキャッチーでいいネーミング。スタッフが着ているTシャツも世界観にあっている」(清永さん)。

 代表の寺本龍二さんの話を聞いた後、清永さんは「カキ養殖の奥の深さ、終わりの見えない試行錯誤が伝わってきてとても響く内容だった。この説明をより多くの人に届くようにしたい」と振り返ります。

 ただ、こうした詳しい説明はパンフレットに小さい文字でまとめられていて、立ち止まって話を聞かないとわかりません。「製品名やコンセプトがいいだけにもったいない」と清永さん。

 「たとえばですが、寺本さんの説明を動画で収録しておいてブースで流すというのも一つの手。また鍛えポイントその1、その2と大きな文字でパネルにまとめたり、思い切ってカキを擬人化した漫画で説明したりすると、よりポテンシャルが伝わると思います」

 展示会では、ブースでバイヤーと話が盛り上がっても、その後の具体的な商談に進めないケースも少なくありません。目の前の商品が面白くても、バイヤーの売り場に置けるイメージがわかなければ、商談を進めるモチベーションにつながらないためです。

 その点を工夫していたのが、ハンカチなど布製品の販売製造の「川辺」(東京都)でした。

店頭の売り場のようにハンカチが並べられた川辺のブース

 工夫ポイントは、一言メッセージの書かれた帯をハンカチにつけて卒業シーズンのギフトとして提案する販売方法です。ブースの側面を丸々使って、実際の店頭販売の棚のようにハンカチを並べていました。

 「ただハンカチを並べているのでなく、『こう売ってくださいね』が伝わりますよね。これだったら『ウチも置こうかな』ってバイヤーが思うんじゃないでしょうか。この棚のおかげでコンセプトがしっかりアピールできて、自分のお店に並べるイメージがはっきりしますよね。うまい見せ方だと思います」

 町工場がその技術を生かした製品を持ち寄る「町工場プロダクツ」のブースも、多くの来場者でにぎわっていました。清永さんも「コンセプトがわかりやすくてよいネーミング」といいます。この日もブースの周囲では「町工場プロダクツって、なに作ってんだろ」「おもしろそう」と話ながらブースに入ってくる来場者が何人もいました。

多くの来場客でにぎわった「町工場プロダクツ」のブース

 そのブースの中で清永さんが目をとめたのが、自動車向けにプラスチック製部品を作る「丸八化成」(名古屋市)でした。展示台のうえには、のぞき穴があけられた真っ黒な箱が。中身が気になってつい足を止めてしまいました。

丸八化成のブースに設けられたのぞき穴。中を見てスイッチで照明を切ると、暗闇でキャンプ用クリップが光る様子がわかる

 箱の中には、プラスチックの成形技術をいかしたアウトドア用の蓄光クリップ が入っており、箱の下にあるスイッチをおして照明を落とすと、暗闇でクリップが明るく光る様子がわかります。

 「面白い仕掛けですね。明るいところと暗いところをならべて見るのではなく、自分で照明の切り替えができるのが印象にも残っていいですね。ギフトショーではあまり見られない体験型アトラクション。しかもそれをやって楽しいだけじゃなく、商品の価値が伝わる体験なので、すばらしい」。

 会場のなかでもひときわ存在感を放ち、多くの人が集まっているのが、白色で統一された、石川県内の企業の共同出展のブース。「他のブースの白よりも目立って見えるんですよね。何が違うんだろう」と気になった清永さん。このブースデザインを手がけた、展示会デザイナーの竹村尚久さんがその場にいたため、話を聞いてみました。

明るさが際立つ、石川県産業創出支援機構のブース

 竹村さんによると、通常より明るめの照明を使っていることに加えて、光の当て方を工夫しているのだそうです。「照明をそのまま下に向けて床を照らすと、ブースの中に明るいところと暗いところのムラができてしまいます。うちでは壁から少し離れたところに照明をつけて、床ではなく壁を照らすようにしています。壁を明るくすると、壁が光をレフ板のように反射して空間全体が明るくなる。インテリアの展示などにも使われる手法で、この光の当て方だけでもだいぶ印象が変わります」

 他にも動線の作り方や人を滞留させる空間の使い方など、竹村さんによる工夫がいたるところにこめられていました。「まさにお手本のようなブース」と清永さんは言います。

※竹村さんのブースのノウハウの詳細は、こちらのリンクで読むことができます。

 「コロナ禍前と同じくらいに、来場者が戻ってきました。これはすばらしいですね」とこの日の熱気を振り返った清永さん。主催者発表によると、3日間で約13万人が来場したそうです。会場を2時間超まわって感じた、出展者へのアドバイスをあげてもらいました。

多くの来場者でにぎわった東京インターナショナル・ギフト・ショーの会場

 完成度の高いブースが増えてきたいっぽう、ブースに呼び込んだ人といかに次の商談につなげるかについては、改善の余地がまだまだあるといいます。

 「商品についての話が盛り上がっても、そのまま『じゃあまたね』と終わってしまったら意味がありません。その場でバイヤーと次のアポをとるのがベストですが、それが難しくても、『今はないけど、ちょうどいまおっしゃったことと近い資料もありますので、また連絡しますね』っていうトークをするだけでもいいんです。これも約束にはなる。またブース前で自分の写真を撮って、来てくれたバイヤーに後日送るのも、接点を増やすためには重要です。そうした工夫をぜひしてほい」

 来場者からの反応は、自社製品の魅力に気づけるきっかけが多くあり、それをぜひ活用してほしいともいいます。

 「お客さんの反応がよかったとして、じゃあ自分たちの製品のなにがいいんだろう、と考えるきっかけにしてほしいですね。それをうまくやっているのが、町工場プロダクツだと思います。もともとはBtoC向けの商品を作っていなかったけれど、ギフトショーに出すにあたって技術をどう見せようかっていうのを工夫して、ブラッシュアップしている。まだ伝わっていないけれど、実はもっと魅力的な製品はいっぱいあるんじゃないかと思います」

 この日清永さんが注目したブースは、担当者が説明に現れるタイミングも絶妙でした。「我々が展示につられてブースに入ったあとに、横の方からすっと登場して展示品の説明をしてくれる人が多かった。逆に、担当者がブースの中央で仁王立ちしていて、来場者が入りにくくなっているところもありました。『がんばって応対するぞ』とあまり気張らず、展示品などでまず目をひき、お客さんがブースに足をふみいれてからワンテンポ待って登場したほうが、話も聞いてもらいやすいのではないでしょうか」